38. 自信の行方
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「泣いてるのかい?」
「あんた……」
何かにぶつかったと思えば、記憶にある声。
顔をあげると、そこにはいつか出逢った金髪碧眼の男がいた。
「やぁ。また会ったね」
「…っ」
こんな奴に泣き顔を見られたなんて、不覚すぎる。
ユエが目元を強く擦り、誤魔化し切れないまま顔を背けると、男はどこか不思議なオーラを出して、微笑むのだった。
38. 自信の行方
「どうぞ」
ユエと男は、前回2人が出逢った庭園の近くで出会い頭に衝突をしたようで。
男の案内でユエは再び、あの日たまたま見つけた庭園まで来ることになった。
そこで当り前のように腰かけた男が、羽織っていたローブを前回と同じように手際よくたたむ。
座りなさい、とユエに差し出されたスペース。
惑い、なんでこんな奴と一緒に日向ぼっこをしなきゃならないんだ…と思いながら今日は黙って腰かけた。
「あ…ありがとう…、ございます」
「気にしないで」
僕の勝手でしてることだから。
そう付け足して、今度はポーチから袋を取り出す。
「ついでにこれもいかがかな」
「?」
「甘いものは好きかい?」
手を差し出すように求められたので、ユエが両手を男の前に差し出す。
すると男がちょこん。と砂糖菓子を乗せてくれた。
「これ…」
「可愛いだろう?」
手に乗せられたのは、ひよことにわとりがモチーフのキャラクターものの砂糖菓子。
ルカが好んで作る焼き菓子のコーティングの上に座っていそうなそれは、キラキラ輝いていた。
「オリビオンの名産品だ」
「オリビオンの?」
「あぁ。あの国には、手先の器用な錬金術師が多いからね」
「…意外……」
「錬金術師が研究者だけだと思ったかな?」
違うんだよ…。というように男が笑う。
再び、天使の梯子からの光に照らされたこの湧水の庭園に小鳥たちが集まって来た。
「手先が器用な職人が多かった、が正しい表現かな」
「ケーキ屋…とか?」
「そうだね」
あの廃墟の集まりみたいな孤島が、光り輝いていたことを思う。
平和で、きっとレガーロに似ていたに違いない。
「甘いものは思考を和らげてくれる。食べなさい」
「…」
強いる口調だったが、彼の話し方はどこか優しく。
安心させてくれるものだった。
言われた通り、パーチェではないけれど知らない人から貰った砂糖菓子を口にした。
噛み砕いた瞬間に、広がる甘さ。
だが、想像していた甘さとは違う。
溶けて広がって、心に染みる。
しつこい甘さじゃなくて、美味しい。
「……おいしい」
素直に零せば、自分のことのように男は微笑んだ。
「それはよかった」
男が視線をユエから、湧水の方へと向ける。
ユエは少しずつ、手渡された砂糖菓子を口にしながら彼の隣に居た。
天使の梯子の光は弱まっては、また別の場所から降り注ぐ。
止むことはないけれど、どこか不安定で。
曇り空が晴れないからこそ、幻想のような素晴らしいものだが、どこか切ない。
オリビオンやダクトには、霧や雲がない日は訪れないのだろうか。
「それで、どうして泣いていたのかな?」
「…、」
まさか、聞かれると思っていなかったので、ごくりとひよこの胴体を丸飲みしそうになってしまった。
焦るうちに、男はこちらを見て、先程より眉を下げ切ない顔をした。
「話したくないかな」
「…」
「だけど、全く関わりの無い僕だからこそ、話せることがあるんじゃないかな」
「…」
「こんなおじさんでよければ、話は聞くよ」
恐らく隣に座る男はルカと同じくらいの年齢だろう。
いって30歳。
もっと若ければ20代の後半。
ユエと10歳くらいしか変わらない相手を、果たしておじさんと呼べるのか。と、頭の片隅で考える。
今の場面でそれはどうでもいい謎だったのだが。
「大して……話すほどのことでも…」
いや、誰かに話そうと思えば話せることだった。
何より、“話すほどのことじゃない”事で落ち込んでいる訳じゃない。
ユエにとっては、かなり真剣に考えて悩んでいることだ。
「何言ってるんだ。女の子が1人で泣いていたら、それは大問題だよ」
「…」
コイツも色事師か?とか思いながら呆れて聞いていたが、彼の纏う空気からそうとは思えなかった。
「誰かとケンカでもしたの?」
刹那、隻眼の男の姿が過る。
あれは、ケンカなんて可愛いものじゃない。
ただ一方的に傷つけた、もっとひどいものだ。
「あんたこそ……暇なんだね」
「ん?」
「こんなとこに……いつも……」
少しだけ、やはり言いたくないという思いがあって…――警戒しているのもあったが――話を逸らすために呆れて突き放した。
そしたら男はユエの方を見て、また笑う。
「そうだね。思い出の場所なんだ」
「思い出?」
「あぁ。大切な家族との」
だからよく来るんだよ。と告げる彼。
「その家族は一緒じゃないの……?」
聞いてよかったのか分からないが、頭で浮かんで出てきた言葉を素直に投げかけた。
男はまた真っ直ぐに前を見据えて答える。
「死んでしまったよ」
「っ、」
「本当のことをいうと、家族と呼べたのか……分からないが―――」
重たくて、痛い過去。
それを毛ほどにも出さず、そして背負っているとも悟らせず。
何より被害者ぶらない―――真の強い姿というのは、こんな人を指すのであろう。
ユエの心が跳ねた。
「報われた恋でもなかったけれど…――それでも好きだったんだ」
「…」
切なくて、苦しいはずだ。
なのに、彼はどこか嬉しそうに―――。
「彼女は、僕の太陽だったんだ」
「…」
「その彼女と出逢ったのがこの庭園でね」
天使の梯子の下、光に守られて。森の中でここだけが聖域というような空気を放つ。
この男と恋人との、思い出の場所。
安らかで、とても落ちつく場所。
「君は?」
「え?」
「君は、家族はいるの?」
唐突に投げかけられた言葉に、ユエも悩む。
「ファミリーが……家族かな」
悩むような口調で告げるユエに、今度は男が黙って聞く番だった。
そして尋ねる。
「本当の家族は……?」
「……ほとんど知らないの」
「…」
「気付いたら、あたしは4歳で、1人でレガーロにいたから」