26. となりに
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森の茂みを抜け、水面が見える場所まで高速で戻って来た4人。
その中で1人、少し遅れをとっていたジジが前の3人に追いついた所で、サクラがリアに尋ねた。
「よかったのぉ?退いてきて」
「あぁ。別にいい」
「でも隠者の奴、いつからいたの?」
アロイスがうーん?と綺麗で繊細な指を顎に当てて考え込む。
「もしかしたら、あの色男アタシ達の話を聞いてたかもしれないでしょ?」
「聞いてない」
リアが断言したので、俯きがちだったジジが視線をあげた。
「隠者が現れたのは、本当に最後の最後。話は聞こえてなかったはず」
リアには、デビトの気配を感知できるのだ。
その宿した能力故に。
「第17のカード、ラ・ステッラ…――星」
リアの腕に刻まれたスティグマータが光を放つ時、彼女には相手にはとても厄介な能力を扱うことが出来る。
「千里眼、そしてテレパス……」
「リアが隠者を見破れるのは、奴より精神力が高いから。実際、アタシらに比べたらなぁーんてことないわね。アルカナファミリアも」
るんるんと鼻歌を歌いつつ、オリビオンの中心に聳え立つ城を目指すアロイス。
サクラも確かにーと頷きながらアロイスを追う。
そこで思い出したように、「あ」と声を零した。
「でも、ジジが銃口向けたのが意外だったねぇ」
サクラの言葉に、再び考えにふけっていたジジが顔をあげる。
いつもはそれなりに口数が多いジジが、黙りこくっていることにリアが意味ありげな視線を送った。
「あ?」
「だって、いつもは弾代ケチって銃使わないからさぁ。まさか引き抜くと思わなかったぁ」
サクラが告げた言葉に、アロイスもジジの真横に回り込んで至近距離で顔を近付けつつ彼を讃えた。
「ウフフっ、アタシを守るためにわざわざ銃口を向けてくれたのよね?ジジっ♪」
「ちげーよ」
呆れつつ、真顔でアロイスに言い返すジジ。
リアが隣で溜息をついて先に行く、と無言で告げてきた。
「やぁね、そこは嘘でも“お前の為だ”って言わないとオネーサマにモテないじゃない」
「うるせーな。まず撃つ気はハナからねぇって」
「え、やっぱりなかったのぉ?」
「あるかよ。弾代請求すんぞ」
「あらやだ、かわいくないわね」
アロイスが唇尖がらせて言えば、ジジがボソッと零す。
「オッサンに可愛いとか思われてもな……」
「ウフフフフ、アタシ耳が悪くなったみたい。この乙女に向かってオッサンとか呟く子がいるんだけど」
「耳の医者に掛かる前に、脳みそ診てもらえ」
「もっぺん言ってみなさぁい?ジジイって呼ぶわよーん?」
「テメ、その呼び方やめろって言ってるだろッ!」
ギャーギャー騒ぎ始めた愚者と死神に、サクラがふぅ。と息を吐き捨てた。
2人を優しく見守ろうとした時だった。
「!」
サクラが1つの気配に気付き、背後へ即座に振り返る。
リアも同時に気付いたようで、一足先に前方へ行っていた距離を一瞬で戻って来た。
「リア」
「……――」
霧が濃くなる中、リアが一点に見詰めたのは、先程自分達が出てきた森の入り口だった。
既に小さく見えるその入り口だったが、目を凝らしてみる。
だが正体を掴むことが出来なかった。
「…」
言い争いとまではいかないが、いつものやり取りをしていたジジとアロイスも森の方角を見据えた。
「すごい気配だったわね」
「その存在を隠せるくらい、気配の消し方がうまい」
リアが小さく吐き捨てた言葉には、その人物の意図が隠されていた。
「敢えて気配を感じさせたな……」
自分がここにいる、と。
4人に分からせる為に。
「それに……―――」
リアが止めた言葉。
だが、他の3人は続きに心当たりがなかったようだ。
「すごく覚えのある気配だ」
26. となりに
守護団が消えた森。
ユエは未だに4人が消えた方向を見つめて、茫然とデビトの腕の中で立ち尽くしていた。
「……っ」
自分の体が、言われた言葉に対して少し…ざわついた。
理由なんて分かるわけもない。
だが、確かに感じた。
心や思考ではなく、体が。
「ユエ」
デビトがゆっくりと腕を解いて、顔を覗きこむようにすればユエはようやく意識を取り戻す。
はっとして顔をあげれば、至近距離にはちみつ色の見覚えのある瞳。
「デビト……っ」
ち、近い!と思い、肩を押し返せばデビトは表情を変えずにユエの紅色を覗きこむだけだった。
「ご、ごめん。ありがとう」
少しだけ先程より距離を生み出して、顔を逸らした。
当り前のように守られたことが少し悔しい。
だが、思う。
“背中で守られなくてよかった”と。
「(ダンテ……)」
1つの心当たりが胸を焦燥感で一杯にする。
気になったようで、デビトが耐えかねてもう1度ユエの瞳を捕えた。
「ユエ」
「え?」
「大丈夫か?顔真っ青だゼ」
相当、顔色が悪かったのだろう。
デビトの指先が頬を這い、ゆっくりと肌を撫ぜた。
その瞬間だ。
【触らないで……ッ】
「!」
【いやぁああああああぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああ!!!!!!】
「…ッ」
拒む所まではいかなかったが、脳裏に響いた声にユエがビクリと肩を震わせた。
目の前で拒絶はされなかったものの、デビトがそれを見逃すわけもない。
前回、アッシュがユエに触れた時も同じ反応を示したことを忘れてもいなかった。
「……、ケガしてねェか?」
「うん……。平気」
心地が少し悪くなったので、デビトが控えめに尋ね、指を下ろした。
アッシュの時も同じ反応だったが、自分のせいだろうか?と不安にかられつつ、デビトが続きを尋ねようとした時だ。
「ユエッ!!」
「!」
茂みの奥からガサガサと音を立てつつ、彼女の名前を呼んだのは唯一年下の幼馴染。
アッシュが草をかき分けて、デビトとユエの前に来れば、2人は明らかにパーソナルスペースを互いに侵した領域で見つめ合っていたので、顔をしかめた。
それは“こんな場所で”という理由もあったが、上回ったのはアッシュの恋慕が要因だ。
キッと睨みを利かせたアッシュの視線をデビトは流すように受け取り、真顔で顔を顔を逸らした。
「大丈夫か?」
戻ってくんの遅せぇんだよ、と付け足したアッシュにユエはそういえばコズエと別れてそれなりに時間が経ったなと思う。
ここから民家まではとても近い距離だし、10分あれば戻れる。
だが色々と邪魔が入ったせいか、と思いながら一応笑顔を見せた。
「ごめん。コズエとココア飲んでて」
「ココア?」
それだけじゃない。
デビトが口を挟みそうになってるので、ユエは素早くデビトの袖口を握り、止めた。
何かを察し、デビトはそれ以上自分から口を利く勢いは見せなかったがどこか不服そうに隣にいてくれた。
「戻ろう。寒くなって来たし」
ユエが何事もなかったようにアッシュに言えば、アッシュは特に何も思わなかったようだ。
どちらかというと、デビトがユエに何かしたんじゃないかと思うだけで。
デビトがユエの隣から離れずにいるので、アッシュは不貞腐れながら元来た道を戻っていく。
ユエは下手に心配かけずに済んだな、と胸を撫で下ろし、デビトの袖口から指をそっと離した。
が、同時に包まれるようにして右手が引かれる。
「…!」
何も聞かず、ただゆっくりと、――先程、肩を跳ねさせて脅えたのが嫌でも分かっていたので――怖がらないように冷えた指先が守られた。
顔をあげればただ、半歩前を行く灰色の髪と長身。
「……――」
何も聞かないことも、優しさなのかもしれない。
そう思えて仕方なかった。
「部屋戻ったら全部吐かせるから覚悟しとけよォ?ユエ」
「…………………。」
いや、前言撤回だ。
最後の一言は余計だな、と思いつつデビトを後ろから睨む。
が、安心感の方が多く受け取っているため……ユエは視線をゆっくりと俯かせ、少しだけ口角をあげたのだった。