Buon Anno !
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「ジャッポネ風の新年?」
「そう!マンマからの意見を聞いてさ、やろうよ!ジャッポネ風の新年会!」
「……」
どこのどいつだ。この子たちにそんなことを吹き込んだのは。間違いなく面倒臭いことになる。こんなにも目を輝かせて、自室にやってきた彼女たちを見たのは初めてだ。
パーパから頼まれた特殊任務を終え、レガーロに帰還したのはつい先程のこと。
さぁ、寝るか。と思い床につきつつあったなまえがそう感じてしまったのは否めない。
「ね、いいでしょなまえ~!なまえがやる!って言ってくれないと参加人数不足だからできないわよってマンマに言われてるんだよ!」
「絶対楽しくなるってぇ!だからさ、そんな難しい顔してないでやろうよ!」
近いほどにズン!と寄せられる瞳。
紫色と胡桃色。2つともくりっとしていて大きい。真っ直ぐ未来を見つめるような瞳は、逸らすことを憚れる。
気まずくなって眉を寄せつつも視線で応えたが、彼女たち……--イルマとリリアは気付かなかったようだ。
「……アンナはなんて答えたの?」
それは微かなレスキューの合図。
扉を開けたところに構えたイルマとリリアの壁を越えて、奥で笑っているアンナに尋ねてやる。あんたはどう答えたんだ。まさか、賛成。なんてことはないよな?という意味を込めて。
「2人共楽しみにしてるみたいだし、あたしはやってもいいかなって」
「……」
「ちなみに、先にリアとニーナにもきちんと同意を得てますっ」
「マジか……」
読みは見事にはずれることになる。
まさか、アンナも賛成していたなんて。
おまけにイルマから出てきた言葉。リアもニーナにもきちんと許可をとり、断れない空気を醸し出してから乗り込んできているとは。
「もうさ、多数決ってことでいいんじゃないかな?なまえもいいでしょ?」
「あたしまだ何も言ってないんだけど」
「いいじゃんいいじゃん♪リリさんが、なまえちゃんにとって憂鬱なお正月を楽しくしてあげるからね♪」
「あたしの正月はいつから憂鬱だと決まってるわけ?」
「そうそう!例えデビトがカジノでどんちゃん騒ぎして、帰ってこれないとしても、あたしらがいるじゃないか!」
「いやいや、帰ってきてるから」
「いつも通りのお正月なんてつまんなーい!ね、いいでしょー!?なまえちゃーん!」
「リリア、なまえにも予定があったんじゃないの?そんな言い方しなくても……」
半ば強引に、同意の方向で話を終わらせようとしているリリアに、助け舟を出してくれるアンナ。
にこにこ笑顔のまま頭の後ろで腕を組んでいるイルマ。
部屋に来た3人と、その話題。廊下に流れる鼻の奥を刺激する冬の匂い。
ようやくそこで気付く。あぁ、もう今年も終わりか、と。
ここはレガーロ島の自警組織。アルカナ・ファミリアの館。
それは、新年を目前にした12月30日の夜。
部屋にやってきたイルマ、アンナ、リリアから持ちかけられた提案が始まりだった。
マンマの意見でジャッポネ風のお正月を迎えたいと意見するイルマとリリアを筆頭に、どうやら話は進んでいるらしい。
どうしても来る来年、1月1日はジャッポネ風のお正月を過ごしたい、と。
言われて困ったのが、ジャッポネ風のお正月をなまえは知らなかった。
もちろん、マンマの意見をもとにして再現されるのは理解しているが、どうにも不安だ。無茶振りをされないかどうかが。
「ジャッポネ風のお正月って、何するわけ?」
ストレートに、一番気になるところを聞いてやった。
イルマとリリアが目をぱちくりさせ、瞬きを数回する。どうやら2人もちゃんとは知らないらしい。楽しくなりそうだから、という理由でやりたいのだろう。
後ろにいたアンナが踏み出して、こちらに歩み寄りながら答えてくれた。
「ジャッポネの風習に則ってお正月を過ごすの。具体的にはお雑煮や、お餅を食べたり、おせち料理……。カルチョの代わりに羽根つきや凧揚げをしてもいいと思う」
「さすが、詳しいね」
「といっても、あたしもそこまで詳しくはわからないけどね」
「とにかくとにかく!」
ばたばた!と腕を大きく振り上げながら、リリアが小さい体で主張する。
なまえは彼女のそんな姿を一歩さがって見つめた。
「そのおせちってやつも、お雑煮ってやつも、お餅も何もかも美味しそうでしょ?」
「カルチョの代わりに羽根つきってのも楽しそうだしさぁ」
「と、いうことで来るお正月をジャッポネ風に過ごしてみるのはどうかな?なまえ」
うまい具合でまとめてきた……と思いながら、なまえは3人の顔を見つめる。
ここまで揃えて尋ねられると、なんとも断りにくい空気。
もとより断ろうと思った理由に「ジャッポネ風でお正月をしたくない」、「みんなと過ごしたくない」なんてことはこれっぽっちもなかった。
ただ、大丈夫かな?という不安だけ。
--……それもおそらく、杞憂に終わるだろうが。
「……わかった。参加する」
「やった!」
「やったぁ!ありがとうなまえちゃん!」
「……ありがとね、なまえ」
本当に3人が喜んだ顔をするので、なまえは一抹の不安よりも、心が温かくなったことに気付いた。彼女たちにはかなわない。
そうと決まったのならば、1月1日が楽しみである。
「じゃあ、あたしたちはジャッポネのお正月準備に取り掛かるから!」
「なまえちゃんはデビトとイチャイチャしてて!あっ、でもベッド軋ませすぎたらダメだよー!」
「リリア、なんてデリカシーないことを……」
「大丈夫、もう慣れたから……」
決まったのならば、それぞれの動きは早かった。
豪速球で踵を返し、マンマの部屋へ向かったイルマとリリア。
リリアから残された言葉に、なまえとアンナがお互いに顔を真っ赤にし、冷静に言葉を返す。
やがて見えなくなった2人に、アンナは小さくため息をついて後を追った。
「じゃあ、あたしも行くね。なまえ、ゆっくりしてた時間に邪魔してごめんね」
「平気。ブォナノッテ、アンナ」
「ブォナノッテ、なまえ」
そのまま元気よくかけていくアンナの背中も見送って。
なまえの12月30日は幕を閉じた。
―――明けた12月31日も、穏やかな年末だった。
カジノからどんちゃん騒ぎで帰ってこないかもしれない、なんて思っていたデビトもきちんと館に帰宅した。
その後は、ファミリー全員での夕食。
リリアとパーチェのカップルが相変わらずの調子であり、イルマとアッシュもいつも通りだった。
隠密の関係で夕食に間に合わなかったニーナを待ちぼうけ、紅茶をこぼしたルカと、それを心配するアンナ。リベルタはニーナの予定をダンテに聞いて首をかしげていた。
リアはまだ調べ物と--おそらく、彼女もジャッポネ風の正月の準備をしているからか--マンマの補佐として仕事が残っているらしく、早々に食堂をあとにしていた。
デビトとなまえもいつも通り。
食事を終わらせて、食後の紅茶を飲み干せば、あとはゆっくりと新年を待つだけだった。
食堂にいつまでいても仕方ないので、なまえとデビトは連れ立って中庭まで移動していた。
見上げた星、頬を刺す温度。脚が出ているスカートではニーハイとの間の素肌が寒い。
マフラーやブランケットの防寒具を持って来ればよかったな、なんて思いながら黙り込めば、伸びてきた指先も冷たかった。
「寒いか?」
「ううん、まだこれくらいなら平気」
「そういやァ、明日の正月に向けてイルマとリリアが何か準備してたなァ?」
「ジャッポネ風のお正月にしたいんだってさ。なんか色々趣向を凝らしてくれてるみたい」
「へェ。そりャ明日が楽しみだな」
少し意外だった。
デビトのような者が、楽しみにしているだなんて。
目を丸くしてしまったのが伝わったのか、鼻を軽くつねられた。
「なに」
「ハッ……なまえ、お前はいい家族をもったかもな」
「むぅ……んっ、どうゆうこと?」
「……そのうちわかるさ」
「?」
曖昧な答え。聞いてもはぐらかされ、答えが返ってこないのは長年の付き合いから予測ができる。しつこくしても仕方ない。
何も言わずに、そのままでいてやれば、ちょうど年明けを告げる鐘が鳴った。
少しだけ、館の中もざわわ、と騒がしくなったのが感じ取れる。
誰しもが新年がきて、喜んでいるのだろう。
「年が明けたね」と告げようとして、デビトを見上げた時。
降ってきたのは言葉ではなく、唇に伝わる温度だったので声が出せなかった。
可愛い音をたてて離れたそれ、にやり、と満足そうに笑う相手に用意していた会話は何も言えなくなる。
「今年もよろしくな、なまえ」
「……なんかずるい」
「はァ?何がだよ。特殊任務で頑張ってたお前へのご褒美みたいなモンだろ」
「……ありがと」
「そーそ。素直に甘えとけって」
「……、今年もよろしくお願いします。デビト」
レガーロのどこかで花火が上がっている。
ドンドン、と音をたてて盛り上がる様が容易に想像できた。
新年を祝うその音が耳に語りかける中、館での夜は過ぎていった……―――。
―――……年が明けてから、どれくらいの時間が経過しただろうか。
夜明けはまだだ。恐らく4時間くらい経っただろう。
心地よく一眠りしていたなまえの耳に、微かに金属が擦れた音が響く。
空気が伝えてくる振動。肌で感じられる気配。
ハッとして目を覚ました。
「……?」
新年早々、館に誰かが侵入してくるなんてことはないだろう。
お祝い時だ、そこは空気を読んでほしい。
間一髪のところで隣の部屋主は起きなかったらしく、なまえはそっと布団から出てみた。
よく見たらきちんと閉めたはずのドアが開きかけている。
その隙間、わずかに開いた闇の中からこちらを手招きしている者がいることに気がついた。
ちょいちょいっと、指をしなやかに曲げ、伸ばす。その動作は蝶が飛び立つ様のように無駄に美しい。
一体、夜明けの前の訪問者は誰だ、と目を擦ればにっこり笑顔のイルマが。
「やっほー!ブォナンノ、なまえ。よく眠れた?」
「ブォナンノ。眠れてたところだけど……どうしたの?」
「いやいやぁ、邪魔をしにきたつもりはないんだよ。ただちょっと、デビトを喜ばせたくて、ね?」
「デビト?」
にこにこ笑顔のイルマの瞳に、なまえはただただ困惑する。
彼女が何かを企んでいるのはわかっていたけれど、その標的がデビトだということか?
自分の彼氏は寝起きが悪い。イルマが彼の被害に遭うのは些か気が乗らない。
とりあえず、何がしたいのかを聞いてみようと思い、続きを待つ。
「彼女が特殊任務で忙しくて我慢してたデビトの寂しい思いを、麗しい姿で癒したいと思わない?」
「はい……?」
「ということで、ちょっと来て来て!」
「ちょ、ちょっとイルマ……!」
確かに最近は珍しく、パーパからの特殊任務の命令が下っていた。
本来、こんなことをする役割ではないのだが、人手が足りなかったのか、はたまた任務に適した能力者がなまえだったからか。
後者の可能性が高いのだろうが、デビトが寂しがっていたのかどうかは正直わからない。
いつでも一緒にいる仲ではなかったし、お互い縛り付けられるのは御免被りたい。
だから、イルマからそんなことを匂わせる言葉が出てきたのには驚いた。
「どこ行くの?まだ夜明け前だよ」
「いいからいいから~!もう1月1日だよ。ジャッポネ風のお正月は始まってるんだって」
あぁ、そうゆうことか。
これは事前準備をした結果か。
ぐいぐい引っ張られる手はそのままに、連れられるままに先を行けば、よく知る部屋が見えてきた。
淡い明かりがついている。
ランプが灯すような優しい光源。
扉をくぐった先には、息を呑むような光景が広がっていた。
「あ、なまえちゃん!ブォナンノ!」
「ブォナンノ、なまえ。てっきり寝てるのかと思った」
「リリア、アンナ……その格好……!」