【Prequel Day】風邪 × 隠者

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第12のカードの宿主




レガーロ晴れ。


燦々と輝く、真夏の太陽。


今日も気温が上がりそうだ。



「はぁ……」



先日、海で水かけをしてから約2日。


ぐったりとした姿で街を行く、ユエの姿があった。


その姿は、どう考えても疲労困憊していた。



「(帰って錬金術も勉強しないと……)」



体調が悪いというより、“疲れている”という表現が正しそうだ。


覇気のないオーラで街をゆっくりと行く彼女を襲えば――いつもよりかは多少――勝てる気がした。


ふらふらとした足取りで、俯きながら歩いていたユエだったが、ある通りの前を過ぎた時、きゃあきゃあと騒ぐ声がして、頭をあげる。



「…?」



よく見れば、カジノ通りの方からだ。


―――…そちらへ行く予定は全くなかった。


行けば行ったで確実に館へは遠くなる。


のだが、自然と足が向いてしまったのだ。



「レナートさん、かっこいい!」


「ジェルミさんもこのクールさを見習ってよ」


「ロロさーんっ!」


「(なんだ……金貨の連中か)」



いつかと同じような光景が目に入り、ユエが溜息をつく。


高価なドレスを身に纏った、夜の世界を彩るような女性と、金貨の連中がカジノの入り口で喋っていた。


レナートを始め、ジェルミとロロに女たちが集まり、特にレナートに対しての黄色い声は止まなかった。


うるさ…。と思いつつ、どこか同時に安堵している自分がいた気がする。
でもそれも、すぐに打ち砕かれることになった。



「でも、やっぱり1番はデビトさん!」


「そーそ!あの色気がたまらなぁい♪」


「一夜でもいいから共にしたいわ……」


「ちょっと、抜け駆けなんて許さないんだからッ!」


「そーよ、アンタなんかをデビトさんが相手にするわけないじゃないッ!」



レナートに向けられていた感激の声は全て、そこにいない“彼”に向く。


心がざわついた。



「あれ、そういえばカポは?」



ジェルミとロロが顔を見合わせて、出てこないデビトの様子を気にしていた。


レナートは女性達に対して指先にキスをしてお見送りをしている。デビトの姿がないことが、ただただ安堵できる要因だ。


――…出てこないで。あたしの目の前で……そんな姿、見せないで…――



心で強く思った願い。


足を止め、イシス・レガーロの前に来たのが間違いだったのだけれど既に動けなくなってしまった。


そして願いは、打ち砕かれた。



「よォ、シニョリーナ。なーに立ち話してんだァ?」



いつもの調子で現れた金貨の幹部は、女性1人1人に笑顔を向けていた。



「やぁー!デビトさぁーんッ」


「あ、ちょっとずるいー!」



デビトがカジノから出てきたと思えば、我先にと抱きついていく女性達。


なんだこれ。


全然おもしろくないし、絵になりすぎてて、つまんねーわ!と、思いながらユエは眉間にシワを寄せる。


もういい、いつものことだ、行こう。と踵を返した時だ。



「ちょっと!!!」


「?」



1人の女性が、制止の声を血相変えて飛ばしたと思い、首だけ振り返らせた。


あぁ……振り返らなければよかったな。と思いながら…――目に焼き付けられた事実。



「デビトさんのキスもーらい♪」



自分と年もさほど変わらなさそうな…――でも身なりも、身分も全然違うであろう可愛い女の子がデビトに背伸びをして、キスをした場面――。



「―――……っ」



おかしい。


なにがおかしいって?


心臓が跳ねて、ざわついて、心に黒いものが現れる。


今まで感じたことないもの。


指先の血が逆流する感覚。


息が詰まった…――。


そこから先は、音が無い空間だった気がする。


レナートとジェルミが女性陣を送り、カジノ通りには金貨のメンバーとデビトの姿だけ。


あとは遠くで彼らを眺める自分がいた。



「デビト……」



小さく零した名前が、虚しく落ちる。


――もう、行こう。


こんなのいつものことだし、なんてことない。


そうだ、今日は疲れているからこんな変な感覚に襲われるんだ。


言い聞かせて今度こそ踵を返した時だった。



「カポッッ!!」




ジェルミの声が響き……――いつもなら自分が苦しいから振り返らずに無視してしまうような場面だったが、精神的に成長した彼女は振り返ることが出来た。



「…っ!?」



目に飛び込んだ光景。
今日二度目の驚きの感情がユエを襲った。



「デビトッ!!」





Prequel Day

~ L’ Eremita ~





「ただの風邪です」



館のデビトの自室。


カジノ―――イシス・レガーロの前でいきなり倒れ込んだデビトは、あのあとユエによって連れてこられたパーチェが館まで運び、現在安静にしているところだった。



「もう、びっくりしたよ?あのデビトがすっごーくぐったりしてたからさ」


「パーチェ、アナタの言い方だと全然緊急事態さが伝わりませんでした」



ちょうど館で薬草の整理をしていたルカが、デビトの容態を確認した所、ただの風邪であることが判明した。



「バカは夏風邪ひかないっていうのにね」


「パーチェ……さすがにそれは酷い」


「ごめん」



ユエがパーチェの言葉に呆れて返せば、彼は笑い飛ばしていた。


ルカが調合してくれた薬がよく効いているようで、寝入っている彼だったが熱は結構高かった。



「まったく。デビトもこんなに熱があるのに、よくカジノまで行ったものです」


「デビトらしくサボればよかったのに」



パーチェの言葉に、ルカが“あ”と思い出したように付け足した。



「そういえば、今日は大事なお客様が来るとか言ってましたね」


「大事な?」


「なんでも富豪の一族の跡取り娘の方だとか。ユエと年も変わらないとか言ってました」


「!」




【デビトさんのキスもーらい♪】




「あの子……?」



可愛いドレスに身をつつみ、精一杯背伸びをしてキスをしていた彼女の姿を思い出すとズキン、と胸が痛む。


あぁ、本当に疲れているんだな。と思いながら溜息をついた。



「どちらにしても、しばらくは安静ですね」



ルカが持ってきた薬箱や看病道具を片づけながら告げる。


そのまま、時計を確認して息を吐いた彼。



「あぁ、そろそろ薬草を足さないと。またメリエラたちに異臭がするって言われてしまいます…!」


「あ、オレもそろそろ戻らないと」


ユエはどうします?」



2人は時間を確認したかと思えば、やることに追われているらしく“戻る”と告げてきた。


ユエは寝ているデビトの姿を確認してから……首を振った。



「もう少し、ここにいる」


「そうですか。では、熱が下がるまでデビトをお願いします」


「オレも仕事片付けたら、すぐ来るからさっ!」


「うん」



ルカとパーチェがデビトをユエに託すと、そのまま静かに部屋を出て行く。


1人……いや2人だが、音がなくなった部屋に残されたユエはそのまま彼のソファーに腰かけた。


そういえば、この部屋に来るのは初めてだな…と思いながら辺りを見回してしまう。


ベッド、テーブルとソファー、ワインセラーとチェスト。


それだけ。
自分が言うのもアレだが、とてもシンプルな部屋であった。


少し、デビトらしくないなぁ。なんて思いながら一人掛けのソファーを移動させ、ベッドの近くまでやってくる。


小さく寝息を立てているデビト。
外された眼帯と、緩められたシャツ。



「(あ、そうだ熱……)」



どれくらいあるのかと思い、額に触れて確認すれば…



「わ、熱…っ」



触れただけで分かるくらい体温が高い。


これ本当にこのままでいいの?なんて思いながら、ルカが投与した薬を信じる。



「(どれくらいで効くのかな……)」



布団をかけなおし、流れた髪を正して、もう一度座りなおす。


ただ眺めているだけでは時間がもったいないし、ユエ自身にもやることが一応ある。


仕方ないので、座りなおしたばかりだったが一度部屋を後にし、錬金術の読みかけの本をいくつか持ってくることにした。



「(このまえの海で水かけあったせい……だよね。きっと)」



間違いないだろうな…と思いながら、ユエが静かに扉を閉めて、自室を目指す。


素早く部屋から錬金術の読みかけの本6冊と、ノート、ペンを持ちだし、元来た道を戻った。



「(だとしたら、あたしのせいでもある……)」



ちょっとだけ、罪悪感に捕らわれた。
デビトを苦しめたかったわけではないのだが。


5分も経たないうちにデビトの部屋まで戻れば、彼はそのままの状態で眠っていたので安心する。


まぁ、動けるはずもないのだが。



「……」



もう1度、額に触れて温度を確認したが、先程と変わらず。


ルカの薬は効いているのか?と思いながら、ユエはとりあえず待つことにしてみた。


ちょうどテーブルがあるので本を広げ、ペンを走らせ……デビトの様子を見る。


途中でマーサから氷を貰ってこようと思い至り、厨房に何度か足を運んだ。


熱の温度で溶ける氷が水になり、それを何度か取り替えて。
喉が乾いた時のためにレモナートを作り、部屋まで持ち帰る。


―――だが、一向に彼の熱が下がる気配はない。


倒れてから悠に4時間は経過していた。
外は素晴らしいレガーロ晴れだったものが、今は真夏の夕方を彩っている。



「っ……ぅ…ッ」


「…」



だんだんと――恐らくルカの投与した薬が切れたので――魘され始めたデビトの姿を、ペンを止め、幾度も確認したユエは、耐えかねて部屋を再び出て行くことにした。



「で、私の所に来た……と」


「そう。今すぐちょ-だい」



もちろん、ただ部屋を飛び出して魘された彼を1人にするつもりはなかった。


ユエがやって来たのは、自分の父親――正確には父親代わり――のジョーリィの元。


扉を開け放ったかと思えば、偉そうに立っていたユエにさぞかしジョーリィも驚いただろう。



「解熱剤くらいあるでしょ?」


「貴様、それが人にモノを頼む態度か……?」


「アンタに言われたくないんだよ、アンタに」



呆れた睨みを効かたユエだったが、強力かつ即効性の薬を持っているのは、ファミリーではコイツだけだろうと踏んだのだ。


アッシュにも頼めたが、頼んだとしても作り始めるのは今から。
なら、ジョーリィの方がいいと思った。



「クックック……私が調合した薬を、デビトが飲むと思っているのか…?」


「言わなきゃ分かんないでしょ。薬は薬だから」


「ならば、試してみろ」



一旦、部屋に引っ込んだかと思えば、小瓶を手渡された。


いくつか入っている錠剤は、彼の研究室では随分まともなものに見える。



「ありがと!」



受け取ったそれを即座に掴み、ユエは元来た道を戻り始めた。



「飲ませられるものなら、やってみろ…」



デビトが敏感な“ジョーリィ”の生みだしたものを受け入れるかどうか。


100に近い確率で、ジョーリィは無理だろう。と踏んでいた。



◇◆◇◆◇



部屋に戻れば、自分が散乱させた本の山とノート、ペンがそのまま。


そして更にぐったりしているデビトが、先程より息を荒くして縮こまっていた。



「っ…」


「デビト……」



額に触れようとした手が、義眼の付近に影を落とす。


それと同時。


眠りが浅くなった彼が、パンッッ!!と乾いた音を立ててユエの手を弾くと同時に、枕の下に仕込んでいたのであろう銃を真っ直ぐに向けてきた。



「…ッ」


「デビト……」



眠りから覚めるのと同時の行動だったらしく、彼の名前を呼んでみれば―――眩む意識の中でデビトがユエを認識する。



ユエ……」



銃口を投げ捨て、デビトが体を再びベッドに落とした。


いきなり向けられた銃に驚きはしたが、動揺を見せなかったユエの瞳も脳では理解していた。



「なに、してんだ……お前……っ」


「薬。もらってきたから、飲んで」



答えになってねェよ…と思いながら、デビトがユエが開けようとしている小瓶を見つめた。


なんとなくそれが誰のものであるのか、彼は感覚で読み取った。



「―――……いらねェ…っ」


「は…?」


「それ……っ、ジジイのだろ…」



なんで分かるの?という表情を返せば、デビトがいつもより熱っぽい瞳で言い返してくる。


ようやくここで、ジョーリィが言いたかった“試してみろ”の意味を悟った。


彼は、ジョーリィに救われるのは御免だと思っている、と。



「確かにジョーリィのだけど、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。熱、高くて辛いでしょ」


「うるせ………っ」


「子供みたいなワガママ言わないで」



錠剤を取り出し、彼に手渡そうとしたがデビトがその瞳だけで反論をしてくる。


ユエがレモナートと一緒に持ってきた水を取りにテーブルへ手を伸ばす。
わずかな隙をついて、デビトは錠剤を部屋の床に投げ捨ててしまった。



「ちょっと……!」


「いらねぇ」



精一杯の抵抗をしているが、彼の熱は下がらないことも分かっている。


夏風邪とは厄介だ。
こじらせれば面倒だし、しつこいもの。
早く治すのにこしたことはないのに。



「デビト!」



ユエが寝返りを打ち、背を向けた彼の肩を掴んで上を向かせたが視線はそっぽを向いていた。


ユエが上から見下ろしながら、頬を膨らませる。


首筋にも、鎖骨にも、緩められたシャツの隙間から熱に魘されているせいで汗まみれであることにも気付く。


このままじゃ、本当によくない。


どうやって説得させようかと思っていたところだった。



「デビト「だったら」



ユエの声を遮り、真下からデビトが…――いつもと似た…――賭けごとをする時の笑みを薄く見せた。



「飲ませてみせろ」


「え?」


「口移しで」


「……っ、はぁ!?」



今度はユエの表情が崩れる番だった。


デビトが魘されている熱とは別の意味の熱がユエを襲う。



「そんなに飲ませたいんだったら、そこまでしてみろよ……なァ?ユエ



これだけ見れば、一件どこが体調悪いの……?と思えるような発言だった。
が、触れている個所から伝わる異常な温度。


生憎、自分は健康体なので熱などがあまりでる訳ではないが、逆だったとしたら相当辛い……と思いながら言葉を詰まらせた。



「俺がタダであのジジイの調合したもんを……口にいれるかってンだ…」



小さく、ボソリと吐き捨てられたものが、心に落ちた。


彼がジョーリィを嫌っている事も分かっているつもりだ。


でも。



「茶番は終わりだァ。出てけ、うつるぞ」



ゴロン……とまた背中を向けられてしまったので、ユエがそのまま立ち尽くす。



「ハッ……お前の気持ちを確かめるようなことして悪かったな」



背から語られた言葉が、どこかチクリ。と突き刺さった気がする。


その言葉の中に、大事な何かが含まれていた気がした。



「……」



【デビトさんのキスもーらい♪】



脳裏に1つの光景が甦る。


心にまたトゲが刺さる。


痛い。


……痛い。


―――そこからは、1つ1つがスローモーションだった気がする。


どこにその度胸があったのかも分からない。


苦しんでほしくない、という気持ちとまた別の何か。


願いと、黒い塊。


純粋な気持ちと、歪んだ何か。


勝ったのは“悔しい”という気持ち。



「―――っ」



口にジョーリィの小瓶の薬を含んで、水を流し込んだ。


同時に背を向けたままのデビトの肩を掴んで、真上を向かせる。



ユエ―――?」



きっと今、拗ねたような顔して赤面してデビトを睨んでいるに違いない。とユエは自覚していた。


カジノの前でデビトにキスしたあの子のように、あんな可愛く飾って出来ない。
あくまで―――水と薬を流し込むために口付けた。



「…っ」



ベッドに片膝踏み込んで、デビトの真横に手をついて、体勢としてはユエが襲いかかってるみたいだ。


恥ずかしいと思いながら、ゆっくり水をデビトに送り流す。
受け取る本人は何も動じずに、薬をきちんと飲んだ。



「は……っ」


「……」



唇を離した時に息が荒かったのはユエの方だった。


真っ赤な顔で睨むようにデビトを見れば、彼は満足したのか―――優しく口角をあげた。



「なんだよ、その顔」


「うるさいってば……」


「拗ねてんのかァ?」


「さっさと寝ろっ!」



もう用は済んだ。


離れようと、足に力を入れた時……弱々しい手がそれを拒んだ。


いつものように強引にではなく、優しく抱え込まれて……隣に寄せられる。



「ハッ……ほんと…読めない女…」


「…っ」



耳元で響く声。


頬が触れる体温は、まだ熱い。



「どーしろって言うんだ……」



ぎゅう…と抱きしめられれば、ユエはもう動けなかった。



「これ以上、大事になりすぎても困るってのによォ……」


「…っ」



今日は耳元で囁かれた言葉を、聞き取ることが出来た。


顔を見上げると同時にデビトは優しく微笑んで……そのまま目を閉じる。



「誰を想うより、俺はお前を…―――」


「…っ」



すぅ……とそこで言葉が寝息に変わる。


続きは……―――聞かなくてよかったと思った。


心臓がもたない。



「ばか……」



同時に、気付いてしまったんだ。


気付くまで何度も何度も、教え込まれたつもりはないけれど。



「あたし……」



誰かが彼に触れることも。


誰かが彼を見て、騒ぎ立てることも。


どこかで“いやだ”と思う自分がいる。


醜くて、黒い塊。


それと戦う術をこれから身につけなければならないと、色々なものと同時に理解した。


だが、それが動かぬ証拠だったんだ。



「(あたし……デビトのこと、)」



―――好きなんだ……。





×





翌日。


そのまま色気もなく爆睡をした2人は、朝。
カーテンの隙間から入り込んだ朝日で目を覚ます。


先に起きたのは、熱が下がったデビトだった。



「……、?」



眩しいなと思いながら顔をしかめた時、自分より頭いくつか下がった所で小さくなって眠っているユエがいることに気付く。


デビトには布団が掛かっていて、彼女にはそれがかかっていない。


記憶の端で、デビトが眠りにつくときは抱きかかえて寝たよなァ……?と思い返す。


よく見れば、彼女の傍には本が何冊か転がっていて、夜中に起きた形跡がみられた。


同時に枕元には、口移しで薬をもらったあの時なかったはずの氷。


あのあとも完全に熱が下がるまで看病をしていたのが窺える。



「錬金術の文献……?」



ルカみてェな本読んでるのか・なんて思いながら、布団を半分かけてやれば、もぞもぞとユエが動き、目を覚ます。



「……でびと…」


「あァ…」


「…ん…、」



寝ぼけているのか。
照れもせずに、腕を伸ばしてデビトの額に手をあててきた彼女。


弾こうか迷ったが、大人しくそのままでいてやれば安心したような…眠そうな瞳で笑顔が帰ってくる。



「ん、もうだいじょうぶ……」



よかった。ともう1度眠りにつこうとしているユエを見て、デビトの心にどうしようもない安らぎが残された。


今度はデビトがユエの真横に手をついて、かがんで眠りにつこうとしているユエの唇にキスを送る。


触れるだけのキス。


感覚を察知して、ユエがまた薄く目を開けると…――素直に零した。



「ばか…」


「あ?」


「あたしとキスすんなら……ほかのおんなとすんな…」


「…」



デビトは、予想外の言葉に目を見開く。


今度こそ、その隙をついて二度目の眠りへ誘われたユエ


幼い時の癖で、近くにあったデビトの手の薬指と小指だけを握り、小さく寝息を立て始める。


そんな彼女に思わず、デビトから幸せという空気を匂わせる笑みが零れた。







デビトにここで落ちてもよかったんだけど、最終章のシナリオ的に“ユエとデビトが恋人”っていうのは…空気が。笑
いちゃつけるシナリオじゃないのよ。。
とんでもない葛藤シナリオなので。
ていうことで、次が完結する時まで持ちこたえようか、逆ハーで。←
という決断に至りました。


結構、細かい描写にこだわったりしたんだけど、あんまりデビト弱って無くね…?的な。
もっと弱いデビトが見たかった方、すみません…!
弱いデビトが想像できませんでした!笑
作者自身は、Anotherを超えたなと思えたので満足です。
それなりに甘くなったし!
デビトへの気持ちを自覚しちゃったユエさん。
アンタここから過酷なのに、大丈夫!?なんて思いながら“いつも通り”をモットーに彼女は頑張るのでしょう。


さぁ、ついにPrequelDay最終話。
明日は同時に最終章の予告を公開します。
お楽しみに。


有輝
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