甘さ控えめ純白クリーム
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「んじゃ、なまえ!オレ戻るな!」
「うん。頑張って」
「オウ!」
レガーロ島はシエスタ時を迎えていた。
お昼時を過ぎて、リベルタといつものように諜報部の船からリストランテに昼食を取りに行った、その帰り道での出来事だ。
自分は館に戻るので彼に手をあげて挨拶をする。
その時にちょっと気を抜いてしまったまま、リベルタの方へ指先を向けた。
すると……―――
「へ?」
「やばっ…!」
気を抜いていたことが間違いであることは分かっていた。
フェノメナキネシス。
この体質のせいで、自然の力を操らなければならないのは常になのである。
リベルタに向けた指先が水力を操る指示だと判断され、海から大量の海水が彼目がけてダイブして来た。
なんとかリベルタを助けようとしたが…
「……」
「……」
リベルタの元までなまえが駆け付けると同時に、海水は2人頭へと降り注いだ。
あぁいい加減、このフェノメナキネシスという体質を切り離したいと思ったのは生まれてこの方、何百回目だろうか。
「ごめん、リベルタ……」
びしょ濡れになった2人を、目撃した島民は少なくなかった。
◇◆◇◆◇
「~♪~♪」
鼻歌を歌いながら、バスルームを掃除する男が1人。
長いデッキブラシを持ち、ジャッポネの“カンジ”と呼ばれる字体で“男湯”の空間を掃除していたのは、他でもないルカだった。
今日の彼はいつもの帽子とスーツ姿ではなく、裸足でズボンを何度か折り、そして上着はシャツだけで仕事をしていた。
メイド3人が買い物にどうしても行きたいということから、代わりに仕事を買って出たわけだが、思いのほか彼は楽しんでいるらしい。
「ふぅ。こんなもんですかね」
では、男湯は完了です。と呟き、次は女湯へ移動しようとバケツとデッキブラシをそのまま担いで廊下を渡り、隣へ移動した時だ。
「あれ?」
目の前から歩いてくる人物が目に入った。
「なまえ?……って、えぇぇぇえ!?」
ルカの姿を確認して立ち止まったなまえがいつかの嵐の日と同じように、びしょ濡れで帰って来たからだ。
「ちょ、なまえ!今日は晴れてますよ!?」
「うん、知ってる」
「レガーロ晴れです!濡れる要素なんてありません!」
「うん、わかってる」
「じゃあ、どうして……」
「わかってるってばっ!」
なまえの強めの返事を聞き、怒るというより嘆きの意味で返された言葉に、ルカは掃除している暇ではないと緊急性を感じる。
再び女湯のバスルームでお湯を沸かし始めた。
「とりあえずそのままでは、風邪をひかれてしまいます。お湯を沸かしますから……!」
「……」
ルカの横を素通りし、濡れたまま部屋へ戻ろうとした彼女を今度は逃がさずにルカが留める。
「部屋には戻らず、ここで待っててください!」
ガシャン!と、ルカが持っていたバケツとデッキブラシをなまえに渡し、ルカが急いでバスルームに入っていった。
「……」
1人、廊下に残されたなまえが渡されたブラシとバケツを見つめながら、顔をしかめる。
「……ルカ、似合ってたな。あの格好」
先程の彼の格好を思い出し、笑みを見せたなまえは今日はそのまま言われた通りに、彼を待ち続けた。
―――それから間もなく湯船が溜まったとかで、なまえは強制的にお風呂に入れられることになる。
「今日は覗かないでよ」
「覗……!?」
前回のここでのやり取りを思い出して、ルカが瞬時に赤面する。
今日は上着を着てたので、下着が透けたりなどもなかったが、思い出しただけでこの反応のルカときたら……となまえが項垂れた。
「こ、この前も覗いてません!!なまえがお風呂で“痛い”って叫ぶから…」
「言い訳しない」
冷たく言い放つなまえが髪をまとめて持っていた手持ちのピンで止めた。
いつもは曝されていない項が見えたことでルカが息を飲む。
「じゃ、じゃあ私は外にいますから!!」
慌てて出て行くルカに、なまえは
「リベルタと同レベルなんじゃない……ルカ」
と零してしまった。
これがデビトと同じレベルでも、パーチェのようなゴールデンレトリバーのような積極的な天然でも困るが。
こんなキャラがファミリーにいてもおもしろいか。となまえは思いながら湯船の元までやってきた。
が…
「……」
浴室に入れば、再び目の前で渦巻き始めた水に、顔をしかめる。
フェノメナキネシス。
自然に干渉し、色々なものを操れる権利を得た力。
便利であることに間違いはないが、必要ないものでもある。
そして何より自分が扱うことが苦手だったのは―――水だった。
「(制止がうまくいかなくなってる……)」
溜息をついて、湯船に足を入れる。
そのまま膝を抱え込んで、額を膝に乗せて小さく丸まってしまうのであった……。
一方のルカはブラシとバケツを抱えたまま、あわあわしながら彼女を待っていた。
今回はデビトやパーチェがここを通ることはまずないだろう。
真っ赤になってしまった顔の熱が引くことなく、既に30分。
ふとそこで気付いた。
あまりにもなまえが出てくるのが遅い。
「遅いですね、なまえ……」
どうするべきか。
扉をノックしてみるべきか…。
迷って彼は、押し留まった。
するとようやく扉の向こうから湯船で温まったなまえが現れる。
「なまえ。湯加減いかがでしたか?」
「……」
「……なまえ?」
視線が床を捕えたまま、あがってこない。
オマケに自分の声にも反応がない。
しかも髪は濡れたまま、だらだらと水滴を零していた。
「なまえ、髪が……―――」
そこまで言いかけて、ルカが言葉を止める。
なまえの表情があまりにも硬くて、切なかったからだ。
「……ルカ」
「はい……」
「フェノメナキネシスって……なんなんだろう」
タオルを掴んでいたなまえの手から、それが零れ落ちる。
ルカが思わず息を止めた。
「なんのために……」
―――彼女がここに来た時から、“それ”に悩まされていたのは知っていた。
なまえが、視線をルカの方へとあげる頃。
彼は扉を開け放ち、なまえが出てきたばかりの扉の向こうへと彼女を押し戻した。