旧web拍手(薄桜鬼)
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あぁ、この人は不器用なんだな、とその時俺は本気で思った。
「お前を今から、俺達……新選組と接触することを禁じる……」
土方さんから出てきた言葉に俺の隣にいた女は目を見開き、そして息を飲む気配。
だが、次いで出てきた言葉を聞き届けて彼女―――なまえは即座に屯所を飛び出していった。
「その代わり、斎藤を支えてやってくれ」
「え……?」
「大っぴらには言えねえが、アイツは新選組の間者として御陵衛士に潜伏している」
「……っ」
「一が……」
「アイツぁ、確かに無表情の上に余計なことは話さねえ。忠誠心もあるし、間者としてはもってこいだ」
駈け出した先は、どこだったのか。
俺には皆目見当はつかないけれど、なまえは一の居場所が多分わかっているんだと思う。
それだけ想っているってとこか。
「だけどな、斎藤にだって心はある。顔に出ないだけで感じることがあるはずだ」
なまえの憧れは、一だ。
俺の憧れは、また別にいる。
なまえの憧れがどれだけの想いであって、どれだけ前に進ませてくれたのか―――俺は知っている。
「口下手で、痛いくらい真っ直ぐな斎藤だ。長く孤独な戦いに身を投じることがあいつであるのは安心な反面、斎藤だからこそ、不安がある」
「土方さん……」
「アイツの心の捌け口がきちんと出来るのか。とかな」
「……」
人と妖は別の生き物。道理も違う。
考えも、どんな事が正しいのかも。
だから人間の命令を受け入れるなんて笑われることもあるかもしれない。
でも俺はそれでいいと思った。
なまえは自分の心に添う答えを、きちんと見出して、歩いて行ったんだ。
一のもとに。
「なまえ、最初で最後の命令だ」
「―――はい」
「お前を今から、俺達…新選組と接触することを禁じる」
「……」
「その代わり、斎藤を支えてやってくれ」
「土方……さん」
「いいな……?」
真っ直ぐな紫の瞳が、俺の隣にいたなまえをとらえて。
「はいッ」
「……」
「副長の命令、しかとお受けいたします……!」
一度大きく頷いて、そいつは出て行った。
一連のやりとりを見届けながら、俺は閉じていた目を開ける。
散らかった書類だらけの部屋から、小窓を通して見える空を見つめて俺は筆を進める男に声をかけた。
「土方さんさ。不器用だって言われない?」
「……」
「鬼の仮面、かぶってるのも敢えてってとこだろ」
「烏丸。何が言いてえ」
「そのままの意味だよ」
問いかけてきた背から、殺気に似た厳しい空気を感じた。
でも不思議と怖くなくて。
鋭いことに変わりないのに、俺はその空気の中に滲んでいた優しさを思い知った気がしたからだ。
「優しいんだな」
「……」
「なまえの代わりに言わせてくれ。ありがとな」
「……俺ァな、昔から苦手なもんがあんだよ」
筆を止め、唐突に話しだした土方さんが振り返る。
俺の方に向きなおしてから立ち上がり、春の陽気を感じるために障子戸の傍に立った。
横から見ても綺麗な顔で、あぁこれだけ優しさを隠し通せるのならば、いっそ役者になればいいのに。と思ったのも事実。
そんなこと言ったら抜刀されてバッサリ斬られる気もしていたから、言わないけれど。
「何が苦手なんだ?」
「ああいう、眼だ」
「眼?」
「真っ直ぐで決して屈しない、ただひたすら信じ通すような……あの眼だ」
――……それは、わかる気がした。
アイツが成長する前から俺はなまえを知っている。
成長し、今の姿になった時は“本当に化けた”といい意味で思ったし、あんなに強さを秘めた眼をするとは……。
いや、よくよく考えれば視線が語る強さは昔からそうだったかもしれん。
「じゃあ何?土方さんは、なまえの目力に負けて一の傍に行くよう命じたわけか」
「ちげーよ。そうじゃねえ」
「じゃあ、なんだよ」
「あれだけの眼をするってことは、果たせると思ったからだ」
それもまた、わかる気がする。
なまえは必ずやり通してみせるだろう。
一がなまえを必要とするかは別としてだが。
「それになまえの眼には、アイツ自身の想いも宿ってるだろ」
「……」
「あれだけ一途なもんを見せられちゃ、俺としては折れるしかなかったんだよ」
新選組に口外できない秘密を、まさか隊士でもなく、人間でもない俺たちに言うなんて。
そしてその手の中に、妖の中で最強とされる白狐を治めてみせた。
「あんたも大物だけどな、俺からすれば」
まさかなまえを従えるなんて、さ。
「烏丸、この件は他言無用だ」
「わかってるさ」
「口外すれば、斬る」
「もし俺の口が滑ったら、ぜひともあんたの剣で串刺しにしてくれよ」
冗談めかして笑ってやれば、土方さんも俺に視線を向けて苦笑するのだった。
「あんたもさ。苦労人だよな」
そう告げれば、もっと笑われるしかなくて。
「うるせぇ」
「俺、土方さんのそーゆーとこ。嫌いじゃねぇよ」
あぁ、この人は不器用なんだなって。
でも、本当に優しい人なんだなって。
俺は本気で思ってしまった。
見送っていた彼の背中
( 不器用な優しさが滲んでいた )
*
いつか書きたいと思っていた、烏丸からの視点で戦火録の最終話。
エイプリールフールの嘘つくドッキリネタで持ってきました。短編にする予定だったので、ちょうどいいかな、と。
副長の優しさは、いつだって薄桜鬼に描かれていますよね。彼に揺らがない人ってなかなかいないような(笑)
拍手二本立てでお送りしました。
お約束はできませんが、月1で今後もどちらか更新していけたらと思っています。
2014.04.01 有輝