06. 心通わぬ幼馴染
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廊下から、ギシギシと鳴り響く音。
それは甲板に居る時に聞いた骸骨たちが近寄ってくる時の足音。
アッシュの部屋で休むために腰を下ろし、りんごを一口かじったフェリチータは、その音が鳴りやむことを何より願っていた。
隣には何故か助けてくれた敵であるはずのアッシュ。
彼はこのヴァスチェロ・ファンタズマの主だ。
「はぁ。何で骸骨たちが襲ってくるのか……さっぱりだ」
「何か理由があるはず」
「理由……骸骨が襲いかかってくる理由ねぇ」
体をベッドに投げだしながら、真上にりんごを投げ、それを取り、また投げを繰り返すアッシュ。
考えつつ、暇を持て余しているようだった。
「―――まさか、俺が契約したせいか?」
「契約……!?」
「今気付いたのか?スティグマータが出てるだろ」
「!」
彼の首を見つめれば、確かにスティグマータで間違いなさそうなマークが浮かんでいた。
「俺が契約したのは“イル・バガット”。魔術師のカードだ」
「魔術師……」
「俺が契約したあとに、ヨシュア……俺の仲間が白骨化したんだ」
「……」
「アイツが―――ヨシュアがお前の持つ、“運命の輪”を求めた時、他の骸骨達は動きだした」
「それって、アナタの仲間が命令を出してるんじゃ……」
「命令……」
確かに、あの大群の筆頭にいたのは白骨化してしまったヨシュアだ。
「(ヨシュア……。いったいどこまで知っていたんだ)」
フェリチータがアッシュの顔を見つめていると、ドンッ!!と扉の向こうで音が鳴る。
骸骨たちが暴れているようだ。
「ヨシュアって奴は死人だが、生前タロッコと契約をしていた」
「!」
「左手首にスティグマータがある。正義のタロッコの契約者だったんだ」
「正義……?」
ということは、アルカナファミリアと何か関わりがあったのだろう。
フェリチータは知らずとも、他のファミリーは何か知っているだろうか。
「契約をしていたせいか、アイツは他の死人と違って昼間も姿が消えない、特殊な存在だ」
「特殊って、じゃあ他の骸骨たちは違うの?」
「他の骸骨たちは、昼間は姿が見えなくなる」
アッシュの話に夢中になりたいのだが、廊下から扉を叩く音が聞こえてきてフェリチータの肩をビクリとさせた。
「今から1、2ヵ月前にこの船の中で日記を見つけた」
「……?」
「その日記に、“レガーロ島にタロッコを持つ組織がある”と書いてあった。その名も、アルカナファミリア」
「!」
「それで俺は……レガーロに向かった」
その瞬間のこと。
フェリチータのスティグマータが反応し、彼の心の中が見えた。
[それだけじゃない……。アイツがこの船にいる前にいた場所がレガーロで……。この船を降りた、アイツの行方を……]
「(アイツ……?)」
フェルが首をかしげたが、アッシュは続ける。
「俺は長いこと、タロッコを取り戻せないかと考えていた。この船とタロッコは共にあるべきだ」
「……」
「タロッコの強すぎる力のツケを払い、補うのがこの船の役目だ。まぁ別に理解しなくていいが」
はぁぁと溜息をついて、頭を抱え込んだアッシュ。
「ヨシュアもレガーロ出身なんだ。スティグマータ、タロッコ、レガーロ島、そしてアルカナファミリア……。―――お前、ヨシュアのこと、何か知らねーのか?」
「ううん……。ファミリーにいたことも聞いてないし、正義のタロッコなんて……」
「使えねぇな」
「そんなこと言われても……」
「じゃあ、お前を盾に他の連中から聞き出すしかねーな」
フェリチータがアッシュの顔を見ながら眉間にシワを寄せる。
彼女が表情を変えた理由を理解してる彼は冷静に呟いた。
「ヨシュアは俺にとって仲間だ。今はヨシュアを元に戻したい。その後で、この状況をなんとかしたい。力を貸してくれ」
「アッシュ……」
「さっきの話を仮定にすれば、もしヨシュアが骸骨どもに命令を出しているなら、ヨシュアを元に戻すことでお前らを危険から遠ざけることが出来るだろ?」
アッシュの声が切れる間にも、廊下からの骸骨の攻撃は続いていた。
いずれ夜が明ける前に、扉が壊れるのでは……とフェリチータが不安を見せる。
「錬金術で細工がしてある。大丈夫だ」
「……」
「この船は霧が出ていて、慣れていない人間はすぐに迷う。お前が1人でうろつくには危険も高い。俺が面倒みてやる」
「え?」
「等価交換だ」
アッシュの言葉に、フェリチータが怪訝そうにすれば、アッシュが対抗するように顔をしかめた。
「信じてないのか?俺は本当にこの船を守りたいんだ」
「し、信じてない訳じゃないけど……」
「……この船は、俺が生まれ育った場所だ。協力してほしい」
いきなり現れたこの男を信用するかどうするか……。
それをこの場ですぐ決めるのは、かなりの決断が必要であったが……
「(別人みたいな真剣さ…)」
フェリチータは、1度目を閉じてから――……頷いた。
06.心通わぬ幼馴染
「で。さぁ」
「はい」
「アレ、いつからいたの?」
所変わり、捕まったルカとユエの牢屋。
ユエがその場で膝を立てて頬杖つきながら、ある方向を指差した。
指差した方向には、見物客というように体育座りしてこちらを見ている骸骨が。
「えっと……気付いたら、いましたね」
「てことは、まだ夜は明けてないのか」
「え?」
「いや、なんでも」
どうやらルカもあの甲板から霧によって飛ばされて、気が付いたらここにいたようである。
骸骨がこちらを見ながら首をかしげている。
「仲間を呼ばれたら面倒だな」
「そんな習性があるんですか?」
「…………………………いや、なんとなく」
「なんですか、その間は」
ユエが骸骨を見つめながら、口にするかどうするか迷って、濁した。
ルカはそれをきちんと汲み取ってしまい、吐けという視線を向けてくる。
が、言いづらさから押し黙ってしまう。
「扉が開いたとかでもなく、気付いたら鉄格子の向こう側にいて……」
「陽が出ると同時に消える。ほっとけば問題ない」
「断言できるんですか?」
「……この類の一般論。でも仲間を呼ばれると面倒だから、やっぱりここからは動けないね」
「やっぱり呼ぶんですか?」
「そこで座ってこっちを見てる時点で監視してんでしょ。知性はあるって意味」
「まぁ、そうですけど……」
ルカが“怪しい”という視線を向けてくるので、ユエは気まずくなって視線を逸らす。
「ユエ」
ぐいっ!とルカがユエの頬を挟んで、視線を強制的に合わせる。
「な、なに」
「アナタ、この船のこと何か知ってるんですか?」
「いや何も」
「間髪いれずに答える所が逆に怪しいです」
「何答えたって怪しいって言うつもりでしょ!」
ぐわっとお互いがお互いを譲らない状態で、顔をしかめて睨み合う。
「タロッコとお嬢様奪還が最優先される任務の最中でこんな所で捕まっていては……」
「他のみんなが探してる可能性もある。今やみくもに動いても意味ないよ」
「……そうですね。もうすぐここにやってくるでしょうし」
「……」
さっきから、その誰がやってくるのかを待ち続けて、結構な時間が経っている。
「もう行っちゃったんじゃないの?」
「そ、そんなことありません!!」
「……」
「だってそうしたら私たちはここにいたのに、見捨てられたってことじゃないですかっ!」
「いや、わかんないけど」
ルカの相手が面倒になってきた。
ユエが顔でそれを語れば、ルカが隣でじーっとこちらを見ていた。
「……私、うるさいですか?」
「…………。」
「……じゃあ、黙ります」
無言の肯定を返せば彼は背を向けて、骸骨と同じような体育座りで涙ぐむルカ。
彼を放置しつつ、ユエは骸骨へ視線を向けた。
「敵って判断されたワケね……」
まぁそれはこの船の主……アッシュですら骸骨に襲われていた所を見ると、船にいた期間や仲間であるなどは関係なさそうだ。
「(あたしが船を降りてから、何か細工をしたの……?)」
あの様子からするに、その相手はアッシュではない。
するとすれば……―――
「白骨化したヨシュア……」
見間違えるはずない姿。
骸骨になろうとも、服装、そして剣筋で誰だかはわかっていた。
―――肩の傷が少し痛む……。
「……アッシュ…」
肩を押さえながら、タロッコを奪った錬金術師の名前をルカが聞こえない、小さな声で呼ぶ。
「!」
足を崩そうと、体制を変えた時だ。
スカートのポケットに、何か……違和感を感じた。
「?」
堅い、そして小さい何かが入っている。
「ルカ、あたしのポケットになんか入れた?」
「はい?」
確認してから問えばよかったのだけれど、手をポケットに突っ込みながら尋ねてみた。
このポケットに私物を入れる習慣は、ない。
ポケットの中に入った指先が、冷たくそれに触れた。
その時だ。
―――バンッッ!!と豪快な音が響き渡った。
「!」