落ち、る
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カジノの前を帰宅路に選んだのが…間違いだった。
「デビトさん、また来てもいーい?」
「あーん、私もー!」
「あーぁ、もちろん。俺はいつでも待ってるゼ?」
「きゃぁぁ」
「………………。」
ちょうどカジノから出てきたドレス姿の女性が2人、そしてそれを見送る……デビトの姿があった。
「デビトさん、好きーっ!」
「ちょっと抜け駆けしないでよっ!」
「ハッ、嫉妬に駆られて放つ言葉は美しくねーよォ…シニョリーナ」
しなやかな動きで2人の女性の顎を捕え、至近距離で見つめ合うデビトたち。
女性の目はハートになっているのが、これだけ距離が離れていてもわかってしまった。
あたしの目は節穴じゃない。
いくら恋沙汰に疎いとか、避けてきた道とか多少あるけど、それくらいわかる。
そうしているうちにデビトは女性を見送り、カジノの入り口へと戻って来た。
真正面だ。
バッタリ、図らずとも目が合う。
「……」
「お、なんだなまえじゃねーか」
別に彼の行動にケチをつける権利は、あたしにはない。
彼女なわけでもないし、ただの同じファミリーなのだ。
「遊びに来たのかァ?」
「違う」
視線を逸らし、結構険しい表情で言い返してしまった。
「なァンだよ、ご機嫌ナナメか?」
先程の女性たちと同じようにあたしの顎に指をかけようとしたので、間髪いれずに弾いてやった。
「…っと」
「このエロリスト」
キッ、と睨みを利かせて言い返せば、デビトは“~♪”とつきそうに口笛であたしを讃えた。
「可憐だねェ」
「カジノに来る富豪の女と一緒にすんな」
「なんだ、おまえも嫉妬か?」
「違う!」
「言い方が“はい、図星です”になってんゼ?なまえ」
「…っ」
的を射ていたので、言い返せないところがあった。
「誰がアンタなんかに……っ」
「俺にはオチねーって?」
「あ、当り前でしょ……ッ」
「ふぅーん。なら、試してみるか?」
「はぁ?」
デビトがそのまま手を強引に引いて歩き出す。
「ちょっ……ちょっと!」
「オチねーんだったら、オトすしかねェな」
「え?なに?」
最後の囁きは、小さすぎて聞きとることが出来なかった。
そのまま引かれて、力ずくで連れてこられてしまったのは、カジノの店内だった。
「で、デビト!」
放してっ!と告げると同時に彼があたしを前に引っ張り、店のカウンター……金貨のメンバーがいる前に突き出した。
「わぁ……ッ」
「ジェルミ、ヴィットリオ、レナート」
「はい、カポっ」
「あれ、なまえさん?」
「俺ァ、今から一仕事してくる。あと頼んだぞ」
「はぁ!?一仕事ってなんだよ……ッ!」
文句を浴びせようと腕を振り払いたかったのだが、彼に掴まれた手首はびくともしない。
痛くはないが、悔しい。
細いくせに力があるなんて、性別は誰が授けるんだコノヤロウ。
「カポ、どちらへ?」
「あぁ?野暮なこと聞くな、レナート」
デビトが今度は素早く、未だに暴れていたあたしの腰をエスコートして、踵を返し始めた。
「男と女ァでやるこたァ、1つだろ?」
「!?」
デビトの言葉に、瞬時によぎったのは淫らな行為。
やばい、止めなければと本気の抵抗を始めたが、それも無駄。
そう言われるように、デビトに押しやられカジノの出口へと差し向けられてしまった。
「な、なにする気ッ!?」
「なにって……ナンだろうなァ?」
「調子に……」
手がダメなら、脚で……―――。
フェルが使う足技と同じような体制で、彼の腰を狙った。
「乗るなッ!」
「おっと……」
が、かわされてしまった。
代わりに解放されたのでいいとしよう。
「ったく、おまえ自分がシニョリーナだって自覚あるのかァ?」
「デビトにどうこう言われる筋合いないッ!」
「なァーに勘違いしてるんだか知らねーが」
解放されたのだけれど、また近くに歩み寄られて、壁に迫られる。
「この俺様にときめかないなまえを……オトすための“仕事”だろォ?」
「職権乱用ッ!いますぐ部下に謝って戻ってッ!」
「ヒャハハッ……俺ァおまえみたいに真面目にゃァなれねーよ」
さぁ、行くぞ。と壁に追いやられていた体制から放たれ、彼は前を歩き始める。
「来いよ、なまえ」
「…」
「ときめかないならただの散歩と同じだろ?」
「散歩……」
「だったらなァーんにも、問題ないよなァ?」
半面振り返った彼が、笑う。
まるでギャンブルだ。
これは賭けだろう。
彼はこのゲームで、あたしをオトす勢いで何かを仕掛けてくる。
「望むところ」
ムッとして言い返せば、レガーロ1のギャンブラーが笑った。
負けるつもりなんてないっ!
あたしは、あたしは……っ!
「(こんなエロリストに……ときめいてたまるもんかッ!)」
◇◆◇◆◇
「まァずデートっつったら、ドルチェだよな」
「デビト甘いもの嫌いでしょ」
「隣にお前がいるなら、なァーんも問題ねぇな」
「……」
内心“どっからその歯が浮くような言葉が出てくるんだ”と思いながら、彼が選んだ店内へ進む。
こじゃれた喫茶店で、ジョーリィやパーチェが好んで選ぶ店とはまた違う空気。
こんなシックなドルチェの店が、このレガーロにあったのか……とついつい目を移してしまう。
「なまえ」
1番奥のカウンターと、備え付けられたソファーの席にデビトが腰を下ろし、その隣を意味ありげにポンポン、と叩いている。
「来いよ」
「……」
一体、なにがどうなってこうなったのか……考えながら顔をしかめる。
あたしはただ館に帰ろうとして、カジノの前をたまたま通っただけなのに。
「ふん……」
なるべく距離を取りつつ、隣に腰かけた。
隙間はあるものの、満足そうに彼が微笑む。
「そこで笑ってくれりゃァ完璧なのによォ」
「う、うるさい……。なんであたしが、アンタのために笑わなきゃならないんだ」
「言ってくれるねェ、ツンデレ姫さま」
「デレてないッ!」
「まぁそうだな」
しれっとかわされる言葉の数々が、彼が上手であることを示していた。
……悔しい。
「で。どれにするんだ?」
差し出されたメニュー。
可愛い絵柄と一緒に、オシャレな名前がつけられており、どれにするかも迷う。
「生クリームがかかってねーのは、コレと……コレだな」
「え?」
「キライだろ?生クリーム」
「……」
何で知ってんの?という顔でつい、見返してしまった。
「ほら、早く決めな」
だが、ふいっと一瞬合った瞳はすぐに逸らされる。
……ちょっとだけ、違和感を覚えた。
「じゃ、じゃあ……これ」
生憎、彼が指差したものの中に自分がいつも好んで食べているドルチェがあったのでそれを指名した。
「シャンドゥーヤのタルトか」
「…」
生クリームは、キライというより、苦手だ。
食べた後、胸やけしてしまうくらいの甘さが。
だが、チョコは好きだ。
だから選んだのだけれど……。
彼の顔を見やれば、何故だか楽しそうに笑みを浮かべて頬杖ついていた。
「……?」