10. 孤独な魔術師
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アッシュが甲板へと出て行き、力を試すといっている間、フェリチータは他愛もないことをヨシュアと話していた。
が、アッシュがいつまで経っても戻ってこない。
もうすぐ夕刻である。
船内が闇と霧に包まれるのであれば、なるべく複数で行動した方がいいと思えたので余計に心配だ。
「アッシュ、戻ってこないね……」
「えぇ、そうですね……。様子を見に行きますか」
ヨシュアが船長室の扉に手をかけた時だ。
窓の向こうから、服を整えているアッシュが見えた……。
10. 孤独な魔術師
「アッシュ」
「ヨシュア」
陽が水平線の向こうに消えつつある中、アッシュは船長室から出てきたヨシュアとフェリチータの顔を見て、頭をあげた。
「どうでしたか?力は試せました?」
「あぁ」
アッシュが笑う。
甲板で力を試したこと。
―――そして彼は敢えてデビトやルカ、パーチェに会ったことを黙っていた。
「どんな力でしたか?」
「まぁ、そのうち見せてやるよ」
そう。
これが、彼がデビトに言い放った“好機”だったのだ。
とにかく無事でよかったと思ったフェリチータも微笑む。
そうしている間にも、完全に陽は海の向こうへと落ちていった。
「さて……とりあえず―――」
アッシュが水平線の向こうに向けていた視線をヨシュアに戻した時だった。
「ぐ…ぁ……うぅ……」
「ヨシュア、大丈夫……?」
自分自身を抱えて苦しみ初めたヨシュアに、フェリチータが手を貸す。
「バカ、イチゴ頭離れろ!!」
「え?」
「ぐぅぁぁぁぁぁぁあああ」
呻き声と共に、歪んだ光がヨシュアを包み、そして……―――
「陽が沈むとダメなのか……っ!」
「運命の輪……ほしい…」
「っ!」
ヨシュアがフェリチータの腕を弾き飛ばした。
「イチゴ頭!」
「っ……」
甲板の中心まで飛ばされたフェリチータ。
受け身はとれたので大きなケガはせずに済んだが、問題は……―――
「骸骨が……っ」
フェリチータが振り返れば、そこには大量の骸骨。
昨晩と同じように近寄ってきて、フェリチータへと襲いかかる。
「ヨシュアが操ってるのか……ッ」
アッシュが突破口を切り開きながら、フェリチータのもとまでやってきて、無理やり腕を引いて立たせた。
「運命の輪……ッ!」
「ヨシュア……」
「ヨシュアッ!!!」
斬りかかって来た彼の剣を、アッシュが止める。
その間にもフェリチータが蹴りを飛ばして骸骨を食い止めるが…―――。
「娘を……よこせぇぇぇ!!!!」
「なッ……」
強力な力で剣が弾かれた。
丸腰になったアッシュが、囲まれた骸骨の大群とヨシュアに舌打ちをかます。
「チッ…」
襲いかかってくる攻撃を、さきほどルカに崩されてしまった錬金術の盾で防ぐ。
「クソ…ッ、……オイ、走れるか!?」
「え……うんっ」
「なら来い!!この数相手じゃどうにもならねぇ!!」
アッシュが次に錬金術の攻撃を繰り出して、退路を切り開いた。
駆け抜けた彼の背中を追いかけて、フェリチータも置いて行かれないように懸命に走る。
ヨシュアを含めた骸骨達は……―――追いかけてくることは、なかった。
「はぁ……はぁ……」
「なんとか、撒いたな」
船室の1つの部屋に逃げ込んだ時、また別の方向から骸骨たちが近付いてくる音が聞こえていた。
それでもなんとか逃げ切れたことを確認し、部屋の扉に鍵をかけ仕掛けをつくる。
この部屋にもりんごは常備されていたので、食糧に困ることはなかったけれど……。
「どうやらヨシュアは完全に乗っ取られたみたいだな……」
「乗っ取られたって、タロッコに?」
「可能性は高い。夜になると、自我をタロッコに飲みこまれるなんて……」
―――聞いたことない。
ウィル・インゲニオーススの子孫であるので、タロッコについての基本的な情報は書物で手にしていた。
だが、こんな例は……―――。
「(アッシュ……)」
混沌を見せる彼の心。
いつかのユエと同じであると感じる。
そういえば彼はユエのことを知っている。
##NMAE1##はヨシュアとも認識があるのだろうか?
にしてもこの船自体に乗っている人間らしき人間は彼しか見たことがないが……。
「アッシュは寂しくない?」
「あぁ?なんだいきなり」
「ヨシュア以外に、この船に人影がないし……」
「……寂しい、ねぇ。いや、特にそうは思わない」
「……」
「寂しさよりも俺には優先すべきことがある。だから、俺はここにいる」
―――優先すべきこと。
ヨシュアのことでもあるし、そしてこの船のことでもあるだろう。
「この船には、うちの一族が守って来た本や道具が大量に積んである。それを継いでるんだ。寂しいなんて理由で簡単に降りる気はない」
「…」
「タロッコが戻って来た今、大量に乗客が増えることもないだろうし。ま、お前らアルカナファミリアが大量虐殺でもしない限りな」
「なっ……」
嫌味な言葉に、フェリチータがアッシュを睨む。
「はっ……せいぜい仲間にもその睨みを利かせているんだな。仮にお前がしないとしても、他の奴らはそうじゃないだろ?」
「そんなことない。アルカナファミリアは……」
反論をさせろ、と思ったがアッシュは興味ないという風にそっぽを向いた。
「まぁいいさ。この船が落ち着けば、俺もまた研究に没頭できる。ヨシュアも……」
「…?」
話の途中でアッシュが、フェリチータに向き直る。
アッシュが正面からフェリチータを見据えたので、頭に疑問がよぎった。
「それよりアイツはお前に向かって“運命の輪をほしい”と言っていた……。どうゆうことだ?」
「それは……私が宿してる、タロッコ」
「運命の輪か?」
こくり、と頷けばアッシュが目を細めた。
「タロッコと宿主の関係性を変えるカードなの」
「タロッコと宿主の関係性を変えるカード……ねぇ。今すぐにでも使ってほしい所だがそのカードにも“代償”とやらがあるんだろ?」
頭のいい彼は、先程話したことを既に理解し、飲みこんでいた。
「すぐ使えっていえる代物じゃねーな……。ったく、いい迷惑だ、アルカナファミリア」
「…」
「俺はこの船にタロッコを戻せればよかっただけなのによ」
責められるような言い方をされては、言い返す言葉もない。
フェリチータが俯き、考え込む……。
「私にできること……」
「タロッコの知識はないんだろ?じゃあ外に骸骨がうろうろしている今、お前にできることはない」
「そう、だね……ごめんなさい」
「……はぁ」
溜息を思わず零さずにはいられなかった。