【Prequel Day】海 × 剛力
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「ねぇねぇ、ユエ」
「ん?」
アルカナファミリアの館。
朝食を終えたところで、食堂を出て行こうとしていたユエに声をかけたのはパーチェだった。
「今日なんか予定ある?」
「あるよ」
「え、あるの!?」
「カテリーナさんのお墓参り」
パーチェがユエに声をかけたのは、パーチェの母…カテリーナの月命日であるから。
一緒に行かない?とパーチェが思い立ったのも、彼女が自分の母と面識があると知ったから。
そして少なくとも母を大事にしてくれていたユエだからこそだった。
だがユエは今日が何の日だかを分かっていて、パーチェの問いに微笑みながら答えた。
「ユエ…」
「一緒に行くよ。月命日だから」
「ありがとぉおお!」
パーチェが半泣きになりつつ、ユエに感動の抱擁をしようとしたところで――ユエに阻止される前に――真横から手が2つ伸びてきた。
「むぐっ」
「ほらほら、行きますよ」
「ちゃっちゃと顔出しに行くぜ」
「デビト、ルカちゃん…っ」
ユエを抱きしめようとするパーチェを止めたのは、デビトとルカ。
前回、ちょうど一か月前の時はデビトとルカは予定があるとかで、朝から一緒に行けなかった。
リストランテで合流してからもう一度カテリーナに会いには行ったが、1ヵ月後の今日まさか覚えててくれていたなんて思わなかった。
「ほら行くぞ、パーチェ」
「早くしないと暑くなってきますからね」
「行こ、パーチェ」
デビトが欠伸をしつつ、食堂を出て行き、ルカも帽子を整えながらデビトの後を追う。
ユエが微笑しながらパーチェが来るのを扉付近で待っている。
―――…楽しくて、穏やかな1日になりそうだな…と心に温かさが募りながらパーチェも食堂を後にした。
Prequel Day
~La Forza~
「にしても、今日も天気がいいですね」
「だなァ。レッガーロ晴れってやつか」
町の花屋でカテリーナが好きだった花をユエが買い、デビトがそれを持って、いつもの教会裏の小道を抜けた小さな墓地までやってくる。
木漏れ日の光を浴びたその石墓は、どこか輝いて見えた。
「変わらず綺麗な花ですね」
「母さんが好きな花だったからね」
ユエが選んだその白い花が手向けられ、4人は彼女の名前が刻まれた石板をみつめる。
「あ、今日はカテリーナさんのためにビスコッティを持って来たんです」
ルカが思い出して、ポケットから割れてないか確認しつつ、袋につつまれたそれを取り出す。
「きちんと私がつくったものです」
「かわいい」
広げられた袋の中にちょこん、と形の綺麗なビスコッティが出てきたのでユエが覗きこむ。
見れば当の息子はよだれを垂らしていた。
「え~、オレも食べたいー!」
「パーチェ、アナタ母君の墓前でなんてことを…」
「さっすが大食いメガネだァ」
「デビト!アナタもですッ」
デビトに注意をしつつ、ルカがきちんとビスコッティを添えれば甘い匂いに誘われて小鳥が寄ってくる。
「あらま」
「オレを差し置いて食べてるよ!?」
ビスコッティを突っつきだした小鳥を指差し、パーチェが嘆いていたがルカが穏やかな表情で笑った。
その真意をどこか受け取った気がする。
「――……母さん、これで寂しくないね」
小鳥が集まり、ちゅんちゅんと鳴きながら墓石の周りを飛び交う。
デビトも優しく口角をあげ、ユエもしゃがみ込んだままその姿を見ていた。
「そういえば、ちゃんと4人で来るのは初めてじゃない?」
「そーいやァ、そうだな」
「前回はルカとデビトが居なかったもんね」
「そうでしたね……」
ユエも立ち上がり、4人で墓石の前に並ぶ。
ユエがレガーロに帰還してから4ヵ月。
そしてファミリーに戻ってから1ヵ月と少し。
ようやく揃った、あの日の家族に、きっとカテリーナも喜んでいるだろう。
「変わってないでしょ……母さん…」
パーチェが優しく零した言葉に、3人が彼の顔を見つめた。
「色々あるけど、オレ幸せだよ」
「…」
「パーチェ…」
「それに、こんな可愛い幼馴染が返って来たからさっ」
「わッ」
パーチェが後ろからユエを抱え込んで、墓石の前で母親に報告するような仕草をする。
カチン、と音が響くような反応をしたのはルカとデビト。
最近、彼は隙があればすぐこうだ。と思いルカが目を細め、デビトが2人を引き剥がした。
「テメェ、報告の仕方がちげーだろ!」
「そうです!“私たち”の幼馴染です」
「忘れてたくせによく言うよ」
「「「なッ!?」」」
ボソッと呟いたユエの言葉に3人が肩を跳ねさせた。
「ちょ、ちょっとユエ…」
「それはそれ、これはこれだァ」
「わ、私は覚えてますよ!?思い出せましたよ!?」
「ははっ、冗談」
3人の慌てぶりに、ユエが笑顔で返す。
ふとそこでパーチェが思い返すのだ。
「(ユエ……)」
冗談でも、“その話題”に触れることが出来るようになっているなんて。
笑い飛ばせるくらい、笑いやいじりのネタに出来るくらい、彼女がここに溶け込んだことがパーチェは自分のことのように嬉しかった。
「あ、そうだ!」
「パーチェ?」
「前に真夏に海に行ったの覚えてる?母さんとルカとデビト、あときっとユエもいたと思うんだ」
「うん」
「あァ…そんなこともあったな」
「真夏の浜辺で…はしゃぎ回りましたよね…」
4人が懐かしく思い返すように言葉を返す。
「ちょうど今日のような日でしたね…。暑くて溶けそうな…」
「それで水浴びしたら、デビトケンカした覚えが」
「あぁ?そうだったかァ?」
「してましたよ。ユエ完敗でしたから」
「だってデビト意地悪だったし」
「まぁ、子供だったからなァ」
3人がきちんと覚えていたことにパーチェの心は少しだけ嬉しくなる。
「そーだ、行こうよ!海!今からさ!」
「え?」
ぽん。と思いついたというようにパーチェが手を叩く。
提案されたのは、思い出の地に行かないかということだった。
「思い返したら、行きたくなっちゃった!」
パーチェが3人の返事を聞かずに、レッツゴー!と叫び、歩き出す。
「マジかよ。こんな暑い日に浜辺まで歩くたァ…」
「ぱ、パーチェ!本当に行くんですか?」
ルカとデビトはぐずりそうだな、とパーチェが進めた足を戻して2人と肩を組み、強制連行していく。
「ちょ、パーチェ痛いです!」
「引っ張んなッこの怪力ッ」
「ユエー、行くよぉ!」
「…」
パーチェの行動力には、驚かされる所があるな…と思いつつ、ユエは微かに口角をあげた。
「うん、いま行く!」
歩き出した足を止めることはなかったけれど、少しだけ振り返り、木漏れ日の中に優しさと共にある彼女の姿を想う。
心に溢れたのは“よかった”という思い1つだった。
◇◆◇◆◇
パーチェの提案で海まで歩くことになった4人。
真夏日の中を歩き、汗だくになった4人の目の前には、いつかも一緒に来た海が広がっていた。
「海ーっ!!」
パーチェが楽しそうにはしゃいで浜辺を駆けて行くので、ルカとデビトが溜息をつく。
「ガキか、アイツは」
「楽しそうですね、パーチェ」
パーチェがズボンの裾をあげて、海まで入っていく姿が何故かリベルタを連想させる。
きっとリベルタが成長したら、今のパーチェみたいになる気がするな……と思うと、ここのワンコ兄弟の思考が似ていることに気付き思わず笑ってしまう。
そんな前向きな彼らがいることで、見てるだけで元気がもらえる気がした。
「ユエー!おいでよー!」
パーチェが大きく手を振って、足を海の中につけている。
呼ばれてユエがパーチェを見る。涼しそうだなと思い……―――
「うんッ!」
「えぇ!?ユエ、行くんですか!?」
「行く!」
「お、オイ……」
スーツの上着を脱ぎ、ニーハイと膝まであるブーツの紐を素早く解いて、投げ捨てた。
そのままパーチェの元まで一直線で駆ける。
まさか、あのユエが行くとは思ってなかったようでデビトとルカが一度顔を見合わせた。
砂浜に、ユエが駆けた足跡が残る。
パーチェの元まで行けば、海の波打ち際で足に海水が触れた。
「冷たっ!」
「でも気持ちいでしょ?」
「いいね、歩いたあとのこれは」
「ねー!ユエは話が分かるー!」
パーチェとユエが足でぱしゃぱしゃと水を弾いている姿を見たルカとデビトが、ゆっくりと近付いてくる。
ルカは、きちんとユエが脱ぎ捨てた上着とブーツとニーハイを抱えてきてくれた。
「こけないように気をつけて下さいよ、2人共」
「わかってるって!ルカちゃんもデビトも入ったら?」
「いーや、遠慮しておく。パーチェのバカと同じように思われたくないからなァ」
「それ、遠まわしにあたしにもバカって言ってるでしょ?」
不服そうに浜辺でこちらを見ているデビトに言い返せば、デビトも優しく笑む。
ルカも隣で微笑みを見せてくれた。
パーチェがそんな3人に、自分に幼馴染がいてよかったと、その場面で強く感じていた。
意識がそっちに向いてしまったことも問題だったのだが、足元がぐらつく――膝まで浸かった――海の中、パーチェの足先が何かに引っ掛かった。
「へ?…うわぁぁああ!!」
「え?」
「ちょ、パーチェ!」
「なっ」
どうやら流れ着いた流木が彼の足元の邪魔をしたらしく、勢いよくパーチェが海へ全身ダイブ。
その水しぶきは近くにいたユエ、そしてもちろんルカとデビトにも掛かる形となり…――。
「ぷはっ…び、びっくりしたぁ…」
「パーチェ…」
「テメェ…」
「“びっくりした”じゃ……」
どちらかというと、真横にいたユエより、前に倒れ込んだので浜辺にいたルカとデビトに多く掛かる状態となってしまった。
自分と同様に、びしょ濡れのルカ、そしてデビトの姿を確認したパーチェの血の気が引いていく。
「ありませぇぇぇんッッ!!」
――多分、ずぶ濡れになってしまったことでどうでもよくなったのだろう。
ルカが全力で腕まくりをして、海水をパーチェめがけてかけ始めた。
「ぶはっル…ルカちゃん…ッ!」
「アナタって人はどうして言ったそばからこけるんですかァァ!!」
「ご、ごめん流木が…っ」
「流木のせいにしてる時点でいい訳です!!」
もう1度ルカが大きく振りかぶって、ばしゃん!!と音を立てながら海面を叩く。
後ろに引いた手を再度パーチェに向けて放った時、背後にも大量の水が飛び散る気配がした。
「あ」
唯一、うまい具合に――そこまで被害をうけていない――水を避けられたユエが、ルカの背後を指差して声をあげる。
「げ」
「…………」
ユエの声を聞いてルカとパーチェが振り返れば、ルカより被害をうけたデビトの姿。
オールバックの髪型は既に意味がなさそうだ。
「テメェら……」
「でででででデビト…」
パーチェが“オレじゃないよ…!?”と伝えたいがオーラの迫力に押されて言葉が出ない。
ルカもデビトに向けて両手を小さくあげた。
「す、すみませんデビト…」
「よくもやってくれたなァ…ヘタレ従者…大食いメガネ…」
「ひっ」
「おおおおお落ちつてデビト…」
2人に今にも食ってかかりそうな彼の勢いを見て、“あ、ヤバイかな”なんて思いながら傍観していたユエだったが……――彼女ならではの逆の行動をとる。
小さく両手で海水を掬って、怒りをあらわにしているデビトに向かって、その水をかけたのだ。
「えいっ」
「!」
「ちょ、ユエ!」
デビトの恐ろしさを分かってないよ!とパーチェが言いかけたが、デビトの表情が―――変わる。
「どーせ濡れるんだったら、楽しんで帰ろうよ」
ユエの一言が、ルカとデビトの考え方を変えた。
既にユエよりもびしょびしょになった2人、そしてパーチェだったが……
「言ったなァ?シニョーラ」
下がってきてしまった髪を手でかきあげて、デビトが参戦しはじめた。
ルカもやるからには。という形でついには同じく上着を脱ぎ捨てて、4人の…――全員、結構いい年齢なのだが――はしゃぎまくった水かけ大会が始まったのだった。
「ちょ、ルカちゃん錬金術使わないで!!」
「やるからには私だって本気ですッ!」
「あ、そっか。あたしも力使おう」
「ユエはダメです!アナタの力は本当に自然の力なんですから!」
「そーだよっ!納得しないで!」
「そーやって余所見してる方が敗因なんだよォっ」
「ちょ…顔にはかけないで!カナヅチだって知ってんでしょ!?」
4人のバカな青春時代…という絵になりそうな光景。
それは港の市場からも確認できた。
市場の方が高台になっているので、手すりのついた通路から見下ろすことが出来る。
そしてそこに偶然にも姿を見せたのは…――
「あの方は……アルカナファミリアで一体なにをしているんだか」
領主の息子であり、次期領主のアルベルト。パーチェの腹違いの弟だ。
ユエとも認識がある。
たまたま視察にきていたところで見かけた、兄とその幼馴染との光景。
呆れてしまうものでもあったが、パーチェの笑顔が遠目でも分かるくらい輝いている。
「……」
いつか言っていた、“オレの家族はアルカナファミリア”という言葉を思い出して、アルベルトはどこか寂しげな表情を見せる。
だが、同時に思うのだ。
彼が、母親がいなくなっても1人になかったことが本当によかった、と。
そして、1ヵ月前までと纏う空気が変わったのでは…?と見ていて感じたユエの姿。
「……フ」
兄と、その幼馴染のバカげた行動に参加したいとは死んでも思わない。
だが……――どこか安堵した自分がいることに、アルベルトは気付く。
「アルベルト様、次はどちらへ……?」
「……」
「アルベルト様…?」
付き人が、自分が微笑しながら海を眺めていることに疑問を抱いたのだろう。
首をかしげている。
「……次はルペタの館跡地の調査だ」
「はい」
歩き出した弟は、兄の笑顔を焼き付け、次の場所へ。
「喰らえ……オレのラ・ザーニア攻撃!!」
「パーチェ!」
「ぐはッ」
「チ…ッ、ラザニアは関係ねェだろ!!」
未だ真剣勝負で続けられる水かけ。
これはもうしばらく続き……びしょ濡れで街中を歩き、館へ帰った4人がフェリチータやマンマに驚かれて迎えられるのは言うまでもない。
海 × 剛力
(へっくしゅ…)
(デビト、大丈夫?)
(風邪ひかないでね)
(あァ…)
(い、意外と寒いですね…)
(かけすぎたかもね…)
(へっくしゅん…ッ)
*
パーチェメインにしたつもりだったけど、幼馴染が絡んできたから幼馴染とのほのぼのした1日になってしまいましたね(笑)
でも自分的にはネタが気にいってます。
この幼馴染は、“本気”でやったら海での水かけも大勝負です!きっと!
そこに入りたいなぁ…なんて思いながら書いてました。
足跡という描写をしたときに、もう少し深い話が書けそうな気がしたんですが、あくまでほのぼので攻めました。
アルベルトさんが見守っているのも…なんだが愛あるな、と思った次第です!笑
さぁ、次はきましたエロリスト!
ここを待っててくれてる方が多いと思います(笑)
毎日変動するランキングを見てて、楽しいな…と思ってます、作者です。
何故、隠者の前に“海”がきたのか…。
風邪をひかせるためです←
風邪をひくのはヒロインか、それともデビトか…?(笑)
いや、伏線があるので分かりますね!
頑張って看病しましょう!笑
有輝