11. 見抜く想い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
時刻はいったい、何時を指示しているのだろうか。
体内時計はアテにならないが、それ以外に頼れる者がいなかった。
正確には隣にいるのだけれど、目の前で寝ているのだ。
「(よくよく考えれば、なんで当り前に添い寝してたんだろう……)」
起きあがり、身支度を簡単に整えて、部屋を出て行こうとした時。
ユエの隣で眠っていた彼に視線が行った。
無防備な姿で、猫っ毛の髪もそのままに眠る錬金ジジイと呼ばれる男。
「(まぁ……責められないか)」
彼のおかげで助かったユエがいることも事実だ。
部屋の外からは、骸骨の薄気味悪い音も聞こえなくなり、朝になったことは分かっていた。
ジョーリィを起こさないように静かに扉を開け放ち……部屋を出ていくことにした。
「―――………」
たぬき寝入り。というやつか。
直後に目を開き、動きのあった扉へと視線を向けながら……ジョーリィが起きあがる。
触れられていた片手は、まだ素肌を曝したままだった。
11. 見抜く想い
「あの部屋、開いてるぞ!」
「誰かいるのか!?」
廊下を駆け、船内捜査を続けていたリベルタとノヴァ。
夜が明けたので、大幅に動きを見せながら走り続け、1つの部屋を発見した。
その中にいたのが……
「お嬢!」
「フェリチータ……」
「リベルタ……ノヴァ……」
目を腫らして泣いていたフェリチータだった。
「な、なんで泣いてるんだよ!?」
「落ちついて事情を説明しろ……。リベルタ、お前もだ」
「落ちつけ?落ちつけだって!?なんでお前はそんなに落ちついてるんだよ!」
「はぁ……。うるさい。ほら、水を持ってきている。少し飲んで、気を静めろ」
ノヴァが寄り添い、差し出してきた筒をフェリチータが受けとる。
涙を拭いてから水を口にして、深呼吸をすれば気分が僅かに落ち着いた。
「で、どうしたんだ?」
リベルタが顔を覗きこみながら、フェリチータの背をさする。
意を決して……彼女は今までのことを話す決意をした。
「今まで、アッシュと一緒にいたんだけど……」
「アッシュ?」
「タロッコドロボウの兄ちゃんか?」
「う……うん」
リベルタから発せられた呼び名に頷いていいものかどうか迷ったが、今はそれどころではない。
「アッシュは……この船に乗っている、“ヨシュア”っていう家族を助けたくて……」
「ヨシュア!?」
「船長室にいた……」
「2人ともヨシュアを知ってるの?」
「あぁ、俺たちもヨシュアと会ったんだ!いい奴だよ!海の話わかるし!」
「リベルタ、話しが逸れている」
ノヴァに突っ込まれて路線を戻そうと、1度リベルタが黙った。
「ヨシュアは幽霊で……。普通の幽霊とは違うの。生前、タロッコと契約をしていたから、昼間も姿が見えて、白骨化したこともなかったんだって……」
「タロッコと契約!?」
リベルタとノヴァが顔を見合わせる。
「じゃ、じゃあ……アルカナファミリアの人間?」
「わからない……。それをジョーリィに確かめたいんだけれど……、その前に……」
「……その前に?」
「…」
「何かあったのか」
だから泣いていたのだろう。と2人は読んだ。
「アッシュの心の中に……ユエとヨシュアとの思い出が見えて……」
「ユエ?」
「ユエとアッシュは、知り合いなのか……?」
「わからない……。そこで私のアルカナ能力のことにアッシュが気付いて……色々言われたの……」
「なるほど。それが泣いていた原因か」
ノヴァが溜息をついて、立ち上がった。
「なんだよ、ムカつくよなー!!こっちの事情も知らないで言いたい放題!生まれながらにスティグマータがあったっていう俺たちの事情もわかってねーのに!」
リベルタがノヴァに続いて勢いよく立ちあがる。
「大体、俺らが能力持ってるのは、俺らのせいじゃないじゃん!」
「だがそれを言い始めたら、他の大アルカナにも言える者がいるだろう」
「わかってる!俺は一方的にお嬢を責めるのはおかしいって言いたいんだ!」
「それは……そうだな。だが、そのアッシュという男も不快な思いをしたのは確かだ」
2人が自分の代わりに繰り広げる会話をフェリチータは黙って聞いていた。
「んー……まぁ、いい気はしないかもしんねーけどさ。俺らを利用する事しか考えてないとことか、まずタロッコ盗むとことか、間違いだらけなのはそいつも変わんねーよな」
「だが、それとアルカナ能力の使い方は別問題だ」
「……っ」
フェリチータが罪悪感に捕らわれる。
わかってる。
それは、自分がいけないと自覚していた。
意志でなかったとしても、見えていたからといって……―――。
「以前僕は言ったはずだ。“他人の心を簡単に覗き見るな”と。浅はかな能力の使い方をしたことを反省するいい機会になったんじゃないのか?」
「ノヴァ……ッ」
リベルタが制止の声を飛ばしたが、彼はそのまま続けた。
「僕らは狭い島の、そう多くない人間の中で、理解を示す者に囲まれて生活している。それを当り前だと思わないことだ」
「うん……」
「なんつーか、そいつとノヴァって似てんじゃねぇの?」
「一緒にするな。アッシュという男はどう考えても視野が狭い。むしろお前に似ているはずだ!」
「んだとー!?」
始まるであろうケンカの前にフェリチータは胸に手をあてる。
見えた過去を、見てしまったこと。
そして彼に不快な思いをさせたこと。
それを全て……―――
「アッシュに謝りたい」
「!」
「お嬢……」
フェリチータの言葉に、リベルタとノヴァが視線を向け……頷く。
「そうだな。その方がいい」
「一緒に行こう、お嬢。俺、そいつのことは個人的に殴ってやりたい」
「リベルタ……」
「よし、行こうぜ!」
リベルタが廊下へと歩み出したのを見て、フェリチータも立ち上がる。
ノヴァもフェリチータを気にしつつ、共に同じペースで歩いてくれた。
「2人に会えて、よかった」
「え?」
「フェル……」
「ありがとう」
微笑んでやれば、2人の顔が少し赤くなっるのだった。
それからしばらく3人でアッシュを探し回り歩き続けたが、陽が高くなり……。
おそらく午後にさしかかった時点でも彼を見つけることはできなかった。
「オイオイ、全然みつからねーじゃん!」
「案外広い船だからな」
「自室にもいなかったし……」
休まず歩き続けた3人は既にへとへとだった。
廊下の角を曲がり、さらに暗い最下層部へと近付く階段が見えてきた。
が、ふとそこでノヴァが足を止める。
「ノヴァ?」
「待て」
「え?」
彼が“しっ”と指をたてて“黙れ”という意味を見せる。
波の音が聞こえるほど静かになった船内に……1つ、足音が聞こえた。
「誰か来る……」
「…っ」
「気を抜くな」
3人が武器を構えられるように、それぞれ手を添えた…。
「―――…」
相手も、自分達の存在に気付いたようで息を潜め、気配を消すような動きを見せてきた。
そして。
階段から、あがってきた人物の姿が見えた。
「!」