06. Un amico
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ユエが逃走した後も、ジョーリィはダンテのいる幹部長執務室で葉巻をくわえながら座っていた。
ダンテは書類の整理に追われているようで、そこにいる彼には何も言わない。
ジョーリィ自体も、黙って手元に置かれたものに目を留めていた。
その視線の先にあったのは、ユエが去る前に自分目がけて投げた“金貨の手錠”だった。
手首を拘束する所自体が、右も左も錆び、脆くなり、折れる形で残されたそれ……――。
「ジョーリィ、さっきから何を眺めて……――」
ダンテが整理を終えたようで、黙って手錠とにらめっこしているジョーリィに尋ねる。
視線の先にあったのが、変形した手錠であることにダンテも気付いた。
「ひどい有様だな」
「あの娘が、たった“数秒”で仕掛けたものだ」
「ユエか……。元気だったのは何より喜ばしいことだがな」
ダンテも葉巻に火をつけ、煙を吐き出す。
「元気、か……。私には焦りにか見えなかったがな」
06. Un amico
誘拐事件と言ってもいい。
何故、自分がアルカナファミリアの館まで強制送還されなければいけなかったのか。
今日を――もう日付をまたいだので昨日だが――厄日であるとしか思えなかった。
「はぁ……」
大きな溜息をついて、ユエは大きな扉を開ける。
錆びついた金具の音を鳴らしながら放たれた先には、月夜に輝く青いステンドグラス。
彼女が訪れたのは毎週、ピッコリーノの会場になる予定だった教会。
今は例の子供たちを誘拐した事件の関係で自主的に行いを取り止めているのをユエは知っていた。
だからこそ。
ここを安息の居場所として選んだ。
正確には、教会の地下室を。
真っ暗なその先で、燭台に火を入れ、階段を下る。
階段の燭台にも火を、と思った時、既に燃料少なく燃えていた燈を目にした。
「!」
量からして、何時間か前に付けられたもの。
―――誰かがここに侵入したようだ。
立ち去る時、その痕跡を消したいのであれば、火は消していくだろう。
それをしないということは、バレてもいいと思ったのか、それとも帰宅を迎えてくれる誰かがいるのか――生憎そんな家族はいないので、これはハズレである――、はたまた……
ゆっくり階段を下りた先に、揺れる影を見た。
呼吸を整え、その扉を蹴り破った。
「…っ!」
「動くな」
鋭い目付きと、手に携えた鎖を構えた瞬間。
認識したその顔に手を止めた。
思わず声を出すことを忘れて、その相手を見やる。
相手はユエの本気モードにさぞかしびっくりしたようで、たじろいでから笑みを見せた。
「おかえり」
「なんでここに……」
「あら、ダメ?」
灰色の髪が印象的な女性が1人、そこに腰掛けていた。
「ミレーナ……」
ユエの前に現れたのは、あの“オーガ・ブランコ”トップの末娘・ミレーナ嬢。
ユエと彼女とは旧知の仲であり、親友とまではいかないが友好関係を築いてきた。
そんな彼女は、つい最近愛する人間のために組織を捨てて、他国へ旅立ったばかりと聞き及んでいたのだが。
「どうしてここに?他国の恋人はどうしたの?」
「おかげさまで。でもね、ユエがわざわざ“レガーロにいる”なんて手紙をくれたら会いに行かない訳ないじゃない!」
いつもは薄暗いこの地下室も随分と綺麗になっていた。
寝るだけだし、いつピッコリーノが再開されるかわからない。
すぐに立ちされるようにと、特に何も手を加えなかったが、ミレーナが食卓をかこめるよう、テーブルを用意してくれていた。
「キッチンはないから、ご飯は調達して帰ってきてね」
辺りを見回していたユエに、ミレーナが付け加えた。
「じゃあ、今日は特別ってわけね」
そのテーブルには、食事の準備がとられていた。
ミレーナがユエとの再会に晩餐を用意してくれていたようだ。
生憎ながら、出来たてではなかったが、その原因はわかっている。
「もっと早く帰ってくると思ってた」
「ごめん」
用意されたイスに腰かけて、並べられたパンやサラダ、そしてオムレツに目をやる。
同時に忘れていた空腹感が呼び起こされた。
「ありがとう」
ミレーナにお礼を告げると、彼女も嬉しそうに微笑んだ。
「で」
「ん?」
パンを口にしながら、話を切り出したミレーナの顔の見上げた。
「どうしてレガーロに?」
純粋な質問だったのだろう。
だが、この手の尋問は本日2度目である。
「まぁ……いろいろあって」
「しかも、オーガブランコの残党を相手にしてるって聞いたけど」
ミレーナが少しだけ嫌味っぽく口にする。
ユエが顔をしかめた。
「知ってるなら、部下に言ってよ」
ミレーナは動きをピタリ。と止めた。
その反応に、ユエは“気に障ったかな”と感じたが、飛んでくると思った言葉とは別のものが返された。
「ユエ、まさか本当に奴らをオーガブランコの残党だと思ってるの?」
「え」
お互いが話題の中心にしていた所が違うことに気付く。
サラダに伸ばしていた手を止めて、ミレーナの顔を穴があくほど見つめた。
「ちょ……本当に思ってたの!?」
「だって、オーガブランコの残党だって名乗るし……」
「このおバカ!!」
「へ…っ?」
「もう!変なとこ素直に真に受けるなんて……」
ミレーナが呆れながら呟く。
「私が戻ったのは、ユエに会うためでもあるけれど……。家が今、危険な状態にあって」
「家は捨てたんじゃないの?」
「そうだけど、やっぱり心配は心配なの!」
「……それで?」
どうやら歓迎はされつつあるが、本当の目的とは違ったミレーナの帰国の理由を促した。
「確かにうちは、手荒いし、誤解されてもおかしくないけれど、彼らは今回の集中的な犯罪には手を何も出してないわ!」
「カジノでイカサマしたり、盗人したり、恋人騙す“ミレーナ嬢”が言えることかな……」
「う、うるさい! 人のこと言えないでしょ!」
ちょっとだけ顔を赤くしたミレーナにユエは続きを待った。
「それに、ユエならわかってくれると思ってたのに!」
「駆け落ちのこと?」
「違う!オーガブランコが関わってないってこと!」
更に顔を赤くしたミレーナを可愛いなと思いながら水を口に運ぶ。
「だって、よく考えてよ。ユエが探してるキマイラ……オーガブランコにあると思う?」
「…」
【ユエ!】
「うちの組織は確かに悪名高いけれど……錬金術師なんて1人もいないわ」
【ユエ、だいじょうぶ?】