18. 霧の向こうに聳えた都
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「………ルカ?」
100年前という世界に飛ばされたその日の夜。
フェリチータはシノブから受けた傷の手当てをルカにしてもらいながら、過していた。
だが消毒をする手が、不審に止まる。
フェリチータを見ている、というよりかは、自分の指先を見て止まるルカ。
何か考えこんでいるようだった。
「ルカ?」
「へっ?あ、すみません、お嬢様……」
「……大丈夫?」
思わず聞いてしまった言葉に、ルカがハッと言葉を飲んだ。
心配をかけてしまったな…と。
「いえ…」
言いだそうかどうするか悩み、ルカはしどろもどろになる。
その2人のやり取りを背後で見ていたパーチェとリベルタは顔を見合わせて首をかしげた。
「ルカちゃん?」
「どーしたんだよ?」
「なにか気掛かり?」
リベルタとパーチェも会話に入り、尋ねればルカはあまりいい顔はせずに答えた……。
「じ、実は……」
18. 霧の向こうに聳えた都
「ヴァスチェロ・ファンタズマにいた幽霊にそっくり?」
「は、はい」
ルカがフェリチータの首に大きなガーゼを貼り付け、手当てを完了させた。
同時にフェリチータとリベルタがルカの言葉を繰り返す。
「ほ、ほらパーチェとデビトには言いましたよね?不審な人影の話……」
「あー、そんなこともあったね」
「その幽霊みたいな人影が……」
「コズエに似てる……と」
反対側のソファーに腰かけていたノヴァも足を組み、ルカ達の会話に続きを言い切った。
「で、続きは?」
ノヴァの促しを受け、ルカが頷く。
「ジョーリィは、幽霊船から戻った時に既にタロッコが無かったと言っていました」
「…」
「私達とアッシュ、そしてヨシュア以外にあの幽霊船にいたのは骸骨だけのはずです」
確かに…とその場の者が頷いた。
「でもアッシュがタロッコを狙う理由は、幽霊船を離れてレガーロに来た時点でありませんし、私達もその行方を知らない」
「骸骨が取るわけねーしな」
「ということは、必然的にあの船に他に誰かがいたと言う事になります」
「はたまた、アッシュが嘘をついているか」
「ノヴァ……」
ノヴァの一言にフェリチータが不安そうに制止の声を出す。
ノヴァも眉を下げ、視線を落とした。
「僕もファミリーの人間を疑いたい訳じゃない。だが、結果としてそうなる」
「待てよ、まだルカが言ってた“誰か”の線があるだろ」
「あぁ……。で、それがコズエということか?」
ノヴァの言葉に、ルカは顔をしかめた。
「似てるのは確かです。でも……雰囲気が違うんですよね」
「雰囲気?」
「ほら、コズエはどこかおっちょこちょいで、のんびりしているイメージですが、ヴァスチェロ・ファンタズマで遭遇した彼女は、とても凛としていました」
むやみやたらに信用出来ないというように、ノヴァが溜息をつく。
「それに」
「?」
「“双子の人造人間”」
「!」
ルカが再度言葉を切りだしたが、彼の代わりに声をあげたのは意外な人物だった。
「ジョーリィ!」
「クックック……なるほどな。あの船にいたのなら、タロッコを盗めただろう…」
「ちょ、ちょ!話が見えねーって!」
リベルタが制止の声をかけ、パーチェも横で大きく頷く。
ジョーリィが葉巻の煙を吐き出して、続けた。
「あの娘、コズエは“ウィル・インゲニオーススが生み出した双子のホムンクルスの姉”と名乗った。つまりは片割れがいるはずだ…」
「妹の方ってこと?」
パーチェが尋ねた言葉にルカも頷く。
「もし双子の妹が時空を操り、ヴァスチェロ・ファンタズマに乗り込んでタロッコを盗んだとしたら…」
「ちょっと待てよ!」
リベルタが待った!とかければ、誰もが彼の瞳を覗きこんだ。
「ユエはタロッコの行方を追って、あの館で捕まったんだよな?ってことは、もしタロッコを盗んだのが妹なら、必然的に敵になるってことだろ?」
「ましてや、あの館に潜んでいたのはあの12人の守護団…。繋がりがあると考えるのが妥当だ」
「…」
その場の者が、顔を見合わせ不安に思う。
“コズエ”という人物の狙いを。
「……気を抜いてはいけません、ということですね」
「だろうな。あくまで推測にすぎないが、可能性は残されている」
パーチェは大人しく、ルカやジョーリィの話を聞いていたが…あることに気付いた。
「あれ?デビトは?」
そういえば、見かけないな…と思い、部屋を見まわしたが隠者の姿はなかった。
「そういえば、アッシュもいないな?」
リベルタがもう1人、銀髪の少年がいないことに気付く。
―――その頃、当の姿が見えないことが話題になっていた2人のうち1人は、コズエの家の庭でその家の主と対峙していた。
「よォ」
「デビトさん…?」
庭で空を見上げていたコズエに声をかけたのは、デビト。
「どうしたんですか?夜も更けてますし、お休みになられないと明日に響きますよ…」
黄色の瞳が心配そうに…というより、持ち前のそわそわした雰囲気で彼に問いかける。
デビトはゆっくり、その瞳を見据えながら…一歩、また一歩と近付いた。
「…?」
「……」
敢えての、無言。
沈黙の空間の中、デビトは至近距離まで近づいて、コズエの顎に手をかけた。
「え…っ」
見抜くように、その瞳の色を確認する。
―――…彼は、知っていた。
船長室で、自分に問いかけた少女の存在を。
【タロッコを巡る戦いは……終わりません…】
そう言い残し、消えた人物の顔をよく、覚えていた。
黒くて長い髪を2つに結び、どこか冷たい表情でこちらに視線を投げた少女を。
「(……目の色が、違う)」
「で、デビトさん……っ」
やめてください…!と顔を真っ赤にして固まった少女に、幽霊船で見かけた者とは違うと確認したデビト。
口角をあげて、彼女を解放する。
「悪ィな、あんまりにも美人だったからよォ…?」
「な…そ、そ、そ、そんなことありません…っ」
ユエとは違う――反応は一緒だが――どこか素直な表情と行動に、デビトが笑う。
「なァ、1ついいか?」
「?」
デビトが唐突に切りだしたので、コズエは真っ赤な顔のまま彼を見上げた。
「は、はい…」
「お前、双子の姉っつったよなァ。妹の方も美人なのかァ?」
口が上手い、デビトならではの言いまわしだった。