【Prequel Day】アルバム × 節制
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「まぁ…こんなもんか」
季節は完全に夏へと変わり、遅れた衣替えのために部屋を片付けていたユエ。
まぁ、片付けと言ってもさほど物自体がないので苦労もしないし、楽である。
一段落し、あとはクローゼットにいくつか箱を入れれば終了…というところで部屋の扉が叩かれた。
「ユエ、いらっしゃいますか?」
「…ルカ?」
声からして、彼だということは分かったが…自分に何の用だろう。
疑問に思いつつも、ユエは扉を開け放った。
Prequel Day
~ La Temperanza ~
「あ、ユエ。いらっしゃいましたか」
「どうしたの?」
警戒もなく開けた扉の先には、ルカが背筋を伸ばした姿勢いい姿。
ユエがいることを確認すると、彼はにこりと笑った。
「お茶にしませんか?先程、市場に薬草を買いに行った時、私の好きな茶葉が手に入ったので…」
今ならビスコットもありますよ。と付け足されれば、ちょうどお茶時だな…と思い、そんな誘いを受け入れることにした。
「じゃあ、せっかくだし、お願いしようかな」
「はい」
とっても嬉しそうに返された返事が、あまりにも自然だったのでユエは少し驚く。
そして先日の……キャラウェイ事件の一瞬を思い出し、バレないように顔を赤らめた。
「ちょ…ちょっと待ってて、すぐ終わらせるから」
「あ…掃除の最中でしたか?」
「うん。でも、もう終わるか…――」
話しつつ、自分の部屋をよく見ずに歩いたのがいけなかった。
そこまで告げた所で、ユエの足が、足元に置いてあった箱の1つを蹴りあげてしまい…中身が散乱する。
と同時に、ユエは――昔はよくあったが――盛大にこけた。
「わぁッ!?」
「ユエ!」
顔面からコケた彼女を、誰が最強と呼べただろう。
不謹慎だが、なんて愛らしい…と思い口元が緩んだのはルカの秘密だ。
「大丈夫ですか?」
「地味に痛い…」
素直に“痛い”と告げる所は、変なとこ真っ直ぐな彼女らしいとは思ったけれど。
「きちんと前見て下さい。体に傷が残ったらどうするんですか…っ」
と言いつつ、コケた彼女に寄り添えば、先日の事件で自分がしてしまったことが浮かぶ。
目の前には、触れてキスを落とした首筋……―――。
「っ……」
今度はルカが顔を赤く染める番だった。
が、互いが互いに気付かずに済んだようだ。
「せっかく片づけたのに…」
零しつつ、自分が蹴りあげてしまい、散乱させた中身を確認する。
バサァァ…と広がり、あちこちに落ちているそれは、ユエとしてはあんまり見られたくなかったものだった。
「ッ…!」
「これ…」
箱詰めにされ、奥の奥にしまわれていたもの。
だが、それは決して乱暴だったり、“いらない”と語るような造作ではなく…どこか大事に保管されていたように思えた。
映しだされたのは、幼き頃の写真だった。
「ないと思ってたのに…こんなにたくさん…」
「あ、ちょっとルカ!」
何カ月か前に、“ユエ”という存在に違和感を覚えた彼は、コレを探していた。
自室にも、研究室にもなかった写真は、こんな所にあったのか…とルカが何枚か取り上げる。
ユエは見るな!という勢いで彼から写真を取り上げようとしたが、背の高いルカがあっさりそれを受け流した。
偶然手元に落ち、ルカが手にしたのは、今も健在に聳え立つ、ピッコリーノで使っている教会で遊んでいる写真。
もちろん、写っているのはルカ、パーチェ、デビト、ユエ。
年は…ユエが5歳くらいの時のものだろうか?
既に3人にも馴染み、笑顔でこちらにピースサインをしていた。
背後には、あのパーティの日…パーパに変えてと願った、マゼンダのステンドグラスも。
「ルカ!見んなっ!」
「見るなと言われても、私も載ってますし!」
「いいから返して!」
いつになく慌てている彼女に、ルカが目をぱちくりさせた。
良く見れば、手に取った束の中に同じ写真が3枚…。
誰かの好意で人数分用意され、4人に1枚行き渡るようにされたもの全てが揃っているように思える。
「……アナタ、もしかして私やデビト、パーチェの分まで持ってます?」
「…………………。」
「どうりで探してもないはずです」
「だっ…て、記憶にない人物が自分と一緒にこんな親しく写ってたらキモチワルイでしょっ!」
即座に反論してきたユエに、ルカが溜息をついた。
「キモチワルイまで思うかは個人の問題でしょう。仮に…まぁ、キモチワルイと思ったとして、その違和感がユエへの手掛かりになったかもしれないのに」
「そ…そんなこと言われても…」
「そしたらもっと早く、アナタの力になれたかもしれないのに」
「…」
ルカから最後に吐き出された言葉がユエの胸の中に浸透し…溶ける。
言い返す言葉がなくなってしまった。
「それに、人の部屋に勝手に入るなんて…!」
「それは謝る。ごめん」
「心がこもってないです!」
「普通だってば!」
ルカは、なんとなく覚えていた。
あの時代、自分が大事に…写真をあつめ、アルバムを作ろうとしていたことを。
1枚の写真は、デスクの上にかざっていたことも。
アルバムが出来たら…ユエや、デビト、パーチェに1番に見せようと計画していたことも。
だが…それは先にキマイラの事件によって阻止されてしまう。
「まったく…アナタって人は…」
「…」
「証拠隠滅する前に、やることがあったでしょうに」
ボソッと、真顔でルカが呟けばユエが言葉を詰まらせて、黙った。
「……ルカ」
「はい?」
「ご…めん…」
「……」
ぽつり、と返された言葉に今度はルカが黙る。
それは……着実な、彼女の成長だった。
「…もし、次にアナタだけでは解決できないことが起きたら…どうしますか?」
「え?」
「例えばの話です」
幽霊船の騒動を経て…彼女は学び、そして気付いたことがあった。
身を持って感じたことが、いくつも…――。
「…………アッシュに話すかな「そこは冗談でも“兄を頼ります”と言っていただきたかったです」
ルカの返しに、思わず笑ってしまった。
それでも1人で解決しようとせずに、誰かを頼ることもまた優しさを受け入れることであると、彼女が自覚した証拠。
ルカはそれが嬉しかった。
「ユエ」
ルカにしては珍しいのだが…
「ありがとうございます」
ユエの頭をぽんぽん、と優しく撫でれば…ユエは拗ねたような顔でそっぽを向いた。
「さて、その他の写真は…」
「ちょ、まだ見るの!?」
「ダメですか?元は私のものも多く入ってるはずですし」
ルカが片付けつつ、落ちている写真を拾い集めて行く。
実際の記憶と、目で見えるシーンで見れば…代償で薄れた記憶が鮮明に甦るようだった。
セピア色したものが色づく感覚…。
初めてのパーチェとルカのピッコリーノでの出し物。
ユエが先頭の席で目を輝かせて、ルカの――ハトサンバまでは及ばないが――帽子から現れたハトを喜んで拍手する写真。
カルチョでデビトにボールを取られ、ケンカをし、泣かされた写真。
パーチェと同じポーズで笑ってる写真…。
これだけ仲が良かったのか…と、改めて自覚する。
「…パーチェとの写真が多いですね?」
「うん。殆ど3人でいたけど、この頃はパーチェと一緒だったのが少し多いかな」
まぁ、彼のノリの良さと兄貴分のイメージでは好かれていたことは容易に想像がつく。
そう思えば、自分は覚えているにも関わらず…ユエとの記憶が幾分か薄れているイメージがついた。
「それに、撮ってくれてるのは殆どルカだよ」
「え?」
「アルバム作ろうとしてたんでしょ?」
言われてようやく思い出した。
何故、アルバムを作ろうとしてたのか…。
珍しく、ジョーリィからいらなくなったカメラを貰い、それを使って“この瞬間”をおさめようとしたことを。
「デビトは写真、イヤがったしね」
「あぁ、なるほど…」
ちょうどいい所に、それを象徴する写真が出てきた。
寝ているデビトの横でユエとパーチェがピースしている写真。
やはりカメラをむけているのはルカのようで、彼の姿はなかった。
「確かに、デビトは殆ど寝顔ですね」
「もう少し後の写真は、ちゃんと写ってるよ」
いつの間にか、見られることに抵抗がなくなったのかユエが写真を取り出し始めた。
「ほら」
手渡されたのは……小さなパーティのようだった。
「これ…」
見覚えがある光景。
背後には“Happy Birthday”と書かれている。
「6歳の、誕生日…ですよね」
「うん。初めて…パーティをしてもらった時の」
5歳の誕生日の時は、ジョーリィに祝ってもらった。
ルカもパーチェもデビトも、ユエの誕生日を知らなかったからだ。
3人に祝ってもらえなくて悲しくて大泣きした彼女を見たルカが、翌年に計画してくれたものだ。
「その時に3人がくれた石…まだ持ってるんだよ」
「あぁ…あの石を…?」
自分達が、初めて贈ったプレゼント。
どんな苦しみからも、彼女を守るように。と…渡した石。
ネックレスであり二連に小さくシンプルにあしらわれた、その白い石を見た時、ユエはとても喜んだが…
「あたし、“人形が欲しかった”とか言ったよね」
「えぇ…言われました」
「はははっ、さいてー」
石のネックレス案を出したのはルカだったので、相当落ち込んだのも覚えている。
意味があるからこそ、それがいいと狙ったのだが…5歳のユエからしてみれば、お人形さんの方が嬉しかっただろうと、今だからこそわかる。
「でも、人形じゃ身につけられないからね」
ユエが髪をあげて、耳に埋め込まれた二連の石の1つを見せる。
そこに見覚えのある白い石がいれば、ルカは驚いた。
「あれっ、ピアスになってます!?」
「ごめん…。ネックレス…戦闘中に切れちゃって…」
「(戦闘中…)」
「だから自分で石だけ取って、ピアスにしたんだけど、もう1つも戦闘中に失くしちゃって…」
失くしたことを忘れてた…というように、ユエが思い出し始め、だんだんと落胆していく。
落ち込み始めたユエを見ながら、ルカは逆に驚いていた。
十何年も前に送ったものを…まだ大事に持っていたのか。と。
「持っててくれたんですか…?この12年間…」
「え…うん」
「……」
あの時、自分が人形より石を選んだことが…初めて報われた気がした。
「……ルカ?」
「へっ!?」
じーん…と来て、うるうるしている彼にユエが“!?”という表情を見せる。
急いで表情を変えて見ても、左耳に輝く白い石が…嬉しかった。
「――……その石、なんという石か知ってますか?」
「え?」
ただの白い石じゃなくて?という顔を返せば、ルカが笑った。
光る石に手をあてられ、距離が近くなる…。
キャラウェイのこともそうだが…真っ直ぐに射抜く紫の瞳から視線が逸らせない…。
「エンジェライト」
「天使…?」
「はい。石言葉は……―――」
………言いかけて、やめた。
「自分で調べて下さい」
「そこまで言っといて!?」
素で反論したが、ルカがるーん♪と踵を返し始める。
立ち上がった彼を見上げ、ユエが少し照れた顔で睨み上げた。
「そんな顔してもダメですよ。知識は自分でつけてこそです」
「あとでジジイに聞きに行く」
「行くならノヴァの所にしてください」
さてと、と写真を片付け終えて、お茶の準備を。と踵を返そうとした時。
最後の、扉付近に落ちていた写真にルカが目を止めた。
「これは……」
その1枚だけが、異例だった。
人は写っておらず、風景のみ。
そして、見覚えのある場所……。
古びた、薄暗い地下…石の床には錬成陣……。
「ここはあの……病棟の地下……」
【ダメです…っ】
【…ッ】
【ユエーっっ!!】
「キマイラが初めて、レガーロで錬成された場所」
「…」
「12年の始まりの場所」
その写真に、どんな意味が込められていたのだろう。
そしてそれは、開けたピアスホールにも。
「代償とか関係なくたって、人は大事なことすら忘れて行く生き物だから」
「ユエ…」
「忘れないために大事なモノはその目に映して、この身に刻まないと」
それは、ルカの部屋から奪われた写真と同じ原理だった。
「この先この身に何が起きても、“違和感”を辿って戻ってくる」
告げた時のユエの笑顔が儚いのだけれど、どこか輝いていて。
ルカは心を一色にして思うのだ。
「ユエ」
「ん?」
「アナタがここに戻ってきてくれて、本当によかったです」
アルバム × 節制
告げられた言葉が、優しくて温かいもので。
ユエは微笑んだ。
「さぁ、お茶にしましょう!今日の紅茶は茶葉が違いますから格別ですよ!」
「どうせならパーチェとデビトも呼ぼうよ」
「2人はお仕事中です」
「あ、そっか」
つくずく、自分は“永久シエスタ組だな”と思ってしまった瞬間だ。
「どうせなら、この写真持ってって、アルバムを作りましょう!」
「え?」
「きっと素敵なものになります」
10年以上前からの、願いですから。
ルカが笑うので、ふと考えてから頷く。
ビスコッティと紅茶を飲みながら、幼き日を見つめ返すのも悪くないと思えたからだ。
某日・アルカナファミリア館の書庫にて。
(ねぇ、ノヴァ)
(ユエ?どうした?)
(石言葉が分かる本って、どこにある?)
(確か…この辺だな?)
(ありがと。……エンジェル…エンジェル…)
(…?)
(…………はぁ!?)
(なッ…どうした…?)
(いいいいいいや、なんでもない!!)
【エンジェライト】……愛する人を守る。祈りを届ける天使の石。
*
意外とスラスラかけました、ルカちゃん。
なんか特に甘くもなく、ほのぼのとしたお話で書きやすかったです。
前回とその前が、とんでもなく長くて…(笑)
なおかつ苦手の甘!!で来たらそれはもう寝不足になるわけで←
もっと甘について勉強しなきゃダメだな、とつくずく思いました。
微糖テイストばんざーい!
シリアステイストばんざーい!←
今回はヒロインの幼い時のわがままさを出したんですが、伝わりましたでしょうか?(笑)
小さい時から物分かりがいいのは、在る意味かわいくないので←
5歳の誕生日は、ジジイに祝ってもらったんですが、彼…どんな祝い方をしたのでしょう。
そこもいつか書けたらな、と思います。
長くなりましたが、ルカ兄さん…大好きです!
次はイケメン・アッシュくん。
ガイダレガーロ…
CD買った人は、なんだか分かりますよね?♪
未購入の方、明日をお待ち下さい!
有輝