10. 攫われた少女
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
紅色が解放されると同時に、光の中から飛び出したユエ。
先程と同じ、いや、それ以上の速さを見せ、突撃してくる彼女は真っ直ぐにサクラの元まで駆けだした。
見兼ねたアルトが静かにホルスターに手をかける。
イオンとはまた傾向の違う銃を取り出し、シノブがいる方へ駆けだしたユエへと銃口を向けた。
「アルト…」
アルトが手を出すか…と思いながら、ファリベルとエリカが交戦を見つめる。
ツェスィは言われた通り、前に出てチャンスを待った。
ラディとイオン、ジジは纏うオーラが黒くなったユエの姿をただ眺め…
「あれって、暴走してるんじゃねーの?」
「だよねー」
「どっちかっていうと、サクラの力が引き金になったみたい…」
ラディが少し心配そうな視線で見つめる先には、光を失いつつある紅色があった……。
10. 攫われた少女
「どうやら暴走してしまったみたいだね」
シノブが冷静に告げれば、目前にまで来たユエが鎖鎌を携え、彼にそれを向ける。
シノブが取りだしたクナイで応えれば、真横からリアの蹴りが飛んできた。
顔面に入るかと思えば、左手でシノブのクナイを抑え込み、右手でリアの蹴りを留めるユエ。
「っ…」
「やるね」
シノブが静かに言えば、ユエが腕を思いっきり引いた。
暴れる鎖がシノブのクナイを弾き、ユエ自身はリアに襲いかかる。
「へえ…“こっち”のアンタが本物?」
リアが腕でユエの蹴りを防ぎ、鎖鎌を避けて動く。
ユエは人が変わったように、退くことをせずに攻め続けた。
「リア……!」
防ぎきれなかった鎖と、蹴りをリアが受けてしまうかと思い、ただ見つめているだけだった彼女の仲間が声をあげたが、リアは華麗に空中へと避ける。
同時に戻って来たシノブが目にとまらぬ速さでクナイで斬りかかってくる。
先程の動きとは打って変わった速さに、ついていけているユエの身体能力もとんでもなかった。
ジジが口笛を吹きながら楽しそうに眺めている。
「アイツ、やるな」
隣に来たアロイスが笑みは消さなかったが、どこか彼女も空気を変えて状況を見つめていた。
下がれと言われたので、仲間の元までやってきたサクラがブスッと頬を膨らませてエリカとファリベルの隣に並ぶ。
邪魔をされたのが気に入らないらしい。
「マジでムカつくぅ。さっさとくたばればいいのにぃ」
「そのうちくたばるから大丈夫よ」
ファリベルが宥めたが、ラディがその会話に冷静に告げた…。
「でも、下がって正解かもしれない」
真剣なふわふわな髪の少年の言葉に、見つめていた彼らは言葉を止めた。
「ユエはシノブの速さについていけるんだから」
「…」
「強いよねー」
「そういや、巷で最強って呼ばれてたらしいじゃん」
「そんなのがアルカナファミリアだなんて、もったいなーいねー、エトワールぅ~?」
相変わらずのイオンだったが、彼もユエの実力は認めたようで――割と本気の笑みで彼女を見つめていた。
戦いは更に速さを増し、激化していく。
シノブとリアを同時に相手にしつつ、防戦一方にならないユエ。
そこに背後から銃撃が加われば、ユエは一瞬振り返った。
「――…」
銃口を構えたアルトが見える。
いつもと違う、影のある紅色の瞳がそれを認識し、リアの体術戦を避け、投げられたシノブのクナイを素手で止める。
同時に掴んだクナイを振り向きざまにアルトの銃口目がけて投げつけた。
「!」
距離があったので投げられたクナイをスピードはあったが、避けることが出来た。
だが、ユエの狙いはそっちではない。
「ッ!」
アルトが避けた地帯に、更に爆音が響く。
炎の過激さを増した空間にアルトをおびき寄せてたのだ。
「――…」
だが、ここでやられる彼ではない。
空中まで飛び出て、体を反りつつ、再度銃口をユエに向ける。
迷いなく乱射でユエを追い詰めた。
「アルト!!」
ラディが心配してアルトの名前を呼び、炎の中へ駆けだす。
仮にも相棒と言われているイオンはまだヘラヘラしながらエトワール(銃)と会話を続けていた。
「イオン、お前も相棒ならラディくらいになれよ」
「えー?」
ジジが横で吐き捨てれば、イオンは笑顔でエトワールとの会話中に答えた。
「必要ないよー」
気が済んだ様で、アルトの方へようやく視線を向けたイオンが笑う。
「アルトくん、強いからー」
空中から地に足をつけたアルト。
駆け寄ろうとしたラディに制止の合図を手で示し、もう一度銃を構える。
ラディは迷ったが、彼の意志を尊重した。
「そんな簡単に負けないよー」
「…」
「おれーアルトくんのことあんまり知らないけどさぁ~」
イオンがホルスターにエトワールをしまい、完全傍観者を決め込んだ。
それはまるで“アルトがやるならおれは動く必要ない”というようで。
「隣にいて、アルトくんが強いことはきっと誰よりもおれが知ってると思うんだよね~」
期待に応えるように、銃声が鳴る。
アルトの銃弾は再び避けられる形となったが、彼にも策があった。
遠距離戦だけだと思われる彼だが、そんなことなどない。
距離を縮めるためにアルトがユエとシノブ、リアの交戦地帯まで駆けだした。
途中で交戦を傍観しているメンバーより前で見ていたツェスィに、すれ違う時に告げる。
「…頼んだぞ」
「はい♪」
シノブに並ぶ速さで駆けたアルトが、走りながら空中へ出た。
ユエの鎖は依然と彼女に近付くことは許さない。
シノブとリアが2人がかりで避け、体勢を崩していくがお互い引かずだった。
そこにアルトが参戦し…
「アルト…」
シノブが静かに名を呼べば、答えずに銃口を向けた。
ユエが気付き、雷を落としたが彼は避ける。
「―――…」
アルトが一番厄介だ、とユエが視界の端に捕えながら、シノブのクナイを避け、彼に鎖を回した。
「そんなんじゃダメだよ」
シノブが避けきれる…と笑んだが、狙いは―――
「――…違う」
「!?」
「…ッ」
狙いはシノブではなく、リアの腕だった。
見事に鎖が絡まり、リアの体が浮いた。
そのまま壁まで飛ばされれば、ぶつかることはなかったが距離が生まれる。
同時にシノブにユエが蹴りを真正面からガードなしの状態で入れ、シノブが飛ばされる。
振り向きざまにリアを飛ばした鎖を戻し、アルトの銃を弾くことに成功した。