21. 艶舞
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声が聞こえる
「やめて……」
脅える声
「触らないでッ!」
涙する声
「お前、オリビオンの召使の女だよな……?」
「…っ」
「噂に聞く…いいオンナだなぁ…?」
「来ないで…」
「ククク…なぁ、お前を傷つけたら…―――」
切り裂かれる音
破られる服
触れる乱暴な指
嘆き
戒め
大きな心の傷
「ヴァロンはどうなる?」
―― 助 け て ――
「イヤァァァァァァァァァァアアア!!!!」
21. 艶舞
「ユエッ!!」
「―――ッ…!!!!」
夢と現実の境目。
聞きなれた親しい声に名前を呼ばれ、ユエは目を覚ました。
ほんの数時間前に苦しんでいた理由とは違う、乱れた呼吸。
鮮明に脳裏に焼きついた光景。
べったりと肌に張り付く汗と、気持ち悪い後味。
夢だとわかったのはそこからだったが、どこかまだ整理が付かず、自分の体のあちこちを急いで触った。
「オイ、ユエ……っ」
名前を呼んだ銀色の髪が揺れる。
その隣には眼帯姿の彼と黒髪で帽子の男も見えた。
まだ呼吸を整えることが出来ず、ユエは茫然と横になりながら名前を呼んできたアッシュやデビトの顔を眺めた。
「―――……デビト…、アッシュ……」
「大丈夫か……?」
「魘されてたゼ」
夢。
そこでようやく、見た光景が夢だときちんと認識出来た。
「夢……」
随分と残酷で、そして辛い夢だった。
叫びも、願いも、そして止まらないそれも、全部リアルだった気がする。
どうにかしてこの気持ち悪さを払拭するために起きあがろうとしたが、体が微妙にいうことを聞かなかった。
「う…ッ」
「まだ起きるな」
アッシュが肩を押し返して呟く。
触れられた肩が、過剰な反応をしめし、ビクリ…と震えた。
アッシュは特に気付かなかったみたいだが、デビトは横でユエの反応を見て、瞬時に首をかしげた。
「ユエ、」
言葉を出しかけたが、ルカも同じくしてユエに寄り添い、額のタオルを変えてくれた。
同時に、先程まで高熱があったこともあり、体温を確認する。
「……熱はもう大丈夫そうですね」
優しい手付きだったので、アッシュの時とは違い特に拒絶のような反応は見せなかったが、ユエは触れられる体にどこか異常を覚えた。
それが夢からなのか、はたまた今回の毒のせいなのかは定かではなかったが。
「ユエ、何があったか……覚えていますか?」
ルカがタオルを回収しながら、ユエの顔を見つめて囁いた。
ようやく現実に戻って来たユエは、ルカのアメジストの瞳を見つめながら、少しだけ考え込んだ。
「何があったか……?」
そういえば、どうしてここにいる?
最後に記憶があるのはいつだ?
いや、まずここはどこだ?
浮かんでは消え、次々と出てくる疑問。
最終的に一番最後にちゃんと記憶があったのは、シャロスの屋敷に乗り込んだことだと思い出す。
「シャロス・フェアの館でダンテと一緒にタロッコを……」
記憶を口にして、ユエはハッ…として勢いよく起きあがった。
「ダンテ……ッ!!」
一緒にいたダンテを思い出しいてもたってもいられなかったが、体を貫いた激痛にユエは歯を食いしばり、動きを止めた。
「~~~~っ!!!?」
「だから言ってんだろ」
「ユエ、アナタ体にどれだけ傷を負ってると思ってるんですか……っ」
ユエが動きを止めて、うずくまるのを見ながらアッシュとルカが溜息をついた。
ゆっくり深く呼吸をして、ユエが落ちつくのを待ってからルカが静かに尋ねた。
「……話してくれますよね?何があったのか」
「…、」
ユエは記憶を辿り、守れなかった彼の姿を思う…。
一度無言のまま頷けば扉を静かに開けて様子を見に来たフェリチータとリベルタ、ノヴァ、パーチェの姿が。
「ユエ……っ」
フェリチータが駆け寄ってくることに、優しい視線を返すことが出来なかった。
そのままユエは小さく、言葉を零し始めた。
「最初に、聞いてもいい?ここは…?」
尋ねられた言葉にノヴァが答えた。
「ダクトという町だ」
「ダクト…?シャロスの島じゃないの…?」
「違う…。ここは…―――」
「100年前の世界です」
「!」
ノヴァの言葉に続けて答えたのは、奥から扉を半分開けて、控えめに、そして俯き加減で入って来たコズエだった。
「……はじめまして、ユエさん」
「アンタは……」
コズエの黄色の瞳を見つめながら、ユエが警戒したような表情を見せた。
ゆっくり部屋に入って来たコズエは、軽く会釈をする。
「コズエと申します…。ウィル・インゲニオースス様に仕える、ホムンクルスです」
「!」
途端に、ユエには心あたりがあったようで即座に部屋の隅にいたジョーリィに視線を投げた。
瞳だけでユエの問いに応えたジョーリィは、口角をあげた。
「じゃあ、時空を操る……」
ユエが傷を抑え込み、コズエを少しばかり睨み上げた。
コズエは責められていると分かっているようで、小さく息を詰まらせる。
「あたしはダンテとシャロスの屋敷にタロッコを盗んだ者がいると読んで向かったの。その先で待ってた守護団に襲撃にあって……」
思い出し、ゆっくりと吐き出した答え。
コズエは“タロッコを盗んだ者”という言葉に眉間のシワを深くする。
「ユエ、ダンテは……ッ」
リベルタが身を乗りだす勢いで尋ねてきたので、ユエも表情を険しくする。
ダンテは……―――。
「ダンテは、あたしを庇って……銃弾を喰らった」
「え…」
「ッ!?」
「その後は……わからない……」
「ダンテ……」
「そんな…っ」
ユエから吐き出された真実に、誰もが目を泳がせる。
誰もが言葉に迷い、何を口にしていいか迷っているところでコズエがユエに囁いた。
「ユエさん」
「…」
「力を、貸していただけませんか?」
コズエからの要求に、ユエは傷を押さえる手に力を自然と入れてしまった。
「ここは今、崩壊する寸前まで来ています」
「…」
「助けてほしい……。止めてほしいんです」
「過去を変えるために、未来から力を借りるって?」
ユエにはコズエがどんな能力を使えるのか…少なくとも、ジョーリィと同じ程度は分かっていたようだ。
ウィル・インゲニオーススが生み出したホムンクルス…。
時空を操る者。
「アンタが盗ったんじゃないの?タロッコ」
「…っ」
「ユエ……」
ストレートに告げた言葉。
コズエが一瞬、切ない表情を過らせる。
「幽霊船に乗り込んでタロッコを奪い、館の部屋で何かを確認したアンタは、その時空を操る能力でシャロスの屋敷に戻った……。違う?」
「…」
「そんな能力を使える人間も、タロッコを狙う者で縁遠い奴には出来ないし」
「…っ」
「あたしの能力が、跡を追えなかったのが証拠になると思ってる」
きつく言い放つユエの言葉。
コズエは吃った。
「アンタが、守護団側の奴だってことも考えられる」
「違います!」
一通り意見を述べたところで、コズエは言い返した。
「違うんです……っ」
ぎゅう…と握りしめた服。
落とされた琥珀の視線。
ジョーリィは、隠されたものが明らかになることを確信した。
「タロッコを盗んだのは…」