08. 隙間を埋め尽くすもの
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「ヨシュアって不思議な奴だよな~」
船長室を後にしたリベルタが、甲板を歩きながらノヴァに言う。
「この船には似合わないっていうか、雰囲気が貴族って感じでさ」
「そうだな。幽霊らしくもない……」
「だけどなんか、いい奴だったよな!」
ルンルン気分で前をあるくリベルタに、ノヴァが“お気楽者め”と鼻で溜息をつく。
「なんか安心感があるんだよな!落ちついてるからそう思ったのかもしれないな?」
「確かに、お前とはかけ離れた落ちつきのある者だったのは確かだな」
「んだとこのヒヨコ豆!!」
いつもの慣れ合いが始まろうとしていたが、ノヴァがそれどころではないだろう。と顔を逸らす。
「でも、初めて会った奴なのに……なんであんなに話せたんだろ?」
「?」
「あぁ―――そっか、似てんだ……。ヨシュアって、ダンテみたいだ」
「ダンテとヨシュアが?」
「ダンテみたいに頼れるというか、なんでか分からないけど……懐かしい感じがしたんだ」
リベルタが、明けた真昼の空を見ながら笑う…。
「ヨシュアの息子、見つかるといいよな。あんだけ必死に思ってるんだ。会えないなんてかわいそうだろ」
「そうだな……」
ノヴァが先程のヨシュアの手の感覚を思い出す……。
「悪くは……なかった」
ノヴァの中の、両親…そしてパーパから頭を撫でられた記憶と同じように。
ヨシュアからのおまじないも刻まれたのだろう。
08. 隙間を埋めるもの
「ヨシュア……」
船長室にやってきたアッシュ。
そして連れてこられたフェリチータ。
目の前には、先程までリベルタとノヴァと談笑していた―――いつものヨシュアの姿があった。
「いつものヨシュアみたいだな……」
「いつもの?どういう意味だい?」
「お前、昨晩のこと覚えてないのか?」
「え……?あぁ、そういえばタロッコを触ってからの記憶が……随分と曖昧ですね」
ヨシュアが首をかしげた。
「昨晩の……私……?」
フェリチータも黙って彼を見つめる。
「アッシュがタロッコと契約したことは覚えているよ」
「それは覚えているのか。ヨシュア、それでタロッコは……」
「昨夜のままテーブルの上に……―――」
「お前は絶対に触るなよ!!」
アッシュがバッ!!とタロッコを引きよせて、乱暴な流れでポケットに突っ込んだ。
「そんなに慌てて……。本当に何があったんだい?アッシュ」
「(この人……本当に覚えてないんだ)」
フェリチータが偽りなどを見せていないヨシュアの態度に、逆に戸惑いを覚えた。
それはアッシュも同じようだ。
「お前が……骸骨になった」
「私が?」
「あぁ。タロッコとの接触が原因かもしれないからな。昨晩のことを話してやる」
「そうだね、お願いするよ……。だが、その前に……」
アッシュが連れていた、フェリチータの姿を見てヨシュアが笑う。
「はじめまして。お嬢さん」
「は、はじめまして……」
「私はヨシュア。よろしく」
「―――……フェリチータです」
きっちり挨拶を交わしてきた彼の律義な態度にフェリチータは困惑した。
昨日、霧が出る前にユエを突き飛ばし、海へ送った彼だとは思えない。
「自分じゃ覚えてないみたいだが、さっきも言ったようにお前が骸骨になった。他の連中みたいにな」
もう話していいか?という視線と共に、アッシュが語り始めた。
「私が、骸骨に……」
「あぁ。俺がタロッコと契約したことも可能性の1つとして考えていた。もしかしたら、お前自身がタロッコに触れたことが契機だったのかと思った」
「……」
「ヨシュア、自分が意識を失った時に持っていたカードを覚えているか?」
「確か……“正義”です」
「正義……」
ふと、そこでフェリチータが思う…。
彼が契約しているのは……―――
「私……意識の中で、リ・アマンティ…タロッコに話しかけられたことがある……」
「何……?」
「宿主―――タロッコと契約した人間の中で、タロッコと会話が成立することもあるんじゃないだろうか?」
「ってことは、昨夜のヨシュアはタロッコが表に出ていた可能性もあるのか……」
「え?」
「ヨシュア自身に記憶がなくて、ヨシュアの中で他に意識を持ってるモノって言ったら、タロッコだろ」
そうか……とフェリチータも思う。
「(それが……正義の代償?)」
白骨化して暴走する代償―――いや、そんなことはあるのだろうか。
フェリチータが考えながら、アッシュの首のスティグマータを見つめる。
「タロッコと契約したなら、気をつけて」
「どういうことだ?」
唐突に投げ出された言葉に、アッシュがフェリチータに視線を向ける。
「特定のカードは、力を使うことに代償を求めるから……」
「代償……」
「それに能力は制御しきれずに、暴走したりもする。その時に代償が求められたりもするの」
「知らなかった……」
アッシュがポツリと、フェリチータの言葉を聞いて呟く。
ヨシュアが俯いた。
「どんな代償があるにせよ……アッシュ。知らなかったとは言え、君を随分と厄介な世界に引きずり込んでしまったようだ。謝って許される問題ではないな……」
続けられた言葉は、願いだった気がする。
「私は君に、新しい道を示したかった」
「お前を責めることに意味はないし、俺は自分の好奇心に従って行動しただけだ」
「アッシュ……」
「俺にはやるべきことがある。それが変わらなければ、別に大したことじゃねぇ」
「……」
フェリチータがアッシュの“やるべきこと”…それが、この船を守ることであるのだろうと理解した。
そして……―――
「(アッシュが思う、“アイツ”って……)」
「それより俺が知りたいのは、大アルカナの能力のことだ。持ったからには俺は有効活用したいし、俺の力はどんなものなのかも知りたい」
「スティグマータに意識を集中すると、自然と頭の中に言葉が浮かびませんか?」
「!」
やってみるか。と、アッシュが甲板へと出て行く。
フェリチータはその背を、船長室から見送った。
「代償のことを聞いても突き進むとは。アッシュらしい」
「ヨシュア……」
「無邪気なものだろう?」
微笑みを浮かべるヨシュア。
フェリチータも彼を見ていると、どこか太陽のようで、安心し、自然と笑顔がこぼれた。
「うん……。そうかも」
少し心配して損した。と思ったフェリチータだった。
◇◆◇◆◇
その頃、ユエは行き違いでアッシュを探していた。
そしてアッシュを探すユエを探していたのが……
「み、見つからない……」
「はぁ……はぁ……ちょ、デビト休もうよー」
船内を朝から駆けまわっていた、デビト、ルカ、パーチェだった。
「オレもうくたくただよー」
伸びたパーチェを見つつ、デビトは仕方なく足を止めた。
「チッ」
「にしても本当にどこへ行ってしまったのでしょうか……」
「ユエの考えてること、さっぱりだよ……」
デビトが彼らに“ユエは自分から離れたのだろう”という憶測を述べれば、最初は2人も“そんなこと…”などと思っていた。
が、よくよく考えれば納得できることが多いと思えてきていた。
「12年って……」
「……」
パーチェが小さく呟く。
「12年って……大きいね」
「……」
「そう……ですね」
12年。
確かに自分達は幼馴染なはずなのに、どうしても埋まらない距離。
そして代わりに隙間に入り込んだのは、彼女の“自分で解決する”という力。
頼ることを忘れ、なんでも1人で突っ走ってしまう、彼女の欠点だった。
「相談くらいしてくれてもいいのに……」
パーチェが零せば、デビトは足を進め始めた。
「あ、デビト!」
「ずべこべ言ってるより、見つけて文句言った方が早いだろォ」
「デビト……」
「それにバンビーナとタロッコの奪還もかかってる」
そうだ。
いなくなったユエ、そして他のファミリーを探しながら出された指令もこなさなければ。
「お嬢様……」
「とりあえず、俺は甲板へ向かう」
デビトが3階まで戻って来たのをいいことに、一番最初の甲板へと足を向け始めた。
休んでいたパーチェと、足を止めていたルカも顔を合わせて頷く。
その時だ。
「!」
「ん?デビト?」
デビトが徐に、足を止めた。
それを見たパーチェとルカが顔を合わせる。
デビトより先を見やれば…―――
「アナタは……」
「…っ」
現れたのは……
「ヘタレ従者に、大食いバカと……」
この口の悪さは……敵に、ただ1人。
「眼帯野郎か」
「ンだテメェ。ケツの青いガキのくせして」
目の前には、悪笑を見せるアッシュの姿が。
―――フェリチータは未だに船長室にいるようで、姿がなかった。
「ちょうどいい。この力……お前たちを利用させてもらう」
「あぁ?」
「それより、タロッコは返してもらいます」
「お嬢もね……!」
3人が構えをそれぞれ見せながらアッシュを睨む。
「3対1とはな…?プライドもクソもねぇーんだな、お前ら」
「プライドだけでは生きてませんから」
「ヘタレ従者が言ってくれるじゃねーか」
「ユエを連れてったのもお前なんじゃないの?」
パーチェが口を挟んだことにより、アッシュが攻撃を繰り出そうとしていた手を……―――止めた。
「ユエだと……?」