21. 踏み出す、愚者
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甲板には、運命の輪を発動しつつあるフェリチータの光と、対抗した紅色の光が大きく広がっていた。
対抗している力も、代償を伴うはず。
どちらも求められ、差し出さなければならないものは“記憶”だった。
だが……―――
「ユエまで……っ」
ルカが中和をかけないと、また代償が発生すると思っていた瞬間だ。
地響きと違和感が駆け抜ける。
先程よりも大きなものであり、地からドクン…!!!とうねりあげる感覚。
波紋が広がり、気が付くと…
「光が……っ」
運命の輪を発動しようとしていた光が、消えたのだ。
「え…っ」
「お嬢…ッ」
フェリチータ自身も何が起きているのか分からないようだ。
力が消えたこと、掴みかかり何が何でも!という形で止めに入ったユエが目の前で肩を荒げていることだけは理解できた。
「ユエ……ッ」
「…この……―――」
伏せられていた顔が上げられた時、“本気”と悟らせるくらい―――その瞳は哀しみと、怒りに満ちていた。
21. 踏み出す、愚者
「バカッッッ!!!!!!」
フェリチータの肩を掴み、甲板で暴れる爆音に負けないくらい大きな声で叫ぶ。
ジョーリィは、紅色の少女が使った力が“瞬間的な時間を巻き戻す”ものだと状況から理解した。
恐らくユエ自身、使うのが初めてであろう。
随分と荒い使い方だなと葉巻をくわえ直しながらジョーリィは思っていた。
一方のフェリチータは、ユエの怒りを買うと思ってなかったようで、ビクリと肩を揺らし目を丸くしている。
「ユエ……っ」
「フェル、今何しようとした……ッ!!!!」
「……」
「代償のこと誰よりも分かってるはずなのに……ッ!!」
ユエに、運命の輪のことを伝えた覚えはない。
だが、ファミリーが周知していることだ。
誰がユエに教えたとしても、違和感はないことである。
「ヨシュアが助かるには運命の輪……」
フェリチータが唇を噛み締め、小さく呟く。
「アッシュやリベルタの想いは……―――」
―――このままじゃ、救えない。と思った。
だからフェリチータが動こうとしているのも、ユエには痛いほどわかる。
「アッシュを助けたい……」
「!」
「傷つけたから……っ」
フェリチータの吐き出した言葉に、ユエが勢いを失くした。
背後で聞いていたリベルタも戦い続けているアッシュも……。
この決断は“恋人たち”の力を得ているフェリチータだからこそ、出来るもの。
アッシュが本心で何かを語ることも、リベルタがヨシュアとの関係の苦しみを口から伝えたとは思えない。
「(あぁ……そっか)」
同じ気持ちなんだと身を持って実感し、納得したのは、ここが初めてだった。
「(デビトやルカたちが、あたしに抱いた思いって……これに近いんだろうな……)」
ユエが、拳を握り目を伏せた。
「―――……ありがとう。フェル」
「え…?」
「アッシュのこと、考えてくれて」
切ない表情と声で、ユエからそれを告げられたフェリチータは返す言葉が見つからなかった。
「もっと違う形で防げたかもしれないことを……フェルが尻拭いする必要なんて、ない」
それを聞いて、リベルタが目を見開いた。
彼は少しでも迷ったことを、ここで後悔する。
何故、フェリチータが運命の輪を利用しようと考えたのか。
その力にどれだけの代償がかかるかを知っていたにも関わらず。
「…ッ」
立ちあがり、ここから何とかしようと思った時だ。
もう待たないという形でついに正義が動き始める。
「ウゥゥォォォオオオオ」
「ヨシュア…ッ」
骸骨と、ヨシュアとファミリーで溢れかえる甲板。
どうにかしなければと混乱する中、リベルタはふと思う。
「俺の力で……」
―――ヨシュアを、正義から解放できないだろうか。
目の前で暴れる力。
それはレガーロで“世界”と同等に扱われ、あの孤島を守り続けた力でもある。
「愚者の力で……」
迷い、葛藤すること。
必要以上に考えすぎてしまうこと。
それは―――もう、やめよう。
自分が自分らしく、思ったように動けばいいじゃないか。
リベルタが、キッと顔をあげたと同時だった。
先に出たのが……―――正義だった。
「オオォォォォォオオオオオオオオオ!!!!」
雄叫びをあげ、手首のスティグマータを光らせた彼が……呟く。
「“正義の秤にのっとり裁定を下す”」
「!」
アッシュとユエ、そしてジョーリィがその呪文に反応する。
「やばい、正義が……ッ」
ユエが構えを変える前に、ジョーリィが錬金術の盾を作りだす。
「ノヴァ、パーチェ、リベルタを庇え」
「え…?」
「!?」
ジョーリィが告げた言葉に、アッシュとユエが顔をあしかめたが考えてる余裕はないというように、前に出たのがパーチェ。
ノヴァも言われた通りリベルタを庇った。
「キエド・ア・ラ・ジュスティツィア」
放たれた言葉が甲板一帯に空から力を注がせる。
貫くようなその光、そして痛みを伴う力に、リベルタを庇ったノヴァとパーチェが叫びを上げた。
「あぁああああッ…」
「ぐあぁぁああ!!!」
「ノヴァ!パーチェ!」
リベルタが後ろに追いやられ、自分の身を庇った2人を見つめる。
そして力はそこだけには及ぶはずもなく。
「お嬢様ッッ!!!」
「ルカちゃんッ!」
「デビト!ダンテ!!!」
甲板全体を包み、光の雨を降らせる。
「クソッ…」
アッシュがかわしながら、元凶であるヨシュアのもとに行かなければと思っていたが、1人で防ぎつつ前に進むのはかなり難航した。
「ヨシュアァァァァア!!!!」
アッシュが叫んでいる間にも、雨がやむことはない。
デビトやダンテ、骸骨と乱戦していた彼らにもその力が届く。
ジョーリィが盾を作りながら耐えるが……。
「ぐっ……この力は防ぎきれるものではない…ッ」
「これが世界と共に島を守って来たといわれる“レガーロの剣”か……ッ!」
使われる力はどんどん強くなりフェリチータを捕えた。
「お嬢……ッ!!」
「オーラコンドゥシャン・レターニタ……ッ!」
ユエが身近な一帯の時を止め、前に出ようとしていた時のことだ。
フェリチータを守るのであれば、前へは進めない。
力を使う方向を変えなければと判断したが、それをカバーしたのが……
「ルカ……ッ!」
「ぐぁ…」
「(アルカナ能力で中和する気……!?)」
フェリチータを抱きしめて力を使うルカに、ユエが顔を歪めた。
この莫大な力を持つものが中和だけで防ぎきれるとは、思えない。
だが…
「ユエ……ッ」
「!」
「アッシュと共に……ヨシュアを……ッ!」
「っ…―――」
「アナタの力……“吊るし人”なら彼の元まで、アッシュと共に行けるはずです…ッ!」
「ルカ……ッ」
「お嬢様は…ッ、私がお守りします…!!!」
フェリチータがルカの腕の中で、“やめて!!”と叫んでいる…。
「この剣がアルカナ能力だと言うのなら、私の全身全霊を使って……中和してみせますッ!!!」
「ルカ……!!!」
「イル・バッチョ……デッランジェーロ…!!!!」
パァン!!と現れた光はルカの節制の能力。
翡翠色の力が、全身を持ってフェリチータといる一帯を輝きに包む。
「――……わかった」
ルカの覚悟を見て、ユエは迷いをそこで捨て彼を信じた。
一心に、アッシュのもとまで駆け抜ける。