オレンジの彼方
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―――……ここへ来てから、どれくらいの月日が流れただろうか。
「あと1時間くらいね」
「ついに今年も終わりか~……」
再建にが進む日々。
目に見えて復興を辿る街。もとがどんな場所だったかは知らないけれど、間違いなくオリビオンは新しい一歩を着実に歩き出していた。
そんな場所で今、なまえは新しい年を迎えようとしている。
ナターレも無事に終わり、新年を迎え入れるまであと1時間。
このオリビオンで戦った年も、このオリビオンに戻ってきた年である今年も、終わりを迎える。
そして新しい1年を始めようとしているまさに今、この瞬間。
なぜか、なまえは実験室に篭って錬金術の特訓をしていた。
「だっめだ、全然うまくいかない……」
広間ではジジやファリベル、その他の守護団や大勢の城につかえるものが集まって、新年の支度や、今年の終わりを飾ろうと話を弾ませていた。
にも関わらず、他所からやってきた娘は実験室に篭って錬金術と向き合っているのか。
「今年中に使いこなせるようにするって決めたのに……」
全くうまく使えないもの。
錬金術を使わなくても、もちろん火も水も雷も、扱うこと自体はできる。錬金術の盾も出せるようになった。
だがしかし、火や水を扱えるようになっても錬金術の封印を解いたり、逆も然り何かを錬金術で封印することもできない。
アルカナ能力に頼ればいい部分はあるが、極力、ここにいる間はこの国の文化になれ親しみたかった。
だからこそ。
今年が終わる前に使えるようになりたかった、”相手の錬金術を解く”錬金術。
しかし、願いは潰えてしまいそうだ。どうにも間に合いそうにない。
「どうしよう……お腹すいてきた」
ぐるるぅ、と音を鳴らした腹を押さえ、ため息をついて椅子に腰掛ける。
目の前に置かれた多くの書物はどれも一人で真意を解読するには難しすぎた。
だからと言って、誰かに解読してもらい、答えを教えてもらいながら挑むのでは意味なんてない。
わかっているからこそ、どうにもできなかった。
そんな彼女のことを知ってか知らずか。
広間に現れないなまえを不思議に思ったのだろう。
実験室をノックする音。扉の前に足音と気配が2つ。
「なまえ、食事くらい摂ったらどうだい?みんな心配しているよ」
「なまえがいないって、ラディが広間で騒いでます。止めてください」
現れたのは、ウィルとコヨミ。
ウィルは来る気がしていたけれど、まさかコヨミも一緒にいるなんて思わなかったので驚いてしまった。
「ウィル……コヨミ……」
「あまり根を詰めてもうまくいかないよ。それに明日はヴォンアンノだ。今年最後の思い出を、錬金術だけで埋め尽くすつもりかい?」
「そう言われても……今年中に使えるようになるのが目標だったのに」
「とりあえず、ラディが探していて騒がしいんです。やるなら止めてからにしてもらえませんか」
相変わらずコヨミはなまえに手厳しい。
なまえの希望も物ともせず、いつもの調子で言いのけてくる。
まぁちょうど疲れと空腹を感じていたところだ。
仕方ない、一旦休憩にして、ラディを止めてから再開することにしよう。
重たい腰を持ち上げて、2人の顔を見てから実験室を出て行く。
残された書籍と、机の上に書かれた錬成陣だけが、なまえの背中を見送っていた。
これは、新しい1年に刻む、1つの絆の物語。
「あ!いたいた!なまえ~!」
談話室を抜けて、空中の渡り廊下。
さらに行った先に広間がある。
いつも使っている食堂とはまた違った雰囲気で立食回が行なわれている今、中心にはアルベルティーナ女王の姿があった。
「ラディ、暴れてたの?なんか苦情が来たんだけど……」
「暴れてなんてないよ!なまえが全然見当たらないから、どこにいるのか聞いて回ってたんだよ!」
「ごめん……。実験室で錬金術の勉強してた」
「もう!こんなお祝いムードの中で錬金術なんてしてても楽しくないじゃん!僕と一緒にケーキ食べよう?ね?」
どうやら相当心配して探し回ってくれたようで、ラディがなまえを見つけた瞬間、パァァと笑顔を咲かせたのがいやでもわかった。
隣にジジの姿がないことからして、ラディがジジからはぐれてしまったのかとも思ったが、おそらく別の理由だろう。
「はーい、そこのお兄サン?このワインはオリビオンの特注品でさァ?追加で別料金がかかるんだ。ってことで金出しな」
「そ、そんな!」
「ほら、いいから出せって!ほらほら!」
「(やっぱり……っていうかそれもうただのカツアゲ……)」
ラディがジジから離れた、というよりジジが金儲けのためにラディから離れた。というのが、やはり正しかったようだ。
相棒が金儲けに走り、止める者がいなくなったおかげでラディのなまえを探す行動が、そこら中から筒抜け状態になったわけだ。
「なまえはどのケーキにする?チーズケーキ?チョコ?ラズベリーも今ならまだ残ってるよ!」
「うーん、そうだな……ラズベリーがいいかも」
空きっ腹に最初からケーキというのもいただけなかったが、ラディの好意は無駄にしたくなかった。
ラディがケーキを取ってきてくれている間に、なまえは辺りを見回してみる。
これが、オリビオン流の新年を迎えるためのパーティ。
各国の偉い人たちも来ているようで、復興の一途を辿るオリビオンに祝福の声をかけている。
アルベルティーナは挨拶に追われ、側近としてついていたコズエわたわたしながらも奮闘しているのが伺えた。
手つきが危なっかしくて背中がひやひやしたが、コヨミが合流していたので何とかなりそうだ。
遅れてウィルもアルベルティーナの傍に向かっているのも見える。
どうやら、わざわざ忙しいところを抜け出してなまえを探しに来てくれたようだ。
「おぉ、これは女王。それに国王」
「陛下。わざわざ遠い所からお越しいただき、ありがとうございます」
「いやぁ、ここまで華やかにパーティを行えるほど復興しているとは。安心致しました」
「陛下を含め、隣国の支え合ってのオリビオンです。いつか必ず、我が国の錬金術の学び舎を設け、恩返しに勤しみたいと思っております」
「はっはっは。それは頼もしい。若い女王と若い国王だが、オリビオンの行く先に不安はないな。いいことだ」
どうやら隣国の国王が見えているらしく、ホールの真ん中でアルベルティーナとウィルがにこやかに対応をしている。
なんだか見ているのが切なくて、そのまま目を逸らして部屋に戻ってしまおうかとも考えた。
社交辞令なのは致し方ないが、こうゆうおべっかばかりを並べる席は好きではない。食事だけ済ませようと出てきたが、どうにも気分が沈んでしまった。
「あれだぜ、前にアルトが取り付けてきた食糧の支援してくれた国の王様」
「ジジ……」
「相当金持ってるんだろうな……。ま、感謝はしてるから恐喝しないでやるけどよ」
いつの間にかガッポリ稼いだコインの袋を胸につめて、隣に立っていたジジ。
奥の柱側からは、ラディがこれでもか!というくらいケーキを積んだ皿を両手いっぱいに持って走ってくるのが伺える。すごい量だ。
「で、お前いままでどこにいたわけ?」
「……錬金術を、ちょっと」
「こんな時にまだやってたのかよ?勿体ないぜ、年に1度しかないんだから羽くらい伸ばせよ」
「わかってるけど……」
「なまえー!ケーキ持ってきたよー!あと、チキンとサラダとねー」
「うお、ラディ、こいつと2人でそんな食えるのか……!?」
「え?ジジも食べたいの?」
「ちげーよ!!」
隣で繰り広げられる相棒同士の会話に、沈んでしまった心が少しだけ浮上してくる。やはり、彼らの傍にいれることはなまえにとって安らぎの時間のひとつであるようだ。
未だに2人が言い争いにもならない、くだらない会話で討論しているが気にも留めずになまえはふと、耳に届いた言葉に顔をあげた。
「それはいいとして、国王。あなたが可愛がっている娘さんは、今日はいないのですか?」
「え?……あぁ、リア達のことですか」
「いえいえ、守護団ではありません。もう1人……あなたが無条件でこの城に迎え入れた娘がいるでしょう?」
「……」
間違いなく、なまえのことだ。
自分自身でそう思った。
なまえがウィルの血縁者であることは、守護団を含め、事実を知っている者の中では国一の禁句にもなりつつある秘密だった。
だが、やはり噂はあがるだろう。実際、銀の紋章を巡る戦いでなまえが守護団や城に出入りすること、ウィルやアルベルティーナの近くにいることを不満に思う者もいた。多くのいやがらせも受けた。
やはり突然現れた者が、彼らの傍をうろついていれば嫌でも目につく。
隣国の国王がなまえの存在を知っていたとしても、何も言えなかった。
「その彼女……ウィル国王にとっては、どうゆう関係なのか。そしてどんな意図があったのかを知りたくてね」
「……」
「……」
時代を超えてきた巫女のことは言えない。
巫女とヴァロンの間に生まれた娘だとも言えない。姪と名乗らせるには、ウィルと年齢が12しか変わらないのだ。時間が合うわけもない。
今、とてもウィルを困らせていると痛感した。
「彼女は……」
「……」
「彼女は、僕の名もなき親友の娘です。親友が先の戦いで戦死し……」
「……--」
「彼女の身柄を私が保護したということです」
--この時点で、年があけるまであと数分というところまで差し掛かっていた。
ギャーギャーと楽しそうな声が聞こえる中、なまえの耳にはウィルが語る嘘しか入ってこない。
「なるほど。あなたほどの人が保護し、寵愛しているということは、彼女はとても有能な錬金術師ということかね。それはそれは……更にオリビオンの行く末は安泰だな」
「いえ、彼女は錬金術は……」
「おや。使えないのかね?」
「……あまり、得意ではないでしょう」
「そうなのか……。彼のウィル・インゲニオーススが寵愛する娘と聞き、錬金術にも長けていると思ったのだが……それは残念だ。ヴァロン殿が生きておれば、戦士という道もあったかもしれんが」
「ははは……。私は武術を教えるのは向いていませんからね……」
心に、何か重たいものがずっしりとのしかかった。
同時に、叔父の存在がどんなに立派であり、父の存在がどれだけでかいのかを改めて思い知った気がした。
「あ、年明けたね!」
「お、マジか」
「ジジ!なまえ!あけましておめでとう!」
「おめでとーさん」
「今年もよろしくね!2人とも!」
最悪な年明けだ。
こんな気持ちで迎えるならば、部屋で錬金術に没頭している方がマシだった。
だが、残り1時間であのザマならば、没頭しても、ウィルから得られる回答も、隣国の国王からの”残念”という言葉も、取り消せないだろう。
「なまえ?」
「え……?あぁ、今年もよろしくね」
「うん!今年もたっくさん、守護団として一緒に活動しようね!」
「今年は去年よりも更に金儲けできるように精進しないとな」
「もー!ジジってばそればっかり!」
ケラケラ笑う2人に、惑うなまえ。
今はただ、笑うしかなかった。
笑うことしか、できなかった。
「……」
そんな光景を、背後から見つめていたのは仏頂面で壁に寄りかかり、ウィルとアルベルティーナの護衛として見守っていたリアだった。
「なまえ……?」
今はもう普通に笑っているけれど、確実に顔色が曇った。
原因としてあるとしたら、今、少し先で会話された内容だろう。
「……めんどくさ」
そのまま無視してやろうかと悩んだが。
声をかけるタイミングもなく、任務中のリアと食事を済ませたなまえはすれ違うだけだった。
―――それから部屋に戻り、数時間に渡り錬金術を学んだが成果はなし。
直に夜明けを迎える時刻となるだろう。
広間ではまだどんちゃん騒ぎが行なわれているようだが、もうあそこに行く気はない。
実験室を出て、自室で眠ろうと扉を開けた時、目の前に見える光景に心を奪われた。
「もうすぐ夜明けか……」
小鳥のさえずり。海が近いことあって、さざ波の音。
空の色が変わる準備がみえる。
「……」
ファミリーと離れて、どんどん寂しさを感じる場面が増えている気がするのは、どうしてだろう。
これが独り立ちをした者が感じる寂しさと同じなら、少しは前に進めているのか。
無性に橋の向こうにある庭園に行きたくなって。
なまえはそのまま吹き抜けの窓から空中へと飛び出した。
少しだけ瞼が重い。霞む視界の中、屋根を伝い、どんどん城から降下して街へ出る。覚えた橋への近道を辿り、夜が完全に明ける前に庭園を目指そうと橋を駆け抜ける。
果てが遠く感じる。
もっと早く進みたいのに、海風に憚れてなかなかスピードが出ない。
ようやく橋の先へ着いた頃には、空が白くうっすら滲み出していた。
「間に合った……」
そのままゆっくりした歩調で、庭園の入口へ。
アーチ状になった草木の門を通り、相変わらず美しい水辺に腰掛る。
ヴァロンと巫女のために用意したリースを正面にして一心地ついた時。目を丸くしてしまった。
「リア!?」
「気付くの遅い」
リースが飾られた真下の木に寄りかかって腕を組み、こちらを見つめていたのはリア、その人。
まさかここにいるとは思わなくて、次いで出てくる言葉が浮かばない。
「あんた、結構わかりやすい思考してるよね」
「ど、どういう意味……」
「落ち込んだ、とか、傷ついた、とか。結構顔に出るし」
「……」
「それから、ここに来るだろうな、と読んだら本当に来るし」
「な……っ、それはリアが星の使い手で予知できるからでしょ……!」
「能力使ってないけど」
いつもの真顔であるリア。対応もいつも通り。
緊急時を抜いて、いつもリアに歩み寄ろうとしていたのはなまえだったからこそ、リアがこうして待ち伏せしてなまえに声をかけてくるのが珍しかった。
「……なに」
「は?」
「なんか用?リアがあたしに自ら絡んでくるなんて、前代未聞なんですが」
じとーっとした視線で見つめてやれば、リアは読めない視線を返していた。
「別に。何いまさらなことを気にしてるのかって思って」
「……何が」
「錬金術のこととか、ヴァロンの娘だって公表されないこととか」
「……」
「気にしてたらやってらんないでしょ。あんたの育った環境と、オリビオンが違うのは、どうにもできないことなんだから」
「わかってるそんなの」
「なら、いちいち落ち込まないで。見てて面倒だから」
「別に落ち込んでないし……見なくていい」
「目につくの」
「意味わかんない」
売り言葉に買い言葉のような会話だった。
だが、いつもより覇気のない声に、リアは視線を逸らして考える。
「……いいじゃない、別に誰がなんと言おうが」
「……」
「あんたはあんたでしょ」
「……わかってる、けど……」
「……」
最悪な新年になってしまった。
心のどこかでもう一人の自分がそう言う。まるで他人事のように。
そうもしてるうちに、空は色を変えていく。
夜明けとは逆方向を向いていたなまえも、色の変化に気づいていた。
白みがかった空に、オレンジと赤と、青と紫がどんどん混ざっていく。
薄く、長く伸びて、溶けていく。
境界線が合間な世界に、太陽が現れるまでもう少し。
「ねぇ」
「なに」
「手、出して」
「え?」
歩み寄ってきたリアが、なまえの手に向けて何かを差し出す。
筒になっている入れ物の蓋を、ぽん!といい音をたてて開けた彼女。出口をなまえの手に添えて、じゃらじゃらと筒を振って見せる。
「好きな色は?」
「色?」
「好きな色でなくてもいい。今の気分の色」
「気分……」
一体なんだかわからなかったが、とりあえず彼女の趣向にのってみる。
空がだんだんとオレンジ色のなり始めたので、なんとなく。
「……オレンジ」
聞き届けた彼女は、そのまま筒を傾けた。
ころん、と出てきたのは丸い丸いチョコレート。レガーロで売っているものとは違い、オリビオンのシンボルが印字されていた。
その色は。
「へぇ。幸先いいじゃん」
「……」
オレンジ。
なまえが口から出した色と同じだった。
「レガーロがどうだかは知らないけど、オリビオンで新年で1番最初に食べる甘いものはチョコレートなの。このシンボル入りのね」
「そ、そうなんだ……」
「で。出てくる色を予想して、見事に言い当てたらその年は幸福になれるって話。運だめしみたいなもんね」
「……オレンジ、」
「そ。あんたは見事に言い当てたから、今年はいい年になるんじゃない?去年は別として」
そのあと、リアが”青”と言ってチョコレートの筒を振って運を試していた。
近い色だったらしく、彼女の手には水色のチョコが1粒。
悪くはない、とぽつりと呟いたリアに、なまえは彼女とチョコを交互に見つめていた。
「それから、オリビオンでの新年の目玉は―――」
ぐいっと引っ張られ、庭園から橋の方まで連れて行かれる。
突然の行動に、足がふらついた。痛い!と腕を掴む強さにも文句を言ったがすぐに解放されることになる。
「なんといってもこれ」
腕を放された時、地響きのような音が足から伝わった。
オリビオンの方からであり、まっすぐ橋の向こう側に聳える王国を見やれば驚いたのも無理はない。
オレンジだった空がひっくり返るような、翠色の光。
花火よりももっと自由な火花があたりを駆け巡り、空の色を変えていく。
華やかで、美しい。そうとしか言いようのない光景。
リアの言葉も聞き取れないくらい、見惚れるような空だった。
「……すごい」
「5年ぶりの発動なんだけど」
「……––」
「あれも錬金術でね。新年を祝う……まぁショーみたいなもの?その年の初めての日の出の時にあがるわけ」
時間に合わせた錬金術なんだ、と説明してくれた。
あれも、自分が身につけたい”錬金術”といわれる能力の一部にあたるわけで。
素直に、凄いと思えた。
「あんなのできる錬金術師、私は一人しか知らない」
「……ウィル」
「……そんな錬金術師に”未熟だ”って言われるのは、仕方ないって思えば気が楽になるでしょ」
「……」
「他国の王なんて、どうでもいい。あんたが錬金術に長けてようが疎かろうが、城の上でどっしり構えてる能無しの王には関係ない」
食糧支援をしてくれたのに、そこまで言っていいものか?と思ったが、あくまで彼女は彼女らしく伝えてくれようとしている。
だから……。
「……あたし、才能ないんだなって思う。ウィルとか、リアとか、ファリベルを見てると」
「ヴァロンの娘でしょ、仕方なくない?あいつも錬金術は一切使えなかったけど。それに比べれば盾が出せるだけマシでしょ」
「頭も悪いから、錬金術の真意を理解しようにもおいつけないし」
「頭が悪いのは知ってる」
「うっ……」
「更にはオリビオンの常識がまだちゃんと根付いてないから、突拍子もないこと仕出かしたり、言ったりするしね」
「反省してます……」
「……でも、」
その時、横に並んでくれたリアを始めてちゃんと視界に収められた気がする。
コントラストの中、輝く太陽を見つめた彼女はあまりにも……強かった。
「でも、あんたにそんな事実を言うような奴がいたとしても、間違いなくあんたは努力家で」
「……っ」
「オリビオンを愛してくれているのも、私は知ってる」
「リア……」
「私は、あんたがヴァロンの娘だからって贔屓目で見てるわけじゃない」
まっすぐにぶつけられる視線。
紅色と、水色の対になる色。それは後に、支えてくれる色になる。
「あんただからだよ」
不安をぶち壊す言葉。励ましは確実に背中を押してくれた。
なにも言い返す気になれなくて、ただただ花火の雨を見つめていた。
「あんたなら、いつか使いこなせるって、信じてあげてもいいけど」
「……うん」
今はまだ、視線を落としたままでもいいか。
俯いた顔を上げる時、誰よりも笑顔で、前を見て進むから。
「信じてて」
花火の雨が止む頃、お互いに顔を見合わせて笑った。
滲んだ瞳は誤魔化しきれなくても、涙になる前に止められたから許してほしい。
「あけましておめでとう」
「……今年もよろしく。なまえ」
オレンジの彼方
2016.01.01
今年もよろしくお願いします♪
有輝