40. 水を背に陣を張りて
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ジジがダクトの森を目指して足を進めようと、オリビオンの門をくぐった時。
「ジジくーん」
「…」
背後から、恐らくファリベルやアロイスの制止を振り切って、こちらまでやって来たであろうイオンの姿があった。
「イオン……」
「おれも行くー」
イオンが先程、虚ろにしていた瞳に、もう一度笑顔を張りつけてジジの隣に立った。
ジジは無言のままイオンの心情を探ろうとしたが、恋人たちのような便利な力がないので未遂に終わる。
「お前、ケガは平気なのかよ」
「やだなージジくんに言われたくないよー」
へらへらしながら告げた言葉。
だが、微かに声音が違う…。
「そうかよ」
特に聞くつもりもなく、無視して足を進めた。
「ねぇ、ジジくんさっきのさぁ―――」
イオンは悪気はなかったのだろう。
だが、向けられた言葉にジジは――
「帰らずの狼ってー、何?」
素早くホルスターから銃を引き抜いて、迷いなくイオンに向けた。
――どこか、その反応が来るとわかっていたのだろうか。
イオンも応えるように、エトワールをジジに。
2人で銃を向け合うその姿。
そこだけ見ればさすがに仲間です。とは言えないだろう。
「ジジくん物騒だよー」
「テメェこそ、溺愛の銃向けてんじゃねーよ」
「おれのはエトワールの銃口をジジくんに自慢したいだけだよー。ほらーよく見てー」
「マジで撃つぞ」
空気は最悪。
だが、こんなことしてても何も解決になんて導かれない。
物分かりのいいジジが、深い溜息をついて先に銃を下ろした。
「―――……こんなことしてても、ラディは救われない」
「…」
ジジが前を見て、森の入口を見つめる。
橋を行けば、すぐそこにあるダクト。
割と近い位置に、ユエやファリミーがいることは分かっていた。
「ジジくーん?」
ジジがあの一言……デルセからの言葉“帰らずの狼”について言われた時から、纏うオーラが別のものになったことに気付かないイオンではなかった。
「――……話す気ねーよ。もう聞くな」
ジジもイオンがそれを気にしていることは気付いていた。
だから、その一言だけ返して。
対して――半分嫌味を含んだ――、イオンの伏線についても聞いてやった。
「お前こそ、存在しなかった者って何だよ」
振り返って、背後に立っている赤褐色の男を見つめる。
イオンは投げかけられた言葉の意味を受け取り、敢えてジジにのっとり……不穏に口角を上げ返すのだった。
「話す気ねーよーん」
40. 水を背に陣を張りて
このやり取り後、2人は本気のスピードでダクトの森……コズエの家の前にやってきて、ルカとアッシュと交戦を始める形となる。
目の前に立った2人の100年後の錬金術師。
下等であると思いつつ、ジジとイオンは今日は本気で行くつもりだ。
「ヘタレ従者とトラ野郎か」
ジジが呟けば、アッシュとルカが反応する。
目を細めたアッシュが、ある人物の名を出した。
「アルト」
アッシュの声に反応をしたのは、イオンだった。
「アルトくーん?」
「出せよ。テメェらの仲間だろ?」
アッシュがキッと睨みを利かせ、2人に言う。
アルトの行方を追っていたイオン、そしてジジからしてみれば意外な収穫だった。
「ユエの呪縛、解いてもらおうじゃねぇか」
それは、ジジとイオンからしてみれば、大きなヒント。
「―――へぇ。アイツ、いつの間にそんなことしてくれてたんだ?」
「やる~アルトくーん」
イオンとジジが、アッシュから出された言葉に耳を疑いつつ、チャンスと確信した。
「その呪縛、かけられたのはいつの話だ?」
「たしかーおれたちから、ユエちゃんを奪った時はなかったよねー?」
「(知らないだと……?)」
不審に思ったルカとアッシュ。
アルト……―――仲間である彼の行動を、ジジとイオンが知らなかったということか。
でなければ、この2人がユエの呪縛をかけたのがいつかなど、聞く必要はないだろう。
ここは答えると逆に多くの情報を教えてしまうことになる。
ルカが冷静に斬り返す。
「仲間ならば、アルトという青年に直接聞いてみてはいかがですか?」
ルカが紫の瞳から真剣さを放ち返した言葉。
ジジは答えることが、これもまた相手にヒントを与えてしまう。と黙っていた。
計算高い男だ。
だが、ジジの慎重さをブチ破って告げてしまうのが隣にいる“悪魔”だった。
「それがーアルトくん、見つからないんだよねー。家出かなぁ~?」
「な…っ!?」
「おれがアルトくんの分のジェラート食べたの、怒ってるのかなぁ~?」
「バカイオンッ!ベラベラ喋ってんじゃねぇよ!」
ジジが、イオンのおしゃべりにギョッ…と表情を凍らせて、彼の腰に蹴りを入れる。
いでっ!と倒れ込むイオン…。
ジジが自分の相棒がコイツでなくてよかったかも…と思い、呆れを見せた。
「痛いなぁジジくーん。何で蹴るのー?」
「お前アホか!」
少しだけ、アルトが逃げ出したくなる気持ちが分かった気がした。
もちろん、彼がいなくなった理由がイオンであるとは思わないけれど。
「大丈夫か、アイツら……」
「さ、さぁ……」
アッシュが逆に心配する勢いでルカに尋ねたが、ルカもやりとりを見て目をぱちくりさせるだけであった。
よいしょ、と立ち上がったイオンが2人をきっちりと視線を向ける。
「てことで、アルトくんには聞けませ―ん」
「はぁ…」
ジジがついにこめかみ押さえて諦めに入る。
イオンに至っては、るんるん♪と吹きだしが付きそうなくらい笑顔だったけれど。
「アナタ達の元からアルトという男は去った……。そういうことですか?」
「そうそーう」
もう好きに言わせておけ、と思いながらジジが傷口を巻いていたガーゼを結びなおした。
アッシュもルカも、目の前の2人が負傷していることは分かっている。
その状態でここに来たということは―――それなりに追い込まれていると予測できた。
はたまた、自分達は負傷してても潰せると思っているのだろうか。
「お前らの質問には答えた。次は俺らの質問に答えろ」
多少、本心から答えたかったわけではないが、ジジが言い放つ。
目の前の錬金術師2人組は、等価交換の原則を知っているはずだ。
「ユエはどこにいる?」