04. 仕掛けられた招待状
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レガーロ晴れの天候の中、賑やかな市場を抜ける足並。
人波が向かう先は同じく、港の先にある大きな広場だった。
万全の警備態勢を聖杯が整える中、大きく張られたテントがそこには現れていた。
「すっげー!!!」
ピッコリーノのあった日、帰りに配っていたチラシに記載があった場所へ。今日は港の広場でサーカスが行われる日だった。
レガーロの人々はやはりサーカスを初めて見る者が多いらしく、観客は満員。
広場をぎゃーぎゃー騒ぎ回る子供たちの姿も見えた。
チラシを受け取ったアルカナファミリアの面々も、どんなものか見に来ていた。
リベルタとパーチェはまったく同じ反応を見せて、目をキラキラと輝かせている。
ルカも帽子に手をかけて大きなテントを仰ぎみていた。
ノヴァとフェリチータも同じく、大きなテントの中で行われるものを想像しただけで胸が躍る。
「俺、サーカスなんて初めてだっ!」
「オレもオレもー!すごいねぇ!」
パーチェがきょろきょろとしながら、辺りを観察していく。
島民が始まるのを今か今かと待ちながらテントの傍で集っているのも見える。
関係者しか入れない部分には大きな鉄の檻も見え、あそこにいるのはレガーロではお目にかかれない猛獣だろうな…と思いながら辺りを更に見まわしていく。
「そういえば、アッシュとユエは?」
フェリチータが足りないファミリーに声をあげれば、ルカとデビトが視線を合わせた。
「あぁ、なんかヴァスチェロ・ファンタズマに寄ってから来るって言ってたぜ」
リベルタが聞いていた情報を提供すれば、フェリチータが“そうなんだ…”と頷く。
サーカスの開演まで、時間はあと少しと迫っていた。
04. 仕掛けられた招待状
テントの入口で足止めを喰らっているファミリー。
もちろん、その他のお客様もだが、そんなアルカナファミリアのメンバーを見つめていたのはいつか、イシス・レガーロに現れた翡翠の瞳だった。
「…」
「――…アルト」
翡翠の瞳でファミリーを見据えていた彼を呼んだのは、桃色の髪を揺らして音も立てずに現れた青年…。
琥珀色と碧のオッドアイの瞳が印象的なその少年。
彼もまたアルトの仲間のようだ。
「調子はどう?」
静かに囁かれるように呟かれた言葉。
冷静に問われれば、アルトは視線を一度そちらに向けた。
「ラディたちの準備はいいみたいだけど…、君は行かないの…?」
「必要ない」
「…」
「俺は俺の仕事をする。シノブ、お前はお前に課せられたことを成せ」
「―――…相変わらずだな、アルト。わかったよ…」
微笑を浮かべて、また音を立てずに消えた桃色の髪の彼…――シノブ。
アルトはシノブが消えたことを視線を一瞬向けて確認すると翡翠色を再度、アルカナファミリアに向ける。
睨むように見つめた先には…――赤髪の1人の少女がいた…。
「ア~ルトくぅーん」
その視界を遮るように現れた赤褐色の髪に、アルトは眉間にシワを寄せた。
いかにも“ウザイ”という顔を隠さずに。
「なぁに見てるのー?」
「…」
「ねぇねぇ~アルトく~ん」
「…」
「あっれ~、おれもしかして、もしかしなくてもシカトされてるかな~?エトワールぅ~」
「黙れイオン」
ホルスターから銃を引っ張り出して、“エトワール”と呼びかけた武器と会話を始めたイオンに、アルトが表情に一瞬“呆れ”を見せて言い放つ。
結構、ズバッと言い放ったにも関わらず、赤褐色の髪をふわふわと揺らしながらイオンは未だ自分の拳銃を会話をしていた。
「やだよ~アルトくんったら、また眉間にシワ寄せてこわーいよ~」
「…」
もうコイツに何言っても――毎度のことだが――意味がないと思い、アルトは耳をシャットアウトした。
依然とエトワール(銃)とイオンの会話は続けられていたが、アルトは気にしていなかった。
「あ、そういえばぁツェスィちゃんから伝言預かってきたよ~」
「盛大な独り言をする前にそれを伝えるべきだろう」
アルトの言葉も聞かずにイオンが“えっとね~”なんて続けながら、ガサゴソと手持ちを確認していく。
…が。
「あっれ~?なんだったかなぁ~、ツェスィちゃんの伝言」
「貴様に頼んだあの女が間違いだ」
はぁ…と溜息をついてアルトがその場を離れようと足を踏み出した。
が、イオンがその姿を見て…――どこか確信的に呟く。
「“今日、ターゲットへの誘いを仕掛ける”」
「!」
いつもの飄々としたイオンの表情が一瞬だけ…――真剣なものに変わった。
「“自分の役目を忘れるな”………だってさぁ~」
「…」
「あ、これはツェスィちゃんからの伝言じゃないよ~?」
「それぐらい、わかっている」
アルトが完全にイオンから距離を取り、足を進めた。
だが、その距離感で依然と会話は続けられる。
「リアだろう」
「そ~。我らが大将からのでんごーん。おれ、きっちり伝えたからね~」
んじゃ、とイオンもアルトに背を向けて未だにエトワールと会話をしながら人ごみの中に消えていく。
準備は万端と言えるだろう。
ここから1つ……舞台の幕が上がるのは目に見えていた――。
◇◆◇◆◇
「ありがとう、アッシュ」
サーカスの会場に向かいながら、ユエは隣を歩く年下の幼馴染に礼を告げた。
「役に立っただろ、あの本」
「うん。わかりやすかった」
ヴァスチェロ・ファンタズマに、アッシュから借りていた本を返すために寄り道をしていたユエは彼と共にサーカスを見るために広場を目指していた。
先に行ったであろうファミリーが場所を取っといてくれるとのことだったので、2人はとくに急ぐ必要もなく港近くの市場を抜ける。
「にしてもいきなり錬金術をまた勉強始めるなんて、どんな風の吹きまわしだ?」
「どんなって、こんな」
「そのうち島に巨大嵐でも来るんじゃねぇか?」
「それどーゆう意味かな、アッシュくん」
真顔でやり取りをする2人。
市場を抜けた所で、ついに会場となる広場が見えてきた。
さすがにサーカス自体を経験したことがあるユエとアッシュはリベルタやパーチェのような反応は見せなかったが、でかいな…と視線を仰ぐ。
「もう入れるみたいだね」
「だな」
先程まで入口で待っていたファミリーや島民の姿は見えず、入口には中へ入ろうとする人々が流れを作っている。
2人も流されるままその列に並び、入口をくぐろうとしたが……―――
「はい、ストップ」
「!」
「あ?」
待てよ、という形で真横から腕が降ってくる。
通せんぼをされて、ユエとアッシュは同時に足を止めた。
腕の先にいる人物を見上げれば、アッシュより更に濃い灰色の髪と同色の瞳。
三白眼の目付きに、頬には縦に涙のようなモチーフの黒いタトゥーを入れた男が立っていた。
「んだよ」
「“んだよ”、じゃねぇ」
「?」
「ん」
はい。と手を差し出される。
同時に2人はタトゥーの男の顔をまじまじと見つめてしまう。
その反応に、男は表情を歪めた。
「ん」
「なに?」
「金!払えよ」
「は?」
ユエが思ったままに尋ねてしまうと、タトゥーの男はズン!と手を真っ直ぐ更に突き出してきた。
「金だよ、金!無料で入れると思うなよな!」
「はぁ?有料制かよ」
「当り前だろ、なんで俺がただ働きしなきゃならねぇんだ」
真顔で呟かれた言葉に、“知るかよ…”とアッシュが返しつつ、ユエがきっちりとお金を払う。
「まいどありっ」
ニッと、まだ幼さを残す――ユエと同い年くらいに見える男が笑う。
アッシュがめんどくせぇな…と呟きながら、ユエと同額のお金を渡したが。
「ほらよ」
「は、足んねぇよ」
「ぁあ!?」
「男は倍だろ」
「なんだそのルール…っ!?」
「俺ルール」
更にニヤッと笑った清々しい笑顔に、アッシュが目を細める。
仕方ない…とアッシュが追加料金を払えば、男は気が済んだ様でようやく腕をどけた。
「まいど!」
そのままお札を数えながら奥へ消えたタトゥーの男にユエは瞬きをパチパチとしていた。
アッシュもその背に舌打ちをかまして、ようやく会場入りを果たした。
「あ、来た来た!ユエ、アッシュ!」
パーチェとリベルタのワンコ兄弟が大きく手をあげて、“ここだよー!”と合図をくれたので、後から来たユエとアッシュは迷わず彼らと合流。
2人が来る前にダンテも合流したらしく、彼の姿も見えた。
「なんだ、ダンテのおっさんも来てたのか」
「あぁ。サーカスなんて久しぶりだからな」
―――だが、ダンテはユエと同じ目的を孕んでいたのを、ユエ以外のここにいる者は知らない。
ダンテとユエが視線を合わせて、特別席に腰かけている…オールバックの若い男を見つめた。
「ダンテ…」
小さく小声でユエが彼の名前を呼ぶ。
ダンテが頷いた。
「アイツが…」
特別席でにこやかに笑顔を見せつつ、片手にはワインを持った男。
奴こそが、このサーカスを開催させた主催者――シャロス・フェアである。
シャロス・フェアの横には3人の美女。
1人は腰まであるブロンドの長い髪、ファー付きのコート、ワンピース姿。
もう1人はリボンをつけたフェリチータより濃い赤色のロングの髪を揺らす少女。
最後の1人は色素の薄いピンクの長いストレートの髪、そしてオッドアイの瞳の少女。
――どうやらシャロス・フェアの女性の好みは、ロングスタイルらしい。
ユエが無意識に唇を噛み締める。
その姿を四方から見られていることを、彼女はまだ理解していなかった。
もちろん、一番身近だと…
「オイオイ、なんつー顔してんだァ?美人が台無しだゼ?」
「!」
ポンッと肩を組んできたデビトだった。
冷やかしているようにも見えたが、ルカとデビトは互いにアイコンタクトを取っていた。
デビトとルカのやり取りを見たダンテが、“バレたか…?”と脳に過らせたが、まだここで話す訳にはいかない。
なるべく混乱と争いは避けたい。
「で、デビト……っ」
「ンな眉間にシワ寄せてんな、シニョーラ」
トンっと指先でしかめた眉を押さえられれば、ユエが少し頬を染める。
同時に隣で見ていたアッシュが即座にデビトの腕を掴みつつ、会話に入って来た。
「いーから座れよエロリスト」
「ハッ…いやだねェ、すぐに噛みつくお子様はよォ」
バチバチと火花が飛び交う間を抜けて、ルカがユエにも席を用意してくれた。
「はいはい、2人はほっといて、ユエはこちらに座ってください」
「あ、ありがとう…」
さりげなくルカの隣――もちろん、ルカを挟んだ先はフェリチータ――の場所を指定され、“やられた…!”とデビトとアッシュがルカを睨んだのは言うまでもない。
そうがやがやしている間に、サーカスの幕は落とされた…。
「Ladies and Gentlemen!さぁ、サーカスの始まりだァァァアア!!」
中央の囲いを隠すように覆われていた幕が落とされ、まず現れたのはライオンと猛獣使い。
火の輪くぐりをし、ライオンを難なく扱っている人間にリベルタとパーチェが拍手を止めることはなかった。
ユエは――もちろん嫌味で――アッシュの方をニヤニヤしながら見つつ、“行けば?”と何度も笑みを零す。
そのたびに肘鉄砲を喰らっていた。
次の種目は空中ブランコ。
男女の空中での演技はとても素晴らしく、これも会場全体が拍手喝さいだった…。