24. 壇上の駆け引き
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ」
シャロスの館に呼ばれていたアルト、ラディ、ツェスィはコヨミが残した空間で、100年前に戻ろうとしていた。
アルトは先に行ってしまったようで、ツェスィと2人でそこを目指していたラディは途中で声をあげた。
「ラディ?」
「ツェスィ、先に戻ってて」
「え?」
「忘れ物!」
次のツェスィの言葉を待たずに、ラディは来た道を全力で戻り始めた。
ツェスィに、どこかイヤな予感が過る。
だが、思い過ごしだと、彼女はそのまま1人……ラディと別れてオリビオンへ向かう道を進み始めた。
戻りかけたラディが廊下を進んでいた所で、先程まで自分達がシャロスと話をしていた部屋が見えてくる。
少しだけ心が重たくなり、足を止めないようにと駆け抜けたかったが、ラディは扉の前で聞こえた言葉にそうすることが出来なかった。
「守護団は所詮、捨て駒さ」
―――…ピタリ、と動きが止まった。
ドクン…と心の中に波紋が生まれる。
「何がオリビオンの王女だ、あの女の使い道など皆無だ」
「ですよねぇ」
「でもどうして、あの守護団にそれだけこだわってるんですかぁ?大アルカナくらい、私達でも倒せますよ?」
「無駄に戦力を消耗したくないだけさ」
「…ッ」
―――僕たちは……
「だが王女の結界を解放し、ウィルとバレアの封印を解かない限り」
―――こんなことが、したいわけじゃない…
「廻国は手に入らないからな」
僕たちは……
24. 壇上の駆け引き
「……」
オリビオンの正門。
コヨミが100年後に飛べるように空間を作った場所の程近く。
無言で背を壁に預け、手元の札束を数える男がそこにいた。
「ひぃ…ふぅ…みぃ………」
手元のお札を10枚ごとに分け、整理をし、ポケットに乱暴にそれを突っ込む男はふと気付き、顔を上げる。
「おっせーな…ラディ」
なんで戻ってこないんだ?と首をかしげ、碧い光を上げながら未だそこに在り続ける時代を超える空間。
札束を数えていた男……ジジが溜息混じりに“迎えに行かなきゃダメとか何歳だよ”と思いながら空間に顔を覗かせる。
実際、彼はまだ8歳なのでそれなりに迎えなどが必要な年齢でもあるが。
しょーがねぇな…と空間に飛び込もうとした時だ。
「ジジ」
「あ?」
呼ばれたので後方に振り返れば、そこにはファリベルの姿が。
「リアが呼んでる。招集よ」
「んだよ、招集ってラディ戻ってきてねぇんだけど」
めんどくさそうに吐き出せば、ファリベルも項垂れながら告げる。
「今いるメンバーだけでいいそうよ。イオンとシノブも今いないから」
「どこ行ったんだよ、アイツら」
「さぁ。シノブはきっと偵察ね。イオンはどうかしら」
いつものことか…と、ジジは空間に突っ込んでいた足を引きもどした。
ファリベルの横を並び、城の中へ入り込めば途端に碧い光を放っていた空間が微弱になっていく。
それに気付くことなく、2人は姿を消してしまった……。
―――招集された部屋には、先に待っていた仲間がジジとファリベルを迎え入れた。
そこにはいないとされていたシノブがいたが、代わりにアルトとウタラがいなかった。
「あれ、シノブお前いたのか?」
「今戻ったとこだよ」
ジジがシノブの姿を確認して言えば、シノブが微笑でオッドアイの瞳を細める。
奥にいたアロイスとエリカも出てきて、そこにはアルト、ラディ、イオン、ウタラがいないが守護団が集まった。
「で、招集した理由って?」
ジジがポケットに手を突っ込み、札束を握りしめて言えばリアが真顔で答えた。
「シャロスとの話し合いの結果報告だ」
「ツェスィが行ってくれた件だよね?」
エリカがツェスィの顔を見て言えば、彼女は頷く。
一緒に行った他2人がいないじゃないか、と思いながらも話は続けられる。
「シャロスはどうしてもユエが必要らしい。つーことで、奪い返す」
「どんだけアイツがキーマンなんだよ」
ボソッとサクラが吐けば、隣で聞いていたシノブが笑った。
「そこまでシャロスが求めるってことは、ただの“強い奴”ってだけじゃなさそうだね」
「…」
「何か一枚、噛んでると思うな」
笑顔でない笑顔を浮かべたシノブの言葉が、その場の者に広がる。
「求めなければならない……ユエがいないと進まない現状に近いってことかしらぁん?」
アロイスがブロンドの美しい毛先をいじりながら言えば、ツェスィが俯く。
「それって姫様と何か関係があるってことですよね……」
「…」
「どうかしら」
ファリベルも頭を抱え、悩む。
だが、道は決まっている。
自分達がやるべきことは、目に見えている。
「ダクトに乗り込む」
リアが放つ言葉に、同時に態度で応えたのはジジ、アロイス、サクラ。
「このまま全面的に戦っても時間がかかるだけだ。こっちから仕掛ける」
「全面的じゃない戦い方を?」
エリカが疑問に思い尋ねれば、リアが水色の瞳から放つ意志を変えた。
「アイツだけ誘い出せばいい」
◇◆◇◆◇
傷が少し癒えたこともあり月光が輝く夜、ユエはテラスでぼーっとしていた。
好んでいた海が見える景色ではなく、緑豊かな森が映し出され風景。
反対側の森を抜ければ大きな海原に出て、その先に浮かぶ海上のピラミッドに、敵が潜んでいることも知っている。
そして、そこに大きな災厄の種があることも。
「ダンテ……」
自分を守り、大きな負傷を負ったであろう彼の姿を思う。
その姿に重なる、影。
自分を守るために、飛び出してしまった背中。
どれだけ願っても、もう取り戻せるものじゃない。
「ガロ……」
2度と失わないために、強く生きて、強くなると誓った。
自分が奪ってしまった命。
それを背負って強くなると、天に召した金髪の育ての親に誓った。
守ると決めたことが何年も経ち、成長したと過信していた自分に降りかかる。
「あ…」
ガチャッと物音がした。
それと同時に背後で思わず出たというような声。
振り返るまではいかないが、半面返して目だけで確認すればそこには黒髪の琥珀の瞳が。
「ユエさん……」
現れたのは、コズエだった。