17. 守るべきもの
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「逃げられただと…!?」
大きな館。
大きな光がファミリーを包み込み、姿を消した現象が起きて、1時間も経っていない時刻。
シャロス・フェアが声をあげた。
「どうゆうつもりだ、貴様ら」
目の前にはアルト、リア、ジジ、シノブ。
奥では我関せずというようにイオンがヘラヘラしながら食事をしている。
その前でツェスィは針の手入れをしていた。
「どーゆーつもりって言われても、どーもこーもないし」
「俺らは約束は守った。ユエは手に入れた。当初の話はここまでのはずだ」
険悪なムードに、ラディが一歩退いた所でそれを見守る。
アルトがシャロスに言い放ったが、シャロスは溜息をついてワインを口にし流し込んだ。
「アルカナ・ファミリアを潰せと言ったはずだ」
「優先順位はユエを手に入れること。邪魔ならアルカナ・ファミリアの連中を潰す…だろ?」
リアが続けたが、シャロスはメイドに頼み追加のワインを持ってくるように告げている。
彼の態度にジジが前に出て、シャロスのテーブルを叩いた。
「オイ、シャロス…。報酬もだが、俺たちの1番の目的を忘れてね―だろうな?」
三白眼で睨み上げれば、シャロスはジジの顔を見て口角をあげた。
「忘れていないとも。オリビオンのお姫様の解放。だろう?」
「わかってんならさっさとヤれよ」
「まぁ、そう焦るな。先にアルカナ・ファミリアを潰すことが先決だ」
「テメェ…ッ」
ジジが約束をはぐらかされたことに頭にきて、シャロスを掴み上げようとする。
だが、落ちつけ、というようにシノブが前に出て彼を抑え込んだ。
「ジジ、やめな」
リアが特に表情も変えずに告げれば、ジジはシノブの腕を弾き返してリアに言い返す。
「んでだよ!」
だが、リアはつーん、とそっぽを向いたまま返事をすることはなかった。
面白おかしく思ったシャロスがフッかける勢いで彼らに告げた。
「そんなに裏切られた気分になるなら、私を殺せばいい。だろう?ジジ」
「んだと…?」
「今すぐ殺せばいいことさ」
しなやかな動きでワインを嗜む彼に、ジジが剣の柄に手をかけようとしたがアルトがそれを止めた。
ジジも頭では分かっている。彼を手にかけられないことが。
「フッ…殺せないだろう?」
シャロスが嘲笑うように、言う。
「今、ここで私を殺せば……――オリビオンの再興は実現しない」
シャロスがガタン…と立ち上がり、その部屋を出て行こうとする。
メイドが一度会釈をすれば、彼は不気味に笑うだけだった。
「眠り続けるお姫様を助けたいのであれば……今は私の言葉に従うべきではないのかな?」
「…」
「君たちの力では、お姫様が助からないと理解出来ているからこそ……私に希ったのだろう?」
言葉を、誰もが返すことが出来なかった。
「行け、オリビオンの守護団」
17. 守るべきもの
「ふざけやがって」
シャロスが出て行った部屋。
第一声をあげたのはジジだった。
同時に溜息を零したシノブと、イスに腰かけた無言のアルト。
「だいたい、アイツ本当に姫を起こす方法知ってんのかよ」
「さーな」
「さぁな…って、リア、お前テキトーに考えてないか?」
ジジがリアのしれっとした態度を見て呆れながら呟いた。
だが、リアが次によこした言葉にその場は静まり返った。
「どれだけの時間をかけて、どれだけの人手を使っても、有力な情報は何も見つからなかったんだ」
「……」
「……もう、5年……か…」
12人の間に、微妙な空気が流れる。苛立ちと不安が募るばかりだ。
「でもあいつ、どうしてあの女を狙ってるんだろう」
ポツリ、と呟いたのはファリベルだった。
「え?」
「ユエ……だっけ?捕まえて来いって言ってたでしょう?」
「…」
「アルカナ・ファミリアは潰せと言う中、彼女だけ捕獲…。それが姫様と何か関係があるのかしらっ…て」
ファリベルの推測は、言われてみれば確かに気になるものだった。
リアもアルトも無言のまま考える。
唯一、呑気にしゃべりはじめたのは言うまでもなく
「でも~、おれたちがアルカナファミリアを潰せば、それってわかることでしょー?」
「イオン…」
「お前…」
「えー?」
どこまでも前向きと言うか、どこまでも能天気というか…とラディとジジが呆れを見せる。
確かに彼の言う事もその通りであり、自分達がアルカナファミリアを倒せばいい。
それだけかもしれない。
だが、そこまでやる価値が、果たしてシャロスの言葉にあるのかどうかが問題だった。
「でも…―――」
小さく、小さく紡ごうとしたのはツェスィだった。
「ツェスィ?」
「どーしたのよぉ?」
ラディとアロイスが、俯き、小さく何か言おうとしていた彼女に視線を向ける。
だが、ツェスィは2人と視線を合わせた後、少しだけ考えるような素振りを見せてから首を振った。
「いえ」
「?」
「なんでもないです…♪」
彼女が薄く浮かべた笑みの真意を知るのは、他の11人はもうしばらく時間が経過してからであった…。
「とりあえず、やればいいんでしょぉ」
めんどくさい。というように立ち上がり手袋を装着しながら答えたサクラ。
隣でファリベルが淹れた紅茶を飲みながらエリカがサクラを見上げる。
「それが一番の近道だと僕は思う。それに…アイツら、気に入らない」
サクラが零した言葉に、不気味な笑顔を浮かべたシノブ。
「チッ…わーったよ、やればいいんだろ、やれば」
ジジがつまんねーな、と舌打ちをかましながら言う。
イオンは楽しいね~♪とエトワールに話しかけながら、笑っていた。
「ったく、まとまりなくて困るぜ、ほんとによッ」
「ははは……」
自由すぎるメンバーに、ジジがしゃがみこんで頭を抱えていた。
ラディが大丈夫?と背中をさすれば、ジジがボソッとラディに呟く。
「いいぜ、向こうがその気なら多額の報酬積んでやらァ」
「え…」
「あのシャロスとかいう野郎が一生かけても払えないよーな金額をよォ…」
黒い笑みを浮かべた彼を、ラディを含め他のメンバーは止めることが出来なかった。
「…」
各々がシャロスの話題からだんだんと離れていく中、ツェスィは部屋の扉に静かに手をかける。
その光景をアルト、そしてラディが静かに見詰めていた。