28. 棚曇りの下の出逢い
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守護団のメンバー……―――リア、ジジ、アロイス、サクラと接触した翌日。
ユエはアッシュから昨日の書庫でのやり取りを聞き、廊下で彼と黙って考え込んでいた。
「そっか……」
「まだ仮定の話だが、かなり有力だろうな」
「……そうだね」
シャロスと手を組んでいる守護団の本当の望みは、大事なお姫様の解放。
その為に動いているのだとしたら、シャロスの目的も知っているのだろうか。
彼らの意志で本心からシャロスに仕えているのだろうか。
「(目的の為に、あたしの存在が必要……)」
守護団が先日言い残した言葉を思い出し、ユエは視線を俯かせる。
自分がここから抜ければ、彼らも救われ、そしてファミリーも危険に曝されないというのだろうか。
彼ら守護団が持ちかけたことではあるが、シャロスの目的に自分が必要でそれをすることで彼らの姫様が救われるなら……自分はどうするべきなのだろうか。
「ユエ?」
自分が何かを手放せば、大勢の人間が救われるのだというなら…―――。
「オイ、ユエ」
「え?」
ガッと顔を覗きこんできた灰色の視線に、ユエが即座に顔をあげる。
少し動けばキス出来そうな距離にアッシュ。
驚いて目をぱちくりさせて、ごめん…っと続けた。
「お前、大丈夫かよ?傷でも痛むのか?」
「いや、全然……」
「じゃあ、なんでそんな顔してんだ」
コツン、と指差された額にユエが目を見開く。
そんな酷い顔をしていたのだろうか…?と悩み、眉間のシワを取り除くよう意識を向けた。
「なんかあるなら、ちゃんと言えよな」
「…」
「お前、昔からそーゆーこと言わないだろ」
アッシュが告げた言葉には、彼の脳内から消えない1つの光景。
先日から何度も何度も甦る…――いや、最近だけじゃない。彼女が悩んだ時は割と毎回出てくる映像。
血まみれのユエがヨシュアの目の前に立ちつくし、涙する姿。
ヨシュアはしゃがみ込み、ユエを抱きしめていたが…ユエの涙が止まることなんてなかった。
そこからだ。
ユエが一時期、とても荒れて全てを冷たく突き放し、毎晩毎晩涙していたのは。
あの時のユエを見てるアッシュは、ユエの荒れ方や落ち込み方、そして何があったのかすら言わないことも今は分かっている。
「うん」
一つ返事で返したユエは、微笑みを見せた。
また…――彼女は嘘をつくのが上手くなる。
「ありがとう」
優しくて、自分を傷つける嘘。
28. 棚曇りの下の出逢い
「あれ、コズエ出かけんのか?」
民家の入り口でブーツの紐を結んでいたコズエに、リベルタが顔を出して尋ねた。
振り返ったコズエはつま先を床でコツンコツン、と鳴らしながらリベルタに微笑む。
「あ、リベルタさん。はい!ちょっとダクトの先まで」
「1人でか?」
「あ、はい」
リベルタが食堂とされている入口に入ろうとしていたのをやめて、玄関先にいる彼女に駆け寄る。
2階から降りてきたノヴァとパーチェ、デビトもその姿を確認して足を止めた。
「1人で大丈夫なのかよ?」
「だ、大丈夫ですよ!わ、わたし子供じゃないんですよぉ!?」
コズエが両手を握って上下に振りながらリベルタに反論している。
パーチェが2人の会話を聞きながら、
「なんなら、オレ一緒に行くよ?」
「えぇ!?ぱ、パーチェさんまでわたしを子供扱いですか!?」
フォローしてくれると思っていたコズエは、パーチェの言葉に眉を下ろして大きく口をあけ落胆している。
デビトが横でヒャハハッと笑いながら、続きを促した。
「で、どこ行くんだ?コズエ」
「物知りじいさんの家に」
「物知りじいさん?」
コズエの口から出てきたのは、本当にそのまんまの名称の人物のようでそれ以上“どんな人?”と聞くことは出来なかった。
「オリビオンの歴史や伝説、噂などに詳しい人です」
「へぇ」
「昨日のジョーリィさんや、みなさんの仮定を聞いて……わたし、自分の国のことなのにあんまりよくわかってないなぁって思って。“助けてください”ばっかりじゃなくて、わたしも何かみなさんのお役に立てればって思ったんです」
「コズエ…」
彼女の無垢な笑顔にリベルタが少し頬を赤く染める。
「物知りじいさんに聞けば、何かまた見えてくると思うんです!ちょっとわたし、行ってきますね」
それでは、と頭を下げられそのまま出て行こうとするコズエに、パーチェとリベルタが顔を合わせた。
もちろんそれではダメだろ、と思ったデビト。
先を知るためにそのおじいさんに逢うべきだと判断したノヴァ。
4人がそのまま彼女の後を追ったのは、言うまでもない。
◇◆◇◆◇
アッシュと離れたユエは、昨日守護団と接触した森まで戻ってきていた。
何かそこに手掛かりがあるとは思っていなかったが、1人になりたい気分だった。
自分が森へ出る前に、デビトとパーチェがルカを連れてコズエの後を追ったという情報をフェリチータから聞いた。
そのメンバーの中に、リベルタとノヴァがいたことも知っている。
フェリチータは、書庫で昨日の続きをしているようであり、書物をジョーリィとアッシュと読み漁っているようだった。
そんな中、1人での外出。
もちろん、誰にも告げていない。
まるで消えようと思えばいつでも消えられると思い知るような時間だった。
あとは自分の意志次第だ。
「……」
今日はテラスとは逆方向に進んで来てみた。
気付いたら森を抜け、目の前には水平線が広がっていた。
空は曇り空。
今にも雨が降り出しそうで、霧も濃い。
いや、霧が濃いのはいつものことか。
霧の切れ目に光が差し込む空間が現れ、その隙間から水平線の向こうに静かに、不気味に聳え立つオリビオンが見えた。
「迷宮都市オリビオン……」
錬金術師の街と呼ばれ、誰もが幸せに暮らせていたレガーロのような島。
それを壊したのはランザスで、そして原因を作ったのは廻国。
異次元から召喚される化物を使って世界を征服しようと企んだ輩。
一体、そんなことをしてその先にあるものは何なのか。
破壊の先に幸福があるのかどうか。
ユエには分からない思いであった。
「どうして……」
そのオリビオンを救うために、どうして自分が必要なのか。
強力な力が欲しいのであれば、自分以外にもいるはずだ。
ジョーリィの錬金術師としての才能。
アッシュやルカもそうだろう。
アルカナ能力の強さが必要なのであれば安定しているパーチェやデビトもそうだし……。
どうして自分なのか。
ファミリーではなく何故“ユエ”を狙っているのだろうか。
「!」
思いにふけっていた所で、背後に1つの気配。
知っている感覚ではない。
冷たく、鋭い、殺気の細いものににたもの。
距離はまだあったが、ユエは静かに振り返った。
「……っ」
森の入り口には誰も姿がない。
だが、確かに視線は感じる。
どうせ戻るのに、その道を通らなければならないのだ。
ユエは意を決し、鎖鎌の柄を右手だけ握りながらゆっくりと踵を戻し始めた。