27. 斑を埋める行路へ
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デビトとユエが騒いでいたのとほぼ同時刻。
探されていたということで、アッシュが書庫にいるであろうノヴァやリベルタの下を訪ねていた。
呼び出されたということは、もちろん用があるのだろう。
確かこっちの方だったな。と進んだ先に現れた形状の違う扉。
その先へとくぐれば、リベルタ、ノヴァ、フェリチータ、そしてジョーリィとコズエが大量の本を抱えてかたまっていた。
「アッシュ!」
アッシュの姿にいち早く気付いたフェリチータは、彼の下まで行くと何をしているのかを教えてくれた。
「今、オリビオンの歴史について調べてるの」
「あぁ、そうゆうことか」
オリビオンのことについて調べるのであれば、必ず上がってくる1つの項目。
それが“ウィル・インゲニオースス”。
つまり自分の先祖に辿り着くので、有力な情報を何か求めているのであろう。
「ウィル・インゲニオースス…」
アッシュも小さく零した言葉。
彼の名前。
一体、どんな経緯と理由があり、その身を呈して親友といえるような相手を封印したのか。
それが、書籍如きで解読できるのかどうか。
出された答えは…―――。
27. 斑を埋める行路へ
「はぁ~…なんか、わかんねーことが多すぎてどっから手をつけたらいいかわかんねーよ」
結論、わからないとのこと。
リベルタがイスに反りかえり、天井を見つめつつ吐き出す。
背後で彼の言葉を聞いていたノヴァは溜息をついた。
「休んでいる暇があるのなら、片っ端から読み明かせ」
「俺、錬金術師になるつもりねーんだけど……」
体を起こし、片手で粗末にページをめくる本のタイトルはいかにも古代の錬金術師が読みそうな物。
ここにルカがいたら目をキラキラさせるに違いない。
同じく、錬金術師が2名ほどいるがどちらも黙って黙々とページをめくっていく姿が見えた。
フェリチータも少し疲れた顔をしていた。
時刻は確かに丑三つ時になろうとしている。
いくら素早い行動をしたいからといっても、ここまで手掛かり0で尚且つこんな時間では集中力も切れてしまう。
コズエも一息入れようと思いつつ、腰をあげた。
「でもよ、分からないことが多いのは確かだろ?」
「まぁな」
「そうだね。オリビオンのことも、廻国のことも、ランザスのことも……」
リベルタが本を投げ出して机に突っ伏す。
ノヴァは立ったまま棚の前で2冊の本を眺めていた。
最後に答えたフェリチータも読んでいた本を閉じた。
と、そこで黙っていたジョーリィが口を開く。
「目的が明確でないままの行動は無意味…。調べるべきをこと1つに絞ってみてはいかがかな…?お嬢様」
「え?」
「1つをいっぺんに調べても、その小さな記憶装置の中に全ては収まりきらないということだ」
嫌味をストレートに告げてくるジョーリィにアッシュが顔をあげて相変わらずだな…と表情で訴えた。
フェリチータは言われたことをさほど深く考えず、逆に真剣に押し黙る。
「1つのことを、まず明確に……」
そこで彼女はふと状況の整理を脳内でしはじめ、コズエに1つ1つ尋ね始めた。
「コズエは、さっき話したこと以上の情報で何か知らないの?」
「さっき以外のことで……?」
フェリチータに言われ、考え込むコズエ。
先程、テラスから戻って来たコズエはまさかフェリチータ達がこんなに真剣に自分達を助けてくれるとは思っていなかったようで驚いていた。
同時にオリビオンに一番詳しい彼女自身も色々と記憶を辿ってみたが…。
「お、お話したのが一通りです……。オリビオンには廻国があること、ウィル様とバレアが幼馴染で仲が良かったということ。そこから国同士の対立によって敵対し、ランザスがオリビオンを攻撃して……」
「オリビオンも戦うが、最悪の状態。そしてそこにランザスからの和解条案」
「それすらも破って、オリビオンの王女様を苦しめたバレアは、廻国を開けようとしてウィル・インゲニオーススに封印された……」
コズエの言葉に続けてノヴァ、そしてフェリチータが答えた。
だが、それ以上の情報がこの戦いを止める……守護団の目的に繋がるのではないかと読んでいる。
フェリチータが首をかしげながら、1つ1つ疑問をあげてみた。
「バレア・フォルドは、本当に国の為だけに動いていたのかな?」
「え?」
「なにか……引っ掛かるの」
「…」
フェリチータが俯き、胸に手をあてて考え込む。
「同じ師匠の下で、幼い時から仲良しだった2人が、国だけのために封印し合うだとか、王女様を苦しめて対立し合うなんて……どうしても納得いかない」
「フェル……」
「バレアがウィル・インゲニオーススに対して、そこまでならなきゃいけない理由があったとは、考えられないかな……」
フェリチータの言葉に、コズエが目を細めた。
その表情を、ジョーリィは見逃すことはなかった。
が、敢えて触れずに相手がどうでるかを待ってみる。
「ウィル様が、バレアと対立しなければならなかった原因……」
考えたこともなかった、とコズエが零す。
「バレアがランザスの政府に何か弱みを握られてたとか?」
リベルタが言えば、間髪置かずにノヴァが言葉を挟んだ。
「逆もある」
「逆?」
「ウィルがバレアの恨みを買った、とかな」
「そんな……ッ」
ノヴァの厳しい言葉に、コズエがバッと顔をあげた。
だが、アッシュも――イスではなく――机に腰掛けつつ、視線は文献に向けたまま言う。
「あり得るだろうな」
「アッシュさんまで…ッ」
コズエがおろおろしていると、ノヴァが本を閉じ…静かに告げた。
「人の行動を突き動かすのは、強い意志だ。その感情の中に優先的にあがるのは、愛情か信念、そして憎しみだ」
「…」
「バレアがウィル・インゲニオーススを恨む出来事が最中で起きたのであれば、可能性はなくはない」
誰もが沈黙の中、フェリチータが少し遠慮がちにコズエに尋ねた。
「バレアがウィルを恨むようなこととか……」
「……わかりません」
「コズエさん…」
「……わたしがこの世に産まれたときは、既にバレアとウィル様の関係は…―――」
伏せられた視線。
ジョーリィがそれを一瞬確認して、読んでいた本の現在のページに栞を挟み、次の本を手元に置く。
「わたしとコヨミがウィル様に命をいただいた時には、ウィル様がオリビオンの女王・アルベルティーナ様と出逢ってからでした。バレアとウィル様がどんな関係で、どんな幼少期を過ごしたのか……実際目にしたことはありません」
「そうだったんだ……」
「ただ……ウィル様はいつもバレアの話をしてくれました」
【コズエ、コヨミ】
【はい、ウィル様!】
【ななななな、なんでしょう…】
【ははは、コズエ。そんなに脅えなくても怒ったりしないよ。今日呼び出したのは、1人の錬金術師について話しておきたいからなんだ】
【錬金術師……?】
「穏やかで、優しくて、でもどこか……」
【バレア・フォルドという男さ。とても有能で、この国の偉大な錬金術師。そして―――】
「バレアの話をするときは、いつもいつも切なそうにしていました」
【俺の誇るべき友人だ】