32. 呪縛
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目の前に対峙を示し、銃口を向けるアルト。
突如目の前に現れたと思えば、彼は鋭くエメラルドの色を濁らせてこちらに睨みを見せた。
「あいつ、目がマジだぜ」
アッシュが告げてきた忠告も、痛いほど分かる視線。
初めて対峙した時とはまた別の…――本気の憤りが見えた気がする。
「アルト…ッ」
こいつの強さは、一度手合わせしているから分かる。
油断をすれば、命を奪いに来るだろう。
この弱いままの心で勝てる相手じゃない。
だけど…だけど…。
「…ッ」
ユエは唇を噛み締めて、鎖鎌を宙で翻した。
32. 呪縛
「来い、ユエ…」
小さく呟かれた言葉。
アルトが再び銃口をユエめがけて構える。
同時にユエが交わすようにしてアルトの下まで突っ込むことを決めた。
鎖が届く場所まで入り込まないと、どちらにしても厳しいのは分かり切っている。
だからこその動きだったが、アッシュとデビトは同時に声をあげた。
「ユエッ!!」
信じてない訳ではないが、不安だった。
アルトの攻撃を全てユエが避けて動けると自信を持って言えるかと聞けば、簡単に頷くことが出来ない。
「はぁぁぁぁ!!!!」
左手で構えられた銃口から放たれる弾の数は計り知れない。
ユエも何発か危険な弾は鎖で弾きつつ、届く距離まで踏み込んだ時だ。
「甘い…」
「っ…!」
今度は右手でサバイバルナイフが飛んでくる。
踵を思いっきり蹴り飛ばして、地面を弾いて宙へと逃げれば今度は銃弾がこちらへ向かっていた。
「オーラコンドゥシャン・レターニタ」
呟いた力は、時を止めるものだった。
間一髪の所で弾が動きを止め、弾けば地面に虚しく落ちていく。
アルトが顔をしかめて行方を見つめ、もう1度視線をユエに戻す。
体に回転を加えて宙を何度か回り、デビトとアッシュの下まで戻ってくる。
「ユエ」
「だいじょうぶ」
「アイツの狙いはお前か?」
「……」
殺気を放ち、左手で銃を構える彼の姿は怒りが滲み出ていた。
捕えられた視線は、ユエだけ。
ユエには思い当たる節があったため、静かに頷いた。
「みたいね」
「…っ」
デビトとアッシュは“なんでユエだけを狙っているんだ”という顔をしたが、ユエだけに戦わせる気はサラサラなかった。
デビトとアッシュがユエの真横に並んで、ホルスターから銃を、鞘から白刃を抜き放った。
「!」
一歩前に出た2人の背をユエが見つめる。
デビトとアッシュ…。
どちらにも迷いが見えなかった。
今のユエとはまるで対象的だ…。
「よくわかんねーけど、やればいいんだろ」
「まァ…コイツを譲る気もねェしなァ」
「それはまともな意見だな、エロリスト」
「デビト…アッシュ…」
2人が共に歩んでくれることは、心強い。
だが、同時に問題だったのはユエの方だ。
脳裏に過る記憶。
誰かと共に、命を狙われた過酷な環境に立つことの怖さを思い知る。
今までもそうだったけれど、違うのは、“大事”だと思う心。
思えば思うほど、ここに共に立つことが、怖い…。
2人が踏み出したのは、ほぼ同時だった。
銃を放つデビトと、単身で斬り込みにかかるアッシュ。
だが、アルトは2人には見向きもせずに攻撃をかわしてユエの下まで突っ込んできた。
「…っ」
「守られなきゃ戦えないのか…?」
「ッ!?」
銃が放たれるかと思えば、素早く武器を持ちかえてアルトはサバイバルナイフでこちらに斬り込んでくる。
身を半身翻して、白刃を交わすと当時に空中へと逃げる。
だが読めていたというように彼も片脚を力強く蹴り、その反動で左脚をユエに蹴り付けた。
「く…っ」
「遅い」
腕で蹴りを防ぎ込み、鎖を回そうと動いたが、アルトの攻撃の方が速かった。
鎖を引く前に、もう片方の地面を蹴った足が戻ってくる。
防ぐ前に横腹に入り込めばユエは宙から地面に落とされる形で投げ飛ばされた。
「ユエッッ!!」
デビトが叫ぶと、アッシュが違和感を感じる。
「ユエ…ッ?」
何度も何度も、ユエの戦いを見てきたアッシュには分かる。
彼女の本気はこんなもんじゃない。
本気どころか、力の半分も出せていないような戦いに見えた。
あんな蹴りを喰らうなんて。
「情けないな、ユエ」
砂埃と、茂みの中からユエがすぐさま横腹を押さえて立ち上がる。
アルトがユエの強がる視線を嘲笑うように告げた本音。
デビトが間髪置かずに反撃で引き金を引き続けた。
アルトが何でもないように避けていく中、ユエは意外と強く入った横腹の痛みを抑え込む。
そうでなくても、前回アルトから受けた傷も癒えてはいない。
肩から血が滲み出る感覚。
傷が再び開いたか…!?と確認してから、ユエが踏み出した。
「本気で来い」
アルトが伏せたエメラルドの瞳をあげる。もう一度、銃口が構えられた。
応えるように、ユエも大きく鎖を振りかざす。
「チッ…」
フォローするしかないのか…?とデビトがアルトを狙い弾を弾きだす。
アッシュもユエとは逆方向から剣で斬りかかるが、アルトの視界に入っているのはユエだけだった。
アッシュの攻撃も相手にはするものの、アッシュやデビトには興味ない…というようにユエだけを徹底的に狙う彼。
「お前だろ…?」
「は…ッ?」
アルトがナイフで鎖を絡めとり、ユエの動きを止めながら、呟く。
デビトとアッシュが一旦退きを見せた時だった。
ユエはその言葉に油断を見せてしまった。
「ガロを殺した女は」
―――ドクン、と心臓が暴れる。
目を見開き、腕が一瞬止まった。
見逃さなかったのはアルト。
即座にユエに至近距離で向けた銃の引き金を引いた。
音を立てて、それはユエの右腕を掠り、服の裾を破いた。
裂けた裾の奥から、紺色のリボンが姿を現す…。
「ユエッッ!!」
「痛っ…」
ヤバイと思い、ユエが距離を置く。
腕を押さえ、アルトと真っ直ぐ対峙をすれば彼は知っている…というように話を始めた。
「巨大カジノを潰せるほどの力を持っていると聞いたが…―――この程度か」
「…っ」
「それとも、ガロが死んでから弱くなったか」
「黙れ…」
挑発に乗ってはいけないと分かっているが、見ず知らずの男から出てきた、思い出の中でユエを守り続ける狼の姿がポツリと浮かぶ。
対してのデビトとアッシュは、2人が始めた会話にみに覚えがなくて眉を寄せた。
「(ガロ…?カジノだと…?)」