05. Punizione
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「おーろーしーてぇぇぇ!!!!」
その日の夜、館の中には聞きなれない女の声が響き渡っていた。
「あたしが何したっていうの!!」
「十分、このレガーロ島で暴れてましたよね」
「うん、うん」
「降ろせー!!!」
金貨が経営しているカジノ、イシスレガーロの前でついに捕獲されたのは、ここ1週間程で30件ほどのスリや万引き、恐喝を解決していた1人の少女―――名を、ユエという。
その彼女は今、力を司るタロッコ“ラ・フォルツァ”であるパーチェに抱えられ、アルカナファミリアの館の中を人より高い目線で進んでいた。
「あーもう、そんな暴れないでよぉ~」
その抵抗を物ともしないパーチェの後ろからは、先程から一緒にいるルカ、デビト、そしてフェリチータ。
「セクハラで訴えるぞッ、この怪力大魔神!!!」
相当いやなようで、ユエはパーチェの肩の上で未だに暴れている。
フェリチータが少し可哀想という表情でその光景を見やる。
「パーチェ、降ろしてあげたら?」
「え」
「ダメです、お嬢様!」
ルカが断固拒否の姿勢で食ってかかる。
でも、とフェリチータが続けた。
「でも、金貨の手錠をかけた上で更に運ぶ必要はないかと思って」
そう。
この実力が計り知れない少女、ユエが何故声を張り上げるだけで、何もしないのかは身動きがとれないからであった。
「それにここはもう街中じゃない。ファミリーの館だから……」
「お嬢が言うならなぁ」
「はぁぁ……」
ルカが横で大きな溜息をついたが、パーチェはその希望を受け入れた。
ようやく自分の足で立てたことに、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いたユエ。
それを食い入るように見つめていたのは、無言のデビトだった。
05. Punizione
「女ァァァァ!!!?」
食堂の前を通った時に、パーチェがそこにいたリベルタとノヴァに、“例の犯人”が見つかったことを伝えた。
その姿を確認しようと扉を開け放ったリベルタが、そこでぐるぐる巻きにされ――降ろすと同時に一応縄でも縛った――、頬をふくらませている少女に疑いの目を向ける。
確認の前に、ルカやパーチェ、フェリチータを見やれば誰もが頷いた。
「あの大量に事件を解決してたのが、たった1人の女ァ!?」
さすがのノヴァも想像していなかったようで、2人はそこで不貞腐れて立っている少女を見つめるしかなかった。
ノヴァの方は結構な大男を想像していたようで、自分より身長の低い娘が出てきたことが信じられないようだ。
「ほ、本当にコイツなのか!?」
「うん」
「間違いありません。目の前で鎖を使い、犯人に回し蹴りを喰らわせて、お嬢様を突き飛ばした“紅色の眼”の犯人です」
パーチェも“信じられないね~”なんて呑気に言っていたが、ここにいる全員がパーチェよりは確実に驚いていた。
「オイ、お前。間違いないのか……?」
確認で、ノヴァがユエに声をかけた。
ふんっ、とそっぽに視線を向けたまま彼女は答えなかった。
「否定しないのか」
「ってことはやっぱり……」
誰もが目をぱちくりさせる。
目の前に立つのは、部類で考えれば“レガーロ美人”に確実に入る少女。
ゆるく毛先が内巻きの栗色の髪。そして魅力的な紅色の瞳。長い睫毛。
レガーロでは小柄といわれてもおかしくない体系だが、スラっとしていて、その立ち姿も美しい。
唯一揃っていないのは、その表情が明後日の方向を向きながら膨れていることだ。
「名前は?年は?」
「答える義務はない」
つーん、と効果音がつきそうなくらい素っ気なく返された言葉。
リベルタがカチンときている。
仕方ないから口を割らせようとしていた時だ。
「おやおや、揃いもそろって」
廊下の向こう側から現れたのは、ジョーリィとダンテだった。
そっぽを向いていたユエがその声と姿に反応を示した。
紅色の瞳の奥が揺れる。
だが、その表情を捕えたものは誰ひとりいなかった。
そして、ユエの姿を見てジョーリィも一瞬動きを止め、いつものように艶めかしい笑みを見せた。
「……その娘は?」
わかっていただろうに、敢えて聞いたような口調。
それを感じ取ったのは、ルカとデビト。視線に含む意味を変える。
彼らに真っ直ぐに見詰められたユエだったが、ジョーリィの言葉には返事はしなかった。
ノヴァが代わりに口を開く。
「例の、事件を解決して回っていた犯人だ」
「ほぉ……」
カツンと靴底で音を立てて、ジョーリィがユエに距離を詰める。
細めていた瞳を更に細めて――正確には眉間に皺を寄せて――彼女はジョーリィを見上げた。
「……」
「ジョーリィ……」
だた見て見守っていたダンテが、制止らしき声をあげた。
ふっと笑い、彼は告げる。
「この娘を管理するのはどこのセリエだ」
「そりゃ聖杯だろ?」
確認するようにリベルタがノヴァを見やる。
フェリチータもその蒼の瞳に視線を送った。
ノヴァは一拍置いて、答えた。
「そのつもりだ」
聖杯は防衛を担うセリエ。
このようなものは剣や棍棒よりも向いているだろう。
「ノヴァ。この娘、私に預けろ」
「は!?」
「え、えぇ?」
「ジョーリィ!?」
その場にいた誰もが驚いた。
相談役の彼が、まさか口を出してくるとは思わなかったのだろう。
「あ、預かるって……」
「縄を解いてやれ」
「え、え、なにコレ、どうなってんの?」
「ジジイ、何考えてやがる」
ジョーリィの言葉に逆らえるものはここにはおらず、――恐らくファミリーではマンマとパーパだけ――仕方なくそれに従う。
フェリチータがユエの縄を解いてやるが、念のため、金貨の手錠はそのままにしておいた。
「お前達は散っていい」
「ジョーリィ……」
「行け」
制圧するように囁くと、気分を悪くしたデビトがいち早くその場を立ち去った。
それを追うように、パーチェ。
ノヴァも事情が分からないが、何かを悟り、背を向ける。
リベルタもジョーリィとダンテ、残された少女に眼差しを向けたが答えが戻ってくることはないとわかっていたので、食堂へと消えていく。
最後に残ったフェリチータは、ルカに急かされて、踵を返した時だ。
トクン、と緩やかな形でリ・アマンティが発動した。
[ルカ……パーチェ……、デビト…]
心の、声。
振り返り、その持ち主を見やる。
優しい声。
切ない、哀しい思い。
一気に流れ込んだ一瞬の出来事だったがコレは…――
「ユエの……?」
――ルカ、パーチェ、デビト……?
さっき、3人はユエに名乗っただろうか?
思い出しつつ、ルカが背を押すので視界の端からジョーリィとダンテ、そしてユエを消す形でフェリチータは部屋へと足を運ばせた…。