咲き誇り、消える花びら
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「……この辺じゃないのかなぁ…」
アルカナファミリア。
交易島・レガーロで領主共に、この島を守り、支え続けた自警組織…。
その自警組織の館の石像のある庭で、1人の小柄な少年がきょろきょろとあたりを見回していた。
「時期で考えてもちょうどいいのに…」
黒髪の、赤眼の少年。
何か探し物をしているようだ。
「あとは他に花が咲く所は…」
辺りを見回して、ここにはないと判断したらしく、彼はそそくさと駆け足で次の目的地へと向かおうとする。
彼の背では庭に生えている背丈まである草々に隠れてしまい、その先から誰かがやってくるのが見えなかったらしい。
出会いがしらで、誰かと衝突をしてしまった。
「うわっ!?」
「!」
本を持ちながら駆けていたので、ぶつかったときに本を落とし、こけそうになる。
ぶつかった相手はさほど問題なかったらしく、少しよろけた後に反射的動きで彼の腕を掴み、顔面から地面に送ることを防いでくれた。
「…っ」
危なかった…と思いながら見上げれば、そこに…――
「エルモ」
「なまえさん…!」
腕を支えてくれた…自分より10位年上の女性に見覚えがある。
名前を呼ぶと同時に、微笑んでくれた。
彼女は、なまえ。
1ヵ月前にあった海底洞窟で自分を助けてくれた張本人でもあるし、自分の友人の失くしたペンダントを見つけてくれた者でもある。
何かと世話になっている少女だ。
「何してるの?そんなに慌てて」
別にエルモからしたら、慌てているわけではなかったのだけれど。
ただ、探し物をしているだけで…。
「てか、何その本…?」
「ジョーリィがくれたんだ」
無邪気なエルモはそこで、なまえに自分が何をしているのかを離すことにした。
「あのね、僕、この本に載ってる花が見たいんだ!」
「花?」
「うん!ここ、読んで」
エルモが差し出した本の一節を確認するように促されれば、なまえはかがみ、その本を受け取る。
チェックがついていた個所には……
「“色とりどりの鮮やかなモノで、辺り一面を煌びやかする美しい夏の花”…」
どうやらジョーリィが彼に渡した本は物語であり、そこに表現されている花が見たいということ。
「花って…」
「“仲間たちはそのキラキラと輝く花を見て、声を揃え、「綺麗だね…」と囁いた。彼らの旅に、この花は安らぎを与え、見上げた先も照らしてくれるであろう”」
「…」
表現された先を読み上げたエルモが、にっこりと頬を染めて言う。
「僕、この花が見たくなって…」
「……それで庭にいたの?」
「うんっ!でも、どの花だかが分からないんだ」
「(そりゃ…)」
それだけの表現じゃ、分からないだろう…。と内心思いつつ、彼に告げるのはかわいそうかなと思う。
間違いを正すことや、現実を伝えることが必要であるのは分かる。
実際、それは自分が当事者であっても教えてほしいものだ。
だが、彼の場合……それはもう少し先であってもいいかと思えた。
間違っているわけでもないし。
「夏の花…煌びやかっていうから、きっとキラキラしてると思うんだ」
「…」
「どうしても見たいんだ…」
本をぎゅーっと大事そうに握りしめて、笑顔でいうエルモ。
なまえはただただ彼を見下ろす。
「でもなかなか見つからないんだ」
庭をつられて見回したが、キラキラと発色する花はないだろう。
もちろん、なまえもこの館へ帰還してから見たことはない。
「だから僕、今から町の方に行こうと思って」
「町に?」
「うん。町ならここにない花もあるかもしれないからっ」
“じゃあね”と言い、走っていくエルモの後ろ姿を見つめるなまえ。
「キラキラと輝く夏の花…」
本当に見つかるのかな…と少し不安になる。
まして町へ行くとなると、彼1人で大丈夫だろうか?
行けば行ったでいつも厄介事に彼は巻き込まれている気もする。
「…」
時計を1度確認してみた。
時刻はちょうどシエスタ時。
自分は今からヴァスチェロ・ファンタズマの中にいるであろうアッシュに会いに行く所だ。
別にアッシュと約束を交わしているわけでもないし、彼に会えればいいという程度で考えている。
帰りにパーチェとイシスレガーロでデビトの元へ寄れればいいかな、と考えていた。
「…エルモ、待てっ」
なら、彼を手伝いつつ、町へ行くのも悪くない。
懸命に走っていく少年の背を追うべく、なまえも庭から走りだした…。
◇◆◇◆◇
「ありがとう、なまえさん」
「いいよ。どうせ暇だし」
エルモを追いかけ町までやってきたなまえ。
とりあえず、フィオーレ通りから探してみるか…とフェデリカドレスの前を通りつつ、2人並んで歩く。
今日もレガーロは賑やかである。
「フィオーレ通りは花っていうより、やっぱり店って感じだもんな…」
「うん…。花壇も少ないね…」
「どうせなら、ポポラリタ通りの方に行ってみる?」
なまえの意見で一通り、いつもと変わらぬ街並みを行った所で坂を上り、ポポラリタ通りの方へ。
「でもなまえさん…どうして手伝ってくれるの?」
「暇だから」
「……所属のセリエは?」
「永久シエスタ組という、立派なセリエに属してるよ」
といいつつ、そろそろ本気で自分はファミリーからしていらない人材なのでは…と考えだしたことは、黙っておこう。
エルモは“そうなんだ…”と少し首をかしげていた。
…まぁ、それもそうだろう。
「だから、時間はあるから気にしないで」
逆に言えば、自分ほど自由に動こうと思えば動けるのファミリーは恐らくアッシュとジョーリィくらいだろう。
2人は実験だのなんだの、錬金術と日々向き合い、忙しそうではあるが。
「ほら、こっち」
以前、ノヴァが教えてくれた…島の中でも閑静な場所であり、そして花の名所。
島民がじっくり愛を込めて育てた花たちが広がっている。
「わぁ…すごいキレイ!」
エルモが花壇の花たちを見つめて、声をあげる。
なまえも初めて来たときは息を飲んだな…と思いながら、花を見つめるが…。
「……キレイだけど、やっぱりキラキラしてないね…」
「……そうだね」
いっそ、何か特殊な方法で育てられた夏の花なのか…?とか思いながら、なまえもいつの間に、そして真剣に“花探し”をしていた。
「キラキラした花…」
「…」
重むろに呟いたエルモ。
なまえが1度目を閉じてから、明るく告げた。
「次行こう。港の方の広場にも、花の名所があるし」
「港の広場にも…?」
「うん、奥の方だからね。知らないでしょ?」
伊達に、4月から6月の間、レガーロをブラブラしていた訳ではない。
名所や有名なものはなかなか案内が出来ないが、土地勘は備えている。
「…はいっ」
エルモが少しだけ落胆していたのを取り戻し、歩き出したなまえを追いかけた…。
◇◆◇◆◇
ポポラリタ通りを戻り、フィオーレ通りまで来てから、港まで一直線に歩き続けた。
エルモの体力も気にしつつ、港まで出ると諜報部のメンバーが最後の集荷をしているのが見えて、なまえが思わず声をかけた。
「リベルタ!ダンテ!」
「ん?」
集荷をし、一息つこうとしていたリベルタがなまえの声に振り返る。
「おぉ、なまえ!…って、エルモも一緒か?」
「うん。ちょっと色々あってね」
リベルタが船の元から駆け寄ってきて、“久しぶりだな!”なんてエルモの頭を撫でていた。
エルモもリベルタとはもちろん顔見知りなので、頷き会話を楽しんでいる。
ダンテも賑やかな声に船の上からなまえに手をあげて挨拶をしてくれた。
「ねぇ、リベルタ。キラキラしてる夏の花、知らない?」
「キラキラしてる夏の花?」
ちょうどいい、と思って、一応今自分達が探している物の情報を伝えてみた。
だが、リベルタは繰り返し、首をかしげる。
「僕、今その花を探してるんだ」
「キラキラした夏の花を?」
「うん、ここ…」
「本…?」
先程と同じく、リベルタにも本を手渡し、物語の中に出てくる表現を伝える。
リベルタが文字を追いかけ、読み終えてからも難しい顔をしていた。
「エルモが、この花が見たいって」
「だから探してるのか」
「何か知ってる?この花のこと」
「花…花…花……」
うーん、と声をあげて悩んでいる彼。
海の男に花。というのもピンっとこない。
それに花に詳しいリベルタも……リベルタではない気がした。
自分の思い描いたままの彼で違和感はないのだけれど、それでは今の活動に有益な情報の提供は望めない。
「悪い…特に思い当たらないな…。花自体よくわかんねぇし…」
「そっか…」
「………」
「ごめんな、エルモ」
黙って俯いてしまったエルモの顔を見つめて、リベルタが詫びを告げた。
エルモはその後笑って頷いていたが、また見つからない…と不安な表情を見せる。
「フィオーレ通りと、ポポラリタ通り、あと館の庭は見たんだけど…全滅で」
「キラキラした花ねぇ…」
「で、今から港の広場に見に行くとこ」
なまえの言葉になるほどな、ともう1度頷いたリベルタ。
と、次の瞬間、彼はぽん!と手を叩いて、振り返る。
「ダンテー!!!」
大きな声で、船の上にいるであろうダンテに声をかけたリベルタ。
ひょこ、と甲板の上からダンテの姿が再び現れる。
「出かけてくる!!」
「り、リベルタ…?」
「大丈夫!俺のやるべき分の集荷は終わってっからさ!」
「お兄ちゃん…」
「エルモ、俺も手伝うぜ!3人で探せば、きっと見つかるって」
だから不安な顔すんな!とリベルタが彼の頭を撫でた。
ということで、3人は次に港の広場通りの方へと歩き始めた…。
リベルタを加えた3人で、港を高台から見渡せる展望台にやってきた。
ここはいつか、親友を送り出すために空へ飛び込んだ場所でもある。
今日も広大で、エメラルドに輝く海を見つめて観光を楽しんでいる人々…。
「ほら、あそこ」
なまえが指差した方には、展望台の手すりの端と端に花壇のスペースが大きく設けられ、季節の花々が咲き誇っている。
もちろん、この8月は夏の花にあたるはず。
あればいいのだが…と思い、エルモとリベルタと共にキラキラした花を探すが…。
「……どれも南の島に咲いてそうなもんばっかだな」
「夏の花っていうと、こんなもんだよね」
リベルタとなまえが顔を見合わせて“やっぱり…?”と心で会話をする。
エルモが端から端まで、きっちりこまかく、花弁の裏までめくって確認していたが…
「…ちがう…」
やはり、違うようだ。
「困ったな…」
「この他に花がいっぱいある場所……」
リベルタも頭を抱えて考え込む。
なまえも他にありそうな場所を考えるが、自分が今まで活動していた所で一番花の多い場所を巡って来たつもりだ。
どうするか…と悩んでいた所で、背後から声をかけられた。
「お前たち…」
「!」
「ん?」
リベルタとなまえが振り返ると、そこには…
「ノヴァ…」
「ひよこ豆っ!あ、ちょーどいい所に!」
現れたのは、ノヴァだった。
聖杯の部下を連れ、いつも通りカタナを腰にさした彼が眉間にシワを寄せている。
「リベルタ、僕をひよこ豆と呼ぶなッ!」
「そんなことより、なぁなぁノヴァ!」
リベルタが1つ名案を思いついたようで、ノヴァの元まで行き、話を持ちかけた。
なまえから見てもノヴァがすごーくイヤそうな顔をしているのが分かる。
「な、なんだ」
「お前、花が綺麗に咲いてる場所しらねェ?」
「花が咲いている場所…?」
ノヴァがリベルタに説明を求める気がないらしく、そこまで聞いてからなまえに視線を投げた。
なまえが苦笑いし、その先にいるエルモを1度見る。
「ある花を探してるんだけど、見つからなくて」
「ある花?」
「キラキラした、夏の花なんだけどよ、お前知らね?その花のこと」
「キラキラした花?」
話を進めれば進めるほど、ノヴァが呆れた顔をしていく。
「それだけの情報で、幾数とある花を特定させるのは難しい」
「でもそれしか情報がないんだもん」
「お前マンマと花育ててるだろ?ちょっとは分かれよ!」
リベルタがちぇっと吐き捨てたので、ノヴァがカチン…ときている。
ここから言い争いが始まるのは目に見えていたので、なまえがエルモの元まで行く。
…予想を裏切らず、聖杯の部下の前で愚者と死神がケンカを始めた。
「エルモ、次の場所行こう?」
「………うん…」
表情がだんだんと落胆していっているのが見える。
このままでは、なんだかこちらまで切ない。
「リベルタ、行くよ」
エルモの手をひいて、ノヴァとつねり合いをしてるリベルタに声をかけた。
そこで初めて、ノヴァが落ち込みつつあるエルモの表情を目にする。
「!」
「オウ、今行く!」
パッとノヴァの頬を放して、リベルタがなまえとエルモの元へ駆けよれば、ノヴァが聖杯の部下に1つ確認を取る。
「…この後の巡回は確か、浜辺の通りだったな」
「え、あぁ、はい」
「…お前は他のメンバーと合流して噴水広場前の巡回にあたれ」
「ノヴァ様は…?」
「……」
なまえと手をつないでとぼとぼと歩いていくエルモの背が、あまりにも悲しそうだった。
ノヴァの心が……それを許すことが出来ない。
「なまえ!」
「え?」
背後からノヴァに呼ばれたので、足を止めた。
ゆっくりと近付いてきたノヴァが言う。
「浜辺通りの植物園には行ったのか?」
「植物園?」
「そんなとこあんのか?」
リベルタも初めて聞いた…とノヴァからの提案に目を丸くする。
なまえも首を横に振った。
「なら、行ってみる価値がある。そこには他国から寄せられた珍しい植物もあるからな」
「本当!?」
食いかかったのはエルモだった。
「あぁ。お前の探している花も、見つかるかもしれない」
「なまえさん!お兄ちゃん!僕…行きたい!」
「オウッ!行ってみようぜ!」
エルモの表情が晴れたので、なまえも口角をあげて頷いた。
「でも、場所が…」
あたし知らないよ?と告げると、今度はノヴァが優しく笑ってくれた。
「今日の巡回ルートがそっちに近い。僕が案内しよう」
「ノヴァ…」
「へぇ。ノヴァにしては珍しく好意的だな?」
「リベルタ、お前は黙っていろ」
ノヴァが先頭切って歩き出したので、なまえは少しだけ嬉しかった。
リベルタといい、ノヴァといい、協力的で…優しいファミリーを持ったな…と。
「なまえ、何をしている。早く来い」
エルモがリベルタと手をつなぎ、ノヴァのあとを追うのを見ていたので彼女が出遅れた。
「うん」
ノヴァから言われ、なまえは微笑みながら、それを追った…。
植物園を目指して浜辺の通りを歩く、4人。
手すりを超えれば、もうそこは砂浜であり、本当に海の真横の通りを歩く。
しばらく行けば、石灰岩の入江が見えてきた。
「あそこだ」
ノヴァが指差した先には石灰岩の入江より手前に、立派な建物が見えてきた。
だが、どこかその建物の付近は霧が漂っている気がする…。
「…霧が……」
エルモが小さく零した言葉に、なまえが苦笑する。
原因はその背後の入江に停泊しているのであろう…幽霊船だと思ったからだ。
「なまえ?」
「!」
またまた背後から声をかけられたと思い、なまえが振り返る。
そこには手ぶらで、自分と同じく暇そうな…
「アッシュ」
「何してんだ、こんな何にもないとこで」
アッシュがポケットに両手を突っ込んで立っていた。
「あ、アッシュ!」
「ヒヨコ頭に豆まで…。それに…?」
「アッシュ、貴様まで…ッ」
豆と言われたことが気に入らないノヴァがカタナを抜く勢いで言い返したが、アッシュの目はエルモの方へ。
知らない子供が、自分の幼馴染と手をつないで植物園の前にいれば、確かにその子が誰なのかは気になるであろう。
「エルモ。ジョーリィの………まぁ、養子的な」
なまえがエルモを紹介すると、エルモがつられてアッシュに小さく会釈した。
アッシュもつられて軽く返し、視線を合わせるためにかがみこむ。
「ねぇアッシュ、キラキラした花…知らない?」
「キラキラした花?」
「夏の花らしいんだけど…」
エルモと視線を合わせてから、立ち上がるアッシュのグレーの眼差しを捕えつつ、なまえが尋ねる。
なまえの質問なので真面目に答えてやるつもりだったが、生憎彼は断言してしまった。
「知らないな。そもそも花には興味がねぇ」
「だよね…。言うと思ったんだけど」
「だったら聞くなよ…」
「天才錬金術師の博識を信じたかったの」
はぁ…とつられて溜息をつけば、アッシュが表情を変えたエルモの姿を横目で捕えた。
「アッシュも知らないかー…」
「情報も少ないからな…」
「……キラキラした花を探してんのか?」
リベルタとノヴァまで考え込んでいるのでアッシュも事情が気になるようだ。
リベルタから一通り説明をしながら、案内された植物園へとりあえず入ることにした。
中は観葉植物から始まり、木々や花々ももちろん、立派に育っていた。
全てを見ていると、恐らく夜になるだろう…。
それくらい種類が豊富である。
「物語に出てきた花ねぇ…」
「あぁ…」
「それって、作者による実現しない空想の花なんじゃねぇの?」
「アッシュ!」
即座になまえが入れた制止の言葉が、それなりに威力があり、アッシュが口を噤む。
「わ、悪い…」
エルモは懸命に花を見て回っているが、4人は顔を合わせた。
「まぁ確かに、本…ましてや物語の中に出てきた花だ」
「空想か…」
「…」
とりあえず4人は、できることをしよう。と――アッシュも混ざり――時間が許す限り植物園の中を見また見回してみた…。
*
だが、結果は同じだった。
陽が暮れ、辺りは闇夜になり、植物園が閉園の時間を迎えた。
仕方がないので、5人は重たい足取りのまま館を目指す。
特に、エルモの落胆の仕方は…大きかった。
もちろん賢いので、口に出すことはないけれどエルモより年をとっている彼らは言われなくても分かる。
「…」
「エルモ…」
館までの最後の坂道を上っている時も、エルモは俯いてしまっていた。
「素敵な話なんだろうね…。そんなに見たい!って思える花が出てくるんだから」
「だろうな…」
なまえが零した声に、ノヴァが答える。
アッシュとリベルタもとぼとぼと先を行く小さな背を、静かに見詰めていた。
「……」
だが、だんだんと見ていることが出来なくなり、なまえがエルモに寄り添った。
「エルモ」
「なまえさん…」
坂の途中で止まり、エルモと視線を合わせるために、膝を地につけ、できるだけ…優しく微笑んだ。
「今度、その本、あたしにも貸してくれる?」
「これ…?」
「うん」
エルモが抱えていた本の表紙を指でゆっくりなぞった…。
「エルモが“見たい”って思った本…あたしも知りたい」
「なまえさん…」
「なまえ…」
いつもは撫でてもらうだけだ。
だから、もらった優しさを次につなげられるように…なまえがエルモの頭を撫でる。
「あたしもしっかり読んで、その花のこと理解するから」
「…」
「そしたら、もう1回、一緒に探そう」
背後で見つめていた3人は…なまえの優しさを見たと実感した。
「きっと、見つけよう」
「なまえさん…っ」
なまえが優しさをくれているというのが、エルモにも伝わったようで…。
彼は俯き、頬を少し赤くしながらなまえの手を握り返した。
「……はい」
小さく返って来た返事に、なまえが眉を下げ、どこか切なく笑む。
月明かりに照らされた彼女の表情は……―――背後の3人の目を惹きつけた…。
「…っ」
「あ、いた!エルモっ!」
「え?」
「……フェル?」
坂の上から声がする。
全員が見上げれば、駆けてくるフェリチータの姿が…。
「フェル…」
「捜したよ、エルモ…っ。…て、なまえ、リベルタ、ノヴァ…アッシュまで…」
「どうしたんだよ、お嬢?」
「コイツを捜していたのか?」
フェリチータが、“ようやく見つけた!”とエルモの元へ駆けてきたのでエルモを含めた全員が疑問を胸に秘める。
フェリチータからしても、このメンバーでいることを不思議に思ったようだ。
「ジョーリィがエルモを捜して来てって言ってて」
「ジョーリィが?」
エルモの表情が変わる。
なら、早く帰らないと…!と駆けだしたエルモ。
あ…っとフェリチータとなまえが手を伸ばしたが、館の門をくぐったのを見て、手を下ろした。
「ジジイが捜してるんだって?」
「うん。なんか見せたいものがあるとかで…」
「見せたいもの…?」
「裏庭で大きな錬成陣を書いてたけど…錬金術かな…?」
「…?」
なまえの横にきたリベルタとノヴァ、アッシュの頭には“?”が浮かぶ。
ほぼ、それと同時だった。
ドーンっ!!!と空に大きな音が響く。
腹に響くような轟音と一緒に。
「え…?」
「な、んだ…?」
「…っ」
館の外から、音がした方向の空を見上げれば……
「アレ…」
ドーンっ!という音と同時に、パァァァと開花し、開き、消える……花…―――。
「すっげぇぇえ!!」
「綺麗…」
リベルタが興奮状態で空を見上げ、フェリチータも小さく零す…。
「ジョーリィ…?」
まさか…と思い、なまえがエルモと同じように駆けだす。
“なまえ!?”とアッシュとノヴァに止められそうになったが、なまえが音源である裏庭の方へと走り抜けた。
その間にも空には大きな花が咲き、そして消える…。
だが、儚くあるそれはキラキラと、煌びやかにあたりを照らしていて…―――。
「あ…なまえさんっ!」
裏庭に辿り着いた時、大きな錬成陣の中で立っているジョーリィと、その外で空を見上げ喜んでいるエルモの姿が。
「エルモ…ジジイ…」
「見物客が増えてきたな…」
「なまえ早すぎるぜ…!」
「ジョーリィ…!」
追いかけてきたリベルタ、ノヴァ、アッシュ、フェリチータが裏庭に現れる。
同時にもう1度、音を立てながら空に花が咲いて…。
「なまえさん…あったよっ!」
「…っ」
鳥肌が立つくらいの…感動。
綺麗で、でも儚い……煌びやかな花…。
夏の花。
「――……うん。あった…」
ジャッポネでいう、“花火”。
実物を見るのは初めてだったが…――空に広がり消える様は花の一生を表しているようで、まさに“花火”である…。
「ジョーリィ……」
エルモに寄り添い、頭にぽんぽん、と手を置きつつもう1発空へ花を咲かせる彼。
不器用ながらの優しさは、なまえにも覚えがあった。
「……よかったね…」
エルモに呟いた言葉は、花火の音によってかき消された。
咲き誇り、消える花びら
「おぉ~!なんかすごいことしてるね!」
「ったく、うるさくて鼓膜が破れそうだァ」
「ジャッポネの“ウチアゲハナビ”ですね」
「!」
中から出てきた声に振り返ると、パーチェが目を輝かせ、デビトは欠伸をしている姿が。
ルカに至っては、自分の師であるジョーリィのすごさをただただ刻み込まれたようだった。
「…きれい」
打ちあげて、消えて。
また打ちあげて消えて。
音は大きく、咲き誇った瞬間も心に焼きつくものがある。
だが、どこか呆気ない気もした…。
その様は花でもあるが…――記憶と似ている気がする。
「…」
――…その時はどんなに楽しくても、消え、忘れ去られてしまう事が…。
なまえが静かに3人を見上げた。
「……」
そして思うのだ。
自分も消えた花火が、もう1度…打ちあがったんだな、と。
「よかった…」
もしまた呆気なく消える日が来たとしても。
心に刻み込み、その瞬間を“永遠に消せない”ものにしようと思う。
そう、強く…思うのだった。
***
大変お待たせいたしました!
8万hit記念キリリク・ユキさまからのリクエストでした。
「エルモと一緒にいるところにファミリーが来てワイワイ」というネタから。
わたし、アルカナの小説を“大アルカナを調査せよ!”までしか読んでないんですけど←
ジョーリィの色気にやられてます(笑)
ラ・プリマヴェーラあたりで花火ネタがくる気がするんですよね。
原作と被ってたらすみません。
ルカの無印シナリオで“以前ジョーリィが打ち上げた”っていうセリフからの笑顔の錬成に入るので、小説で語られてるかも…と思いつつ執筆。
あぁ、時間がほしい←
今回は誰寄りかって?塔ですね、はい(笑)
エルモでいきました。
ファミリーがだんだん加わっていくところは、敢えて10代組で。
長編はどうしても幼馴染だからね…。
短編くらいは、と思いw
というか、あんまりワイワイガヤガヤ賑やかな感じで無くて申し訳ないです…。
明日はセトさまからの9万hitのキリリクを書きたいと思います!
だんだんと第3章に近付いていきますね…。
これはこれで楽しみです。
2012.10.26 有輝