また、ぜんぶが輝き出す日
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その日の予報は雨だった。
どこにも行かないのが得策だったのだけれど、気分が部屋でじっとしていたいというものではなかった。
がやがやと、人の賑やかな声で溢れる町。
レガーロは曇りであったとしても、人々の心はレガーロ晴れ。
その中に……―――自分だけが溶け込めない。
どうしても今の自分は、憂鬱な気持ちを晴らすことができなかった。
「あ、そこのねーちゃん!魚、見て行かないか!?」
「……」
「新鮮なのが入ってるよ!」
「いや、大丈夫です」
町を行けばその格好からか、またはその容姿からか。背に取りつけた鎖鎌の珍しさからか。人々に声をかけられた。
だが、それも冷たくあしらって……町を抜け港の方へとでていく。
この辺りはいつもスリ犯や恐喝集団を追いかけるために駆け抜けた。
こんなにゆっくりと歩き、街を眺めるのはここに帰還してから初めてかもしれない。
キラキラと輝く白い外壁の町。
今の自分にはなんて似合わないんだ。
安らぎと、穏やかさと……温かい居場所。
それは間違いなく与えられたものであったが、認められずにいた。
自分は、誰かのために生きてきた。
だからこそ誰かのためでなく……自分のために生きて。と言われたことに柄にもなく戸惑ってしまった。
親友を想い、そして助けるためにこの12年、ずっと。
結論、立ち尽くしていたのだ。
果たしてしまったのだ。
生きてきた意味を、目的を。
アルカナファミリアに残ったのは、それはそれでよかったのだけれど……。
「このまま……」
抜けがらのような自分で生きて行くのか。
それはなんてつまらない人生なのだろう。
ただ眠り、起きて歩き、そして眠る。
楽しみも、味気のない毎日とどう向き合えばいいのか。
つまらなさすぎる。
―――気付いたら、親友と約束を交わした丘にやってきていた。
見えるのは海と、港、そして市場。
その向こうにあるのは灰色の空。
「このまま終わっても……」
―――いい。
こんな立ち尽くしている自分が、まずイヤだった。
だからといって、何か目的を見つけることもできない。
なまえが空を見上げると同時に、先に泣いたのは空だった。
頬に冷たい感覚。
髪が濡れて、頬を通り過ぎ、着ている衣服をも濡らす。
なにが悲しいのかわからないが、大泣きであり、それが納まるにはもうしばらく時間がかかりそうだった。
「泣けたら、楽になるわけ……?」
自嘲するように、泣いている相手に呟く。
「泣けないあたしが、言うことじゃないか……」
泣く勇気すらない自分がそんなこと言えない。
しばらくそこに腰を下ろし膝を抱え、小さくなっていた。
同じ人生をつまらない毎日を繰り返すことは……どれだけの苦痛か。
いっそ殺してほしい。
願いが叶うこともなく、自分がしたいこともなくて。
心から笑えることも、誰かに全力で頼りたいと思う事もなくて……。
雨と一緒に、頬から水滴が滴ればよかったのに……―――
「オイ」
私を攻撃する湿度が止んだ。
反応が遅れる。
「オイ、なまえ」
真横に、気配。
抱えていた膝から頭をあげれば、そこには……
「なァに拗ねてるンだ?」
「デビト……」
「あ、なまえー!」
「こんな所にいたんですか!風邪引きますよ!」
草むらの向こうから駆けてくる帽子の男と、メガネの男。
それぞれカラフルな傘をさしながら、こちらへ手を振っている。
「ってなまえびしょ濡れじゃん!!」
「午後からは天気が崩れるって言ってたじゃないですか!」
帽子が風で飛ばされないように手で押さえながら、なまえとデビトがしゃがんでいた所にルカとパーチェもやってくる。
「ルカ……パーチェ……」
「もぉ、なにしてんのさぁ!今日は一緒に館でまったりしようって言ったのに~」
「なまえのために焼いたビスコッティが冷めてしまいますよ」
「その前にパーチェに食われてるだろーが」
「そうです!なまえ、パーチェを叱ってください!」
3人分の傘に囲まれ、ザアザア振りの雨から守られる。
びしょ濡れのまま、1人1人を見つめた……。
「ほら、帰りますよ?早くお湯を沸かさないと、明日になって体調が悪くなるかもしれませんし」
「オレも温かいショコラテが飲みたーい」
「そんな甘いもン、よく飲めるなァ」
「そんなことないよ?ルカちゃーん、デビトの分も作ってあげてね」
「いーや、俺ァいらねーよ」
「その前にどーして私がショコラテ作ることになってるんですか!今はなまえのためのお風呂の話をしているんですッ!」
ぎゃーぎゃー騒ぎながら立ち上がり、ルカはもう急いで館の方へと踵を返し始めている。
お風呂を沸かそうと急いでくれている彼の姿は、優しさに満ち溢れていた。
「―――……っ」
「じゃあオレが作るからいーよ!ルカのケチ」
「ケチって…!」
「オレがなまえのために、特製ショコラテを作るから!帰ろう?」
パーチェがほらほら!と手招きをしながら前を行き始める。
「なまえはショコラテ飲みてーなんて、一言も言ってねーぜ……って聞きやしねェ」
最後まで寄り添って、傘で守ってくれていたのはあたしのことを覚えていないはずの幼馴染。
「……ん?」
濡れてぺちゃんこになった前髪をかきわけて、優しく微笑んでくれる彼。
その光景を見て、ルカとパーチェが振り返りながら足を止めていた。
「なァーに泣きそうな顔してンだァ?」
「…っ」
「なんかあったか?」
「デビト……」
答えが……見つからなかった。
だって、何もない。
それなのに迷っている自分がいて……。
情けなくて……。
「泣く場所くらい……やるゼ?」
肩が震えてしまった。
触れられた手が、優しい。
頬を撫ぜて、目から零れ落ちた涙を拾ってくれた指先が……幼いころと同じで。
「デビト……っ」
あぁ……よくわかった。
目的がないことが怖いのもあるが、何より……。
「あぁ……。ここにいる」
今のあたしを、認めてくれるかどうかが不安だった。
「ちゃァーンと……おまえを見てる」
抱きしめられる前に、抱きついて。
背を撫でられれば、“君が泣くなら、僕は泣きやむね”というように雨が止む。
「だいじょうぶだ」
1つ1つの声が、優しい。
きちんと、あたしに届いている…。
そう、伝えたい。
「デビトばっかり、ずるーい」
「そーですよ。私たちの幼馴染なんですから」
先を行っていたルカとパーチェが、泣きだしたなまえを見て、戻って来た。
デビトの腕の中で泣きじゃくっていた少女を、心配というよりも安心させるように笑みをみせている。
「なまえ、泣きたい時は泣いてください」
「そうそう!オレたちがいるからさっ」
デビトの胸から顔をあげて、腫れた目で2人を見上げれば懐かしい面影を見せる笑顔。
「……っ」
立ちあがって、2人にも抱きついた。
「ありがとう……っ!」
何が苦しいとかじゃないんだ。
どうしてとかじゃないんだ。
ただ、ただ。
「ありがとう……!」
“あたし”を、認めてほしかった。
夢が、目的が、希望がないことも。
それも不安の1つだけれど。
「(あたしを……見つけてくれた……っ)」
きちんと見てもらえてる……。
存在がここにあることが、伝わっていた。
それが何より、今のなまえには…嬉しくて仕方なかった。
また、ぜんぶが
輝きだす日
輝きだす日
一番、自分がしあわせだった時に戻れなくても、何度でも思い出す。
みんながあたしを想ってくれる日を。
会いに来てくれる日を。
声をかけてくれる日を。
そして、迎えに来てくれる日を。
ならあたしは、みんなのために頑張る。
ここでもらった優しさと、想いに応えるために。
「デビト、ルカ、パーチェ」
雨が止んで、陽が射した。
光と水の関係で、空の向こうに虹が現れる……。
「はい」
「んー?」
「あぁ?」
「だいすき」
泣いてから、人は強くなれる。
涙を流さずに強くなる者などいない。
そして思う。
支えてくれた者への、大きな愛と、それを返したいと思う心からの愛を。
*
追い立ちは最強ヒロインだけれど。
中身は、わたし。笑
5万hit、本当にありがとうございます。
やりたいこともなく、夢は破れ、
もう1度一歩踏み出す勇気もなく、
誰かの前で泣くことさえ、自分のプライドが許さない。
仕事へ行き、帰って眠る。そしてまた仕事へ。
そんなつまんない人生を変えたのは、
このサイトと、アルカナファミリア、
そして…ここに会いに来てくれる皆様です。
自殺願望すら持ったわたしを立ち直らせたのは
たった1つの乙女ゲームと、
もう1度書きたいと思い、挑んだ挑戦に
答えてくれた皆さまです。
1人で何かに立ち向かうこともなく、
ただ立ち止まり悩んでいた所へ…
なまえを探して、迎えに来てくれる幼馴染。
雨から傘で守られたなまえは、
みなさまからのコメントで救われた、わたし。
本当に、いつもありがとうございます。
祝5万hitということで書かせていただきました。
次の短編は、キリ番で5万をいただいた
葵さまのキリリクになります。
お楽しみに。
2012.09.19