【Prequel Day】書庫 × 死神

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第12のカードの宿主





「(え、この錬成陣あってんの……?)」



アルカナファミリアの館の書庫。


ファミリーの人間であれば誰もが使える、解放された空間で1人の少女が頭を抱えて本を読んでいた。



「(だってさっきの文献じゃ、真逆のこと言ってんし……!)」



右手にはペンを抱え、左手で本を突っつくような仕草でページをめくっていく彼女の周りには山ほどの本が転がっていた。


言ってしまえば、自室か…?というような散乱した状態。



「……ダメだ、わからん」



ついには机に突っ伏した少女・ユエは、溜息をついて本に顔を落とした。



「(あとでアッシュんとこ行こ……。あ、でもバカにされるかな…。ならルカの方がいいかも…)」



ぼーっとそのまま机に頬をつけた形で固まっていると、だんだんと睡魔に襲われてきた。


目を閉じる気はサラサラなかったのだけれど…



「ん……」



窓から差し込む心地いい日差しと気温。


真夏だが暑くもないこの場所は、お昼寝には最適の場所だった。


まして彼女はここ最近……――ある事情で疲れているのであれば、尚更だ。



「…―――」





Prequel Day

~La Morte ~





聖杯の仕事を一段落つけたので、ノヴァが書庫に本を探しにやって来たのは夕方のことだ。


もうすぐマーサが食事の準備をし始め、しばらくしたら呼び出されることだろう。


その間に、以前から読もうと思っていた詩集を探しに来たのだ。


左右対称のこの空間に足を踏み入れ、テーブルの元までやって来た時に、彼は1つの珍しい光景を発見する。



「………ユエ?」



1番奥の端の席で、本の山の間で全く動かずに机に突っ伏しているユエの姿があったのだ。


本の山の中で動かないという異様な光景に、思わずノヴァも顔をしかめてしまう。


カツン、カツン…と靴音を響かせつつゆっくり近付いた。


真後ろまでやって来た時にようやく彼女が寝ていることに気付く。



「この状況で寝るなんて……」



―――どんな神経をしているんだ、と言葉は続けなかったが内心は思っていた。


一体、何についてこんな熱心に本をかき集め、勉強しているのだ?と、文献の種類を確認する。



「……錬金術の文献?」



一番手元にあったものを見れば、それは先程までユエが読んでいた錬金術についての文献。


それだけではない。


山積みにされた本すべてが錬金術についてのものだった。



「(錬金術師にでもなるのか?今更……?)」



自分が近付いても気付かずに寝ているユエは、相当疲れているらしく、小さく寝息をたてていた。


顔のすぐそばに置いてあったノートには、書きかけの資料。


これも錬金術についてのものであり、勉強熱心だな…と感心してしまった。


そこでふと思い出す。


【セナッッ!!】


【あたしは、アッシュとヨシュアを助けたい】


「……」



―――伝え方が上手いか下手かは別として、彼女はいつでも真っ直ぐであったことを。



「真っ直ぐ過ぎるのも、問題だがな」



読みたかった詩集を手に取り、ユエが爆睡している席の隣に腰かけた。


本当に吹き出しが出るくらい「ぐぅ…zzz」というように眠っている彼女。ノヴァは呆れつつ、微笑してしまう。


風邪を引くのではないかとも思ったが、今日の気候では問題なさそうだ。


何より、このまま彼女を起こす方が気が引けた。



詩集を途中まで読みかけて、……手が止まる。


山積みにされていた本の至る所に付箋が張り付けられ、いかにも知識を取り入れようとしている姿が想像できたからだ。



「こんなに……?」



隣でマヌケ面で眠るユエ


ひとたび覚醒し、“戦え”と言われれば……――負けるつもりもないが、正直勝てる自信もそこまでない。


彼女の本気というもの自体を見たことがあるのかもまず問題だが、彼女の強い所は――もちろん技術もだが――精神面だった。



パーパに希うことなく、幼馴染との距離を確実に取り戻しつつある。


ましては自分が“救う”と決めた者は片っ端から譲ることなく、救い出した。


それが彼女を傷つける結果になったとしても。


その真っ直ぐさが少しだけ、ノヴァにはまぶしすぎた。



「(……リベルタにも似ているな)」



金髪のあの素直な海バカの姿が、どこか重なる。


もちろん性別も何もかもが違うのだが、決めたことに真っ直ぐ付き進むところとか。


リベルタにだって葛藤があるのは承知だが、似ていると思えた。



「向き合う…」



―――…対して、自分はどうだろうか?


両親は目覚め、確かに確実に距離は縮めつつあるが……ユエのようにきちんと向き合えているのか。と聞かれれば答えに迷う。


会いに行くのはもちろんしているけれど、そうではなくて……。



「(父様…母様……)」



まだ、向き合うことが少し怖い。


フェリチータやリベルタに背中を押されて、自分が一度は向きあったことは認めるがユエと比べると自分のダメな点しか見えてこなかった。



「……っ」



眉間にシワを寄せ、唇を噛み締め、切ない表情を見せたノヴァ。


まだ時間が必要なんだ……と思いながら、溜息を吐いた時―――



「なんて顔してんの?」


「な…っ!?」



突っ伏したままの状態で、ユエがノヴァの方を見上げて呟いたのだ。


いきなり聞こえたものに、自分の思考を巡らせていたノヴァが驚きの声をあげる。



「お、お前……っ!」


「ふぁぁ……。よく寝たぁ……」



欠伸をしつつ、涙目になる瞳を押さえユエが机から起きあがった。


時計を見て“やば、2時間も寝てた…”という言葉は聞かなかったとこにする。



「で、何してんの?動物愛護警備隊長」



顔を覗きこむように頬杖ついて微笑んだユエの紅色に、ノヴァの鼓動の速さが一瞬変わった。



「べ、別に本を読みにきただけだ……ッ」


「そんな神妙な表情をしなきゃいけない本読んでたの?」



ユエがノヴァが手にしていた詩集のタイトルを見ながら“違うでしょ”と思いつつ、言葉にはしなかった。



「まぁ、いいけど」



積まれていた本の上からまた1冊本を取り、彼女は付箋をつけていたページの錬成陣を汲み取ろうと目を落とした。


ノヴァがその姿勢に……思わず口を切った。



「次は錬金術師にでもなるのか?」


「いやぁ、なれたらいいけどね。あたし才能ないんだよなぁ」


「才能?」


「うん。ヴァスチェロ・ファンタズマにいた時も結構勉強したんだけど、さーっぱり扱えなくて」


「それを今更?」


「ちょっとね。自分の弱点を克服したくて」


「!」



ノヴァが返って来た答えに、目を見開く。



「戦ってる最中に背後から物理的に……あ、パーチェみたいな怪力に殴られた時、あたしは多分即死するから」


「は?」


「フェノメナキネシスの力じゃ、物理攻撃は防ぐの難しいんだよ。だから、錬金術の盾くらい出せるようになろうかと」


「…」


「今日は暇だったしさ」



まさかそんな理由で、これだけの量の知識を頭に突っ込んでいるとは思わなかったので驚く。


そして思わず零れてしまったのは…――素直な気持ち。



「お前は……素直だな」


「え?」


「誠実に生きていて……だから、ルカやデビト達と向き合えている…」


「ノヴァ…?」


「僕は……―――」




【ノヴァ…今日の失敗は許されない】


【ノヴァ、アナタなら出来るわ】


【父様……母様…】



心の傷が少しだけ痛んだ。



「僕にはまだ…真正面から向き合う勇気がない」


「…」


「……僕の両親は、パーパとマンマの暗殺を企てて……その結果、僕がアルカナ能力で両親を酷い目に遭わせてしまった」



唐突に語られた言葉。


ユエは首をかしげそうになったが、黙って彼の話を聞いていた。


「(死神の力は確か……)」


「なんとかこの間、両親を起こすことは出来た。向き合っていこうとも決めた。だが……この埋められない7年の月日と向き合う勇気がまだない」



――だから、お前はすごいな。


ノヴァが自嘲しながらユエに視線を向けた。



「お前は本当に強い…―――」



切なく告げた彼に、ユエが表情を止めた。


遠くに視線を投げたノヴァ。


悲しそうにも見えたその姿がどうしても……納得していないように見えた。



「僕にそこまでの強さは…――無い」


「……無いなら、生みだせばいいじゃん」


「は…?」


「そこで諦めるなんて、ノヴァらしくないよ。ヒヨコ豆」


「な…ッ!?お前、いきなり…っ!僕をヒヨコ豆と呼ぶなッ」



ノヴァが調子を一瞬取り戻し、グワッと掴みかかる勢いで睨んでくる。


その表情が見たかった。というようにユエが笑った。



「なんで?あたしと身長差ないでしょ?」


「貴様…ッ、今に見てろよ…!」


「それと同じだよ」


「はぁ…っ?」



脈絡がないなと思っていたが、そこからユエが繋げてくれた。



「身長は諦めないのに、両親と向き合うことは諦めるの?」


「!」


「才能だけで生きていける人間なんて1%もいないんだよ。見合う努力をするからこそ、色々な強さとか、勇気が生まれてくるんだし」



ユエが“疲れた”と吐き捨てるように、本を閉じて立ち上がった。



「同じことでしょ?身長伸ばすための努力と、向き合うための一歩目」


ユエ……」


「ノヴァがヴァスチェロ・ファンタズマで教えてくれたんだよ?“言葉数が少ないあたしも悪い”って」



机に手をついて、ノヴァの顔を覗きこみ、笑ってくれた。


何故だろうか。彼女が……――



「まずは一言ずつ、話してみたら?」



彼女が、これだけ笑えるようになったことが、ノヴァからすれば…“強さ”を見せられた気がした。



「それにあたしは思うんだけど、起こそうと思って行動したのって“一言目”でしょ? 素直に自分を褒めてあげてよ」



一言目も、踏み出した勇気もノヴァの強さだよ。とユエがくれたもの。


彼女はテキパキと山積みになっていた本を片付けて行く。



「あたしは本当の母親も、父親もいないから……ノヴァのこと完全に分からないけれど…――少し、羨ましいかな」



優しい、夕陽が射し込む書庫。


ノヴァが紅色の瞳が光を浴びて赤くなる瞬間を見つめた。



「会おうと思えば、会えるから」


「……」



そうだな……と、思った。


自分を生んでくれた母親と、父親。


どんな形でも、自分が2人を想う気持ちもある。



「ま、あたしもジジイがいるからいいけどね」



くしゃっと笑ったユエに、ノヴァは元気を貰った気がした。


柄にもなく落ち込みそうになっていた所を…――ユエにも背中を押されたことに気付く。



全部の本を片付け終えたユエがノヴァの顔色を窺った。


“食堂、行かない?”と視線で訴えかけられているのが分かる。



「お腹すいた」


「…」


「食堂でみんなのこと待ってよーよ」


「……そうだな」



こんな所で1人でいるよりも、今はその方が……――安心する。


そこで思い返すのだ。


自分が今ここにいられるのは、母親と父親のおかげであると。


素敵な家族に出会えたのも、両親がいなければ―――無かった事実だ。



「―――……ありがとう」



書庫から先に出て行ったユエの背に、小さく呟いた。


ユエが振り返り、思うのだ。


ノヴァにもいつか、アッシュと同様に背を抜かれる日が来るのだろうと。


彼が両親と笑って過ごせる日が訪れているといい。


自分も今、幼馴染と向き合っているからこそ分かるのだ。


それがどれだけ大変かが。



「(でも、モレノさん背高いからデカくなるんじゃないかな。やっぱり)」



その時は……ノヴァが父親と背比べをする姿が見たいと思った。


いや、願った。


願わずにはいられなかった。





×






(そういえば、もう1回聞いても良い?)
(もう1回…?)
(うん)
(何だ)
(聖杯って、防犯のセリエだっけ?)
(防衛だッ!)








Prequel Dayの一番難しかったのは、これで決定(笑)
前回はデビトだったけれど、今回はノヴァだわ。←
プレット立てたけど、だめだった。本当にネタがなかった!涙
書いてて、ありきたりでなんて糖度0なお話なんだと思った。
これ何夢?いや、夢じゃない!涙
ノヴァファンのみなさま…本当にごめんなさい……。。。

ノヴァの原作の後って、両親とどうなったのかがすごく気になる。
幽霊船でも語られなかった(ED2とED3未プレイですが)ので
どう向き合ってるのかが気になる…。
ノヴァは時間なくて、無印も幽霊船も1回ずつしかクリアしてない。涙
せめてもう3回はやりたいな。
時間が欲しいな、休暇を2ヵ月くらいくれw

次回は愚者ルタなる、リッベルタ!
彼とは手錠ネタでいきましょう。
アニメ第7話の成り変わり的なのでいきましょう。
どんな1日になるのでしょうか…?
お楽しみに。


有輝
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