16. 忘却宮殿
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突如、タイムスリップというものを体験してしまったレガーロを守る自警組織・アルカナファミリア。
その先で出会った“コズエ”と名乗る少女の案内のもと、彼女に事の経緯を聞くためにダクトと呼ばれる森を移動してきた。
霧につつまれ、なかなか先が見えない中、辿り着いた先の1つの大きくない民家。
どうぞ、と促されファミリーは一度足を止めてから、中へと踏み出した……。
16. 忘却宮殿
「こ、こんなところでよければゆっくりしてってください」
ちょっと危なっかしい手つきでお茶を運んでくる少女を、ルカがそわそわと見つめる。
コズエはルカの視線もお構いなしに、紅茶を淹れては運び、淹れては運びを繰り返した。
全員分、行き渡ったところでようやくコズエが腰を下ろし、落ちついたように溜息をついた。
せっかく淹れてくれた紅茶にドボドボと角砂糖を突っ込むジョーリィを余所に、ノヴァは切りだす。
「早速で悪いが、話してもらえるか?」
「あ、はい」
リベルタが紅茶を啜り、アッシュは――猫舌なので――紅茶が冷めるのを待つまでその家の中をあちこち見渡しながら、耳を傾けた。
「あ、改めて……ほんと、突然こんなことに巻き込んでしまって、ごめんなさい」
開口一番に伝えられたのは、謝罪の言葉だった。
コズエはそわそわしながら、琥珀の瞳を下に投げだす。
「みなさんを100年後の世界から、ここへお連れしたのにはワケがあるんです」
「じゃあ、ここは本当に……」
「はい」
フェリチータが気になっていたことに確信を持ったように零した言葉。
コズエは1度、きっちり頷いた。
「ここはみなさんがいたレガーロ島の時代から、約100年遡った世界です」
「100年……」
「どうして…っつーか、どうやって…」
リベルタがカップを置き、コズエが示唆した“連れてきた”という言葉の真意を探る。
コズエもティーカップを置いて、小さく…どこか切なそうに告げてきた。
「わたしは、ホムンクルスです」
「!」
「時空を操る、ホムンクルス」
「フッ…やはりな」
ジョーリィが零した言葉を聞きとったパーチェは首をかしげたが、ルカもデビトもアッシュもコズエの言葉に夢中だった。
「ホムンクルスって…人造人間のことですよね?」
「はい。わたしは、ウィル・インゲニオースス様が生み出した双子のホムンクルスの姉・コズエです」
「ぐふっ!?」
少しは冷めただろうか…とカップを手にし、紅茶に口をつけていたアッシュがある人物名を聞き、盛大に噎せ返る。
フェリチータが慌てて背中をさすってやったが、彼が顔をあげた時、信じられないというような表情が見えた。
それもそうだろう。
告げられた人物名は……―――。
「ウィ、ウィル・インゲニオーススだと…?」
「あ…はい。わたしはウィル様が生み出した最初で最後のホムンクルスです」
「ウィル・インゲニオーススって、アッシュの先祖の?」
「タロッコを生み出した……」
ルカもノヴァも目をぱちくりさせながら、それを聞いていた。
ジョーリィは半分になった紅茶を啜りながら、更にミルクと角砂糖を足していく。
呆れたデビトが、彼の目の前で角砂糖のポットに音を立ててフタをした。
つられそうになっていたパーチェの行動を防ぐためでもあったが。
「はい。みなさん、それぞれタロッコと契約されてるかと思うので多少はウィル様のことをご存じかと思うのですが……」
ウィル・インゲニオースス。
名前を知らない者はまず、この場にいないだろう。
彼がタロッコをなんらかの目的のために生み出し、そしてそのタロッコのせいで生まれた災厄の種を刈り取るために、ヴァスチェロ・ファンタズマが生まれた。
どちらもアッシュに関わり深く、そしてファミリーとは切っても切れぬ存在だった。
「……でェ?そのウィル・インゲニオーススが生み出したホムンクルスさんが、直々に何の用だ?」
デビトが口角を上げて尋ねる。
どこか苛立ちが見えたが、原因が分かっているために止めるに止められない。
コズエは少し怖気づいたが、素直に言葉を返してくれた。
「さ、先程もお伝えしましたが……助けてほしいんです」
「助ける?」
「はい。この世界の乱戦を……。アルカナ能力を使って、巻き起ろうとしている戦いを」
「アルカナ能力を使用した乱戦……?」
フェリチータも表情を険しくする。
「それって、さっきの守護団の…?」
フェリチータが素直に尋ねた言葉には、コズエは肩をビクリと跳ねさせて反応を示した。
きっと、嘘や誤魔化すことが下手というのは彼女のようなタイプをいうのだろう。
「ここから北に進んだ所に、没落してしまった大都市・オリビオンがあります」
「!」
【没落なんてしてない!!!!】
【あたしらは、オリビオンの守護団】
―――オリビオン…。
12人の守護団が口にした都市の名前。
つまりは敵地となる場所だろう…。
「大都市・オリビオンは錬金術が栄え、首都とまではいかずとも、この国を支える都市の1つだったんです」
「…」
「その大都市に、ウィル様や……みなさまが接触した守護団、そしてわたしや妹は暮らしていました」
コズエが小さく語り始めた言葉。
いきなりすぎてついて行けない展開になりつつあるが、今は黙って聞くことにしよう。
「緑豊かで、大地と共にあったオリビオンでしたが、先刻の対抗勢力との戦いで没落してしまいました」
「対抗勢力……?」
「この時代は、みなさんがいた世界と違う……。まさに戦乱の時代を迎えています」
「…っ」
「オリビオンは、対抗勢力との戦いによって見るも無残な姿となり、現在では眠り姫のいる忘れ去られた宮殿となっています」
「眠り姫?」
どこかで聞いた単語だな…と思いつつ、コズエの話を聞いていると彼女が顔をあげて苦笑いをした。
「この戦乱の時代の中心には、みなさんが接触した守護団が要になっています。彼らを……どうにかして彼らを止めたいんです」
「…」
「でもわたしが扱えるのは、時空と少しの錬金術…。ウィル様が造りだした力であるアルカナ能力になんて対抗できるはずありません…。だから、みなさんを……――守護団と同じ力を持つアルカナ能力を宿したみなさんを連れてきました……」
言ってしまえば、なんて勝手な話なんだ…と誰もが思っただろう。
顔に出した者もいたが、一同は何も言わず彼女との沈黙を守った。