36. 白旗の条件
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突如、目の前に現れたシャロスを護衛しているという姉妹・エルシアとレミ。
そして背後にもう1人、デルセと呼ばれた幼い少女。
2人の姉妹は笑みを浮かべたままジジとイオンと対峙をし、デルセはラディを引きずりながらこちらに視線を向けている。
何度かそれなりに攻撃を受けてしまったジジとイオンも構え直し、前を見据えた。
「ジ…ジ……」
苦しそうに小さく、そして必死に言葉を紡ごうとしていたのはジジの相棒・ラディ。
引きずられ、出血のせいで開かなくなってしまった片目。
傷だらけの体。
全てを使い、1つの事実を伝えようとするが…―――。
「ユエを……ジジ……ユエ、を…」
言葉は続かぬまま、そして届かぬまま、乱戦が再び幕落とされた。
36. 白旗への条件
一度攻撃を受けたからと言って、2人はそこから退かずだった。
もちろん、それはエルシアとレミも同じこと。
風を放つ2人と、銃と剣で対抗する2人。
西洋人形を抱えたまま、無言で口角をあげる少女デルセ。
ふと、気になったようでデルセが視線を真下にさげ、ラディを確認する。
気を失ったラディ。
デルセは何を思ったのか、しゃがみこみ、手持ちのナイフでラディの頬にゆっくりと線を付け足していく。
じんわりと浮かび上がる血玉にデルセは歯を見せて笑った。
「まっかぁ…」
幼い、ラディと同い年とは思えないような行動。
もう1本…と線を増やそうとナイフを持ちかえたその時だ。
「何してんだ」
「!」
顔をあげると、いつこちらに来たのか、ジジが剣をデルセに振りかざした。
デルセがふわりと宙に逃げれば、ジジの攻撃は空を切る。
別に今のはデルセを攻撃するためのものではない。
倒れたラディに近付き、安否を確認するためだ。
その間、イオンに――勝手に――エルシアとレミを任せて来た。
イオンもうまく2人の風を交わしつつエトワールで攻撃をしてくれている。
ジジがラディに駆け寄り、声をあげた。
「ラディ!」
「……」
「ラディ!しっかりしろ!こんなとこで寝てんなッ」
ようやくいつもの調子で叫んだ所で、彼が少しだけ反応を見せる。
ジジがどこか安心しつつ、ラディを運ぼうとした刹那。
真横から大きな悲鳴に似た声が届く。
「ダメッッ!!!」
「ッ…」
同時に飛んできたのは、鋭利なナイフ。
一旦距離を置いて、方向を確認すれば先程までの笑みが消えたデルセ。
真顔で、大事なオモチャを取られたような怒りを見せている…。
「デルセのお人形を取るやつ……嫌い……」
「オイオイ、ラディを人形と思っちまうだなんて、頭に問題があるんじゃねぇの?教育してんの誰だコラ」
ジジがしれっと真顔で少女に言い返せば、駄々をこねても通用しなかった時のような…幼子の睨みが飛んでくる。
気にも留めずに、相手が少女であることも考慮はしない。
彼も…――ジジも守護団の一員だ。
「ラディ、聞こえてんか」
「う…っ…」
痛みに耐える声が響けば、ジジが刃に手を添える。
「助けてやる。その代わり…――」
デルセがジジの言葉の途中で西洋人形を高く掲げた。
イオンの相手をしているエルシアとレミがそれを見て、目付きを変える。
ジジも同時に踏み切った。
「貯金全額なくなると思えよ」
―――ジジとデルセがぶつかり合う中、エルシアとレミがイオンからの銃撃の合間に不審な笑みを見せていた。
「ウフフ、やだ。デルセったら……」
「お姉さま、わたくし達も早く決着をつけなければ巻き込まれてしまいますわ」
「そうですね、レミ」
「えーおれもエトワールも、ジジくんの請求の嵐に巻き込まれたくないから、さっさと終わらせないとー」
エトワールの銃口を見つめるイオン。
エルシアとレミも、イオンの意見には賛成だったようで…―――構えを変える。
「悪魔と契約をしているわたくし達の力…見せてさしあげます…」
「あくまー?」
「はい…。とても珍しい力ですわよ…?」
「ふーん」
イオンがならば、というところで指先をエトワールから離す。
「じゃあ、おれと一緒だねー」
「一緒…?」
「そうそ~。おれもさ~」
腰に宛がわれたその指先。
同時に光を放つそれ。
「悪魔の宿主だから」
群青の光が辺り一帯に広がる。
それを見た者は通常焦りを見せなければならない。
だが、エルシアとレミはそのままだ…。
「あぁ……そちらの悪魔、第15のカード、イル・ディアヴォロと契約をされているのはアナタでしたね。イオン様」
「そうだよー」
放たれる光が強くなる中、イオンは唱えた。
「レア・ダハマクアノ・ウトン・ホテサ」
パァァァン!と、本領が発揮される。
エルシアとレミが顔を合わせた。
「これが…」
「タロッコの能力…」
レミが満面の笑みを浮かべる。
エルシアはそのレミの表情を見て、イオンに手を翳した。
「きっと…わたくし達が相手でなければ、イオン様の力はとても素敵でしたでしょう…」
「でもダメですわ…。わたくし達が相手という点で、全てが無効でございます」
イオンが次の言葉を並べようとしたが、違和感を感じる。
本来持っている“悪魔”の能力が使われる前に…その光が―――消えた。
「あっれー?」
目をぱちくりさせて、驚き――とても驚いているようには見えないが――を見せるイオン。
これが、彼女達2人の“悪魔の能力”だった。
「残念でしたわね、イオン様」
「これが、わたくし達の能力です」
「え~?」
他人の力を無効化させるものかと思ったが…―――どうやら違うようだ。
「サキュバスという悪魔をご存知ですか…?」
―――……一方のジジは、高く翳された西洋人形の存在を気にせずにデルセの元まで突っ込んだが、あと少し…というところで邪魔が入る。
それが、掲げられた西洋人形だった。
「んだと…ッ!?」
手に持てるほどだった人形は大きさを増し、自由に動き始める。
デルセを守るように、1人の女戦士になった人形。
無言のまま、腰からジジと同様剣を引き抜き突っ込んできた。
「(これがコイツの能力…!?でも…)」
金属と金属がぶつかりあう音が響く。
ジジと人形が交戦している間に、ゆっくり…ゆっくりとデルセが再びラディに近付いて…。
「(あのガキ、どう見ても普通の人間だろ…。この時代にも特殊な能力を使う奴が、あのイカレタ自警組織以外にあるのか…?)」
とても簡単に抜けるような相手ではない女戦士の人形に苦戦を強いられる。
デルセがラディの体にもう1本、血玉の線を入れた所で、彼女はポケットからまた別の人形を取りだした。
それに命を拭きこむようにして、もう1体…女性を創り出す。
「運んで」
ラディを運ぶように命じれば、人形はラディを簡単に抱え上げた。
デルセはそこでエルシアとレミと合流するように2人の方向へ向かって歩き出す。
「ラディッッ!!」