20. 夢幻、朽ちる願い
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アルカナファミリアを包み込んだ光は、再びコズエの民家の前に出現した。
奪還になんとか成功し、トラの姿から人に戻ったアッシュがぐったりし、気を失いかけているユエを揺さぶった。
「ユエッ!!」
声に反応をほぼ示さない彼女。
虚ろな瞳の先に見えているものが、きちんと現実なのかどうかすら分からず。
見兼ねたデビトがユエの顎を掴んで視線を合わせたが、彼女はただ浅い呼吸をするだけだった。
「ユエ」
「は……ぁ…っ…、…ぁ…」
「しっかりしてくださいッ」
コズエも前に出てユエの症状を確認すれば、目を疑った。
「これは…ツェスィの仕掛けた毒…っ」
「毒…!?」
囲まれたユエの姿を覗きこむようにしていたリベルタが尋ねれば、コズエは驚愕の表情を隠せなかった。
「ツェスィの毒は……少し特殊なんです…そんな簡単に解毒できるものじゃない…っ」
「んだと…ッ?」
「彼女の毒の抗体は、彼女にしか作れないはずです…。今まで解毒出来た人なんていません…っ」
「そんな…っ」
フェリチータがユエに視線を投げても、状況は変わることなく…。
ただただ時間だけが過ぎて行った…。
同時にその場から踵を返し、早足で民家の扉を開け姿を消した1人の男。
だが、彼を今は誰も追う事は出来なかった。
目の前で苦しそうにしている少女に誰もが願いを乞うた。
「ユエ……」
20. 夢幻、朽ちる願い
民家のベッドにユエを横にさせて絶対安静にさせる。
いくら致死量でないといっても、これの状況はさすがに辛いであろう。
ぐったりしたまま、半分気を失い、呼吸を続ける彼女をルカとパーチェが不安な顔で寄り添い続けた。
「ユエ、しっかりして……。オレ、こんなのヤダよ…」
パーチェが声を細くして零せば、ルカもユエの額に水タオルを宛がう。
毒の影響からだろう、高熱も患っている。
時刻はオリビオンから戻ってきて2時間が経とうとしていた。
一向によくならない現状に、デビトが奥歯を噛み締めた。
「チッ…」
フェリチータ、リベルタ、ノヴァは何か手掛かりがないか、コズエと共に書庫を探し回ってくれているようだ。
ジョーリィに関しては誰も把握はしていなかった。
彼女の幼馴染と称される4人だけが、その空間でユエを見守り続ける。
「―――……やめた」
バンッ、と音を立てて端に座っていたアッシュがいきなり立ち上がる。
「アッシュ…?」
ルカが目をぱちくりさせて、彼の言葉の意味を確かめた。
アッシュはキッと睨み上げるような視線で出口に向かいだす。
「無いなら奪うまでだ」
「どうゆう意味ですか…?」
「戻るんだよ。この毒を仕掛けた奴にしか解けないなら、そいつをここへ連れてくるか、解毒剤を奪う」
「えぇ!?」
パーチェが戻るの!?と目を見開く。
あれだけの人数、あれだけの実力。
1人であっても手強いのが12人という集団になっているあの場へ今、戻ると言い立ち上がったアッシュ。
「ここにいたって、コイツが苦しんでるのは変わらねえ」
その言葉に、扉の横で壁に背を預けていたデビトが僅かに反応を示した。
アッシュが半面振り返り、ベッドの横に腰かけているルカとパーチェに言い切った。
「だったら、俺は行く」
アッシュの強い言葉に、フッ…と笑いを見せたのはデビトだった。
彼の前に対峙するように背を壁から離し、立つ。
アッシュが真っ直ぐに前を向けばいつも以上に真剣な顔したデビトがいた。
「テメーと一緒ってのが気にいらねェが……」
デビトが言いかけて、アッシュを超えて奥のベッドで寝ているユエを見つめる。
奥歯を噛み締めて、目を細め、悔しそうな面持ちが自然と出てしまった。
死なせるわけにはいかない。
こんな所で、こんな形で、終わらせるわけにはいない。
まだ、始まってもいないのだから。
「ユエを死なすワケにはいかねェ」
「…」
アッシュがデビトの表情を黙って見据えた。
応えるつもりはなかったが、デビトが目を合わせ、2人は小さく頷き合った。
同時に駆けだして部屋を出て行こうとした時だ。
扉がガチャン、と少し乱暴に開かれる。
「!」
思わずルカも目を細め、入って来た相手の物腰にどこか違和感を覚えた。
「ジョーリィ!」
「ジジイ…ッ」
◇◆◇◆◇
【…】
【…】
【…】
【…】
【………おい】
【ん?】
【なんで毎日会いに来る】
【だめ?】
【ガロはお前と会いたくない】
【うん、知ってる】
【いやがらせか】
【ちがうよ、そんなつもりない】
【じゃあなぜだ】
【あたしはアンタのこと好きだもん】
いつかの、冬が来る目前だった気がする。
レガーロとは少し違う気候。
どちらかというと、ノルドに近い。
肌寒い、まだ秋真っ盛りとも言えない季節だったけれど半袖でいるのはもう辛かった。
そんな季節に、たまたま立ち寄った港。
ヴァスチェロ・ファンタズマ号の調子がよくないので整備を入れるとアッシュが言ってた。
その島でだけは単独行動が多かったのも、長い船旅生活の中で1番滞在した時間が長いのがその島であることも覚えている。
そこで……―――出逢ったんだ。
【もふもふしてて】
【ふざけるな】
【触っていい?】
【触るな。ガロはお前がキライだ】
【ふーん】
紺色の、細いリボンを首に巻いた少年。
年でいえば、18歳くらいの細身でいつもフードを被っている、真っ赤な目の少年。
きっかけは本当になんでもないことだったのだけれど。
あたしは、この島に滞在している間は暇つぶしとして彼によく会いに行くようになった。
【キライなら会ってくれなくていいのに】
【ガロ、ここが好きだ。だからここにいるだけだ】
港の丘のてっぺん。
人が寄りつかない風の強いそこに、“ガロ”と呼ばれる少年はいつもいた。
彼の住処がそこだったからだ。
【ガロ、アッシュと会えば絶対仲良くなれるよ】
【…】
【アッシュもね、ガロと似てるから】
【……人間は、キライだ】