07. 幽霊船の乗船客
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ユエとルカが、デビトとパーチェによって牢屋から助け出されたのと同じ時刻。
まだ骸骨がうじゃうじゃと暴れ回り、白骨化したヨシュアが運命の輪を求めて、船内を徘徊している時のこと。
アッシュが“イル・バガット”―――魔術師と契約をし、そしてヨシュアが白骨化してしまった、始まりの部屋にひとつの影があった。
「これが……」
その部屋には、未だにタロッコが落ちている。
エメラルドの意匠の箱は壊されたので、22枚のカードが散らばっていた。
それらを意味ありげに見つめるのは、この船長室に侵入してきたと思わしき、少女。
黒髪のツインテールに碧い瞳が印象的だった。
「タロッコ……」
目の前に広がるカードを見つめる無表情の彼女。
「これがあれば……」
光を放っているカードもあれば、そこには光を放っていない、ただの紙と同じ役割を果たすものもある。
宿主がいるかいないかで変化しているようだ。
彼女は、光を放っていないカードに目をつけていた……。
07. 幽霊船の乗船客
「ユエ……っ」
「ユエーっ!!」
いきなり姿を消した少女の名前を叫びながら、パーチェは船の中を走り回る。
ルカも小さくその名を呼び、デビトに至っては黙ったまま走り続けていた。
「どこかへ連れて行かれてしまったのでしょうか……!?」
「でも、ユエくらい強いなら連れてかれるって言っても……」
「パーチェ、彼女も女性なんです!」
「チッ……」
ルカはそのままパーチェに“周りがそうやって強いとか最強とか言ってるから、自分が女である自覚が無くなるんですよ、ユエは!!”なんて怒っていたけれど、デビトにはその会話も耳に入っていなかった。
「どーして……ッ」
デビトは彼女が連れ去られたとか、襲われたとかではない気がしてたのだ。
もちろん、心配はしている。
だがユエは―――
「自分から……離れたンだろーなァ……ッ」
もしそうだとしたら。
だとしたら。
「いちいちイライラさせやがってよォ……!」
覚悟しとけ…という顔して、彼らは走り続けた……。
◇◆◇◆◇
「この船、りんごしかねーのかぁ?」
「ずべこべ言わずに食べろ。あるだけマシだ」
「そーだけど・・・…」
所変わり。
そして人物も変わり、共に行動をしていたのはリベルタとノヴァ。
彼らも霧の中、甲板からどこかの船内へ飛ばされてしまったようだ。
たまたまこの2人の組み合わせで食堂で一夜を共にしていた。
そして夜が明け、陽が射し込んだのと同時に起きたリベルタが、食べ物を探しまわっているところであった。
「パスタとかねーのかぁ?俺、ペンネ・アラビアータが食べたい!」
「ない!りんごを食え!」
隣で文句を言わずに、そこらに落ちている新鮮なりんごを口にしながらノヴァが叫ぶ。
リベルタもブツブツ文句を言いながら一口、りんごを口にした。
「なんでチョイスがりんごなんだろーな…」
りんごトークはまだリベルタの中で続いていたようだったが、ノヴァが呆れてそれを返さなかった。
「食べたら行くぞ」
「ん、あぁ。お嬢とタロッコを探さねーとな」
「この船の造りも知る必要がある。ゆっくり時間を無駄にはしていられない」
ノヴァが気にしていたのは食堂の窓からも見える景色だった。
「この船はもう随分とレガーロから離れている。燃料などを考えると早急に手を打ち、引き返さなければ……」
りんごを食べ終えたノヴァと、りんごをかじり続けたままのリベルタは船内の探索を始める。
今いる場所を出ようとした時、ノヴァが一か所に目を止めた。
「おい、リベルタ……」
「んぁ?」
ノヴァが指差したのは、壁に貼られていた地図だった。
「おお!便利なもんがあるじゃんっ!」
リベルタがしゃくしゃくとりんごを食べつつ、今いる食堂を探し始める。
ノヴァが先に見つけ、ここだと指差した。
「今いる食堂はここで……」
「ってか、意外と広いなこの船」
「あぁ……」
ノヴァが位置を把握し、どうするかと作戦を立てていた時だ。
「ん?なんだこれ?サイン?」
リベルタが、地図の下の方に書いてあったサインらしき字を見つける。
「読みにくいな……えっと、ヴァス……チェロ、ファンタズマ?」
「何?」
「……“ヴァスチェロ・ファンタズマ”ァァァア!?」
「リベルタ声がデカイ!!」
耳元で声をあげたリベルタに、ノヴァが耳を押さえた。
「ノヴァ、この船ヴァスチェロ・ファンタズマだッ」
「―――そのようだな」
「あのヴァスチェロ・ファンタズマ……!」
リベルタは目をキラキラと輝かせながら笑う。
「帰ったらオルソとニーノに報告だ!」
「おい、遊びに来ているわけではないんだからもう少し落ちつけ」
「となったら船内探索続行だろ!行くぞノヴァ!」
「人の話を聞いているのかッ!あ、おい、待てッ!!」
ずんずん進んでいくリベルタに、声をあげずにはいられない。
まず見に行く場所は決まっている!というようにリベルタは一度、昨日の夜……ファミリー達と離れてしまった場所である、甲板にやってきた。
そこから上にあがり、船の一番上等な部屋までやってくる。
「おっ!着いたなっ」
「ここは……」
リベルタが遠慮もなく、その部屋の扉を開け放つ。
「失礼しま~す……」
「リベルタお前……ッ」
勝手に進むな!と慎重な動物愛護警備隊長が述べたが遅かった。
彼は迷いなく、部屋の中へと足を進める。
「お、中は大丈夫そうだな。骸骨もいないし」
「ここは……船長室か?」
仕方なくつられて入ったノヴァも、部屋を見回す。
「船の要ってのは、船長室なんだ!船長室を知らずに何を語るってな!」
「……」
もう呆れた顔しか返せないノヴァ。
完全に目的が別のものになりつつある。
「諜報部の船とやっぱ造りが違う。この船、結構古いのかもな」
「だろうな。外観からしても不気味さが漂うほどだ」
「幽霊船だしな!」
リベルタがあちこち見回りつつ、何か無いかを探し始める。
「にしても、この部屋暗くないか?」
「そうだな。どこかに明かりは……」
「―――それは申し訳ない」
「!?」
「へっ!?」
リベルタとノヴァはお互いに会話をしていたつもりだったのだが、3人目の参加者が現れたことに振り返る。
そこには……――
「私は暗い方が落ちつくのでね」
「お前……」
きっちりと服を着こなした貴族のような身なりの男――ヨシュアの姿があった。
「ようこそ“ヴァスチェロ・ファンタズマ”へ」
さすがに初対面の2人からしてみれば、ヨシュアがどんな人物かは把握できない。
否が応でも警戒して武器に手を構えつつ、身を退いた。
「すみません、驚かせたようですね」
「あ、あんたは!?」
「私はヨシュア。この船の乗客ですよ」
「乗客……?」
ノヴァが顔をしかめ、ヨシュアを上から下まで観察するように見つめる。
「俺たちと、あの錬金術師以外にも乗客なんていたんだな」
「君たちは……?一度もお会いしたことがないと思いますが、新しい乗客の方かな?」
「あぁ……まあな」
リベルタが受け答えをしてくれるのでノヴァは船内、そしてヨシュアの観察を続けた。
「よければ、名前を教えていただけますか?」
リベルタとノヴァが顔を見合わせ、どうするか考える。
武器も手元にはないようだし、何より敵には見えない。
情報を聞き出すためにも、まずは会話を試みようと名乗りを返すことにした。
「オレはリベルタ!」
「ノヴァだ」
素直に答えた2人に、ヨシュアは笑顔を見せる。
その後、聞き取ったひとつの名前を繰り返してみせた。
「“リベルタ”……」
「……? 俺の名前がどうかしたのか?」