31. 求める答え
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時代を超えて、シャロスの館まで戻って来たアルトはラディを探していた。
だが、いそうな場所を見渡しても見つからない。
寡黙にエメラルドの瞳で周囲を見渡していると、背後から足音が響いてくる。
殺気を僅かに感じ、距離はまだあるのでゆっくり振り返ると2人の女性が立っていた。
「あら……守護団のアルト様じゃない」
「ほんとだわ。ごきげんよう、アルト様」
シャロスは本当に美人しか手元に置かないなと思いつつ、現れた女性たちを睨む。
「何かお探しかしら?」
「そんな怖い顔しないでくださいな」
「殺気を出して接近してくるくせに、何を言うかと思えば…」
静かに、低く呟く。
2人はアルトの言葉に顔を合わせて笑った。
「うふふ……やだぁ。殺気剥き出しなのはお互いさまじゃないですか」
「そうですね。それに取って食べたりしませんわよ…。今は」
最後に付け足された言葉には確信を受け取った。
アルトが相手にするだけ無駄かと思いながら顔を逸らそうとした時だ。
「一つ、この悲劇の恋物語にスパイスを足してみましょうか?」
そこで、足を止めなければよかったのだろうか。
だが、どちらにしても……――いつかは訪れる、結末だ。
「シャロス様は、お姫様を救う気なんてございませんわよ」
31. 求める答え
リベルタ、ノヴァ、デビト、パーチェ、ルカが物知りじいさんの家に行き、ユエが不思議な男に遭遇したその日の夜。
守護団とユエが接触してから、ちょうど一日が経とうとしていた。
再びテラスに来ていたユエ。
ショートパンツにシャツという軽装。
ホルダーに鎖鎌だけ入れて、テラスの端に腰かけて空を眺める。
綺麗な星空が目に映る。
ただただ見上げて、溜息をついた。
「ファミリーを抜ける……」
この不安は、どこへ行けば拭えるのか。
誰かに話したら負けだ。
止められるに決まってる。
誰も巻き込めない。
誰も……誰も……―――。
ぎゅう…と自分で自分を抱きしめた時、右の二の腕に何かが当たる。
シャツだけの軽装なので、普段は晒されることのない右腕に巻かれた、紺色のリボンが見えた。
「……」
二重に巻いて、リボン結び。
忘れないようにと、常に腕に縛りつけて戦ってきたもの。
もう何年も前のことだが、その声とその姿を鮮明に覚えている。
最後の最期、守られた背も。
「ガロ……」
指先に触れるリボンの感覚。
直に目に収めたくて、シャツを脱いで、黒のタンクトップになろうとした所で背後からボタンを取ろうとしていた手を止められた。
「…」
「…」
「……何してんの、デビト」
姿は見えない。
最近、彼が事あるごとにつけているのも知っていた。
――まるで逃げようとしているのが、バレているように。
「お前の目は赤外線でもついてんのかァ?」
「はい?」
「よく分かるなァと思ってよ」
それはフォノメナキネシスの力か。
それとも、心からくるものか。
後者のような気がして、フン…と首を真横に振った。
背後から伸びてきた手がようやく見えるようになって、すごく至近距離にいることが分かる。
「まァ、お前だけじゃないか」
「…?」
え?と首をかしげて振り向けば、わずか数センチ先にはちみつ色。
「ちょ、近いッ!!」
頬を思わず押し返して、焦りを見せればデビトはそのまま――頬を潰されたままの状態で――笑んだ。
「何今更照れてんだよ」
「うっるさいってば!」
確かに今更と言われればそうなのかもしれない。
順序が違うとは思いつつ、色々……色々……してしまったのは事実だ。
ユエからしてみれば、遊ばれている程度にしか考えていない。
考えすぎれば、それは傷つく方向にしかいかないので考えないようにしている。
「で、何してんだ?こんなトコで服脱ぎかけてるなんてよォ」
「ちょっと、デビトが言うと意味が変わるからそーゆー言い方しないで!」
「はァ?事実だろォーが」
デビトがボタンを取ろうとしていた手をそのまま握って、真正面から向き合うように移動する。
不満そうにしながらも、顔を赤く染めるユエにデビトは想いを募らせるだけだった。
「寒くないのか?」
「え…」
随分軽装だな、とデビトがユエの服装をきちんと見つめ直して零した。
ユエはさほど気にしていなかったようだが、デビトが上着を脱いでゆっくりと被せてくれた。
優しくて、――本気でないとしても――想いが入っているのが分かったので、されるがままにユエは動きを止める。
「あ、ありがと…」
「ん」
テラスの中は本当に静かで、吹き抜けのガラスから月の光が綺麗に射し込む。
心が見透かされそうで、その黄色から顔を逸らした。
ここから消えようとしていることも、そんな不安に駆られそうになっていることも。
自分の、簡単に曝せない想いも。
「きょ、今日……聞いてきたんだってね?オリビオンの歴史とか…」
「ん?あァ…」
デビトも星を眺めながら、流すように答えた。
「悲恋ってやつだなァ…。ありゃ」
「悲恋?」
「想いが痛いほどあっても、伝えらんねェ…――伝えることを許されなかった」
「…」
「王女様と天才とか言われてる錬金術師のヤローがくっついてれば、まだマシな結果だっただろうな」
「ウィルと…アルベルティーナが…?」
デビトが目を細めたのが分かった。
「2人が素直に結ばれてりゃ、平和条約を締結することもなかった。それを結ばなければ油断もしなかっただろうし、何よりバレアが最後の最後で廻国に近付くこともなかった」
「…」
「それがなきゃ、バレアとウィル・インゲニオーススが、封印されることもなく…」
「アルベルティーナが自分を責めて、眠りにつくこともなかった…ね」
「身分違いだかなんだか知らねェけど…悲恋以外に言い様がないなァ」
「…」
「何より、お互いがお互いを想うなら、ウィル・インゲニオーススは王女の傍を離れるべきじゃなかっただろォ。こんな時代で…。ここはレガーロじゃねェんだし」
平和がどれだけ、安らぎの時間をくれるのか。
ユエはレガーロに来て、痛いほど実感している。
ふと、そこで気付く。
自分が脅えているのは、この時間と大事な人が出来たからだろうな…と。
「失うことの怖さ…」
俯いて、視線を落として。
ユエが考え込む。
デビトが横目でそれを見れば、彼も彼で何かを感じ取っていた。
「…、」
出逢った頃より――いや、再会した頃より――伸びたユエの髪に触れたくなった。
だが、思い出す。
アッシュや自分が触れた時に、ビクリ…と肩を震わせて脅えたユエの姿を。
「……」
伸ばしかけた腕を、静かに下ろした。