07. Gioco
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「ねぇ、ジョーリィ」
研究室で籠っている彼の横で、“気になる”という風に、そのテーブルの上を覗きこむ赤い瞳の少年へ、視線を向けた。
「そのキレイな箱……なあに?」
エルモが指さす方には、ジョーリィが鍵をかけ、更には錬金術で細工をかけた箱。
まるで宝物でも入っていそうな装飾だ。
エルモの問いかけに目敏いな、とでもいうようにジョーリィが笑う。
「大切な研究成果だ」
「大切な……」
その言葉に、エルモは目をぱちぱちさせていた。
サファイアの装飾のついた箱。
エルモはそれと同系統の鍵をどこかで見たような気がしていた……。
07. Gioco
「お嬢、どうしたの?」
いつものリストランテ。
たまたま昼食ということで立ち寄ったところで、パーチェとデビト、そして珍しくリベルタがいたので一緒にしてもらっていたフェリチータ。
しかし、その表情は暗雲の空のようであり、落ち込んでいるのが目に見えてわかった。
それを心配したパーチェが、わざわざそのラザニアを頬張る手を止めて、顔を覗きこんでいる。
「お嬢、なんかあったのか?」
ピザを口に含んでいたリベルタもパーチェに続く。
「え……?」
ぼーっとしてたのだろう。
2人の言葉すら聞こえていなかったフェリチータが、ハっと顔をあげた。
デビトも異変に気付いているが、まずは話を聞こうと彼女の反応の続きを待っていた。
「ううん、なんでも……」
「なんでもって顔じゃないよぉ?ルカちゃんとなんかあった?」
「そーだぜ、お嬢!そんな悩んでる顔して何にもないなんて」
「パーチェ、リベルタ……」
2人が笑ってくれたところを見て、フェリチータも少し笑顔が零れた。
「で。その悩みってのはなんだァ?バンビーナ」
「デビト…」
グラスを片手に顔を近付けてきたデビトをリベルタとパーチェが肩を押し返し、席に着かせた。
心配させても申し訳ないと、フェリチータはここずっと悩んでいたことを、吐きだす決意をした。
「あのね、ユエのコトなんだけど……」
「ユエ?ユエって、あの連続事件解決犯?」
リベルタから発せられた彼女のあだ名は、既に犯人なのか善者なのかわからないものであった。
「この前、オレが屋敷まで連れてって逃走しちゃった子?」
「うん……」
「なァーんだ、バンビーナ。見ず知らずの同性を心配するなんたァ、聖母のようだなァ?」
デビトの褒め言葉と受け取っていいのか、嫌味なのかわからないものを聞きながら、フェリチータは再び俯いた。
「お嬢は、心配なんだよね?」
パーチェが悟ったように、フェリチータに微笑んだ。
その優しい太陽の色の瞳にどこか安心感を覚える。
「そういや、同年代の女の子とお嬢が話してるのって初めて見たな」
「メリエラやイザベラ、ドナテラは年がばらばらだしね~」
リベルタが思いだしたように口にした言葉に、フェリチータ自身もなっとくした。
こんなにユエを心配している原因の1つはそこか。と。
「そりゃあ、言われれば心配だよな」
「あちらさんも悩んでるみたいだったしぃ?」
パーチェがその手を再び動かしながら続ける。
おかわり!と店員にあげられた手は悠に20杯は超えていた。
「それだけじゃないの…」
「ん?」
「アルカナ能力で……見えたの。心が」
小さく呟いた言葉に、なぜ最初にそれを言いださなかったのかがリベルタ達は理解できた。
例え能力と言っても、他人の心を盗み見るものではない。
これは館に来た時から、ノヴァに言われ続けてきた言葉でもある。
まして今回、見えた心はユエのもの。
フェリチータにそんな力があるとは知らないだろう。
だから、彼女の心が見えたことをファミリーの人間にも言いにくかったのだ。
「お嬢……」
「でェ。何が見えたんだ?」
デビトの問いに、一度顔をあげて……
告げた。
「苦しみと、願いが見えた」
「苦しみと願い……?」
「色々なことが混ざってて、頭をフル回転させてなきゃ処理できないようなことがいくつも浮かんでた。哀しみと、痛みと、焦り……。一番大きいのは“助けたい”って願い」
告げる言葉に、フェリチータの方が苦しそうで、パーチェが食べかけにも関わらず、フォークを置くほどだった。
元気出して、というようにパーチェがフェリチータの背中をさする。
「助けられないかな……」
ポツリ…と最後に呟いたのが一番、この場で重要な言葉だった。
それを聞いたリベルタがバンッ!と机を叩いて、立ち上がった。
「り、リベルタ……」
リベルタの行動に肩を跳ねさせるフェリチータとパーチェ。
冷静にデビトも立ち上がったリベルタの顔を見上げる。
「行こうっ!お嬢!」
「え?」
「俺思うんだ。アイツ、悪い奴じゃないって」
「リベルタ……」
「自分のためであれ、このレガーロを守ってたのは同じだろ?そりゃ、ノヴァ辺りからしたら“余計だ”とか言うかもしれないけど!」
リベルタがまっすぐフェリチータに視線を向ける。
「だから、偶然にしてもアイツの辛さが見えたなら、助けたいって考えるお嬢は正しいと思う」
「うんうん」
パーチェもフェリチータに笑顔を向ける。
「そーだよ、お嬢。他人を助けたいって気持ちに理由なんていらないんだから」
ぽんぽんってまた背中をさすってくれたパーチェ。
「お嬢!俺は協力するぜ!」
「オレも」
「リベルタ、パーチェ……」
いつの間にか平らげたラザニアを呑みこみ、“ごちそうさま”と終わりを告げた。
「そうとなったら、早速行動!」
「で、でも行動って……」
会えたけれど、この前の彼女は話を聞いてくれなかった。
まず、どこで会えるのかもわからない。
何より、会ってどうすれば……――。
「お嬢!頭で考えたらダメなんだよ!」
ぐいっと指を出してきて、笑うリベルタにパーチェも肩を組んで頷く。
「とりあえず会って、話そう」
「そーそ!話ができないような子ではないと思うし」
デビトは?とパーチェが顔を向けると、デビトが溜息をついていた。
「デビトは協力してくんないのか?」
「協力、ねぇ」
机に頬杖ついたデビトに、フェリチータが不安な視線を送る。
それを感じ取ったデビトが、言葉を詰まらせた。
「誰にだって知られたくねェもん、1つや2つあるもんさ。それを詮索して手を貸すってのもなァ……」
「そりゃそうだけど」
「デビト……」
わかってはいるものの、デビトの説得力のある言葉に再び頭を垂れそうになる。
だが、事実は事実だった。
それを告げた上で、フェリチータが動くのであれば……。
「まぁ、我らがお嬢・バンビーナに言われたら、仕方ねェ」
ぱあぁっとその声音を聞いて、フェリチータが嬉しそうに顔をあげた。
デビトが鼻で――いい意味で――笑いながらフェリチータの髪を撫でる。
「シニョリーナの頼みじゃァ、レガーロ男の名にかけて断れねェな」
「デビト、ありがとう」
よし!じゃあ、早速探そう!とテーブルを立ち上がった時だ。
「お前たち、こんな所にいたのかッ!!」
リストランテの扉を荒々しく開けて、一同のもとにかけつけたのは、ノヴァ。
「ノヴァ?」
「どーしたんだよ、そんなに慌てて」
「これが慌てずにいられるかッ」
ノヴァが一度呼吸を整えてから、告げた。
「館に賊が入った」
「!?」
「え…―――」