29. 2人の天才
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「エトワールゥ~、今日のご飯は何にしよーかー?」
るんるーんと鼻歌と銃を構えながら、城の廊下を楽しそうに歩く男が1名。
いつもと同じテンションでにこにこしているイオンだったが、廊下の向こうの出口の先で、立ち尽くしているアルトを見つけた。
およ?と首をかしげ、エトワールに話しかけつつもイオンはアルトの傍に近付いて行く。
「アールトくーん。何してるのー?」
イオンが廊下から外に出て、城の門の所で佇んでいたアルトに尋ねた。
アルトは元から気配で気付いていたようだ。
彼が声をかけてくると同時に表情は崩さず、視線だけでイオンに答えた。
「誰か待ってるのー?」
「…」
相変わらずの無言が続いていたが、イオンはそんなの気にしない。
答えないアルトの代わりに通常通りエトワールと会話を続けていたが、アルトがある一点を見つめていることに気付いた。
「あれー時空の光―?」
アルトが見つめていたのは、100年という時を超えるコヨミが造り出した光。
その先に飛び込めば、シャロスがいる島へと時空と場所を超えていける。
アルトはただただその一点を、睨むように見つめていた。
「ラディが戻らない」
「えー?」
「ジジが気にかけていた」
「…」
「ツェスィは忘れ物をしたとラディが引き返した所で別れたようだ」
「そこから戻ってないのー?」
頷くアルト。
イオンはさほど深く考えていなかったようだが、ラディの身に何かあったのではとは思っていた。
ジジも気にはしていた。が、アルトが部屋を訪ねた時、既に彼は商売の為に外出していた為接、触することは出来ず。
代わりといってはなんだが、アルトが門の所でラディを待ってみることにした。
シャロスの呼び出しから約2日。
―――……いくらなんでも遅くはないだろうか。
「やだね~ラディくん絶対あの島のジェラートにはまってるんだよ~だから帰ってこないんだよ~」
「お前じゃないんだ、それはない」
「アルトくんそんなトコだけ真面目に返さないでよぉ~」
イオンの読みをきっぱりと否定したアルト。
呆れた表情を1度は見せた彼だったが、一拍置いて…切りだした。
「イオン」
「なあにー?」
「シャロス・フェアという男……どう思う?」
アルトにしては、イオンに投げかける真面目な質問だった。
いつもは彼と言葉を交わせば、彼に合わせたくだらないものか、注意か、今のようなツッコミかだが…。
今だけは、今だけはどうしても聞いておきたかった。
「それって、どーゆー意味―?」
「そのままの意味だ」
少し口角をあげてニヤリと笑ったイオンの返事に、アルトが顔をそちらに向ける。
対したイオンは、少しの間の無言から、返した。
「どうでもいいかな~」
「…」
「おれはエトワールさえいれば、なぁーんでもいいんだよ」
「…、」
アルトがイオンの視線の先を見つめる。
彼が見つめた先は光のホールだったが、視線はとても虚ろだった。
「アイツに従っててー、あわよくば姫様が起きるならそれはそれでハッピーって感じだねー」
「イオン……」
「おれはエトワールがいるなら、この先がどうなろうと関係ないかなー」
そのまま背中を向けて、珍しくしつこくしてこないイオンにアルトが顔をしかめた。
彼は食事へ向かう途中だったことを思い出したようで、帰路へついていく。
「ラディ戻ってくるといーねー」
ひらひらと片手を振って、アルトに別れを告げた彼は廊下の先へと姿を消した。
残されたアルトは、イオンらしいか…と内心思いつつ、もう一度光のホールを見つめる。
守護団という組織に属していても、自分は誰かと慣れ合うつもりも“姫様を失った”という喪失の傷を舐め合うつもりもない。
だが、目的が同じだからこそ、過程はどうであれ共に過している。
アッシュが先日予測した事実は、ここにも1つ存在した。
アルトはさほど迷うことなく、イオンが廊下の視界から消えると同時に、光のホールの中に飛び込んだ……。
29. 2人の天才
ダクトの町へとやってきたコズエを率いるアルカナファミリアのメンバー。
話の発端になったリベルタ、ノヴァ、パーチェとデビト。
そこに無理やり連れてこられたといえるようなルカが加わり、コズエが訪ねようとしていた“物知りおじさん”の家を目指す。
途中でダクトの街の商店街を抜けながら、パーチェは目をキラキラと輝かせていた。
「すごーい!レガーロには無い食べ物が…!」
「お前は食い気以外に働くモンはないのかよォ?」
「だが、本当にレガーロでは見ないものが多いな」
ノヴァも辺りを見回し、目に入って来た花屋に並んでいる種類を眺め呟く。
リベルタにいたってはあっちに行って、こっちに行って、常にキョロキョロしている印象だった。
ルカも――錬金術師の街と呼ばれていたオリビオンから程近いダクトも――100年前の錬金術についての宝庫を目の当たりにして、どこか浮かれている様子だった。
「すっげー!あの仮面カッコイイ…!」
「リベルタもかよ…」
デビトが呆れながらメンバーを見渡していると、真横を綺麗な女性2人組が通りかかっていく。
彼の中の何かのレーダーが反応したのだろう。
集団行動を即離脱して、デビトは2人の女性に声をかけに行ってしまった。
「そこのオネーさん、この辺の子かァい?よかった俺を案内してくれよ。な?」
「デビト、人のこと言えませんよ」
ルカが目を細めてデビトの腕を掴み、引き戻す。
邪魔すんなよ、と言いたそうな顔をしてデビトは集団の中へと戻って来た。
コズエが賑やかだな…と思い笑顔を見せながら道を真っ直ぐに進む。
こんな賑やかな日がいつか、コズエたちの元へと戻ってくればいいなと彼女も思う。
「コズエ…?」
視線を俯かせていたコズエに、リベルタが声をかける。
異変に気付いてノヴァも顔を覗かせてくれれば、コズエは苦笑いを浮かべた。
「あ、すみません。つい…懐かしくて」
「懐かしいか?」
「はい。ウィル様と姫様がご健在の時は、守護団のメンバーや城の者たちで同じように賑やかに過ごしてたので」
「そっか」
取り戻せるかな…と少し不安そうな顔をしながら、コズエは足を止めなかった。
「姫様と巫女様がお茶をしているとリア達が……守護団のメンバーが寄ってきて、お茶の取り合いをしていました」
「へぇ、なんか意外」
「エリカは、お茶菓子を作るのが上手だった巫女様に料理やその技術を教えてもらって、ファリベルやサクラに振る舞っていたのもその頃からです。ラディはまだ幼くて、その頃の記憶は殆どないでしょうが……姫様が母親代わりのようなものでした」
「みんな姫様が大事だったんだね……」
リベルタとパーチェがコズエの言葉を聞きつつ、返事をしていく。
ノヴァも、あの守護団にとってどれだけ大事だったのか…少しずつ分かり始めていた。
「あの……コズエさん。1つよろしいですか?」
「あ、はい…?」
ルカが先日の言葉からずっと気にしていたことを、コズエにぶつけてみた。
「その“巫女様”って、いまは……?」
「…」
振り返ったコズエが、今度は足を……止めた。
「―――……」
揺れる視線。
色は冷たく、そして切ない…。
「巫女様は……もう…」
「…」
「アルベルティーナ様やウィル様のような封印だったり、そんな形じゃない…。巫女様は……もうこの世には、いません」
「…っ」