【Prequel Day】追憶 × 月

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第12のカードの宿主




「…っ、」



真夜中のレガーロ。


それは昼間とは違い、静寂と孤独を訴える空間へと姿を変える。


漆黒の常闇から帰還したユエは、いつかと同じような…肩で息をし、館の廊下の壁に手をついて1度足を止めた。



「クソ…ッ」



吐き捨てた言葉は、疲労を訴える体へだったのか。


はたまた別のものだったのか。


―――……しばらくそのまま壁に体を預けてから、彼女は1つの部屋へと向かった。



平然を装って。



「ジジイ開けろー」



廊下で、真夜中であるにも関わらず堂々と叫ぶ。


ここは地下であるし、周りにファミリーが好んで部屋を使ってるわけもなく。


彼と、彼が普段一緒に過ごしている少年の部屋に一番近いファミリーの部屋は、自分の部屋であるのも自覚していた。



「……寝てんの?」



人が疲れて任務から帰ったってのに……。なんてブツブツ呟きながら、その扉を蹴り破ってやろうと思い、片脚をあげた所で扉が放たれる。



「!」


「あ、ユエさん!」


「エルモ」



こんな時間まで起きてたのか。と、出てきた少年の顔に上げた脚を仕方なく下げた。


寝起き、とは思えないくらい目をぱっちり開けている彼にユエが瞬きをする。



「エルモ、寝てなかったの?」


「うん。ジョーリィがくれた本が面白くて」


「そっか。で、ジジイ……じゃない、ジョーリィは?」



開け放たれた扉の中へと案内されれば、いつもと同じ暗さの部屋。


相談役執務室とは違う、研究室兼彼の自室。



「ジョーリィなら寝てるよ?」


「…………………。マジか」



自分だけか、頑張ってんのは。と思いながら眉間にシワを寄せた。


ふとテーブルの上に本と一緒に乗っていた油性ペンを見つけて、ユエがそれを構える。


エルモが首をかしげたので、断言してやりながら彼の寝室へと足を踏み出した。



「寝顔に落書きしてやる」


「え!?あっ、ユエさん…っ!」





Prequel Day

~ La Luna ~





思い返せば、たかが3年。


傍にいた期間はそれだけだ。


たった4歳から7歳になったばかりの少しの間だけしか、彼女の成長を見届けることは出来なかった。


言ってしまえば旧知の仲であった、天へと還った金髪の男の方が自分よりもユエにとっては父親らしかっただろう。


彼女は、“あの女”の娘だ。


彼女の血を継いでいるのだから、自分にもいつか呆れ、毛嫌う日が来るのだろう。


覚悟はしていたが、この時はまさか未来のことなんてさすがの彼でも予知はできない。


アルカナ能力が“未来予知”であるのであれば話は別だが。



「ジョ…ジョーリィ…さん……」


「……なんだ?」



その日、ジョーリィはホムンクルスの研究のために書斎で本を片っ端から広げ、読み漁っていた。


そこへちょちょちょっ…と、やってきて自分の傍で静かに本を読んでいたのは、この館に来て間もないユエだった。


あまりにも真剣に本を読んでいたせいか、自分の横にイスを引っ張り持ってきて、お行儀よく座っている彼女に気付かなかった。


呼びかけられて、初めて視線を向ければ彼女が1人でそこにいるのを認識する。



「ここ…」



“何故、ここにいる”という疑問は大きかった。


最近、彼女は自分の息子を含めた3人のわんぱく坊主なる、ガキんちょ組とつるみ始め、庭で鬼ごっこをしたり、海に出かけたり、カルチョをしたりしていたはずだ。


自分に付いてくることなど、まずなかった。


のだが、何故か今日、その少女はここにいる。


ユエが指差して、示していたのは絵本の中の1つの絵だった。



「これ……なんていう葉っぱ…ですか……?」



変なところが敬語で、まだ自分に警戒しているのかと思いながらその絵の特徴を捕える。


どうやらピアンタのようだ。


さすがにお子様向けに書かれた絵柄でピアンタの種類まで特定したとしても、彼女の頭では理解できないだろう。



「ピアンタだ。薬草だよ」


「やくそう……。お薬ですか?」


「他にも色々用途の仕方があるが、そんなところだな」


「お薬……」



いったい何の絵本を読んでいるんだと思いつつ、こちらは研究で忙しいので彼女のことは放置しよう。と心掛ける。


が、少女は絵本に飽きたのか、今度はジョーリィの見ている本をじーっと見上げ始めた。



「……暗号ですか…?」


「……」


「……」



反応がなかったのがつまらないらしく、ちょいちょいっとジョーリィの服をつまんだユエ


ジョーリィが一瞬、顔をしかめた。



「……なんだ」


「暗号ですか?」


「錬金術だ。お前、ルカやデビトはどうした」



耐えかねて、ぶっきらぼうに告げれば彼女はしゅん…と落ち込んだ表情を見せる。


子供独特の、百面相のようだ。



「3人でお出かけしたって……」


「…」


「女の子は行けない場所だって言われた」



あぁ、そういえばそろそろルカとパーチェの初めてのピッコリーノがやってくるな…とジョーリィが思い出す。


女の子の行けない場所などではなく、彼らはその準備か。と踏んだジョーリィは、隣で落ち込み項垂れたユエに視線を投げた。



「なら、外で遊んで来い」


「……1人で?」


「庭なら危険などない」


「…………」



つまりここにいてはダメかな…と、思える心は既に持ち合わせていたようだ。


だが、今よりも純粋で素直だった彼女はジョーリィの服を掴んだまま、彼を見上げ、聞いてきた。



「そばにいちゃダメですか……?」


「…」



まさか。そんなストレートに聞かれると思わなかったので、ズリ。とサングラスがずれそうになった気がする。


見上げてくる瞳の色が、かつての女と同じでドクン…と心臓が跳ねた。



「――……好きにしろ」



フ…と、どこかっで笑う。


心が躍った気がしたのは勘違いではなかったのだけれど、彼は考えないようにしていた。



「ありがとう……!ございます…」



ぱぁっ!と喜んだ顔が見えたと思えば即座に敬語に戻り、ジョーリィが再び彼女に視線を向けた。



「…」


「……っ」



あわあわと、閉じたピアンタが乗っている重たい本を開き始めた彼女。


懸命に、ジョーリィへ――何故か――近付こうとしているのが見えて……彼女の母親の面影が重なった。


もちろん、別人として扱うくらいの余裕はある。


まして相手は4歳児だ。


ぽん。と乱暴にならないように。
だが、どこか不器用に、彼が隣のイスに腰かけているユエの頭を撫でれば、ユエの口角が嬉しそうに上がった。



「っ♪」


「(単純だな……)」



足をリズミカルにぶらぶらさせながら、喜びを表す少女に思わずジョーリィも笑みを見せてしまった。



◇◆◇◆◇



―――…書斎で2人で過ごしたのとは、また別の日。


最近の幼馴染3人は、ピッコリーノの準備で忙しいらしく、ユエは1人になることが多かった。


だからこそ、ジョーリィの元に自ら足を運び、彼の隣で錬金術とは違う本を読んで過ごす日がよくあった。


ジョーリィも既に慣れてしまった――というより懐かれてしまった――ので、特に気にしてはいない。


1つの空間に、自分以外の体温があることは少し違和感。というより久々すぎたが、大人しくしているユエを邪魔だとは思わなかった。


黙っていれば、ただの実験に使われるタコと同じだと思っていたから。


そんなある日、今日もジョーリィの元を訪ねてきたユエが手に持っていたのは…



「ジョーリィ!」


「…ん?」


「ピアンタっ!見つけた!」



ユエが“ピアンタ”と言い、ぱぁっ!とつんできたのは…3つの葉が集っている一般的な葉っぱ。


ジョーリィは思わず目を止めてしまった。



「…」


「かわいいピアンタっ!」


ユエ、これはピアンタでは……――」



そこまで言いかけたのだが、満面の笑みでクローバーをジョーリィの元に持ってきたユエに、彼は何も言い返すことが出来なくなった。



「1番に、ジョーリィにあげるっ!」


「…」



頬をピンクに染めて、はい!と手渡されたクローバーを、成すがまま受け取ってしまった。


違えた知識は正してやらねば…と思ったのだが、どうも言葉がうまくでない。


自分らしくない。と考えながらジョーリィは渡されたユエ曰く薬草の…クローバーを見つめる。



「フ…」



その束の中に……3つではなく、4つの葉をつけたものを見つけた。



「ならばこれは、使用方法を考えなければな」



たまにはいいか。と思い、ジョーリィが読んでいた本をパタンと閉じて、立ち上がった。



「おいで。ユエ


「どこ行くの?」


「買い出しだ」


「お買いもの?市場まで行くの!?」


「あぁ」


「わーいっ!」



街へ行ける!と喜び、跳ねまわるユエを横目に、セットしていた薬草のビーカーを外した。


同時に錬金術の炎で蒼く炙り、薬草自体の水分を飛ばし、干しておく。


その工程を見ていたユエは飛び跳ねていた足を止めて、真剣な瞳で彼の指先を追いかけた。



「……っ」



息を止め、目を輝かせたユエ


ジョーリィは何事もなかったように仕度をしてから、茫然と立っているユエの頭を一度撫でてドアノブに手をかけるのだった。



◇◆◇◆◇



「わぁあ!!」



その日の市場は港の開港記念などで賑わいを増していて、お祭り騒ぎだった。


人ごみをかき分けつつ、前へ前へと進んでいくジョーリィの後を一生懸命に駆け足で追いかけるユエ


さすがにこの中で迷子になるのは困るであろう。


だが、キラキラした装飾が街の頭上を覆っていれば目移りするのも仕方なくて。


ジョーリィが葉巻を吹かしつつ、後から付いてくる少女がいるかどうかを何度か止まりながら確認していた。



ユエ



早く来い。という意味で声をかければ、視線を前に戻してユエはジョーリィの元までやってくる。


さながら子犬のような素振りを見せる少女。


確かにいつも以上に見るべきものが多いので、彼女にとってはいい勉強になるが、今日にするべきじゃなかった…とジョーリィが後悔し始めた。





そうしてる間にも――何度も立ち止まったが――目的のタコが売っている店まで来て、実験に使うためのタコの選別に取り掛かる。


ここからはジョーリィが真剣にタコとにらめっこをしているため、ユエは大人しく近くで石ころ蹴っ飛ばして彼を待っていた。



「(こっちの方が鮮度がいい…。だが、煮るならこちらの方が……)」



タコを1つ、2つ、3つと確認しながら選んでいるジョーリィを待つのに飽きてきたユエが、ころころと蹴っていた石を今まで以上の力で蹴りあげる。


すると前の通りの向こう側まで石が飛び出してしまった。



「あ…」



飛び出てしまった石を見つめつつ、ユエが取りに行くかどうするかを迷いつつ、ジョーリィの方を見上げた。


が、彼は未だにタコと心で会話をしているため、ユエが石を追いかけることにする。



「っ…」



右を見て、左を見てから、馬車が通ってないかを確認し石のもとまで一直線。
無事に蹴っていた石を拾い、安堵してからジョーリィの元まで戻ろうと、再び道へ出た時だ。



「危ないッ!!」


「え…―――」


「!」



石畳を蹴る馬の足音と、滑車の音。


戻る時は左右の確認を怠った。


角を曲がって来た馬車がユエの前に現れて…―――



「っ…!!」



その馬車の大きさに、恐怖と同様で動けなくなり、縮こまってしまったのも間違いだ。


顔を背け、石を握りしめたままのユエに馬車の足音が目前まで迫った。



ユエ……ッ」



ガッッ!!と、真横から力強いものに引かれ、馬車の軌道からずらされる。


状況の変化についていけずに、ようやく目を開ければ目の前には見慣れた男の顔が。



「馬鹿が……っ」


「ジョーリィ……」


「何をしている。貴様のその目は飾りか?左右くらい、見えているだろう」


「っ…」


「それとも、異常があるのは脳の方か?」



はぁ…と溜息をつきつつ、バランスを崩して地にこけかけている彼女を立たせ、ジョーリィはユエに目線を合わせた。



ユエ



言う事があるだろう。と促せば、ユエはぽろぽろと泣きつつ、ジョーリィにきちんと告げた。



「ごめん……なさい…っ」


「…」


「ごめんなさい…」



ぴぎゃぁ、と今度は泣き始めたユエにジョーリィが“う…”と表情を歪める。


自分の息子の時とはまた違う……――いや、息子すらろくに育てた覚えはないが――扱いにくさを感じたが、涙を見せるユエを、ジョーリィが髪を撫で、慰める。


その行動に、甘えるようにユエが首にぎゅうー!と抱きついてきたので、初めて自覚した。



「…」


「うえぇぇっ…ん…っうぅ…」



まさか、本当に懐かれているとは。



「泣くな」



仕方ないのでそのまま抱き上げ、買ったタコを片腕で、もう片方はユエを抱えてジョーリィは市場を元来た道へ戻り始める。


市場にはまだ泣き続ける娘の声が響いていたが、傍から見れば…それはもう親子の微笑ましい光景だった。



「…こちらの用は済んだ。次は、お前がくれた4つ葉を保管するための材料を買いに行く」


「ううぅぅぅ…」


「いい加減泣きやめ。人の服を鼻水だらけにする気なのか…?」


「だってぇぇ…うぅぅぅうう…ひっ…く…」


「涙は脳を破壊する…。それ以上、思考や思慮を欠如させるのを防ぎたいのなら、泣くな」


「じょーりぃぃ…」


「うるさい…」


「むぐぅ…」



ユエがきちんと持ってきたハンカチをそのまま顔に押しやって、なんとか抑え込めば、抱えられたままの彼女が涙を止め、きたない顔でこちらを見つめていた。



「その臓器を止めるには若すぎるだろう。もう少し、自分を案じろ」


「うぅ…っ」


「ついでにその将来もな…」


最後のは嫌味だったのだが、泣きやみつつある少女はハンカチで鼻をすすりながら告げてきた。



「将来はジョーリィの助手になる…」


「………。」



予想もしていなかった言葉に、片手で持っていたタコの紙袋を落としそうになった。


――そして、温かい何かが、心に落とされる。



「……ならば、もう少しマシな脳になれ」


「そしたらさっきの蒼い炎出せるようになる?」


「さぁ…努力次第だろうな…」


ユエは赤い火しか出せないもん…」



温かくて、優しいもの。


面影が見える彼女がくれたものとは、また少し違う……


もっと…無意識に求めていた“何か”に近い気がした…。





×






―――……体の端に重みを感じて、瞼をゆっくり持ちあげた。



「あ」



目の前に油性ペンを構えて、自分の体を跨いでいる――夢で見たあの頃から変わらない――バカ娘がそこにいることに気付き、ジョーリィは覚醒そうそう顔をしかめた。



「…何をしている」


「落書き」



正確には、しようとしているところだが。


しれっと当り前のように答えたユエ


表情は全く変えずに、まだペン先をこちらへ向け続けているのでジョーリィがユエの腕を掴む。


あの日、簡単に抱えることが出来た体は成長を遂げ、誰もが認めるレガーロ美人と変身した。


まぁ、今も抱えることが容易いのは変わらないが。



「………どうやらお前の脳は、あの日から全く成長していないようだな」


「うわっ、ちょ…!」



立場は一瞬にして逆転した。


簡単に組み敷かれ、サングラスをかけていない瞳で射抜かれればユエの動きが止まる。



「この俺に対して寝込みを襲うだと…?100年早い」


「襲ったわけじゃない」


「人の体を跨いでいた者が言えることか?」



手元から1度は離れ、戻ることがないと覚悟した。


だが、舞い戻った愛しい……いや、それ以上の存在に、ジョーリィはいつかと同じく心の温もりを感じ、口角をあげた。



(ジョーリィ)
(ん…?なんだエルモ)
(この栞、かわいいね。4つ葉のクローバー?)
(………あぁ)


未だに大事に使ってたりする。








ジョーリィの夢の中のお話。
多分、ユエの幼少期とジョーリィの絡みは誰よりも萌えだと思う。
いや、それを希望。笑
なんか不器用だよね、彼は(笑)
でも器用でもあると思うんだよ、いろんな意味で。
泣きだしたユエを一生懸命慰めようとするんだけど、嫌味になってるよ…を目指して書いてました←
今のおジジより10年以上前の話だし、小さい女の子に慣れてなさそうな(表には出さないけど)彼を書きたかったんです、はい(笑)
ここの親子…うん、ポジションがいいと思う←
いや、自分で言うな!ですねw
ジョーリィ、色気むんむんのお前が好きだ!←←


次は問題です、プレット立ててない(立てられない)ノヴァ…。
なんで書庫にしたんだろう…。
マジで明日どうしよう…←
がんばります!



有輝
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