41. 無を噛み締めて

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第12のカードの宿主





オリビオンが一望できるテラスとは別の個所。


1つの部屋の中からも、オリビオンを包み込む辺り一面の水面が見渡せる窓があった。


そこは彼女…ツェスィが自室として使っている場所。


窓の向こう側を見つめ、水面が荒れてきていることを確認する。


更に先には広がる森。何十年も前から変わらない光景。


変わったのは森側、つまりダクト側から見えるオリビオンの景色の方だろう。


繁栄を齎した錬金術も、素晴らしい街並みも…―――ランザスの手によって破壊された。


今は見る影もなく、霧に包まれ人々から忘れ去られていく都となった。


王都。


迷宮都市。


錬金術師の街。


色々な呼ばれ方をした誇らしい時代は、終わったのだ。



「姫様……」



仲間が、何人か消えてしまった。


アルト、ラディ。


そして暴走するかのように行動しているジジとイオン。


ファリベルとアロイスが止めたというが全く聞く耳を持たずに2人はどこかへ向かったという。


ずっと前から、心をざわつかせていた不審感と不安。


そして奥の奥で叫ぶ“違う”と言う自分。



「もうこれ以上、誰も失いたくないです…」



ツェスィの零した言葉。


部屋に1人でいた彼女の零した言葉を、扉の向こうからサクラが聞いていた。


ツェスィに怪我の治りを早くする薬……言い方を悪くすれば、毒を貰うために訪れたのだけれど、静寂の空間に響いた言葉の意味を考える。



「……わっかんないよぉ」



サクラが壁に背を預け、天井を見つめて呟く。


誰に向けるわけでもなく。



「あの女を手に入れれば、姫様が助かるって約束だったじゃん……」



何が違うのか。


自分達はどこを目指して走っているのか。


他のメンバーは、何に気付き、どうして1人で動いているのか。



「僕らは、何をすれば救われるの……」





41. 無を噛み締めて





コズエの家の庭先から、爆音が響き渡った。


ポルチーニのパスタを平然と食べていた、家の中にいたメンバーがその音に動きを止める。


同時に、フェリチータが食堂の扉を蹴り開ける勢いで戻って来たので誰もが視線を向けた。



「みんな…!」


「お嬢…?」


「敵襲……ッ」


「え!?」



襲撃を知らせるためだったが、呂律が上手く回らない。


今の爆音も気になる。


残してきたアッシュやルカの身を案じて、言葉より先に体が焦っていた。



「守護団のジジとイオンが来てるの…ッ」


「!」



守護団、と聞いてデビトが即座に立ちあがる。


ノヴァもフォークを投げて、参戦の意志を見せた。


リベルタとパーチェに至っては、パスタを最後の最後まで口に突っ込んでから、玄関から出て行くより早い!と食堂の窓から飛び出した。



「ジジとイオンが……」



コズエが顔を真っ青にする。


ジョーリィが葉巻をくわえたまま、コズエの表情を見つめ…煙を吐き出した。



「2人で乗り込んでくるとは、随分と人員不足と見えるな」


「え…」



ジョーリィが重い腰をあげて、コズエに尋ねた。


突如始まった会話にも戸惑ったが、聞かれた内容の答えも分からず…黙る。




「…何をそんなに追い詰められているのか…―――」



ジョーリィの言葉を聞いたコズエは、ただただその場に立ち尽くしてしまった。





―――場所は変わり、食堂から飛び出したファミリーは目の前で交戦を繰り広げるアッシュとイオン。


そしてルカとジジ。


それぞれの交戦を見つけ、凄まじい力を見せ始めていた2人の守護団に目を見開いた。



「アッシュとルカが押されてる……」



フェリチータが零した言葉。


ノヴァとリベルタも顔をしかめ、スペランツァとカタナを抜き出した。



「行くぞ」


「あぁ…!」



参戦を始めたリベルタとノヴァ。


デビトには1つ、ただただ嫌な予感がしている。



ユエ…」



どこに行った…っと頭で考えて、守護団の目的がユエでないかと思い至る。


辺りを見回し、見つからないのでデビトはアルカナ能力を発動させた。



「トラ・コーポ・スコンパリーレ」



紫の光が放たれ、姿を消すデビト。


パーチェが“デビト!?”と叫べば、デビトが姿を消したまま答えた。



「パーチェ、こっちは頼んだぜ」


「えぇ!?どこ行くの!?」


ユエんとこだ」


ユエ…」


「恐らく、奴らの狙いは…―――」



最後は告げられる前に、彼はパーチェの元を離れたのだろう。


パーチェも会話を止めて、目の前で繰り広げられる戦いを目にし、拳を握る。



「みんなで幸せになりたい……。それじゃダメなのかな…」



握った拳を1度開いて…――もう1度握る。



「そんなことないよね!みんなで美味しいラ・ザーニアをレガーロで食べないとッ!」



戦いが起こる理由を考えてしまえば、いくつも見つかるもの。


それが入り乱れて交差して、交わらないからこそ解決が難しい。


だが、いつか終わりはくる。


その終わりを、自分達の手で打つために。


剛毅が力を放つ、呪文を唱えた。



「ポルチトゥート・トゥラバッサーレ」



オレンジの光が辺り一面を包み、パーチェの力が発揮される。



「あらまー邪魔が増えたねー」



視界の端でそれを見ていたイオンがアッシュへの攻撃を止めることなく呟く。


イオンの声に初めてアルカナファミリアが総勢で参戦したのを確認する。


ジジが、ルカに向けようとしていた呪文の続きをリベルタやノヴァをはじめとしたメンバーに標的を変えた。



「―――…燃えろ」


「!」



ルカがジジが低い声で零した言葉に目を見開く。


次の瞬間、イオンとアッシュ、ジジとルカだけを残し、民家側と境界線を作るようにして炎の壁が生まれた。



「炎…ッ」


「お前は何の大アルカナなんだ…?ヘタレ帽子」



三白眼で睨みを利かせる彼が本気を見せる。


ルカが中和できる範囲ではない、莫大な広さで燃える炎を横目で確認し、唇をかみしめた。



「アナタは愚者ですね……ッ」


「そーそ」


「リベルタと同じ能力者……」


「厳密に言えば、同じというより初代契約者だがな」


「…っ」


「あんな金髪のガキより、俺のが精神力は上だぜ」



超えてきてるもんが違うんだよ…と片方の口角をあげるジジ。


この戦火に生きて、超えて、望みを叶えるために戦うジジと、平和に暮らしてきて、あるとすれば人間関係の対立だけの環境で生きてきた者とは……確かに精神力が違うだろう。


基盤も、器の大きさも…。



「もう一度聞く。ユエはどこだ」


「答えは出しました。これ以上はわかりかねますね」



ルカが冷静に返す。


燃え盛る炎は、熱を風でこちらまで伝えてきた。


民家側には、自分が仕えるフェリチータの姿もある。


危険に曝すことは出来ない。



「つっかえねーな」



ジジの言葉を受け流し、ルカが帽子をゆっくりと取る。


いきなりなんだ…?と思いながら、ジジが帽子を顔の前に持ってきたルカを見つめた。



「完全に出来るかどうかが不安ですが…」


「…」


「お嬢様を危険に曝すわけにはいきません」



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