そうして続く、鬼ごっこ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「手伝って」
「いやだ」
「今日は私も立てこんでるんだよ?お願いだから」
「いやだって」
「なまえ…っ」
春の日差し。
とっても穏やかで、温かい風が通り抜ける。
そんな季節のレガーロ島で、先程から同じやり取りを繰り返す2人の少女がそこにいた。
「もぉー…!」
愛らしい姿の、小柄な彼女。
黒髪のショートに、翡翠色の瞳。
頬をぷぅ…と膨らませて、その視線は足元で座っている、もう1人の少女へと降り注ぐ。
「あたしは鎖のセリエじゃないもん」
「いいじゃない。永久シエスタ組なんだし、なまえ、暇でしょう?」
「失礼な」
アルカナファミリア。
鎖のセリエの執務室。
幹部であるマナフィリアを訪ねて…というより、邪魔をしに来たなまえは窓辺の海が見える個所でぼーっとくつろいでいた。
「あたしには海の平和をこう…遠くからそっと見守ると言う大事な仕事が…」
「いっそ、諜報部になればいいじゃない」
「いやぁー…」
マナフィリアの手厳しい意見を右から左に流し、くつろいだ時間を続ける彼女。
書類の整理をしているマナフィリアは、まったく…と溜息をついてからトントンっと音を立てて、いくつかの紙の束を作った。
「もう行くの?」
なまえがマナフィリアが歩き出したのを見て、くるりと首だけで振り返った。
「えぇ。この書類を今日中にパーパに出さないといけないから」
「…」
「それで、なまえはいつまでここに居る気?」
「いちゃダメなの?」
「今日は追いかけっこする気はないみたいね」
「晴れた日は鎖のセリエの執務室から見える海の景色が最高だからねー…」
「…」
マナフィリアがもう1度、小さく溜息を吐きだして、ドアノブに手をかけた。
「私が戻ってきたら、なまえにとっておきの仕事をあげる」
「え、」
「それじゃあ、これ置いてくるわね」
「あ、ちょっとマナ…!」
ガチャン、と閉められた扉に手を伸ばしつつ、なまえは本気で帰るかどうしようか迷っていた。
対して、廊下を姿勢のいい立ち姿で歩き続けるマナフィリアは、ブーツが鳴らす音を己で聞きながら、なまえのことを考えていた。
「あれだけ強いなら、どこのセリエでもやっていけるのに…」
宝の持ち腐れとは、まさに彼女のことを言うのだろう。
実力で言えば、ファミリー…いや、レガーロ中を探しても右に出る者は…恐らく数名だろう。
完全な最強ではないところも、彼女の1つの魅力だと、マナフィリアは考えていた。
「どうせなら、鎖に来ればいいじゃない…」
なんて考えながら、“でもなまえのサボり癖を直す時間と手間はかかるわね”と思い改めた。
早く自分の父…パーパであるモンドが、彼女の所属を決めればいい。
同じ家族であり、同時に友人でもある彼女…なまえ。
巷で最強と呼ばれるなまえが、ただ毎日のほほんと過していることは、少しだけもったいない気がした。
彼女にしか出来ないことが必ずあると、マナフィリアは思うが故だ。
「!」
思考をそんなことで埋め尽くしていた時だ。
廊下の端…マナフィリアのいる場所から、ちょうど斜め前の位置に、人影。
「…」
どうやら数名いるようで、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「さっすがお嬢!すっげーよ!」
「あぁ、お手柄だったな、フェル」
「ううん、リベルタとノヴァがいたおかげ。ありがとう…!」
少しだけ、顔を赤らめたフェリチータと、リベルタとノヴァがサイドを埋めて…。
デビト達に言わせると、少年組と言われる彼らがそこにいたのだ。
「リベルタ、フェル…」
キャッキャと楽しそうにしている3人。
その空気はまさに仲良し…というのが窺える。
本人達に告げれば、否定も飛んでくるとは思うが。
だが…どう見ても…―――
「……―――」
マナフィリアからは、羨ましい光景であった。
【約束!】
【ノヴァ…】
【だいじょうぶ、僕がついてるから!】
「……―――」
心に甦ったのは、1つの…思い出。
今は無くなってしまった…約束。
望みをかけて、信じ続けている…希望。
「やっぱお嬢はすげえな!さっすがパーパの娘!」
「そ、そんな…」
「…」
突き刺さる、リベルタの言葉。
それはマナフィリアが胸に抱えていた提出するはずの書類に、跡をつけた。
「……わかってる」
妹であるフェリチータ。
そして姉である、マナフィリア。
フェルとマナは、違う。
影として、操り人形のように育てられてきた自分が、日向で咲き続ける彼女と違うことはわかっている。
だが、血を分けた妹。
愛していないはずもなく、やり場のない葛藤と、どうしようもない複雑な思いが胸を占めた。
「…ッ」
滲む涙。
私は何のため、誰の為に在るのか。
誰の影で、誰の代わりで、誰の為に生きるのか。
「…私は…ッ」
答えなんてなかった。
今までも、ただただ耐えてきた。
希望なんて、なかった。
いや、昔はあったんだ。
それも今は、忘れ去られ…―――。
「ノヴァ…」
声にならない叫びが、一粒の雫となって降り注いだ時だ。
「まったく。やだね、湿っぽい部屋にこもって書類の整理ばっかりしてるから、そうなるんだよ」
「!」
前を遮るように、現れた人影。
目の前には彼女の瞳と同じ、紅色のネクタイ。
顔をあげれば…―――
「なまえ…」
「マナ」
バッ!と、束ねてあった書類を高らかに取り上げて、なまえは笑った。
対してマナフィリアは、彼女が取り上げた書類を涙目で…そしてギョッとしながら見つめていた。
「ほへ…!?あ、ちょっとなまえ…!」
書類の心配をしているマナフィリア。
なまえはどこか悟ったような顔で笑う。
「マナ、海行こ」
「え?」
「海見て、パンケーキ食べてお昼寝しようよ」
「なまえ…」
バサァァッと広げられた書類。
そのままフェリチータ達がいる方向とは逆に走りだすなまえ。
「たまには休息も必要でしょ」
「…っ」
「イヤなことも、忘れられるくらいさ」
駆けだしたなまえの背中は、自由だった。
そして真っ直ぐに伸びた、力強い…光のようで。
「―――……なまえといると、休息になんてならないわ」
光が涙を拭い、後押ししてくれる。
ゴシッと腕で一度拭った雫。
彼女は声をあげて…でも、どこか楽しそうになまえを追いかけた。
「待ちなさいなまえ!書類返してぇぇ!!」
そうして続く
鬼ごっこ
鬼ごっこ
***
初コラボSSでなまえ×マナフィリア。
マナフィリアはツイッターとオフ会で出会いました、菜織様のキャラ。
フェリチータの姉設定でいただきました。
常日頃からコラボしたいね、と考えていまして、時間をなんとか割いて書いてみました。
SSなので物語性を出すのがすごく難しかったですが…これにて掲載とさせていただきます。
どうしてヒロインが、マナが泣きそうなのに気付いたのかというのにはどうでもいい設定がありまして。←
海が見える窓辺から、ちょうどやり取りが見えたんですね。
で、事情を知っている彼女はなんとなーく、マナの下までやってきます。
説明しないとダメだなんて、ほんとダメだ(笑)
最強ヒロインとマナはよき友人であり、お茶仲間な気がする。
そして鬼ごっこな毎日ですね、えぇ(笑)
逃げるヒロイン、追うマナフィリア。
これはこれでいいんじゃないかと思ってますっ!
そんなマナフィリアと絡みたい方は、ツイッターへGo!
突発SS失礼しました。
有輝でした。
2013.04.15