35. 終焉へのDal segno
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最初から、胸騒ぎしかしなかった。
このままコイツらに従っていても、いい方向に繋がることなんてないんじゃないかと。
そしてそれは嫌でも、思った通りに進んでいく。
「イオン」
「なぁにー?」
コヨミが創った時空の光をくぐってきたジジとイオン。互いの相棒の行方を求め、100年後の世界へやってきた。
「もし、アルトがおれたちを裏切ったらどうする」
「えー?」
イオンはなんでもないようにニコニコしながら、ジジの質問を受け止める。
さほど考えていないようで、へらへらしながら流すように。
まるで用意していたかのように答えた。
「アルトくんはさぁ~強いんだよ」
「は?」
そんなの知ってる、と思いながらジジは横目でイオンの続きを促した。
「アルトくんは、アルトくんが選んだ道を行けばいいと思うんだよね~」
「…」
「なぁんにも心配いらないよぉー」
そーゆー意味で聞いたんじゃない。と思いながら、ジジは溜息をついた。
同時に思う。
イオンはアルトの行動を1つずつ、受け入れるのだろうと。
対してジジは、自身に問いかけた。
ラディが自分を裏切るとは思っていない。
そうじゃない。
彼のことじゃない。
「……そうか」
受け入れられず、周りを傷つけて、喚いていたのは自分だけじゃないだろうか…と。ジジは思った。
人間、生きていれば受け入れたくない出来事が1つや2つ起きて当り前だ。
それも分かっている。
だが…―――。
35. 終焉へのDal segno
光を抜け、降り立った先の廊下。
シャロスの館をよく知った2人は歩き続けた。
シャロスに会えばラディに会えるとは思っていなかったけれど、意識的に目指した先はやはり奴の部屋であった。
ふと、そのシックな扉の前に来て2人は――イオンもヘラヘラしつつ、きちんと――殺気を感じ取っていた。
背後には、2つの気配。
「…」
「なんだろーねーエトワールぅ~?」
ジジが瞳を伏せつつ、意識を背後に集中させた。
イオンはホルスターからエトワールを取り出して頬ずりし、微笑む。
相手はその異様な組み合わせに口角をあげて笑んだ。
「フフフ…今度はジジ様とイオン様でいらっしゃいましたか」
「ようこそ。おかえりなさいませ」
ジジとイオンが振り返れば、そこには先刻アルトに声をかけた2人の女性。
その美しい美貌と美しい声。
長く流れる薄い青の髪。
もう1人はピンクとも紫ともとれるような色の髪。
瞳は同色の茶色であり、その2人が姉妹であることをにおわせていた。
「誰だお前ら」
「あら……わたくし達のこと」
「忘れてしまわれたなんて……」
御淑やかに、裾を口元にあてて眉を下げる2人。
ジジが顔をしかめ、苛立ちを見せている。
イオンは気にも留めていないようでエトワールと通常時の会話をしていた。
「本日は、戻られるご予定はなかったはずですわ?」
「どうしてこちらに?」
「お前らにはカンケーねぇだろ。邪魔だ、退け」
「あらやだぁ」
「ジジ様、怖いですわ」
2人じゃないと会話も出来ないのか、と思いながらジジが足止めのように続けらる会話に嫌気がさしていた。
目の前の2人の姉妹は笑顔を見せる。
諦めたジジがケッと吐き捨てた。
「んじゃ、退かなくていい。そのかわり今ここで俺宛の報酬を払え。今すぐ」
「さっすがジジ~」
「遅れてる分の利子はきっちりつけろよ。この俺を動かしてんだ、そんぐらい自覚しやがれ」
イオンがひゅーひゅー!とついていけないテンションで彼を讃えていたが、2人の姉妹は口元を隠しながらクスクスと笑い続けた。
「ウフフフ」
「フフフフ」
「何がおかしいんだ」
ジジが大して気にもしていなかったが、顔を見合わせて笑う2人に投げかけた言葉。
次の声が、開幕の合図だった。
「本当に使ってやってるのは……―――」
「―――どっちですの……?」
切り裂くような風が、イオンとジジの間を一瞬で駆け抜けた。
普段からの戦闘慣れがなければ、避けることが出来ない速度の攻撃。
イオンもジジも間一髪…だが、焦りは見せない表情でかわせば、2人の姉妹は笑顔を見せた。
「さすが、守護団と呼ばれているだけありますね」
「そうですわね」
「お前ら、何者だ」
ジジが着地した位置で、鞘から白刃を引き抜いて構えた。
イオンはもとからエトワールを構えていたので、あとは銃口を向けるだけのとこまでセットは出来ている。
ジジの言葉に、2人の姉妹は顔を合わせてから冷たく放った。
「わたくしはエルシア。シャロス様の護衛の者でございます」
「同じく、妹のレミですわ」
淑やかな空気は抜かぬまま、2人は丈の短いスカートの端をつまみジジとイオンに挨拶をする。
さすがは貴族のシャロスに仕えているだけあり、2人からも華やかな空気が感じられた。
だが、今はそんなことどうでもいい。
目の前のエルシアとレミ。
この2人の姉妹がジジとイオンを狙って攻撃をしているのは理解できた。
「それでは、今度はこちらの質問に答えて下さいな」
「お願いしますわ」
「…」
キッと睨めば、エルシアがジジに向けて指先を翳した。
「本日は、どのようなご用事でいらしたのですか?」
「ぜひとも教えてくださいな」
第二波が放たれ、廊下が鋭利な風で傷ついて行く。
イオンがついに我慢ならないという形で、――顔には毛ほども出していなかったが――エトワールの銃口を向け、弾で2人に反撃を始めた。
その間にジジも風と風の間を素早く駆け抜けて走りだした。
「答えて下さる気はないのですか?」
「うるせーな、関係ないだろ」
「それはないですわよ、わたくしたち姉妹はジジ様の質問に答えたのに」
2人の元まで抜けたジジが剣を振りかざす。
姉妹も素早いジジの斬り返しについていく速度を持っていたようで、戦いはどちらも五分五分だった。
「まぁ、聞かなくても検討はついております」
「…」
「ラディ様。ですわよね?」
「!」
やはり、何か知っていたか…とジジが三白眼の奥を揺らした。
イオンも空中から参戦し、突如の乱射に姉妹は顔をあげてジジとの交戦から距離を置く。
身を退かれた時点で、ジジの真横にイオンが降って来た。
「はずしちゃった~」
「当てる気すらなかっただろ、お前」
「そんなことなーいよ」
相変わらず緊張感のないイオンに、ジジがつっこみを入れれば目の前の姉妹も楽しそうに笑う。
決して楽しいと思える――ほど、戦闘マニアではないので――ものではないだろうと思いながら向かい合った。
「それよりやっぱりなんか知ってるんだね~ラディくんのことー」
「みたいだな」
イオンも笑みを浮かべたが、その中にどこか冷たい悪笑が含まれた。
ジジの灰色の瞳が伏せられつつ、睨みを利かせる。
「そうとわかればぁ~」
「吐いてもらおうか」