13. 記された者
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――それは遡ること、半日前。
フェリチータ達が隣町に出航してすぐのことだった…。
パシャァァン!!と、部屋にガラスが割れる音が響いた。
驚き、本を読んでいた視線をあげて、音源を確かめた。
どうやら部屋の奥からのようだ。
「ジョーリィ…?」
ソファーで大人しく本を読んでいたエルモは、恐らく音源の原因である彼の名前を呼ぶ。
返事がなかったので本を閉じて、ソファーから立ち上がる。
奥の部屋に行こうとしたところで、乱暴に上着を片手に掴み、探していた人物が出てきた。
「ジョーリィ?だいじょうぶ?」
ガラスが割れた音がしたよ?と顔を覗かせたが、ジョーリィは真っ直ぐに部屋の出口を目指していく。
エルモがその背を見送ったが、ジョーリィはどこか焦りを見せていたように見えた。
「エルモ」
「なあに?」
「しばらく留守にする。頼んだぞ」
「え…?」
パタン、と閉じられたドアを見つめて、エルモは更に首をかしげた。
とりあえず、奥の部屋に行ってみよう…と彼がいた部屋に足を踏み入れると、割れたビーカーが目にはいった。
テーブルの上には1つの本が開きっぱなしの状態で置かれており、書類も散乱していた。
興味本位でその書類を見つめ、開かれた本と文献の中身を確認すれば…――。
「これ、家系図かな?」
エルモが開かれたページに載っていた内容を見つめる。
記されていたのは、1つの図と沢山の名前。
そこに2つ、印が残されていた。
「“バレア・フォルド”…?」
そしてもう1つ。
それは“バレア・フォルド”と記載されたものから随分と下へ下へとさがる…。
“バレア・フォルド”という人物の子孫であることを表していた。
「“シャロス・フェア”…?」
一方、廊下へ速足で飛び出したジョーリィは、その先で血相を変えたモンドと出くわす。
「モンド…?」
「ジョーリィ…!」
呼びとめられたことに、少し煩わしさを感じたが足を止める。
モンドが唇を噛み締めて、悔しそうにしている姿に胸騒ぎがした。
「ユエとダンテと…連絡が途絶えた」
「―――……」
ジョーリィは表情を変えなかった。
それだけ聞けば十分だ。というようにモンドに背を向け、ジョーリィは港を目指し始める。
「オイ、ジョーリィ。どこへ行く気だ…!?」
「ルカ達を追いかける。お嬢様もこのままではただでは済まないぞ…」
「なんだと…?」
「シャロス・フェアとタロッコを盗んだ者の関係が憶測でも繋がった今…流暢なことはしていられない…」
ジョーリィが葉巻を潰し、廊下を行けばモンドは彼を止めはしなかった。
「お前が行くのか…?」
「…」
「俺が行ければ一番いいのだが…」
「わかっている」
「………頼んだぞ」
モンドが悲しそうな顔したのを見つめて、ジョーリィは視線を元に戻した。
そこに通ったのは、オルソとニーノ…諜報部のメンバーだった。
「オルソ、ニーノ」
「へ…?」
「げっ…相談役…!?」
いきなり通りかかった2人は、ジョーリィという畏怖の対象に声をかけられ、足を止め、反り返った。
「今すぐ船を出せ」
「え…?」
「早くしろ」
「ふ、船って…今日の渡航はもう…」
「黙れ。さっさと働け…」
サングラスの奥が揺らめいたのを見て、オルソとニーノは息を飲む。
即座に踵を港へ返し、2人はジョーリィを連れて隣島…パーティが行われる島へと出航したのだった…。
「ジョーリィ…」
モンドはその姿をただ見送り、俯く。
「ダンテ…ユエ……」
13. 記された者
時間は進み、パーティを開催している時刻。
フェリチータは受け取った花束を投げ出して、メッセージカードの意味を懸命に探していた。
「ユエ…っ」
パーティ会場を走り回り、やがとある扉の元までやって来た。
外も華やかな空気は続いており、フェリチータがきょろきょろとあたりを見回す。
茂みの中も確認し、先程自分に花を送って来た少年を探した。
「どこ…ッ!?」
どこかに居るはずだ。
尋ねなければならない。
ユエが死ぬと言う事は、どういうことなのかを。
そして、何故彼女を知っているのかを…。
「っ…」
ドレスは動きにくい。
顔をしかめたフェリチータは、ドレスを脱ぎ捨てた。
人に見られたら赤面ものだったが、ドレスの下に着ていたいつものスーツを正す。
何かあった時のためにと、着ていたのが大正解だった。
シャツとネクタイをしっかりとしめて、本気で走りまわる。
やがて広い広い庭の方へとやってきて、フェリチータは足を止めた…。
「庭園…?」
広い庭園のようで、入口はバラの門になっていた。
足を踏み入れるか迷い、フェリチータは一歩を踏み出した。
同時にリ・アマンティが反応する。
[来たね…おねぇさん…]
「!」
まるで心を呼んでいるということが分かっているように、先程自分の前に現れた緑の髪のふわふわな彼の姿が浮かぶ。
弾かれたように駆けだせば、庭園の中へと引き込まれていく。
どんどんと呼ばれているような気がして来て、奥へ奥へと…―――。
しばらく行けば、庭園の奥に1つの丸いホールが見えた。
離れの教会に思える。
真っ白なそのドアの奥から反響を呼ぶような空気が溢れていた。
ゴクリ…と生唾をのんで、確かに足を動かし、進んだ。
扉の前まで来て、真っ白なドアに手をかける。
中から気配がする。誰かがいる―――。
ガチャリ…と扉を開けて、バラ園から教会へと侵入した。
中も真っ白な外壁、そして真っ赤なイス。
祭壇にはステンドグラス、そして十字架。
その中心に……1人の少女―――。
「遅い…待ちくたびれたじゃん」
「!」
静かに、凛と響く声…。
見つめれば、スラッとした姿で立っている水色の髪の少女。
瞳も同色であり…表情なく、横目でこちらを捕えていた。
「っ…」
「探しにきたんでしょ。ユエ…だっけ?あの女」
「!」
体の向きが変わり、フェリチータと少女は真っ直ぐに対峙した。
相変わらずの無な表情のまま、彼女はフェリチータを見つめてる。
開け放ったはずの扉だったが、フェリチータが正面の少女に気を取られている時だった。
ギィィィイと音を立てて、ガシャン!とそれが閉まる。
振り返れば、そこには飄々と立ち尽くした赤褐色の髪をした男の姿。
「こんばんはー。アルカナファミリアのおじょーさま~」
「アナタたち誰…ッ?ユエを知ってるの…!?」
「知ってるも何も、ターゲットだからな」
真後ろに立った赤褐色の男とはまた別。
右の窓側から声。
光が当たるところまでその人物が出てくれば、頬にタトゥーが刻まれた灰色の髪の少年が。
「ようこそ。フェリチータお嬢様」
逆側からも声がした。
視線だけ向ければ、リボンの少女が不吉な笑顔でこちらを見つめている。
「フフフっ…まさか1人で乗り込んできちゃうなんて…バカねぇ?」
「(なんなの、この人たち…ッ)」
「まぁまぁ待ちなよ、みんな。おねーさんが困ってるでしょ」
ちょこん…とタトゥーの男の横に現れたのは、先程花束をくれた少年だった。
「アナタ…ッ!」
「やぁ。来てくれたんだね」
ふわふわな髪を揺らめかせて、彼が笑う。
真っ直ぐにフェリチータへと進んでくるので、構えをとれば、彼は笑った。
再び、幼少に見せるような笑みではないもので…。