03. Un testimone oculare
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「調べた結果、身柄を拘束したあの犯人はオーガブランコの残党と口を割った」
レガーロ晴れ。
外はまさに航海日和、カジノ日和、ラ・ザーニア日和……いや後者2つは置いといて。
とても天気だ。
そんな日の朝食で、ノヴァがあの誘拐事件の犯人の身元を突き止めたようで、その書類をパサッと広げて見せた。
その場にいた――ジョーリィとダンテ以外――メンバーは、その書類に目を向ける。
「オーガブランコ……」
「悪党だよ、悪党。結構、密輸とかカジノでのスリとかで金貨や聖杯はお世話になった奴らだよな!」
リベルタがノヴァに視線を送る。
それを軽々無視したノヴァが続けた。
「奴らの話によると、問題はここからだ」
「問題?」
「残党はコイツらだけじゃない。更に厄介なのは、残党を取り込もうと既に動き出してる別の組織があるということだ」
「なんだそれ」
「つぶれかけた組織の残党を欲しがるなんて……。新しい組織をつくろうとしている誰かがいるってところか」
机に頬杖ついてかったるそうにしていたデビトも口を挟んだ。
「増員のために数打ちゃ当たる方式でも試してんのかァ?」
「そこまではまだわからない。ただ、今この時点で奴らの動きが活発する可能性が考えられる」
一度口を噤んでから、ノヴァがゆっくり告げた。
「気を抜くなよ」
03.Un testimone oculare
剣の幹部として、今日は書類のまとめに入るはずだったが巡回に行くメンバーが足りないということで急遽、予定を変更して町へ出たフェリチータ。
ルカもついていくとの話になっていたのだが、彼もまた彼の仕事があるようで、後ほどいつものリストランテで合流することとなっている。
聖杯が前回の事件の犯人から話を聞きだすということで、人手が少なくなっている今日この頃。
それをどうにかサポートできないかと考えたフェリチータは、巡回のルートを多くしてもらうよう買って出ていた。
本当に忙しいようで、今回はノヴァから感謝の言葉すら受け取ったものだ。
「特に変化はなにもなさそう」
剣の部下達も連れては来たものの、さすがにいつものルートに追加で確認していかなければならない所があるため、分散しての巡回。
フェリチータは1人で辺りを回っていた。
市場から裏路地に入って、建物と建物の間にいる位置から空を見上げる。
限られた視界だが、それがまた一風違う風景を見せていい。
大きく息を吸ってから、気持ちを落ち着かせ前を見据える。
「ノヴァの言う通り、気を抜いちゃダメ」
パチンっと頬と鳴らすと、再び足を進める。
開けた場所に出たが、ここもまだ裏路地。
もう少し行くとイシス・レガーロ。
奥の路地を抜ければ、港に出る。
住んでても思うものだが、レガーロは隠れ家のような店も多ければ、馴染みなければ知りえないような道も多い。
これでも昨年の12月頃までは郊外の小さな家に住んでいたフェリチータは、自分が守る島なのに、あまり知らないことが多いと感じていた。
今度、詳しくノヴァに聞いてみようと思う。
地図を片手に戦略を練っている彼であれば、自分の知らないことも教えてくれるだろう。
少し迷ったが、イシス・レガーロはまたあとでにして、港の方へ出て見ることにした。
今度こそ、目の前が海、そして港沿いに並ぶ開けた所に出た時だ。
「スリよー!!そいつを捕まえて!!」
「っ!」
悲鳴と同時に自分の横をすり抜けたサングラスの男。
すかさず振り返ると同時に、“恋人たち”の能力がドクンっと発動した。
[うまくいったぜ。さっさとズラかるに限る!]
依然も巡回中に同じようなことがあったと思いつつ、相手の思考を確認した上で追いかけた。
「逃がさない!」
先程自分が抜けてきた道を戻る形で逃走する相手。
そのうち目の前に2本の分岐が現れた。
市場の方に抜けられては見失うと思い、ナイフを相手の足元に投げつける。
「チッ」
見事、方向転換は成功し、自分が行くのを後回しにしたカジノの通りの方へ逃げていく。
「(確かこの先には行き止まりがある……!!)」
チャンスが見えた!フェリチータがそちらへ持ちこもうとする。
その時だ。チャリ、と鉄と鉄が擦れるような音が微かに響いた。
次の瞬間。
「なッ!?」
幾分か前を全力で走っていた男が盛大にこける。
その視界の端で捕えたのは、鋼色に底光りした長いもの…。
「クソッ…」
チャリ、と再び、先程脳内のどこかでかすめた金属同士がぶつかる音がする。
反射的に立ち止まり、これが相手の不注意からきたチャンスではないことを悟る。
「んだこの鎖は!!!」
男の足に絡んでいたのは、結束部分が通常のものより僅かに太い、鎖だった。
だが、その先端は男から離れた場所にある。
フェリチータがその先を恐る恐る辿ると、カジノ街に繋がる出口で黒服でフードを被った者が立っていた。
「…っ」
自ずとナイフに手を構える。
だが、相手はフェリチータを気にせずにそそくさと鎖を回収し、こけたスリの犯人に近付いて行く。
「このヤロー!!!」
立ち上がり、後ろで構えていたフェリチータではなく、自分をこけさせ、尚且つ目の前に立つ者へ向かっていく男。
フェリチータがナイフをなげようか迷った時だ。
ガシャンと再び大きな音を立てて、鎖が炸裂。
今度は顔面から倒れる形で男が這いつくばる。
「うぐ…ッ」
衣服の丈からして、脚の露出があるため女性であることが伺える鎖使い。
倒れたスリ犯に近付いていったかと思えば、犯人の手にしていたサイフをもぎ取った。
「あ……っ!」
思わず声をあげてしまったフェリチータに、ようやく気付いたというオーラで彼女はサイフ片手にピタッと動きを止めた。
「それは持ち主に返します」
相手のオーラに負けじと放つフェリチータ。
しかし、フードの女は動かないし言葉も返してこない。
反応に困っていると、男がようやく鼻を押さえて上半身を起こしながら、ボロボロの顔で負け惜しんだ。
「お、覚えてろよ……!オレんとこのお頭がお前らなんか……!」
「……」
視線を男へと見下す冷たいものへ変えた時、彼女は鼻にかけて笑うような笑みを一瞬見せた。
「一つ聞く」
発せられた声は、やはり女だった。
凛としていて、高すぎず、低すぎず。
声からしたら、年もフェリチータと同じくらいの印象だ。
「キマイラを知ってるか?」
冷たい視線で投げかけられた質問。
彼女は相手の反応を見ているようだ。
「なんだそれ…っ?」
きょとん、とした顔で“そんなのどうでもいい”という表情で返されてしまったことから、彼女は気が済んだようだ。
「あっそ」
次の瞬間には自分の手に握っていた巾着をフェリチータの方へと投げ、カジノ通りへと身を翻していた。
「あ……」
フェリチータは投げられたサイフを受け取ると、その背中を見やった。
「あの……!」
距離は先程より広がっていたけれど、一応彼女は足を止めて振り返ってくれた。
安堵のため息を漏らしそうになったけれど、フードの隙間から見えた紅色の瞳に動きを止める。
「あ、ありがとう」
「…」
「でも、一般人がこんな危ないこと……」
一応、アルカナファミリアとしての意見を述べておこうと続けた時だ。
彼女はあまり重要ではないと判断したのだろう。
そのまま止めた足を元に戻していた。
「あ、ちょっと、聞いてる!?」
フェリチータが倒れている犯人を越えて追いかけようとした時だ。
犯人の足を縛っていた鎖が音を立てて回収された。
「来てもいいけど、」
「…っ」
「逃げられちゃうよ?」
ちょっとだけ笑みを含んで、紅色の瞳をした彼女が半身振り返る。
スリの犯人を拘束していた鎖は回収されているため、犯人をそのままでいいのかと問われていたのだ。
キッと侮辱されたのを感じ取り、フェリチータが彼女を睨んだが――彼女の方が年上なのだろう――今度は敵意のない微笑みで返された。
「頑張って追いかけたんだから、自分の手柄にしないと。ね」