12. 背を向けて、対峙をして
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交わした約束がある。
「アッシュ、もう涙を流すのはやめろ。お前も、いい年だろう?」
「うっ……うぅ……」
「泣いてる暇があったら、俺にリンゴむいてくれよ」
「でも親父……俺が……俺が……っ」
それを、叶えるまで…
「なんだ、トラになれるなんてすごいじゃないか。なぁ?ユエ……ヨシュア」
「おじさん……」
「っ……」
「俺はお前が1年前にトラに変身する薬を作った時、これは天才だと思ったぞ?」
―――叶えるまで。
「あぁ、アッシュ。君は稀に見る才能の持ち主だと思うよ」
「じゃ……その才能で……っ、俺が傷つけた親父を治す……ッ」
「治らないよ、アッシュ。このケガはもう治らない。遠くない日、俺の命は尽きるだろう」
「親父……やめてくれ……!」
この船を降りるわけにはいかない。
「だから、俺と約束をしてくれ。お前は俺の代わりにこの船の番人として、船の乗客を見守ると」
「…っ」
「お前がこうやって錬金術の腕前を磨いてきたのも、いつか自分がこの船を継ぐ時の為だろう?」
だから……
「動力炉の炎は、お前が燃やせる。ヨシュアもユエもお前の傍にいるから俺に心残りはないな」
「親父……俺の将来は……?」
「心配してないさ。お前には俺との約束を残した。ヨシュア……そしてユエが見届け人だ」
「おじさん……っ」
「随分と他力本願なことを……。私は死人ですがね」
こんなところで
「ヨシュア……お前に頼みがある」
ユエ……お前に、俺を止めてもらっちゃ
困るんだよ
あの日の約束を……
果たすために
12. 背を向け、対峙をして
「説明してもらおうかな」
バチバチと、停滞する稲妻が怒りを暴発させたように音を立てる。
目の前にいるのは、隻眼で銃を構えたスラッとした男。
だが、背後にいるのも全く同じ人間だ。
「アッシュ」
何が起きているのかは、ユエにだってわからない。
だが、この船の中でこんなことをして陥れようとしているのは1人だけだろう。
目の前で立ち尽くす“デビト”が目元を歪めた。
肯定だとユエが笑う。
「なァるほどなァ……」
仕方ないか……と、目の前のデビトが白い光を放った。
すると解放されたその中から出てきたのは……―――
「お前にはバレちまう、か」
背の高い、銀髪の髪の少年……口調もデビトのものから、きちんとアッシュ自身のものへと戻っている。
「あ、お前タロッコドロボウ!!」
リベルタがアッシュを指差して叫ぶ。
階段のもとにいたデビト、ルカ、パーチェもアッシュの姿を見て顔をしかめた。
「どうゆうことですか……っ」
「アイツ……どうして姿を変えられるの?」
パーチェとルカが口にした疑問。
まさしく、それは誰もが思っていたことだ。
「久しぶりだな、ユエ」
「アッシュ……」
ユエに関しては、目の前の男がどうしてデビトになったのかよりも、彼が何の目的で動いているのかが気になっていた。
「なるほどな……。お前は“家族”を捨てるのが得意だな」
「……」
「結局、元いた場所に戻ったわけだ」
アッシュが睨むようにして、ユエを見やった。
「アッシュ……」
ユエは黙ったままだったが、どうにか謝罪を述べようとフェリチータが前へ出たときだ。
「動くな、イチゴ頭」
「……っ」
しかし剣を引き抜いた彼が、半面だけ振り返り、フェリチータに告げる。
刀身を現した剣に、ノヴァとリベルタ、そして後方でデビトが銃を構えた。
多勢に無勢を気にせずに、アッシュは真っ直ぐにユエだけを捉えて話し続ける。
「ユエ、おまえを……信頼してた」
「…」
「だが、今はそれを後悔してる」
俯き、告げられたのは冷たい言葉だった。
「お前がこの船に乗らなければよかったとさえ思ってる」
デビトやルカ達は、自分達の知らない所でアッシュとユエの間で会話が成立していることに違和感を感じていた。
「随分と落ちぶれたな。巷で最強と言われた女が、たかが孤島の自警組織如きにおさまるなんて」
「……」
「―――なんとか言えよッッ!!!!」
どれだけ言葉を浴びせても、無反応なユエにアッシュがイライラを募らせた。
ユエは眉間を深く歪めたが、レガーロに戻り、そして手にした日々を思い返す。
「あたしは……―――船を降りたことも、レガーロでルペタを追ったことも、ファミリーに戻ったことも」
それは、断言できた。
「後悔はしてない」
全てに対して。
返って来た言葉が、アッシュは気に食わなかったのだろう。
彼が腕をかざした。
「ざけんなこのひょろチビッッ!!!」
「ユエ!!」
「アッシュ……」
投げられた錬金術の炎。
フェリチータが声をあげたが、ユエがフェノメナキネシスの力で炎を無効化し、切ない表情で彼を見やった。
「アッシュ……約束を果たすことと、他人を利用することをイコールにしないで!」
「るせえぇ!!」
もう1度投げやられた炎が、狭い通路の中に充満していく。
リベルタがフェリチータの前に出て、ノヴァも鞘から刀を抜き放った。
ルカが同じくして錬金術でアッシュの体制を崩そうとしたが…
「我、偉大なるウィル・インゲニオーススの力を解き放つ」
「!」
呟かれた言葉が、強力な力を放ってくることがわかった。
「ユエ……!」
咄嗟に、“あぶない!”とパーチェが後ろからユエの腕を引く。
「わ…ッ…、パーチェ!?」
「トラコーポ・スコンパリーレ」
「ラルモニア・デッラルーチェ!!」
間髪いれずに攻撃を繰り出したのは、彼女の幼馴染たち。
「ミラコロ・ディ・ナスチータ……ッ!!」
ルカの攻撃と全面的にぶつかり合ったアッシュの攻撃。
その間にデビトが姿を消し、彼に近付こうとしている。
ルカとぶつかり合った攻撃は破裂し、多少力の強かった方へと流れ込んだ。
そしてそれはたまたま……
「フェルッ!!」
「……っ!!」
フェリチータの方向へと飛んでいく。
「お嬢様ッ!!」
ルカが叫んだ時だ。
一番近くにいたリベルタが庇うかたちで彼女を背に送った。
が、流れ込んだ攻撃は彼らの足元へと衝撃を落とした。
「うああぁああ!!!」
「きゃぁぁあああ」
「リベルタ、フェリチータ!!」
リベルタとフェリチータがいた足場が崩れ、底抜け状態になる。
もちろん、2人は最下層部分へと落とされ、姿は全く見えなくなってしまった……。
「…っ」
仲間の離脱を見て、パーチェの腕を振りほどき、ユエは誰よりも前へと出る。
「クソがッ!!」
ルカに止められた攻撃に顔をしかめ、アッシュが第二波をを巻き起こした。