君がいない、6度目の誕生日
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「誕生日おめでとう」
ぶっきらぼうに差し出された両手の平の上には、長い棒きれが一本。
棒きれというには、どうも表現がおかしいけれども、それが何であるかは良く知っていた。
「なんだよ、これ」
「剣だ」
「そりゃ見ればわかるけど、誕生日にこんなの寄こす奴いるか!?」
「ダメか?」
「お前、誕生日って意味わかってんの?もっと華やかで煌びやかで、宝石の1つや2つ、3つや4つくらい用意するもんだぜ」
「…」
「または、その宝石を換金した分の金でもいいぜ!高くつくが」
半分は無理難題だとよく分かっていたけれど、目の前のふわふわな耳が困惑に揺れるのが見たかったんだ。
自分が渡したプレゼントが喜ばれていないと実感したようで、少しだけしょぼーんとしている親友に笑いが込み上げてくる。
「しかもこれ、鍔取れてんし」
「ガロ、お金ない。だから探してきた」
「おま…これ、拾いものかよ!?」
「ヴァロン様と一緒に探した。これ代物だと言っていた」
込み上げてきた笑いは、驚きにより一瞬でフッ飛んだ。
そりゃ、人狼にお金ってのも変な話であるのはわかっている。
彼らは王族の忠実な家来であり、決して身分としては高くは無い。
戦闘能力は高いけれど。
ヴァロンの下で世話になっている彼からしたら、お金を必要としたり、せびったりすること自体が無いのだ。
「代物なんだよな、本当に」
「ヴァロン様、そう言ってた」
「…」
俺としては、現金であることを望んでいるのはこの上ないけれど。
代物なら売れば高くつくはずだ。
鍔がついてないのが、ちょっと気がかりだが。
粘ればなんとかなるだろう。
「なら、それ貰ってやる!」
「……ジジ、お前これ売ろうとしてる」
「そ、そんなことねぇよ!」
「右に目が泳いだ。嘘ついてる」
「だから、違うって言ってるだろ!」
これが、親友と過した最後の誕生日。
15歳の誕生日。
この直後、オリビオンは襲撃を受け、ヴァロンとガロはここを去った。
それから、5回の誕生日を俺は親友を待ちながら1人で迎えることになる。
―――帰らずの狼。
奇しくも、6度目の誕生日を迎える前にアイツがどんな形で散ったのかを知ることになる。
待ち望んだ結果とはかけ離れた、切ないピリオドが果てには待っていた。
それでも、5回…アイツを待ちながら迎えた誕生日の悪夢を思えば、納得して飲み込めた。
「……嫌味なくらい、晴れてんな」
カーテンを閉め忘れた。
だから、目が覚めた時に射し込んできた光は、橋の向こうにある庭園を思わせた。
そのまま備え付けられているバルコニーに出てやれば、長き戦争と冷酷な仕打ちを受け続けつつも、終戦を迎えた俺の祖国が見渡せる。
平和を取り戻したオリビオンは、再建に尽力している。
瓦礫を片付け、前よりも良い国を作ろうとする動きに俺も賛成し、日々力を貢献しているつもりだ。
もちろん、タダ働きなんて言わせないけどな。
「……懐かしい夢だったな…」
ボサボサの髪、肌蹴たシャツのまま優しい光の中に立ってやれば、先程まで脳に焼き付いていた光景がうっすらと消えていく。
自嘲してしまった。
もはや、“懐かしい”と思えるほどになったのかと。
「…ガロ………」
最後の誕生日。
15歳の時に受け取った、鍔のない代物と呼ばれる剣は、今もまだ俺の腰にぶら下がっている。
ボロ刃と言われても過言ではないけれど、どうしても売る気にはなれなかった。
「……さぁて、と」
ボロ刃をぶら下げ始め、実に5年の月日が流れた。
その一周年の記念、隣にいてくれたのは11人の仲間。
親友の姿はなかった。
回数を積み重ね、月日は流れ…―――。
俺は今日、ガロがいない6度目の誕生日を迎える。
~ Happy Birthday Project ~
今日の作業は、東のブロックの瓦礫の撤去。
日差しもそれなりにあるし、気温も上がりそうだ。
体力勝負となりそうなので、朝食をしっかりとるために食堂までやって来た時だ。
「ジージッ!」
「うおっ」
まるでぴょーん!とでも効果音がつきそうな勢いで、背中に衝撃が飛んでくる。
このサイズでこの声は、ジジの身近に1人しかいない。
「おいラディ。朝からこの俺におぶられるとは、いい度胸だな。高くつくぞ」
「やだなぁ、僕は素直に“おめでとう”って気持ちを体で大きく表現してるだけだよ?」
「どうせ表現するなら金の山を大きく積み立ててくれ」
「もー、お金お金いってばっかり!」
背中にしがみ付きながら、ぷぅっと頬を膨らませる、さながら天使の相棒。
伝えられた次の言葉は、今から幾度となく聞くであろう言葉。
「ジジ、誕生日おめでとう!」
後ろから本当におんぶしてもらう形で顔を出したラディが、にっこりと微笑む。
さすがは玉乗りピエロといったところか。
バランスを上手に取りながら、大きな花束をジジの目の前に差し出した。
「この僕が、まさか男相手に花をあげる日が来るなんてね!感謝してね!」
「お前、去年も花だっただろうが」
「え?そうだっけ」
「花より金がいいって言っても全く聞く耳持たなかっただろ」
とりあえず受け取りながら、背中から降りるように促す。
地面に己の足で立ったラディは、再び頬を膨らませた。
「まーたそんなこと言ってる!あのね、ジジ!そろそろ花の1つや2つでも覚えて、綺麗なお姉さんにプレゼントしてもいいと思うよ?」
「興味ねぇ」
「興味ないじゃなくて!」
お小言なら、せめて別の日にしてくれよ。と小さく呟いたところでジジとラディの元へと更に賑やかなメンバーがやってきた。
「あら、騒ぐにはまだ早いんじゃない?パーティは夜でしょう?」
「あ!ファリベル!、エリカ、サクラ!」
「おはよー」
「おはよう」
3人そろってやって来たのは、13人のオリビオンの戦士…旧名称・守護団の3人娘。
エリカ、サクラ、ファリベルのコンビだ。
ファリベルは、今日の主役であるジジを見ながらクスっと優しく微笑んだ。
「まったく、主役なのに随分とだるそうね、ジジ」
「るせーな。別にいいだろ、ただ1つ年とるだけなんだし」
「幸せなことだろぉ、祝ってもらえるだけさぁ」
「サクラの言う通りだよ!今日はちゃんとケーキも焼いてあげるから!」
サクラもどこか気だるそうに欠伸をしながら、ジジに告げた。
エリカに関してはバースデーケーキを作る為にはりきっているように窺える。
当の本人は小さく溜息を零しながら、“どうでもいい”というように食堂の扉に手をかけた。
「ジジ」
だるそうに先へ行こうとするジジに、ファリベルがもう1度声をかけた。
それが合図とでもいうように、ファリベルとエリカ、サクラがそれぞれ優しい口調で差し出した。
「誕生日おめでとう」
「おめでとう、ジジ」
「ジジおめでとうっ!夜は期待しててね!」
両腕でガッツポーズとつくるエリカ。
今日はどこかリボンもはりきっているように窺えて、少しだけ口角が上がってしまった。
「ほどほどにな」
要するに、騒ぐ理由がほしいんだろ。なんて思いながらジジは自分の席へと腰を下ろす。
最近は復興へと力を本格的に入れ始めたのもあり、正直働き詰めで疲れているのは誰もに当て嵌まること。
そんな折に迎えたジジの誕生日。
これを理由に、楽しい思いをしたいというのはわからなくもないことだ。
好きなようにさせてやろう、と思ってしまったのは甘いだろうか。
「(俺の誕生日を口実にしてるわけだし…どうせならきっかけとして料金請求しとくべきか?)」
冷静に考えながらも、目の前に置かれていた目玉焼きとサラダをフォークでつつく。
隣の席と斜め前の席では、未だに夜のメニューやら騒ぐためのミニゲームをどうするか考えているようだ。
ぎゃあぎゃあ騒ぎ続ける4人はそのままにしておいた。
「(とりあえず、今日は東エリアの瓦礫撤去を手伝って報酬を貰い…それから庭園に……)」
と、ふけっていた所で目の前に影。
顔をあげると、これまた別のメンバーが3人。
「ジジ、誕生日おめでとう」
「シノブ、ウタラ…」
顔をあげた先にいたのは、シノブとウタラ。
そして…―――
「やぁね、あんなに小さかったジィジがもう21だなんて…」
「アロイス、朝っぱらからケンカ売ってんのか?その呼び方やめろ」
綺麗なネイルを施した指先でジジの頬をつつきながら、背後から抱きしめてくるのは間違いなくオカ……ではなく、心が乙女のアロイスであろう。
「あらやだ、人がお祝いの言葉を手向けてるのに“ケンカ売ってるのか?”だなんて」
「ラディといいお前まで…。離れろ、暑苦しい、金とるぞコラ」
そんな光景を見つめながら、シノブが優しく笑みを浮かべた。
「今日の夜は、ジジの誕生日ってことで賑やかになりそうだね。例年よりも」
「だろーな。戦争も終結して、廻国もなくなったことだし華やかにパァーッと騒ぐんじゃねぇの?」
シノブの言葉にウタラが待ち遠しいというように、表情を緩める。
なんだ、コイツらもか。なんて思いつつ、どうもジジも少しばかり笑みが零れてしまう。
そんなこんなで夜のことを考えギャアギャア騒ぎながらも、朝食を終えて戦士たちはそれぞれの持ち場へと動き出すのであった。
「ったく、どいつもこいつも…」
自分の周りにいるメンバーは、どれも特殊な奴が多いとは思っているが、一度何かをしだすと収集がつかないというのが1つの難点である。
わりかし常識人の部類に含まれるジジは、意外と苦労人であることを知っているのは数少ない人物であろう。
東のエリアへ足を運ぶため、城の最東端から出ていこうと角を曲がった時だ。
「…」
「…」
「…」
「何だよ」
まるで待ち伏せでもしていたかのように現れた気配。
壁に背をつけ、目を伏せているけれど、確実に用があるようだ。
深いネイビーの髪が、風通しのいい廊下のせいで揺らいだ。
「なんか用か?アルト」
ジジがめんどくさそうにして尋ねれば、伏せられていた瞳が上がる。
どこか目を逸らすようにしている彼は、まだ口を開かない。
エメラルドグリーンの瞳には、いつものような真っ直ぐな視線が無かった。
「用がないなら行くぜ?今日は行きたいとこがあるから忙しいんだ」
「…」
「じゃあ「ジジ」
別れの挨拶をかわそうとした刹那、惑っていたアルトが口を開いた。
ジジは呼ばれたのでさすがに足を止め、振り返る。
アルトは決したように小さく口を開いた。
が…
「ジジ、誕じょ「アールトくーん!」
「…」
背後から更にやってきた声で、アルトが一大決心して言おうとしていた言葉が遮られてしまった。
瞬間、アルトの眉間に静かにシワが寄せられたのは言うまでもない。
こんなことをするのは、ただ1人。
「あっれー?ジジくんも一緒だー」
「イオン…貴様…」
「えー?アルトくん、なんで怒ってるのー?」
イオンの相変わらずの緩い感じはいつも通りだが、珍しかったのは一緒にいた相手だった。
「ジジ、アンタ東のエリア担当だろ?行かなくていいのか?」
「リア」
イオンとリアで一緒にいるのは、確かに珍しいな。なんて思いながらも、彼女の言葉にハッとした。
「そだ、やべ俺行くわ」
「あ、そーだジジくーん」
リアが告げた言葉に、集合時間間近であることを思い知る。
足を踏み出し、再びイオンに止められたので半面だけ振り返った。
瞬間、向けられる銃口。
「っ!」
さすがに全身の命令が止まった。
リアとアルトは、彼が何を言い出すか理解していたみたいで、止めに入ることはなかった。
「お誕生日、おーめでとーう」
「…」
「って、おれとエトワールからね」
カチャッと音を立てて、向けられていた銃口がイオンの額の位置まで戻る。
ぺろっと舌を出して“驚いてびびっちゃったー?”なんて聞いてくるイオンに、カチンっときたのは伏せておこう。
アルトは“先に言われた”という表情を隠せずに悔しそうだった。
「ジジ、おめでとう」
「誕生日だったな、そういえば。おめでとう」
「リア、お前忘れてたのか」
「男がいちいち女々しいこと言ってんなって」
「…別に忘れててくれても構わねぇがな」
そうは言いつつも、アルトとイオン、リアからも祝福の言葉を貰い、また無意識に口角が上がるのを感じていた。
―――東の瓦礫の撤去工事の手伝いをして。
夕刻間近の時間。
一段落ついたジジは、目的の地であった天使の梯子の庭園に来ていた。
「…」
以前は、ここによく来る金髪の男がいた。
そして狼の残像を探して、彷徨い求める自分も。
だがそれは、全て。
先刻起きた廻国をめぐり、時代を超えて来た少女とアルカナファミリアの戦いで終止符を打たれることとなる。
ヴァロンは消え、ガロの死は告げられた。
今ここへと来るのは、ジジか、数限られた人間のみなのだ。
「21…か。年甲斐もなく我ながら女々しいぜ」
腰に在る、鍔のない剣に触れながらジジは…笑う。
「―――……終わったぜ、巫女様。全部、な」
あの戦い以来。
ヴァロンが消えた日以来、ジジはここへは訪れていなかった。
巫女がオリビオンで最後に存在した場所。
同じく、ヴァロンが旅立った場所。
ガロが誓いを果たすために進んでいった場所。
ここにはたくさんの思い出がありすぎた。
「…なぁ、ガロ」
片膝を立て、腰を下ろす。
夕陽が射し込む空間が雲にさえぎられ、一瞬森と同じ暗さになる。
「今日、夢を見た。お前と過した最後の誕生日の夢だ」
ジジの視線は、伏せられていく。
「今まで、お前との夢を見る度に懐かしいなんて感じることなかったんだ。遅っせえなとしか…思ってなかった」
それは、帰りを待っていたからこその感情か。
「―――…でも、今日目が覚めた時、“懐かしい”って思っちまった」
また雲が切れ、光が射し始める。
ジジのもとまで伸びゆく光が、とても鮮やかな茜を染めた。
「今日…。初めて、お前が死んだことを認めた気がする」
鍔のない代物が、触れた指の振動でカチャリと鳴った。
「お前が消えてから、今日で6度目の誕生日だ」
15歳を2人で迎えた日から、6年。
彼は青年へと成長していた。
「お前を待つのは、もうやめるよ」
死んだ、ということを理解はした。
納得もした。
だが、“認めた”とはどれも違う。
どれだけわかっていたとしても、心が求めてしまうこともある。
それを幼稚というのだとしたら。
寂しさを幼稚だというのだとしたら。
彼は一生、幼稚でいいと思った。
だが、その幼稚は、今日で卒業である。
「見てくれよ、これ」
光が差し込む場所。
どこからか見ていてくれると信じて、ジジが腕をまくり、二の腕に刻んだタトゥーを晒す。
「あの女が、お前の形見を付け続けてる。だから、俺も…」
言葉が、続かなかった。
苦笑いして、そのまま話しかけるのを止める。
そこへ、また2つの気配。
今日は忙しいな、と思いながら振り返った。
「こんな所にいたんですか、ジジ…♪」
「探し回っちゃったよ、全然城にもいないんだもん」
「ツェスィ…それにお前…―――」
そこにいたのは、藤色の巻髪を揺らめかせて笑顔を浮かべるツェスィ。
そして、ガロの最期を見届けた女がいた。
「ジジ、お誕生日おめでとうございます…♪」
ツェスィが花畑に腰かけるジジの傍らで告げる。
目の前に立っていたもう1人の女は、ジジと視線を合わせるようにして膝をついた。
「あとは2人でごゆっくり…♪」
ツェスィが気をきかせているのか、からかっているのかは分からなかったが、背を向けて去っていく彼女を見届けてから、紅色の瞳を見つめた。
「ツェスィとレガーロで探してきたの。今日がジジの誕生日って聞いて」
「…」
「バレアとの戦いでもお世話になったし、ファミリーのみんなからの気持ちも込めて」
1つの差し出された箱。
青い趣味のいいそれを受け取り、穴があくほど見つめた。
気恥ずかしくて、少しだけ悪態をついてやる。
「現金か?」
「ばか。開けてみてよ」
目を細めて言い返してきた、気の強い女をそのままに、ジジはゆっくり箱を開けた。
そして息を飲む…。
「これ…」
紺色の、シルクで出来た布地が織り成すのは優雅なリボンの造形。
巻きとられるようにして付けられていたのは、装飾である鈴。
どこかで、見覚えがあった。
全く同じものではないけれど。
「ツェスィがよく行く小物屋さんがあるんだけど、そこで見つけたの」
「…」
「前から置いてあるのは知ってたんだけど…」
それから気まり悪そうに言葉を止めた彼女。
「ルカから、ガロのこと聞いて…―――」
あぁ、この前の…あの時の話か、なんて頭の片隅で思う。
「ジジにあげたら、喜んでくれるかなって」
「…ガロ……、」
茜色の空と、そこから射す光が交わった時。
彼女は小さく、躊躇いがちに呟いた。
「引きずるには、重たくて辛い思い出だけど」
心の奥にあった切なさが、軽くなった気がした。
「前に進むことと、忘れることは違うから」
「―――」
「少しでも、関連性のあるものを敢えてプレゼントして…それが今日の、いい思い出に繋がればいいなって…」
言ったのはお前自身のくせに。
自分の立場がわかっているから、語尾が少しだけ震えていた。
少しじゃない。
聞きとって分かってしまうくらいだから、震えていたって言いきれる。
ジジは眉を下げながら、鼻で溜息をついた。
「そうだな…」
朝っぱらから、おんぶでタックルしてくるラディ。
エリカ、ファリベル、サクラ、ウタラ、アロイス、シノブ。
イオンなりの祝い方、わざわざ待ち伏せまでしてたアルト、着飾らないありのままのリア。
誰もが欠かさずに、「おめでとう」と告げてくれた。
今年だけじゃない。
毎年、毎年。
自分がどれだけ、ガロと過した誕生日を忘れられなくても。
意識してではないけれど、塗り替えて、ジジが前を向けるように祝ってくれていた。
思い知った。
1人ではないことを。
それはふとした拍子にやってきて、ジジの心に大きく日だまりを落とす…―――。
「ジジ」
巫女と同じ色。
誰とも被らない紅色の瞳が、とびっきりの微笑みを見せてくれた。
「生まれてきてくれてありがとう」
「…」
「あたしと、みんなと出逢ってくれてありがとう」
「…―――」
「誕生日、おめでとう」
君のいない、6度目の誕生日
「生まれてきてくれてありがとうって、なんか変だな」
「そう?」
「だって俺の方がお前より、百何歳も年上だぜ?」
「……そう言われると少し違和感かも。でも!生まれる時代がたまたま変わっちゃっただけで……!」
必死に言い返す言葉を探してるコイツを見ると、自然と笑みが出て来た。
コイツの彼氏のことを考えると、下手な発言は身を滅ぼすので“俺も出逢えてよかった”とは告げなかった。
ただ。
「ありがとな」
聞こえるか、聞こえないかの大きさで言ってやった。
首をかしげる仕草をみると、多分聞こえなかったんだろう。
思えば、何度も何度も、1年に1回くる今日という日を迎える度に「おめでとう」と言ってくれた仲間に、「ありがとう」と返した覚えがない。
少なくとも、ここ5年は。
いつも常に支えてくれて、バカ騒ぎしながらも安らぎと思い出をくれる仲間たち。
6年目の今日は、返してみようか。
「ありがとう」と。
―――……それからほどなくして、ジジは再び剣を振るう事になる。
柄の先に巻き付けた、紺色のリボンと鈴を靡かせて。
彼は今日も、狼と共に己の道を突き進む。
***
長くなりましたが、お疲れ様です!
日頃お世話になっている、ジジの親御様・セト様のお誕生日ということで、サプライズで書かせてもらいました。
仕事の合間に書いたので、2回ボツを出した上で1番うまく出来たこれを完成品とします。
読み返すとやっぱりちょっと、守護団っぽくないというか、なんというか。
ただ、ガロとの切ない絡みを入れつつ、彼の成長だったり葛藤だったりを出したかったんですが、これは短編です!難しい!笑
とにかく「おめでとう」を言いまくりたいと思って書き始めました。
守護団と、変換は敢えて使わないように伏せたんですがヒロインにお祝いしていただきました。
まさに最後の「生まれてきてくれて」と「出逢ってくれてありがとう」は私が一番伝えたい言葉です。
セトねえちゃん。
誕生日おめでとう。
2013.09.07