18. 許さないと誓う

夢小説設定

この小説の夢小説設定
第12のカードの宿主




自分が海に落ちた時、誰かが迎えに来てくれた。


その人の顔を確認する前に意識が飛んだことは覚えている。
そしてその相手に必死に縋ろうとして掴んだ金属質な何か。


それがネクタイピンで、自分のポケットに紛れこんだことが…誰があの場に来たのかを訴えていた。



「ごめんなさい……」



このまま廊下に行き、あまりにも勝手な彼女を置いて、デビトが帰ってこなくなってしまう気がした。
ひどい言葉を吐き捨て、責める言葉を吐き出さない彼にユエの心がズキンズキンと痛みを叫ぶ。



「ごめん、デビト……っ」


「……」



腕を背から回して彼の腰あたりにしがみつけば、デビトは間を取ってから振り返ってくれた。



ユエ



緩やかな、でもどこか速さを見せた動きで振り返った彼に抱きしめられた。





18. 許さないと誓う





「デビト……」



胸に押しやられ、収納されれば彼の匂いに安心したのは否めなかった。
身長差があるのでちょうどユエの背はデビトの肩辺りになる。


無言でそのまま右手で髪を下から撫ぜられれば、黙るしかなかった。



「罪作りな女だなァ」


「ごめん……」



彼の腕の中で、ユエもデビトの背に手を回した
切なくデビトが笑った直後少しだけ体を反らし、ユエの頬をつねる彼。



「んぐぅ……」


「反省しやがれ」


「むぅ」



その行為には強制的に上を向くしかなくて、前髪を下ろしたままの彼と目が合う。


にィと笑っているデビトの表情が、幼少期とかぶりユエが目を微かに見開いた。



「ったく。お前自分がシニョリーナだって自覚ないだろォ」


「う…うるしゃい……っ」



放してっとその指に手をかければ、デビトが更に笑う。



「ルカが落ち込んでたゼ」


「?」


「叩いたから」



あ……と、ユエは今デビトにつねられていない方の頬がルカに叩かれた時の感触を思い出していることに気付く。



「でも、ルカは間違ってない……」



放された頬を押さえて、ユエが零した。
デビトがそのまま表情を変えずに静かに見下ろす。



「あたしは……アッシュとヨシュアを助けたい」


「…」


「ちゃんとそう言えばよかったのに、何も言わずに……」


「ンまァ、生きてりゃァ他人に言いたくねェことの1つや2はあるさ」



気にすんな、と言うような態度でもう1度扉に向き合ったデビトに、ユエが顔をあげた。



「ダメだよ……」



即座に、言葉が出た。



「そんな簡単に許さないで」


「は?」


「だって……っ」



あんなひどい言葉を浴びせて、デビトの表情を一瞬変えた。
ユエが先程言い放った言葉は彼を少なからず傷つけたはずだ。



「ひどいこと言った自覚がある……。そんな簡単に許さないで…」


「…」



俯いて小さく零す、ユエの姿にデビトが目を瞬かせた。



デビトはそこで悟る。
ユエの12年間は楽しい、幸せなものであったとしても……―――。



「あァ」


「!」


「許さねェよ」



デビトが声音も、表情も変えず、普段会話をする時と同じペースで放った。



「でも、俺が悪くなかったとも言えねェしな」


「デビト…」



そこでデビトが、ユエを正面から優しく抱きしめた。



「お前にとってどんな12年だった……?」


「…っ」


「少しは……俺を想ってたか?」



耳元で囁かれた言葉に頭はぐらりと揺らぎ、そして顔に熱が集中する。



「なァンで、俺は覚えてないんだ……」


「え…?」


「ルカじゃなくて俺だったら……」



小さく呟かれる言葉が、耳元であるのにどうしてもわからなかった。


いつもと様子が違う彼に、ユエがもぞもぞと動き始めると、デビトがユエを抱えベッドに戻っていく。



「で、デビト……っ」


「るせーな」



そのままポンッとベッドに戻されれば、自然な流れで押し倒された。



「寝ろ」


「ね、寝ろって……」


「俺にひどいこと言ったって自覚があるなら、少しは言うこと聞け」



そう言われてしまえば、言い返すことが出来ず。
真上にある顔から逸らすように横を向いた。



「…」



するとデビトがそのまま、上から覆いかぶさりユエを寝ながら抱きしめる。


密着され、触られる行為が今日は多い。
ユエが惑い、目を堅く閉じた。



「辛かったな」



今度はちゃんと聞きとれた。
瞬時にぱちっと目を開ければ、デビトが目を伏せて切ない表情を浮かべている。



「逆だったら……辛い」



デビトが小さく吐き出した言葉。
ユエが過した12年がどれだけ幸せで、楽しいものだったとしても。


自分達を想ってくれていたことを、デビトは知っていた。


デビトだけではない。


ルカもパーチェも、理解している。


1人、歩いてきた道でユエに手を差し出したのがアッシュならば……―――。



「休んだら探そうゼ」


「え?」



デビトから吐かれた言葉が、ユエの心をぎゅうっと締め付けていた。


そこに告げられたのは更に意味が深いもの。



「助けたいんだろ?タロッコ盗んだガキを」


「……うん」



お互い横になりながら、目を合わせればどこか不思議な感覚だった。


懐かしさと、戸惑いと、そして恥ずかしさ。


デビトが、目の前にあるユエの唇に指を這わせた。



「!」



指先が唇に触れたことで、ピクッとユエが反応する。


暗闇でごまかせている所もあるが顔が赤いのはバレバレだった。



「……ユエ



顔が赤くなっても、こんな状況で初な行動や動きを彼女は見せない。
それは……―――慣れているとは違うが、免疫がある証拠だった。


ということは、必然的に経験があるということだろう。
想像しただけで…デビトの心がチクリと刺激された。



「デビ…―――」



ユエから名前を呼び掛けられた所を、デビトは自身の唇で塞いでやった。
重なるキスは、これで何度目だろう。


その度に、デビトは自覚する。
きっと12年前もユエを想っていたことを。


忘れてしまったこと。
思い出すことは、きっと出来ない。
だが心が感じるのだ。


ユエを求める心が。



「〜〜〜……っ、デビト!」



トンッと押し返されて、デビトとユエに距離が出来る。



「…っ」



脅えいたり、怖いという意味ではなさそうだ。


ただ、“何故?”という顔をしている。



「な、なんで……」



ユエの顔がみるみる赤くなる。
もっかい噛みついてやろうかとも思ったが、デビトはそこで口角をあげた。


いや、安心したというのが正しいのか。


初めて……動揺し、“免疫がない”姿が見えたのだ。


1/2ページ
スキ