02. イシス・レガーロ
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「く…っ」
ピッコリーノの開催された日から日も浅い、某日の真夜中。
暗い月明かりに照らされた廊下を歩くユエが、廊下の壁に手をついて動きを止めている姿が見られた。
「はぁ…っ…は…」
息を整えて、深呼吸をする。
呼吸がなんとか普通に出来るようになったところで、吸い込んだ空気を盛大に吐き出した。
「はぁ…」
壁にもたれかかり、天井を仰いでから目を閉じる。
こんなところで寄りかかっているよりも、部屋のベッドで休んだ方が体にいいなと思い至り、足を再び動かし始めた時だ。
「っ…」
急に意識がふらつき、ガクン…と膝が崩れ落ちそうになる…―――。
「やば…っ」
顔面から床に突っ込む…!と思い、手に力を入れたが、それは急に真横から現れた支えによって防がれる。
「…っ?」
「ユエ」
「ジョーリィ……」
なんだ、コイツか…。と頭の片隅で思っていた。
他のファミリーならこんなに疲れている場面を見られたら面倒だ。理由を説明するわけにいかないので、どうするか考え込んだが、ジョーリィならよかったと安心する。
「収穫はあったのか?」
「…っ、」
「……とりあえず、その成果を結ばなかった力から来る疲労をなんとかしろ」
「うるさい、わかってる…」
抱きこまれるようにして支えられていた肩を押し返す。
一瞬、脳内に葉巻の匂いが漂う。
自分で歩こうとしたが、膝が震えた。
こんな醜態を曝す羽目になるなら、ここでブッ倒れている方がマシだったな…と自分に前言撤回を誓う。
「バカが」
「…っ」
「精神力を鍛えることだな。今のままでは体の方が持つはずがない」
「…―――」
弾き返した腕にもう1度守られる。
ユエはジョーリィに横抱きにされ、部屋へと戻ることになった。
「ごめん」
「…」
「ジョーリィ…」
体を預けてしまえば疲労からくる睡魔を拒絶する術はユエにはなくて。
小さく、うわごとのように呼ばれた名前に答えずに、ジョーリィは足を進めた。
そんな2人の姿を途中から目撃し、見つめていたのは…―――
「ジジイ……」
今すぐ銃を構えそうな勢いで、彼を睨むデビトだった…。
02. イシス・レガーロ
「でさでさ、オルソがニーノの奴のカッサータまで食べちまってさぁ!」
賑やかな会話が響く食堂。
朝食の準備を終えたマーサがエプロンを取りながら、サラダやクロワッサンの乗った皿を運んで来てくれる。
賑やかな会話はリベルタのもので、フェリチータとパーチェに、昨日船の上であったことを話ながら騒いでいた。
そんな空間にいたデビトは、少しだけオムレツを口にしてフォークを置く。
「そっからが大変だったんだよ!アイツら、いきなりカットラスで斬り合いはじめちまって!!」
「大変だったね」
「そーなんだよ!もう絶対ついていかねぇって思った!」
ルカも呆れながら聞きつつ、既に巡回に出て行ったノヴァの席の皿の片づけに取り掛かっていた。
だが、ガタン…と立ち上がったデビトの方へとルカが視線を投げる。
「デビト、もういいんですか…?」
「……」
「…デビト?」
無言で立ち去ろうとするデビトの皿は、まだ結構な量の朝食が乗っている。
ルカとパーチェが顔を合わせつつ機嫌の悪さを感じ取り、それ以上引きとめることは出来なかった。
「もったいな!!これ、オレが貰ってもいい?」
パーチェがデビトの皿からサラダとオムレツ、全く手つかずのクロワッサンを奪い、口に運びながら言う。
既に食べてるじゃないか。と誰もが思う中、ルカは首をかしげていた。
「(目の調子…ではなさそうですし……)」
本当に機嫌が悪いのか?と思いながら、苦笑いを浮かべていた。
そんなデビトは、食堂を出て間もなくの角で、出会い頭に誰かとぶつかった。
「っ!」
「ッ…!!」
バランスを崩し、倒れ込んだ相手の腕を…引きとめることが出来なかった。
座り込む形で目の前でコケた相手の身を案じるために視線を合わせれば、そいつが機嫌が悪い原因であることに気付く。
「ユエ……」
「ごめん、前見て無かった……」
「いや」
立ち上がるために手を貸せば、素直に受け取ったユエ。
触れた肌から、脳裏に夜中の光景が甦る。
―――…おもしろくない。
いつもなら誤魔化せる。
そんじゃそこらのシニョリーナ相手なら、何も問題はない。
でもユエはデビトにとって、平常心でいられる相手ではもはやなくなっていた。
パッと手を離し、相手が立ったのを確認すると
「悪かったなァ。気をつけろよ、シニョリーナ」
それだけ告げて、視線も合わせずに横を通り抜けた。
「デビト……?」
取り残されたユエはやはり異変を感じ取ったようで、彼の後ろ姿を眺めながら立ち尽くしてしまった。
何かしてしまっただろうか?と思いながら視線を俯かせる。
いつもより彼が少しだけ冷たい気がした。
「…っ」
つい先日、自覚してしまった気持ちが不安に荒立つ。
胸を押さえ、ユエが顔をあげて歩き出そうとした時だ。
「ユエ?」
「!」
前方から呼ばれたので、前を見れば今度はアッシュの姿。
「おはよ、アッシュ」
「あぁ。……なんだ、心臓痛ぇのか?」
「え?あ、いや、全然」
手を当てていたことで、顔を覗きこまれたが首を横に振ればアッシュが不思議そうな顔をしていた。
「今から飯か?」
「うん」
「そうか」
なら必然的に行く場所は一緒であり、アッシュと足並を揃えたが、ユエは思わず振り返ってしまう。
「…」
―――消えた彼の態度が、どうしても気になってしまった。
「そういえばこの間のサーカス、明後日みてぇだな」
「サーカス?」
「この前、ピッコリーノの帰りチラシ配ってただろ」
アッシュの問いにあぁ、あれか。と思いながらユエが頷く。
正直ユエはサーカスというよりその主催者側の方に目が行っていた。
サーカスの内容よりも、今は大事なことだったから。
「久しぶりに見に行くか?」
アッシュが少し楽しそうに告げてきたので、ユエは食堂のドアノブに手をかけながら…――考え込む。
「何回か今まで見てきたが、今回のは規模が違いそうだったしな」
「………猛獣使いが気になるの?」
「あぁ?それどーゆう意味だ」
別に断る理由もないか。と、ユエが笑いながら呟く。
「参加して、扱ってもらえば?猛獣使いに」
「笑えねぇ冗談だな、オイ」
アッシュが呆れた顔してユエを見れば、食堂の中で未だオルソとニーノの話をしているリベルタとフェリチータ、パーチェ。
そして食器の片付けを本格的に始めているルカの姿が見えた。