39. 襲撃
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大きな音と一緒に、城の門辺りに気配が増えた。
ちょうど近くにいたファリベル、アロイスが音を聞きつけて首をかしげながら顔を覗かせる。
そこに現れたのが、100年後の世界に飛んだジジとイオンだったので“戻って来たのか”と、ファリベルが顔を逸らす。
だが瞬間、アロイスから上がった声に視線を一度戻す羽目になった。
「やだ…!どうしたのよ2人共!」
「…っ?」
隣にいたアロイスが2人に駆け寄っていくのでファリベルは思わず異変を感じてしまった。
アロイスが寄り添う先の2人は、傷だらけであり……。
「ジジ!イオン…!」
ファリベルも事態をようやく把握して駆け寄る。
通りかかった――現在のオリビオンでは数少ない――一般兵士に、救急の処置をする道具を持ってくるように伝えた。
「ジジ…これ酷い傷じゃない…」
アロイスがジジの腕を押さえ、顔をしかめる。
イオンはジジほどの怪我はしていなかったが、瞳がどこか虚ろだった。
「待ってて、今すぐ手当てするわ」
ファリベルが手持ちの長い紐で、ジジの止血に入ろうとしたが、ジジはそれを拒むように押さえられていた腕を解いた。
「ジジ…」
「いい。退け」
「ちょっと、どこ行く気ぃ!?」
アロイスが解かれた腕をあたふたさせながら、ジジが歩いて行く方向を見つめる。
イオンはやや俯きがちに、自身の手で握っていた銃…エトワールから視線を動かさなかった。
「待ちなさい!ジジッ」
ファリベルが止めたが、彼はそれを聞くことがなかった。
どこか決意を見せた灰色の瞳。
嫌な予感しかしない。
「どこ行く気!?そんな体で…ッ」
ファリベルの制止の声は聞こえていた様だ。
一応、彼女の方が年上というのもあってか、ジジは半面振り返り…告げる。
「ユエを連れてくる」
38. 襲撃
日差しは、先程よりも傾いていた。
時間が経過したことをもちろん伝えていた。
今、時刻は恐らくお昼時を2時間ほど過ぎたくらいだろうか。
随分とあの金髪碧眼の男と話しこんでしまったと思いながら、ユエはコズエの家の方へと足を向けていた。
泣いた目尻は目立たないだろうか。
少しだけ不安になりつつ、俯く。
心に響いた、あの男の言葉。
“大切なのは、1人じゃないと気付くことだ”
「マンマにも言われたな……、そんなこと」
ふと、そんなことを過去に言われた覚えがあり、ぽつりと零す。
足を止め、少しだけ落ちついた頭で冷静に考えようとした、その時だ。
――バァァァァァァンン!!!!
「ッ!?」
前方から、爆音。
地響きがするレベルだ。
近く、そして大きい。
顔をあげれば、森の木々の隙間から、コズエの家の方角に不審な気配があることを風が伝えた。
「みんな…っ」
自然と駆けだす足。
似たような景色を、迷う事なく音の方向へ一直線へと走り込んだ。
「まさか…」
嫌な予感ほど、当たるもので。
森を抜け、開けたコズエの家までの一本道に出た時、庭先で交戦をしている者が見えた。
「ジジ、イオン…ッ」
視界に入って来た守護団……敵のメンバーに思わず声をあげる。
参戦しなければ……!と思い立ったところで、足を止めてしまった。
今のユエにアルカナ能力は……―――
「タロッコ……っ」
腹部に手をあてて、立ち尽くす。
刻まれたこの呪縛で、足手まといになることはないだろうか?
もし自分の存在のせいで、誰かを守ることが出来ず失うことになれば…―――。
「…」
◇◆◇◆◇
ユエが戻ってくるほんの10分前。
コズエの家の民家では、遅めの昼食の支度がされていた。
ここ何日も食事をすっ飛ばし、調べ物に明け暮れていたジョーリィもさすがに空腹に耐えることが出来なくなったようで、食堂に姿を現した。
そこにデビトがいれば、もちろん機嫌は最悪。
加えて先程のユエの拒絶ぶりに、彼は意外と落ち込んでいたのだ。
「デビト、そんなカリカリしても仕方ないよ……」
パーチェが待ち切れずにフォークを舐めながら隣のデビトの表情を見つめている。
彼の言葉も正直うざかったようで、デビトは舌打ちをして顔に落とす影を濃くした。
「っるせーよパーチェ。黙ってフォークでもスプーンでもそのまま食ってろ」
「えぇー!?」
相手にしてられるか。というようなデビトの態度に“フォークとスプーンは食べれないよぉ!”と真面目に答えるパーチェ。
呆れて正面から様子を見ていたアッシュは頬杖ついて、読みかけの文献に目を通す。
通路を通りかかった時、アッシュの読んでいた文献のタイトルを見てジョーリィが口角をあげる。
「アッシュ。その文献に呪縛のことは記載がなかったぞ」
「!」
アッシュが何のために文献を読み漁り、日夜書庫にこもるのかをジョーリィは少なくとも理解している。
まぁ、この一言で誰もがそれを察することになるが。
アッシュがジョーリィを睨み、“俺の勝手だ”と一言返せば、ジョーリィは葉巻をふかして彼から一番遠いイスに腰かける。
アッシュとジョーリィは、犬猿の仲とまではいかないけれど、アッシュがレガーロの天才を好いていないのは事実。
だが、それでも同じ書庫で1日を共にしていたのは手掛かりになる本が置いてあるスペースがそれだけということと、目的が同じでどれだけ大切か…アッシュが理解していたから。
同じく、ユエを互いがどれだけ大事にしているのかも分かった気がする。
「黙ってろ、能無し錬金術師。確認だ、確認」
「クックック…それは頼もしいな」
小馬鹿にする笑みを受け取った所で、ルカが厨房からコズエと一緒にパスタを運んでくる。
今日の昼食はレガーロを恋しく思っているファミリーの為にルカが作ったポルチーニのクリームパスタだった。
「おおーうまそー♪」
パーチェの歓喜の声に、デビトが横で溜息をつく。
皿が置かれた直後に手を進め始めたパーチェ。
匂いにつれられて、ようやくその場に現れたのは特訓に行っていたリベルタとノヴァ、フェリチータだった。
「お、うまそーだな!」
「ポルチーニのクリームパスタか……。なんだか懐かしいな」