25. 常闇に晒す切望
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「んだよ、アイツ。外に行くとか言って戻ってこねぇじゃねーか」
アッシュがぶつぶつ呟きながら、溜息混じりにユエへの文句を吐きだす。
寝る前にユエの様子を見に行けば、彼女は外の空気が吸いたいとフェリチータに言い残し、部屋を出て行ったそうだ。
あんなボロボロな体で外に行きたいという精神も、その強すぎる心もアッシュは信じられないと思っていた。
民家から外に出て、同時に少し離れた所にとんがり屋根のテラスがあることも確認できた。
生い茂る森の中に、そのとんがり屋根だけが目立ち立っていた。
「あれか」
真っ直ぐ行けば辿り着ける場所であるので、特に焦りも何も見せなかった。
だが、同時にアッシュは別の物に目を移し、動きを止めてしまった。
「!―――……アイツ…」
それなりに離れた茂みの中に、紫の光が上がる。
同時に光が放たれ、そこにいた人物が姿を消した。
灰色の髪を揺らし、真剣な色を見せた彼―――隠者。
「……」
姿を消さないといけない理由があるのか?と思いつつ、向かった先…彼が見据えていた先があのとんがり屋根で間違いなかったので、自分と同じことをしようとしてるのか…と溜息をつく。
デビトと思考が同じである自分に、どこか嫌気がさした。
「姿消して迎えとか、趣味悪ぃな」
負けたくなくて。
軽口叩いて、足取りを早め、アッシュもガラス張りのテラスを目指した…。
25. 常闇に晒す切望
「来てもらおーか、ユエ」
「いやだ」
目の前に対峙したのは、オリビオンの守護団・リア、ジジ、サクラ、アロイス。
厄介な4人だな、と顔をしかめつつ、やられた分はやり返したいと思って鎖鎌に手を伸ばす。
だが、4人は自分の構えを見ても武器を見せることはなかった。
「まず聞け、今日はやり合う気はないって」
リアがいつも通り、真顔で言えばユエは更に睨みを利かせた。
「言っただろー?選ぶ意味なんてないって」
「…」
真意が分からず、ユエはそのまま鎖鎌をいつでも抜けるようにした手を離さなかった。
「俺らと来い」
ジジがしれっと当たり前のように告げる。
サクラは不満があるようで、こちらをぶすーっとしながら見つめていた。
「ふざけんな。あたしがアンタらに従わなきゃならない理由がない」
「フフ、それはどうかしら?」
アロイスがヒールを鳴らし、美脚を主張するような歩き方で前に出てくる。
ユエが目を細めた。
「これからアタシらが、アナタに持ちかける話……悪くないと思うけど?」
アロイスの意味深な言葉。
すぐさま攻撃してやろうと思っていたが、ユエの瞳が揺れたことをリアが見抜き、話し始めた。
「ユエ。アンタが何者なのか知らないけど、私らは私らの目的の為にアンタが必要」
「…」
「ファミリー、コズエ、それからレガーロを守りたいなら一緒に来るべきじゃない?」
「(ファミリーとレガーロ……?)」
何故、この100年前にいる状況でレガーロのことが出てくるんだと思いつつ、黙り、続きを待つ。
「アンタらの目的は知らないけど、私らは目的のためにアルカナファミリアを潰す」
リアから冷酷に告げられた言葉。
ユエは眉間にシワを寄せ、反論を試みた。
「その目的ってなに?」
「話す義務なんてねーだろ」
「人のことを必要としておいて、それってどーなの?」
ジジの言葉にユエが冷静に言い返せば、アロイスがサクラと顔を合わせて笑った。
「アンタさ、そんな口利いてていいのぉ?」
サクラが嘲笑うように言う。
サディスティックな表情が、ピンクの綺麗な髪の間から姿を覗かせた。
「迷宮都市・オリビオンは軍国国家と戦争をしていた国。今だってそれなりに強力な錬金術を所持してる。いくらアルカナ能力を持ってるからと言っても、たった数人。すぐ潰せるんだよ?」
サクラの言葉に、少しだけ立ち止まったユエがいた。
「ファミリーのこと、大事じゃないのぉ?」
「お前が強いからって言っても、何十万の錬金術を駆使する人間を相手に出来るか?…いや、出来ないよな?」
サクラに続けたジジの言葉。
ユエは見極めていた。
ただの脅しなのか、本気なのか。
そして、自分を求めている彼らの動く理由を…―――。
「ただの脅しだと思ってるなら、それでもいいよ?」
「…」
「でも、不審だと思わない?」
「何…?」
サクラが冷静に、不穏な口角の上げ方で笑顔を見せた。
「どうしてタロッコが時空を超えて盗まれて、どうして自分だけがこんなにも狙われてるのか…」
「…―――」
サクラの言葉。
アロイスは彼女の賢さを内心で讃えた。
守護団にも分からないシャロスがユエを求める理由。
それを当の本人にぶつけてみることで、何か見えてくるのでは……と読んでいたのだ。
同時にユエの中にざわめきが起きる。
言われなくても…―――密かにどこか、理解をしていた。
「なんか心当たりでもあるんじゃない?」
言われてすぐ、思い当たり過るものはなかった。
だが、心や思考じゃない。
体が、体が“何か”を覚えている。
理由は無いのに、どこか身震いと、焦燥感を覚えた。
「その顔、心あたりがあるみたいね?」
アロイスが楽しそうに微笑む。
心当たり…?そんなもの、ない。
だが、違う。
何かが、理由を訴える。
自分が狙われる訳を。
血が……騒いでいる…―――。