16. 自由であれ
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アッシュが1人、自室まで戻って来た所で、虫唾が走るのを噛み殺す。
抑えるような表情で舌打ちをかました。
待っていたユエは元の位置へ戻り、アッシュと対立してしまったと悟る。
ユエがアルカナファミリアにいるということはやはり捨てられたも同然ではないか。とアッシュは思ったのだ。
「ユエ………ッ」
心が、彼女を求める。
想い続け、恋い焦がれ、大事にしてきた家族の1人……―――。
この気持ちの行き場がない。
ヨシュアがもし元に戻ることがなければ、本当に1人になってしまう。
それは……―――
16. 自由であれ
ノヴァに連れられたユエは、先程ルカから平手打ちを喰らった廊下まで戻ろうと足を進めていた時だ。
「!」
カシャン……カシャン……と不気味な音が、その場に響き始めた。
「この音は……」
「陽が沈んだんだよ」
「夜になって動き出せるようになったのか」
前方からやってくる音と気配に、2人は武器を構えた。
「フェルとリベルタも大丈夫かな……」
「あのバカもファミリーの一員だ。確かに心配ではあるが、フェリチータに“運命の輪”を使わせるような失態はしないだろう」
「……」
「それに、お前も釘をさしたんだ。リベルタを信じろ」
「……うん」
その言葉を最後に2人は踏み切り、骸骨の群れを掻き分ける。
ルカ達が居るであろう…先程の廊下を目指した……。
◇◆◇◆◇
時刻は少し遡り、最下部へ落とされてしまったリベルタとフェリチータ。
「いってー……」
「…っ」
「お嬢、だいじょうぶか?」
「うん……。リベルタは?」
「あぁ……まぁ、なんとか」
そこは船倉の1つであるようで、埃臭さが鼻につき、目の働きが鈍る暗さであった。
「ここは……」
「船倉、みたいだな」
リベルタがきょろきょろ見回しながら、自分達が落ちてきた上を見上げる。
「けっこー落ちたな……。上の割れた床があんなに小さい」
「みんなの所に戻らないと……。せっかく合流できたのに」
「そうだな。あ、お嬢!あれ!」
リベルタが指差した方には、ちょっと歪んだ扉が1つ。
「とりあえず、ここを出ようぜ」
「そうだね。他には何にもないみたいだし……」
フェリチータも確認で辺りを見たが、書物のみであり、さすがにこの埃まみれの部屋には常備されているリンゴもなかった。
立ち上がり、扉に手をかけたリベルタ。
やはり素直に開くことはなかったが、何度か踏ん張れば扉が負けを認め、道を差し出した。
「っと……。お、マシな道に出たな」
勢い余って飛び出したリベルタだったが、そこが先程まで見ていたのと同じ仕様の普通の廊下であり安心する。
「よし。んじゃ階段探して戻ろうぜ!もうすぐ夜になるだろうし」
「夜……。また骸骨たちが……」
「そうだろうな。昨日、一昨日とこの船に来てから現れるし、今日に限り現れないってのはないだろうな」
「…」
フェリチータが少し息を飲む。
また奴らと対面しなければならないとは。
「お嬢!だいじょうぶだって!」
リベルタがぽんっ!と、フェリチータの背を押した。
「なんかあったら、俺がお嬢を守る!このスペランツァで!」
「リベルタ……」
「―――それに……」
【もし、またバラバラになることがあって、フェルと行動する場合があったら……“運命の輪”の発動は絶対に阻止して】
リベルタは、ユエが別れる前に言った言葉を思い返した。
「(ユエが真剣に頼んできた言葉……。絶対に守るんだ……!)」
意気込んでいたリベルタと、少しだけ彼と共に居ることで安心したフェリチータ。
そんな2人に、背後から近付き―――
「随分と上機嫌だな。何か収穫でもあったのか…?」
「!」
声をかけてきた人物がいた。
フェリチータとリベルタがビクッと肩を揺らし振りかえれば、そこにいたのは……―――
「ジョーリィ!」
「クックック…そんな化け物を見るような目で見ないでもらいたいね」
「そう思うなら後ろから脅かすなよ!」
「ジョーリィ…無事だったのね」
フェリチータが彼に声をかければ、ジョーリィは口角を少し上げ、笑った。
「ところでお前たちは何をしている。タロッコの探索は進んでいるのか?」
「え…まぁ、一応な。そうそう!さっきまでタロッコ盗んだ奴と戦ってて…」
「では、タロッコは取り戻せたのか?」
「いや…それはその…」
リベルタが、自分がここにいる理由を思い返し…口ごもった。
「クッ…その様子では、タロッコは取り戻せずに終わったようだな」
「で、でも!色々俺達だって頑張ったんだ!この船の乗客ってやつに会って、色々話したし!」
「乗客…?」
ジョーリィが会話を止めたのは、思いもよらぬ所だった。
「その乗客の話…詳しく聞かせろ」
「なんかあんのかよ?」
「…早く話せ」
「わかったよ、話せばいいんだろ」
相変わらず横暴だな…とリベルタが目を細めながら、口を切った。
「俺、ノヴァと一緒に船長室を調べに行ったんだ、そしたらそこにヨシュアって男の人がいて…。ルカくらいの年で、なんか貴族みたいな格好してた」
「ヨシュア?」
「…」
「お嬢も会ったのか?なんか、この船で息子を探す旅をしてるんだって。話してみたけど、いい奴だった!」
「ヨシュア…か。やはりな」
「なんか知ってるのか?あ、もしかして、ジョーリィの知り合い?」
「―――……聞き覚えのある名前だ」
「!」
ジョーリィは、先刻ユエから聞いていた話もあり、やはり間違いなく、ヨシュアがいることに確信を持った。
そしてフェリチータも…アッシュからの願いであった“ジョーリィに話を聞いてほしい”ということを思い出し、話に耳を傾ける。
「私の知り合いだった男の中に…、ヨシュアという人物がいる」
「なんで過去形なんだよ」
「…ヨシュアという男は以前、アルカナファミリアにいた。…その身に正義のタロッコを宿し、貴族のような風格をまとった男だ」
「その男だよ!そうそう、ヨシュアってそんな感じ!」
「………そしてヨシュアは…モンドの息子だ」
「パーパの…息子…!?」
「あぁ。モンドの息子……つまり、リベルタの父親だ」
「は…!?」
今度は、フェリチータではなく、リベルタが息を飲んだ。
「……でっ、でも!名前が同じなだけで、俺たちが会ったヨシュアは別人かもしれないし…それに俺の父親だったら、もっと年いってるはずじゃねぇの!?」
「いや…この船の特製を考えれば、あり得ないことではない」
「この船の特製…?」
「!」
フェリチータの脳内には、アッシュから聞いた“ヴァスチェロ・ファンタズマ号”のことが甦る…。
「死霊が…乗る船…」
「え…?」
「正義のタロッコを宿したまま、アルカナファミリアを去ったヨシュアという男…。奴は、未だ行方知れずだ」
「!」
「そして、館からタロッコが奪われ…それを追って乗り込んだ先に“ヨシュア”という名の乗客…。できすぎているとは思わないか?」